花室川 01
 5月連休の頃、一面の田圃に水が張られて2〜3日の内に田植えが始まる。辺りは萌えいずる春の芽吹きに覆われて緑色が一年の内で最も華やぐときだ。景勝地に旅すると非日常の風景に接したときの感嘆を覚える人は多い。しかし、暮らしに身近な風景はあまりにも近すぎて、日々に移ろいゆく季節の装いに気付く人は少ない。近所に田舎にはありふれた小さな川が流れ、川に沿って狭い田園が続いている。そんな気付かれにくい風景の中でも畦道を辿ると幸福に満ちた美しい光に出会えるのだ。

01.「春霞」

2010.06.04
WATERFORD WHITE
300mm×455mm
HOLBEIN

 この日は霞が立ちこめて軟らかな雰囲気の風景になった。少し距離が離れるとグレーのシルエットになって普段では煩わしい風景が整理されてスッキリと気分がいい。


02.「五月晴」

2010.06.06
WATERFORD WHITE
300mm×455mm
HOLBEIN

 辺り一面に降り注ぐ光が眩しく照り返している。黒々とした深く濃い木立の陰影が新緑の色彩を明るく輝かせる。人生も輝く為には深く濃い陰影を同時に合わせ持たなくてはならない。


03.「山桜」

2010.06.12
WATERFORD WHITE
300mm×455mm
HOLBEIN

 新緑に萌える谷津田の春。休耕田はいつの間にか樹林化し始めている。この時期は緑色がことごとく輝いて気持ちを高揚させる。身近な樹林は既に斜面にしか残っていないが、輝く緑を背景に山桜が彩りを添える。山桜は一番好きな花で、日本の魂の様な気がする。


04.「新緑」

2010.06.16
WATERFORD WHITE
455mm×300mm
HOLBEIN

 日本の春は卒業式と入学式がある。象徴的に物事の節目であり、終わりと始まりの結節期だ。季節は規則正しく春夏秋冬を繰り返す。自然は車輪が回転する如く順序が決まっている。見える世界は見えない世界の暗示だ。命は死んでは生まれ、生まれては死に、季節が巡るが如くに規則正しく無限の彼方を目指して旅をしている。風景を見渡せば太古の昔から語り伝えられてきた物語が浮かび上がる。今、この瞬間、命は宇宙に満ちる七色に輝く豊かな富を織りなしている事に気付いているだろうか。


05.「春風」

2010.06.19
WATERFORD WHITE
300mm×455mm
HOLBEIN

 絵本のページを捲る様に、春風が吹いて新しいシーンが展開する。大地は木立にも畦にも新緑の衣が輝き、野は華やぎの時を迎える。畦を切り、今年の田圃に水が満たされる。水面が揺らぎ、緑の風が寄せて来る。ここには幸せな心地よい静かな時が満ちている。


06.「谷津田」

2010.06.23
WATERFORD WHITE
300mm×455mm
HOLBEIN

 同じ場所でも別な日に眺めた景色で、05.は風が水面を揺らした動きに気持ちが向き、06.は谷津田の奥行感に気持ちが惹きつけられたものだ。美しいシーンは何時でもどこにでも直ぐ側に在ることを感じる。こんもりとした樹林と鏡の様な水面の組み合わせは心安らぐ豊かな世界だ。


07.「装春」

2010.06.26
WATERFORD WHITE
300mm×455mm
HOLBEIN

 萌える草木の装いは春の陽を浴びて輝く。同じ場所でも視線を動かすだけで色々とその景色の変化を楽しめる。前二景は畦の直線が視線を強く誘導したが、この場面では屈曲した畦の線が視線を左右に遊ばせて景色の移ろいを楽しませる。紆余曲折して変化する景色は人生そのもの。


08.「ラピュータ」

2010.06.30
WATERFORD WHITE
300mm×455mm
HOLBEIN

 田植えが始まるまでの数日間は、辺り一面が束の間の水郷になり、天地がシンメトリーになる。ガリバー旅行記に出てくるラピュータの様な浮かぶ島があちこちに現れて、まるで空中を散歩するかの様なファンタジーを楽しめる。


09.「照り返し」

2010.07.02
WATERFORD WHITE
300mm×455mm
HOLBEIN

 野中に一軒家とプレファブの作業小屋が水面に浮かんでいる。トタン屋根が真上からの光を照り返して輝いている。一軒家は逆光の陰の中。矛盾するものが同時に存在するのが宇宙。光と闇の対比は生命の死と再生を伝える永遠のテーマ。


10.「早苗」

2010.07.03
WATERFORD WHITE
300mm×455mm
HOLBEIN

 田植えは着々と進み、水郷風景は僅か2~3日の命を終える。稲田は日毎に緑色を濃くしてあっという間に水面を隠して青田に変化する。その後、稲刈りまでの期間は稲田の変化は少なく、毎日見馴れた風景が続く。


11.「朝露」

2010.07.07
WATERFORD WHITE
300mm×455mm
HOLBEIN

 露の人生はマリー・アントワネットが象徴的だ。朝露は儚く脆い人生の例えだが、儚く消えるのかと思いきや"露命を繋ぐ"などと苦境の中でいたってしぶとく生き抜いて行く強さも、言葉の裏に隠れている。また、露は命の潤いの源でもある。


12.「通学路」

2010.07.10
WATERFORD WHITE
300mm×455mm
HOLBEIN

 もう少しで子供達が登校する時間だ。学校は橋を渡った対岸の台地にある。以前はどこの畑でも傍らにこんな花畑があちこちにあったものだ。気が付くと昨今、滅多に見なくなった。花はその鮮やかな色彩で風景に豊かな光を満たしてくれる。


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