白井からカイト山東尾根直登



 4月になり長野と群馬を結ぶ山岳道路の冬期通行止めが解除になる時期になった。ネットで調べたところ、今年(2005年)は十石峠越えの国道299号やぶどう峠越えの道路が4月7日午前10時に解除されるという。以前から十石峠辺りの旧街道を歩いて、近くにあるカイト山でも登ってみたいと考えていた。そこで一般車の通行止めが解除される前日の6日に上野村方面に出かけた。
白井入口  砥根平でぶどう峠への新道を左折せずに神流川の橋を渡り、その先を左折して細い旧道へ入る。右側に白井関所跡入口の看板のある地点をすぎ、少し先に行ったところに駐車する。ぶどう峠へは神流川対岸の新道が使われていて、旧道のこちら側は通行量が少なく迷惑にならないだろうと判断した。

 さっそく準備をして白井入口まで戻り、急なコンクリートの坂を上がって行く。九十九折の坂を途中まで行くと、上からセダン型の乗用車が下りて来た。白井集落の住人のようだ。ねくらハイカーは人家の多いところを歩くのは苦手なので、小さな集落ならいいなと思って坂を上がって行った。

神社  坂を上りきって見ると、集落は住宅が密集していて大きかった。住宅の間の細い路地を上の方に向かって行くと神社らしきものが見えるので、すぐさまそちらに進む。

 しかし、神社の方に近づいて行くとたちまち民家の飼い犬がけたたましく吠え出した。それに驚き、あわてて鳥居の写真を撮り、早々にわきの小道を逃げるように歩き出す。

 結局、昔の関所にあったというイチイの巨木を確認する暇もなかった。また、神社わきの道はすぐに廃道のようになってしまった。

巡視路を示す杭(標柱)  犬に吠えられてあわてて歩き出したので、旧街道への入口を見失ってしまったようだ。戻ってまた犬に吠えられるのが嫌なので、ヤブの斜面を右の尾根の方へトラバースして行くことにする。

 すぐによく歩かれた踏跡が見つかった。黄色の杭が設置されているので、送電線の鉄塔の巡視路のコースらしい。

斜面に鉄塔 砥根平方面  そこから尾根沿いにまだ芽吹いていないブナやミズナラの生えた道を歩いて行くと、周囲が伐採されて見晴らしがいい斜面に送電線の鉄塔が見えた。

 鉄塔はよく手入れされた芝の斜面に作られていて、そこからは東に砥根平の谷と楢沢上部の山並みが見える。ここで少し休憩しようと思っていると、斜面の上から熊よけの鐘を鳴らしながら、2人連れの電力会社関係の作業者がやって来た。さっそく作業に取り掛かろうとしているので、挨拶をして再び歩き出す。

尾根に2つ目の鉄塔 シラケ山〜笠丸山の稜線  休憩しながら尾根道をゆっくり歩いて行くと、すぐに2つ目の鉄塔が現れた。先ほどと同じように周りの樹木が伐採され、見晴らしがよくなっている。そこからは東の笠丸山から北のシラケ山にかけての稜線が一望できる。

 送電線はこの鉄塔から西へ、矢弓沢を隔てた向こうの山尾根の鉄塔に中継されている。巡視路の道はここから南へ沢に下っていく。地図で見ると、ここを下って行けば矢弓沢左岸にある旧十石峠街道に出合うようだ。

尾根に鉄塔跡  さて、ねくらハイカーはここで考えた。このまま下ってもつまらない。この尾根の稜線をできるだけ上に登って、適当なところで下の旧街道にトラバースして行けばいいだろう。

そこで左(南側)が針葉樹の植林帯になった尾根を忠実に辿って行くことにする。尾根の稜線上は雑木が密集しているが、何とか歩ける。また尾根にはシカの糞が目立ち、灌木の樹皮も結構食べられているので、ここでもシカが大繁殖しているらしい。それからイノシシが掘り返した跡もいたるところで見られた。樹木はミズナラやクリなどの広葉樹とツガやアカマツなどの針葉樹が混生していて、動物には豊かな森のようだ。

 しばらく見通しのきかない尾根をひたすら登って行くと、何かの小さな鉄塔の跡のところを通った。伐採作業用のものだろうか。

沢沿い  そこからさらに岩石の多い尾根を登って行くと、角度が急なピークへの登りになってしまった。その先にも急峻な山稜がつづいてるようだ。地図で見ると998m峰らしい。このまま登るか迷った。このピークの先にもヤバそうな岩尾根がつづいているようだし、カイト山の北東に聳える1181m峰に連なる尾根のようなので、この辺りで左下(南側)へ下ることにする。

 急な斜面を灌木に伝わって降りて行くと、下の方に小さな沢が見えた。今日は春の日差しが強く暑いので、休憩しながら沢で水を補給する。さて、これからどちらへ向かうか考える。このまま沢を下って、旧街道か矢弓沢林道に出て歩くか。それとも、この沢を遡行して登れそうな地点でカイト山への尾根に取り付くか…。

 時計を見るともう午前11時になる。沢を下って、また登り返してくるのも時間がかかって面倒だ。このままカイト山へ直登した方が面白そうだ。今日は十石峠街道歩きはやめて、カイト山直登をメインにしよう。そこで、ゆるい登りの沢沿いを上流(北西)に歩き出した。

カイト山への尾根  少し行くと左の斜面に登りやすそうな獣道が見えた。試しに取り付いてみると乾いた土の斜面もそれほど崩れずに歩くことができる。この獣道をきっかけにして急斜面をジグザグに登って行く。

 ようやく尾根に辿りつくと、先ほど歩いていた998m峰へつづく尾根も北側に見えた。そしてこの尾根がカイト山への直登コースのようだ。ここでまた少し休んで、まだ新芽の出ない灌木の密集した尾根を登りはじめる。木々の間から北の方に998m峰から連なる1181m峰が見えるが、やはり遠そうだ。

 ヤブっぽい尾根を少しバテ気味で登って行くと、左下に矢弓沢林道が見えた。作業車両が走っているので通行止めにはなっていないようだ。さらに登って行くと灌木の間から尾根の上の方にピークが見え出した。

東の小ピーク南面  そのピークに近づくと直登するにはヤバそうな石灰岩の岩峰が現れた。地図上のカイト山主峰から東にある小ピークらしい。巻き気味に南面を少し行くと、平地っぽいところにまた鉄塔の跡があった。以前、何かの鉄塔が建っていたようだ。

 さて、ここからカイト山へ行くのに岩場の稜線を直登して行くのは難しい。主峰へつづく厳しい岩稜を巻いて行くしかない。南面の崩れそうな急斜面を恐る恐る灌木を伝わりながら進むと、すぐに灌木の生えていないヤバそうな急斜面になってしまった。そこで、巨大な石灰岩の岩稜基底部にまわり込み、岩稜と土の斜面のすき間にできた溝のところで岩が突き出てホールドしやすい部分を伝わりながら進む。ハラハラドキドキで何とか岩稜上の尾根に這い上がる。ロープで補助などしていないので、一番危険な地点だった。

ヤブ尾根から矢弓沢林道 東の岩峰よりカイト山主峰  そこからヤブの岩尾根を進んで行くと左下に林道のヘアピンカーブが見えた。いつの間にか高度を稼いだようだ。

 この尾根の先のピークがカイト山頂上だろうと思って岩場の稜線を登りつめると、なんとそこはカイト山頂上の主峰から1つ岩峰を隔てた東側の岩峰だとわかった。三角点のある主峰とは繋がっていなかったのだ。主峰に行くにはまたヤバそうな岩峰を巻いて行くしかないようだ。

下仁田、妙義、浅間方面  少しがっかりしたが、ここで休憩して360度の展望を楽しむことにする。南東に両神山、東に笠丸山から御荷鉾林道の通る山々、北にシラケ山や烏帽子岳からつづく山並みや下仁田方面の山々、その奥に妙義の山並み、北西にまだらな雪に覆われた浅間山が春霞の中に見える。西の十石峠からぶどう峠にかけての山々はまだ山肌に雪が残っていて荒々しく、春の山と呼ぶには程遠い姿を見せている。やはり今年は雪が多いようだ。

 さて、カイト山主峰に行くため観察すると、北側はまだ薄っすら雪が融けずに残っていて安全に巻いて行けそうにない。南側は土砂がやわらかく崩れそうな急斜面だが、立木の生えたところを伝われば何とか行けそうだ。

固定ロープのあった南斜面 カイト山頂上(西側から)  尾根を少し戻って南斜面に降りて行くと、赤く塗られた枝の杭が打たれている場所があった。誰かが何かの作業をした跡のようだ。そこから先ほどと同じように慎重に岩稜基底部を伝わって巻いて行くと、ちょうどホールドするものがなくなる辺りに上から固定ロープが設置されているのが見えた。そこでそれを使うと難なく上の稜線に上がることができた。どうも、先ほどの杭のあるところへ行くためのロープのようだ。

 そこからヤブめいた稜線の岩場を東側に少し戻って、ようやく三角点のあるカイト山主峰の頂上(1343m)に辿りつくことができた。

カイト山から西の県境方面 南東の両神山、帳付山、諏訪山方面  山頂からは先ほどの東の岩峰からと同じ眺望が楽しめたが、下の林道と西の県境の山々の眺めがぐっと近くに感じられた。稜線付近の樹木はまだ芽吹いていないが、ツツジの花芽は膨らんでいるので、4月中旬から下旬頃には山頂部にもツツジの花が咲き誇るだろう。

 カイト山は普通、林道わきの西側から簡単に登られているようだが、ねくらハイカーが思うには、東側からスリルを味わって登るのも一興の価値があるかもしれない。

矢弓沢林道 西側の林道よりカイト山  さて、カイト山から十石峠に行くには西に向かうのだが、山頂部からは南尾根方向に踏跡がついている。そのまま下って行くと南尾根の末端部へ行ってしまうので、途中で右(西側)の矢弓沢林道の見える方向に下っていく。都合よく下の林道側壁に黄色のステップがついていたので、簡単に林道に降りることができた。

 ここからは舗装された林道を西に歩いて行くだけだ。左側には北沢上流の萩沢流域のカラマツの植林帯があり、斜面にいくつも作業道がつくられ、よく管理されている感じだ。説明の看板なども多く設置されている。

林道終点、および299号通行止めの地点  勾配のゆるい林道を進んで行くと、道路わきに大型ショベルカーが置いてあった。除雪に利用したものだろうか。そこから少し行くと矢弓沢林道終点で国道299号に出た。そして、299号はここの黒川沿いの谷へ曲がっていく地点で道路が封鎖されていた。ということは、矢弓沢林道を通れば299号が通行止めでも十石峠に行けるのかもしれない。

 それから国道を西に歩いて行くと、道路を清掃している作業者に会った。明日の開通のために準備しているようだ。軽く挨拶をして西へ向かう。

「水の戸」  ようやく石碑のある「水の戸」と呼ばれるところについた。佐久から十石峠を越えて車で通る際にいつも素通りしてしまう地点だが、今日はゆっくり見てみる。広場になったところは除雪されていないのでまだ5、6cmの積雪がある。ここからさらに南にのびる作業用林道もまだ10cm以上の積雪が残っていた。また、左斜面の天望山の山肌も雪で覆われていて、春の訪れは遅いという感じだ。

 「水の戸」は北相木から栂峠で県境を越えてくる栂峠道と佐久から十石峠を越えてくる十石峠街道が合流する地点にある。また栂峠道は途中で小海の親沢から四方原山を越えてくる道とも合流しているので、「水の戸」は昔の信州と上州を結ぶ交通の要衝といえるところだ。往時には茶店があったということだ。

 そこでねくらハイカーは天望山わきの水場で水を補給することにする。雪融けの水を汲んでいると、上野村方面からひとりのハイカーらしき男性が熊よけの鐘を鳴らしながら峠へ歩いて行った。ここを素通りして行くのだから、ハイカーではなく峠歩きを目的にしているウォーカーなのかもしれない。ここで、少しバテ気味のねくらハイカーも負けじと峠に向かうことにする。

天望山の斜面のカラマツ林 十石峠  「水の戸」から上の山腹には雪が融けずに残っている。299号はまだいたる所で雪融けの水で濡れていた。やはり除雪が終わっての全面開通のようだ。そこから少し行くと天望山北斜面のカラマツ林の伐採作業が行われているところを通った。ここで伐採されたカラマツ材は矢弓沢林道を通って上野村に運ばれているようだ。そのため、矢弓沢林道は除雪され通行できるのかもしれない。

 そこからまた送電線の鉄塔のある斜面のわきを通り、ゆるいカーブを登って行くと展望塔のある十石峠(1351m)についた。トイレのある駐車場は除雪されずに雪が残っていて閑散としていた。長野側でも通行が制限されているのか、1台の車両もなかった。

展望塔の案内板、間違いあり  展望塔わきには地蔵尊がおかれ、峠越えの人を見守っている。展望塔に登って行くと、先ほど「水の戸」で追い越して行った先行者がいた。軽く挨拶を交わしたが、急いでいるらしくすぐに下に降りて行った。このまま佐久の方に下るらしい。

 展望塔には山座同定の案内板が設置されているので見てみると、間違いに気付いた。先ほど登ってきたカイト山のピークが天望山と諏訪山になっている。天望山は峠の駐車場から南の尾根上にある電波塔のピークから東にある山で、ここからは手前の山腹に隠れていてよく確認できない。ましてや諏訪山は天望山からずうっと南東にあり、十石峠から見えるはずがない。この案内板は旧佐久町が設置したものなので群馬の山々については詳しくないようだ。

 峠についた頃から空は薄雲に覆われてきた。誰もいない峠で休息していると時が経つのも忘れる。ふと気付いて時計を見ると、午後3時をすぎていた。さて、引き返すことにしよう。峠からは下りだけなのでピッチが速い。すぐに「水の戸」をすぎて、矢弓沢林道の分岐点まで来た。ここからは右(南側)に未舗装の道があるので少し歩いてみる。

 この辺りもカラマツの植林帯だが、斜面には何か広葉樹の幼木が植林されていた。幼木は地面から80cm位まで人為的に灰色の塗料が塗られている。それも辺り一面すべての幼木に塗られていたので異様な感じがした。考えてみると、やはりこれはシカによる蝕害防止対策のようだ。多分、この山域でもシカの蝕害が深刻なのかもしれない。どうもこの灰色の塗料にはシカが嫌がる物質が含まれているのだろう。シカから幼木を守るための技術に違いない。
斜面に階段状の道 石像が置かれた斜面  そこから少し行った先で、また舗装路の矢弓沢線に出る。先ほどカイト山南尾根の斜面から降りた地点をすぎて下って行くと、斜面の側壁に階段状の道が付いていた。これが林道から南尾根の踏跡への出入り口のようだ。

 そこからまた林道が南尾根を回りこんでカーブしていく辺りの斜面に、昔の石像が置かれている地点があった。これは旧街道跡なのか、それともカイト山への入口を示しているのだろうか…。

林道からカイト山南面  そこからちょっと下ると右側にロボット雨量観測所の建物があった。そしてまたカーブをまわり込んで行くと正面にカイト山の岩峰が見えた。あの上部の急斜面を巻いて歩くことができたことに自分でも驚いた。

 なおもカーブをいくつか曲がって行くと、左斜面に旧街道らしき踏跡が見えたが標識などもないので、そのまま林道を下った。後で旧街道についてネットで調べたところ、この辺りの旧十石峠街道の道はマウンテンバイクの愛好者や上野村関係者により拡張整備されたらしい。また林道工事により一部の矢弓沢沿いの街道が消えて、今の矢弓沢左岸の旧道に付け替えられているらしい。つまり完全な往時の道ではないのだが、旧街道が一部復旧したことは歓迎すべきことだ。

林道から鉄塔のある尾根  さらに林道を下って行くと、左の山尾根に午前中通った鉄塔の地点が伐採されているので確認できた。林道の鉄塔直下のところには巡視路入口を示す杭があった。

 午前中ここへ下って歩いていれば、この辺りで矢弓沢左岸につくられた旧街道を歩いたのかもしれない。今日は歩かなかったが、また機会があれば歩いてみようと思う。

 そこから林道をしばらく歩き、ぶどう峠からの道路に出てすぐに最近できた新道で白井集落に戻り、犬に吠えられないように静かに坂道にぬけ、日が沈む前に旧道の駐車地点に戻った。


日程2005年4月6日 (水)
天候晴れのち曇り
行程時刻旧道わき駐車地点9:13→白井関所入口9:15→白井集落の神社9:30→(踏跡見失う、右方向)→送電線用巡視路出合9:43→最初の鉄塔9:55→2つ目の鉄塔10:02→(尾根の稜線)→小鉄塔跡10:45→998m峰へ急登する手前の地点10:48→(左斜面を下る)→沢出合10:55→(遡行)→沢右岸の尾根への取り付き点11:00→(獣道)→カイト山へつづく東尾根11:15→カイト山・東の小ピーク南面11:45→南面の鉄塔跡11:52→(南面を巻く)→東の小ピーク上の尾根12:15→カイト山主峰・東の岩峰12:35→(岩峰南面を巻く、固定ロープあり)→カイト山主峰の西寄りの尾根12:50→(ヤブ尾根を東に戻る)→カイト山主峰頂上12:51〜13:05→カイト山南尾根13:10→矢弓沢林道出合13:15→(林道)→国道299号出合(林道終点)13:38→(国道)→「水の戸」13:55→十石峠14:35〜15:05→(国道・戻り)→「水の戸」15:30→矢弓沢林道入口15:45→(林道)→カイト山からの下降地点16:05→南尾根斜面階段の地点16:07→石像の地点16:12→雨量観測所16:16→鉄塔直下の地点17:01→矢弓沢林道起点(清流荘わき)17:20→(上野小海線旧道)→上野小海線新道出合・白井集落への新道分岐点17:30→白井集落17:40→旧道わき駐車地点17:50
備考♦十石峠街道は江戸時代から中山道の脇往還として利用されていた。特に上州の山中領(今の上野村や神流町)は米がとれなかったので、信州佐久地方に米を依存していた。そのため、この道を通して一日十石の米が佐久から山中領に運ばれたという。それに因んで、この街道の峠が「十石峠」と呼ばれるようになったそうです。
♦長野県の佐久町は2005年3月20日に隣接する八千穂村と合併して、「佐久穂町」となったそうです。展望塔の案内板はまだ改訂されていなかったので、旧佐久町と表記しています。

◇ T N H C ◇

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