松木沢から国境平周辺歩き



 2004年は12月に入っても暖冬らしく、遠くの山並みもまだ白くなっていないので足尾方面に行ってみようと考えた。10年以上前の暖冬の年末に、足尾の松木渓谷を歩いて県境の尾根を歩いたことがあった。今回は積雪がなければ国境平から皇海山(2144m)に登れるだろうと思った。しかし、これは甘い考えだった。

 12月上旬は暖かい日が続き、11月に少し降った雪も融けたようで、家から北に見える袈裟丸から皇海の稜線もまだ白くなっていない。まだ秋山気分で歩けるだろうと思った。そして松木沢(松木川)の水量が少なければ、足元が濡れることなく尾根に取り付くことができるだろうと考えた。

 ところが、出かける日の前日の午後から北風が吹き出し天気が荒れ出した。遠くに見えていた袈裟丸以北の山々もすっかり雲に覆われて見えなくなってしまった。ちょっと自分の心の中に暗雲が立ち込めてきたが、雪が降っても少し位なら大丈夫だと期待して、翌日の12月17日(金)早朝出かけた。
「わたらせ川源流の碑」から西を見る  早朝の閑散とした国道122号を通り、田元の信号で北上し赤倉を抜け三川合流の砂防ダムまでやって来たが、その先に工事車両以外通行止めの遮断機が設置されていて松木沢への林道に進入できない。以前、ここに遮断機はなく林道に入れたのだが…、どうも最近設置されたらしい。仕方ないのでワキの銅(あかがね)親水公園の駐車場に車を置き、ここから林道歩きになる。

 駐車場から上がったところに「わたらせ川源流の碑」のモニュメントがつくられ、そこからは仁田元沢と松木沢とその間に聳える1017m峰の山並みが見事だ。

松木集落跡地より南東方向  遮断機のワキをぬけて、すぐに左折して久蔵沢の橋を渡る。道を少し西に進み、先のヘアピンカーブを右折して松木沢に沿った道に入る。風も少し吹いているが歩きやすい。

 すぐに左の仁田元沢へ行く林道の分岐がある。今回は松木渓谷へ行くので直進する。前方右斜面に治山工事現場がある。松木沢の対岸にも工事現場があるようだ。今日は朝早いのでやっていないが、日中は工事車両が多く通るのかもしれない。広い河原につけられた林道を先に行くと、まだ墓石などが残っている松木集落跡地につく。この集落は明治末に廃村になったらしいが、銅山開発によるものなのだろうか。

松木沢両岸の山肌  そこから、さらに松木沢左岸の林道を北西に行く。銅精錬の煙害で木々が枯れ、岩山が赤茶けてむき出しになったところを眺めながら進む。この景観は「松木キャニオン」とでも呼ぶにふさわしい。

 さらに歩いていくと、治山のための植林の行われているところを通る。シカによる若木の蝕害を防ぐための防蝕ネットなどが試験的に張られているので、このあたりにもシカが沢山生息しているようだ。この山域ではシカの蝕害を防ぐ試みが色々なされているようだが、実績はどうなのだろう。ねくらハイカーが考えるには、足尾・日光のシカは足尾の治山緑化に大きな障害になっていると思う。国土の緑化保全と動物保護は両立できないのが現実だろう。

林道奥の遮断機  松木沢右岸の荒々しい岩山を眺めながらしばらく行くと、林道奥の2つ目の遮断機の地点につく。以前は確実にここまで車で入れたのだが、近くで植林や治山の工事をやっているらしい。工事の邪魔になるので一般車通行禁止になってしまったのかもしれない。松木沢を歩く者には残念なことだ。

ジャンダルム  遮断機のゲートを抜け、右から大ナギ沢の小さな流れを横切ると、松木沢右岸に特徴的な岩峰群が見える。「ジャンダルム」と呼ばれる岩峰群だ。いかにも崩れそうな岩峰だが、ロッククライミングをやる人には有名らしい。平日早朝なので誰もいないが、休日になれば訪れる人がいるようだ。

 しかし、ゲート奥の林道は通行されていないようで、荒れ方がひどく、いたるところで落石やがけ崩れの箇所がある。遮断機の手前の作業小屋のあたりにヘリポートの表示があったので、ゲート奥の工事には車両ではなくヘリコプターが使われているのかもしれない。とにかく、ゲート奥の林道は荒れ方がひどく、とても車が走れる状態ではない。

広い河原の奥にウメコバ沢  そこから、松木沢につくられた砂防堰をいくつも左に見て進むと、やがて広い河原の地点につく。以前ここを歩いたとき、この辺を大型ダンプが走っていたのを思い出した。でも、今では広い河原の左岸についていた林道も流水で削られたのか途中で消えてしまっていた。

 広河原奥の右岸にはこれまた特徴的なウメコバ沢の岩壁が見える。ここからは林道が消えかかっていて、河原歩きの道となる。

松木沢最奥の6号堰  この辺からは北西の山肌に新雪が薄く積もっているのが確認できる。多く積もっていないことを祈り、岩石の多い河原の道を先に進む。途中、重機が土砂に埋まって放置されているところもあった。やがて松木沢最奥の砂防堰についた。

 以前は低い堰だったのだが、今では増築されたらしく両岸いっぱいにつくられている。ここでどう乗り越えていくのか迷う。以前低い堰のときは左岸際に乗り越えて行ったのだが、今の堰は高くて高巻きで越えるには雪で滑りやすい岩壁を越えなくてはいけない。水量も多く、左岸へ行くには深い流れを徒渉しなければならない。まだ足が濡れたくないので右岸を高巻こうとしたが、雪と凍った岩肌でとても岩壁を越えられない。

 そこで、すぐに計画変更の考えが浮かんだ。(堰手前の右岸に傾斜のゆるいカラ沢がある。この沢を登りつめれば、庚申山から中倉山の尾根に上がれるかもしれない。今日はこの尾根を歩いてみよう。帰りは仁田元沢方面に下っていけるだろう。)

 しかし、このコース変更のアイデアもすぐに頓挫した。緩斜面の沢も少し登るとすぐに急斜面になった。雪で岩が滑りやすい。夏場なら何とか登れそうな沢だが、今日は捨て綱程度のロープしか持っていないので危険だと判断して、再び元の堰堤の地点まで戻った。時間を約50分ロスした。
左岸側堤の石碑  そこで、意を決して一段目の堰堤に上がりコンクリート部分を歩いて右岸から左岸に渡った。たちまち靴の中とズボンの裾がびしょ濡れになった。以前はここで濡らすことはなかったので、松木沢の水量が増えたのかもしれないと思う。

 そこから左岸の側堤に上がり、高くなった本堤の壁に近づいて行くと「松木川六号ダム」と書かれた石碑があった。よく見ると、平成6年8月完成で高さ14mと書かれている。ということは、自分が最後にここに来たのは低い堰のときなので、もう10年以上経ってしまったのだ。月日が流れるのは早いものだ。

 高い本堤を越えるには、左岸の階段状の側堤部分に付けられた黄色のステップを伝われば簡単に越えられる。しかし最初の段は少し高く、ステップが付いていないので苦労した。補助用につけられたロープを使い、枯木の丸太をステップ代わりにして登った。コンクリートの濡れたところは凍っているので滑らないように注意して歩き、ようやく6号堰の上の河原に降りることができた。

正面奥に皇海山  すぐに右から流れてくる三沢を渡り、小足沢のV字渓谷を眺め、沢の徒渉を続けていくと、ようやく正面に皇海山が見えてくる。ガレている部分が白くタテ縞に見えるので、雪が多いのかもしれない。ニゴリ沢取り付き点からモミジ尾根への急登は無理かもしれない。

 ここで再びコースの変更を考えた。(雪と時間のことを考えると、今日は皇海山に登るのはやめて県境の尾根を歩いて戻ることにしよう。県境に上がるコースは以前登った大ナラキ沢上部の1828m峰につづく尾根のコースにしよう。)

 ということで、しばらく歩いて行くと沢が左へゆるくカーブしていくところにやって来た。以前に来たときと見覚えがあるので、尾根に取り付く地点はこの先だとわかった。

左岸前方に石垣  左岸がザレ地になってゆるくカーブしていくあたりの先に、人為的に石垣状になった部分が見える。以前何か建物でも建っていた跡だろうか。それとも護岸工事の石垣だろうか。そこのワキから左岸の台地に上がる。このまま直進して小沢を渡って行けば松木沢の巻き道で、再び沢の方へ戻る。尾根に出るには、小沢を渡らずに斜面をトラバース気味に登って行く。

尾根に向かって急登  雪が融けてぬかるみ、歩きづらい。以前ここを歩いたときは地面が乾いていたので楽に歩けたが、今回はちょっと歩きづらかった。斜面の樹木はすっかり落葉していて、見通しがきく。

 突然、前方でシカが「キィーン」という警戒の鳴き声を発して逃げていくのが見えた。やはり足尾名物のシカは健在だ。高度を増して斜面が尾根状のところを歩くようになると、松木沢や遠くの山々を見渡すことができるようになる。低いところでは雪が融けて地肌が見えていたが、高度が上がると雪の斜面が目立ってきた。

 この辺は伐採が行われていないので、ミズナラやコナラの原生林が形成されている。斜面には沢山の団栗が落ちていたので、動物たちには豊かな森だろうと思われる。

これから登って行く稜線  尾根が少し緩斜面になってくるあたりから展望がよくなる。西に皇海山や鋸山、南にオロ山から庚申山も見えてくる。北に三俣山からシゲト山に至る稜線上に聳える無名峰の山々も見える。

 ゆるい登りをもう少し行くと平地のピークになった。ピークといっても、北へつづく尾根が少し下り気味になっているからだ。ほとんど平らな台地だ。一休みしてこれから登る尾根を観察していると、以前登ったときは左にトラバースして岩峰に直登していくコースを辿ったことを思い出した。今日は雪が多そうなので、このまま右の尾根筋を登り、上部で岩峰の尾根に取り付いて稜線に出ようと思う。

笹の斜面より皇海・鋸方面  再び雪の融けた急斜面の登りにかかる。このあたりは笹が少なく、地肌の土が雪融けの水分で湿って、非常に滑りやすいぬかるみをつくっていた。ホールドできるヤブや立木も少なく、急な斜面を登るのにテコずった。

 ようやく笹の多い斜面になると、今度は雪が多めに積もっていて、これまた歩きづらい。シカの歩いた獣道に沿って、何とか笹の深い斜面を登る。このあたりは笹とダケカンバの生えた斜面で、美しい景観を見せていた。近くに1828m峰に連なる岩峰が見えてくると、尾根道には針葉樹の樹木が多くなってきた。

1828m峰県境登山道出合  針葉樹の生えた枝尾根の上部をつめて、ようやく岩峰の主尾根にたどりついた。しかし今度は、深い笹と予想以上の積雪で岩峰北側を巻いて行くのに、またひと苦労する。笹ヤブの中を腰まで雪をかぶりながら進み、ついに県境尾根の登山道に出た。

 展望はないが、今日はここがこのコースの最高地点(1828m)だ。時間がないので、少し休んで国境平方面へ下ることにする。

1828m峰から皇海方面  1828m峰からカモシカ平へは釜ノ沢上部のガレた尾根の淵に沿って行く。展望は申し分なく素晴らしい。西は利根郡の山々の向こうに上州武尊の山も見える。正面に聳える皇海山も雪を被って荒々しい姿で控えている。天気は雲ひとつなく快晴だ。時間があれば皇海にも足をのばしたいのだが、今日はやはり無理だ。

 鋸山から庚申山、オロ山にかけての稜線は日陰になっていて静かな佇まいを見せている。午前中に吹いていた風もすっかり止んだようだ。

南方より、中腹のサラ地の下がカモシカ平  東側がガレた稜線歩きが終わり、広い笹原の尾根歩きになる。白砂のサラ地を下りた笹原のあたりが「カモシカ平」と呼ばれるところだ。カモシカが生息しているのかもしれないが、このあたりでカモシカは見たことがない。ここから南方には皇海の手前に日向山の小ピークが見える。

稜線奥に日光白根  日向山の登りにかかる途中で北をふり返ると、遠く県境の山並みのかなたに、三ヶ峰から笠ヶ岳そして錫ヶ岳へつづく稜線が見える。またその右に、白い雪を頂いた日光白根も見える。

 そこから新雪の笹原を登ると、針葉樹のまばらに生えた日向山のピーク(1695m)になる。山というより丘陵の台地だ。

国境平周辺、奥左下へモミジ尾根  日向山からまた笹原を下って行くと、すぐに草木の生えていないサラ地になる。この辺からが「国境平」と呼ばれているところだが、正式な道標が設置されていない。多分、このサラ地から皇海への登りにかかる笹原あたりまでをいうらしい。
 個人が自由に立木に「国境平」の名板を付けているようだ。ここから南へはもう皇海山への登りしかない。

モミジ尾根上部  国境平の最低鞍部からニゴリ沢の下降地点に行くには、少し登り気味に左のモミジ尾根へトラバースして行く。今回はロープが張られているので、迷う心配がない。このコースも今では日光山域独特の赤と黄の四角プレートが木に打ち付けられ、整備されているようだ。

 しかし、モミジ尾根の道は上部は緩斜面で歩きやすいが、ニゴリ沢取り付き地点からの登りはほぼ90度に近い急峻な登りで一般者向きではない。

 このルートを紹介した人は、きっとニゴリ沢から皇海山を直登しに来たのだろう。ニゴリ沢を高巻きするためにモミジ尾根に上がったのではないだろうか。

この先がニゴリ沢取り付き点  さて、上手く下れるだろうかと考えながらニゴリ沢下降地点まで来てみたが、ここは皇海山の日陰になっているところなので積雪が多く、このまま下るには長いザイルかロープで補助しないと無理だとわかった。

 短い捨て綱しか持っていなかったので一瞬焦ったが、左の方のモミジ尾根北側は比較的雪が少なくホールドできる木も多そうなので、左の方へトラバースして行くことにする。上部は急だったが何とか立木を伝わりながら下降して行くと、沢状のゆるい斜面になり、ようやく取り付き点手前のザレ地の河原に降りることができた。
 モミジ尾根に登るなら、地図やガイドブックに紹介されている地点より手前の緩斜面から登った方がいいかもしれない。

 ここで思うのだが、そもそも国境平から松木沢へ下るのにニゴリ沢経由でモミジ尾根を利用するのはロスが大きいと思う。自分が最初に国境平から松木沢に下ったときはモミジ尾根がどこにあるのかわからず、仕方ないので歩きやすい尾根を適当に下ったのだが、そのときはすぐにメビキ沢と釜ノ沢の合流する緩斜面に出られた。

 無謀だと思われるかもしれないが、この山域は樹木が落葉して見通しがきく頃なら比較的自由に歩けるところだと思う。ただ危険な崖の沢やゴルジュに入り込まないようにすればいいだけの話だ。
松木沢分岐よりニゴリ沢方面  岩で歩きづらいニゴリ沢左岸を15分ほど下ると、松木沢本谷の分岐点に至る。そこからは松木沢左岸を巻いて下るのだが、地図やガイドブックに紹介されているニゴリ小屋跡へは松木沢右岸を巻いて行くようだ。自分はいつも帰り際にここを通過するので、右岸を巻いたことはない。宿泊するのに適地なのだろう。

 左岸をたどるコースは、少し沢沿いを行くだけでほとんどが左岸の台地を高巻きして行くコースに変わってしまったようだ。以前沢沿いを歩けたところは通行不能になっていた。沢も生きていて形を変えるのだろう。それから、水量が多いのかもしれない。

 巻き道で左からの小沢を越えて行くと、まもなく午前中に登りに取り付いた石垣の地点についた。日も陰り始めていたので、ここからはピッチを上げて沢を下ることにする。

ウメコバ沢の上に月  時刻は午後4時をまわり、日もすっかり沈んでしまうと、渓谷はすぐに薄暗くなる。ずぶ濡れの靴の中も気にせずに沢の徒渉をつづけて、ようやく暗くなる前に6号堰までたどりついた。ステップ代わりに使った丸太もそのままだったので、簡単に堰の下流の河原に降りることができた。

 ここからは安心して歩けるので、懐中電灯を出して薄暗くなった道筋を照らして歩くことにする。今日は夕方になっても雲ひとつ出ていなくて、もう松木沢右岸の山肌の上には月が見え出した。夕暮れの濃青色の空にポツンと輝いているのが印象的だった。

工事車両用遮断機  再び崩壊した林道を歩き、大ナギ沢先の遮断機のゲートを抜け、広い河原の林道を快調に飛ばし、ようやく午後6時前に最初の工事車両用遮断機のゲートにたどりついた。

 朝通るときは気付かなかったが、この遮断機は最新式のものらしい。無線式で開閉できるものだ。多分ETCのようなもので、許可された車両のみがゲートを開閉して通過するようだ。いたずら防止のためか、監視カメラ作動中の看板も設置されていた。時代とともにこういうものも近代化しているのだなぁ、と感心した。そこから銅親水公園の駐車場は目の前にあった。


日程2004年12月17日(金)
天候晴れ 微風
行程時刻銅親水公園駐車場7:05→工事車両用遮断機ゲート7:10→松木沢への林道分岐7:15→松木集落跡地7:30→奥の遮断機ゲート7:45→大ナギ沢出合7:50→ウメコバ沢出合8:35→松木沢最奥6号堰9:00→堰手前右岸のカラ沢歩き(登行不可)→6号堰9:50→三沢出合9:55→小足沢出合9:58→左岸が石垣の地点(尾根取り付き点)10:40→平地のピーク11:35→1828m峰へ連なる岩峰の主尾根12:55→1828m峰県境登山道出合13:10→1736m峰13:50→白砂のサラ地13:55→カモシカ平14:00→日向山14:15→サラ地の鞍部14:25→(国境平)→モミジ尾根分岐14:35→モミジ尾根最南端部15:00→ニゴリ沢取り付き点手前左岸の河原15:15→ニゴリ沢分岐点(松木沢出合)15:30→左岸石垣の地点16:05→6号堰16:30→ウメコバ沢出合16:45→奥の遮断機のゲート17:35→工事車両用遮断機ゲート17:58→銅親水公園駐車場18:00
備考※この行程時刻は正確な行程時間ではありません。あくまでも参考時間です。

◇ T N H C ◇

TOPへ戻る