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◆ 染料と顔料

  皆さんは両者の違いがお判りですか?『染める』と『塗る』の違い…とでも言いましょうか。つまり、草木染め用の植物から抽出するのが染料、ペンキや水彩など絵具に入っているのが顔料ということになります。まだ釈然としませんか?。では「コーヒーのように(水などの)溶剤に溶けるのが染料」、「ココアのような不溶の固体粉末が顔料」という表現では如何でしょう。水彩も基本的には「固体の粉末を水で練って」使ってますよね。
  『染料』は水に溶ける有機性の色素です。天然染料としては藍、アカネ、紅花、ウコン、サフランや動物の分泌物などが挙げられます。藍は『空気に触れる(酸化する)と発色する』という染料特有の化学反応を呈します。
  『顔料』は水や油にとけない固体の“無機化合物”が殆ど。これを油性樹脂で練り合わせたのが「油彩」、水+アラビアゴムで練り合わせたのが「水彩」、アクリルエマルジョンで練り合わせたのが「アクリル画」、膠(にかわ)で練り合わせたのが「膠彩画(通称:日本画)」ということになります。顔料は耐光性に優れ『色あせ』が起こり難い性質があります。無機化合物の身近な例は『鉱物』。私も絵を描く都合上、いくつかの顔料鉱物を持っています。たとえば雄黄(黄色:左写真上)、ラズライト(ウルトラマリン:左写真下)、孔雀石(緑)などです。特にラズライト(通称:ラピス・ラズリ)の深いブルーは素晴らしい蒼です。原産地はアフガニスタンで、私が購入した当時で100g/10000円くらいしたと思います(色が濃いほど高品位で貴重)。特に日本画絵具は『岩絵具』と呼ばれるくらい鉱物の恩恵を受けています。しかし「地下の恵み」には、ヒ素を含み毒性の強い“雄黄”や、カドミウム・コバルト・鉛・マンガンなど体内に蓄積すると危険な成分を多く含む岩絵具もあります。最近は環境にやさしい「耐光性有機(合成)顔料(例:大豆インキなど)」などが次々に開発され、「染料」と「顔料」の境目は曖昧になってきています。
  今から1〜2万年前のアルタミラ洞穴の野牛の絵の赤や黒は顔料です。またエジプトのミイラを巻いていた麻布は藍やアカネで染められていました。「色が文明を作った」…と言っても過言ではありません。





◆ 水彩絵具について

  水彩とくれば、『透明水彩』と『不透明水彩』に大別されます。我々に馴染みの深い前者は『ウォーターカラー』、後者は『ガッシュ』・『グアッシュ』や『ボディーカラー』などと呼ばれ学童用の水彩絵具はこちらに近い性質です。この透明と不透明の性質を分ける違いは「粒子の大きさ」です。粒子の細かい透明水彩絵具を水で溶くと、一つの絵具粒子を水分子が取り囲み「コロイド状態」になります。この状態を紙上にのせると、水分子が「蒸発」もしくは紙に吸収されて『穴』となり、下地の色が透けて見える(つまり透明)ようになるのです。グアッシュは大きな粒子が重なり合うために下の色が透けません。仕上がりはポスターカラーに近い強い発色になります。

  水彩画の保存には、ガラスやアクリル製の『カバー』を掛けます。私自身もA4判以下の小品はクリアファイルに挟んで保存しています。水彩画の弱点はまさに「そこ」。つまり、絵具そのものに『保護物質』を含んでいないことです。水彩絵具の定着にはアラビアゴム、保湿にはグリセリンが用いられてますが、保護膜の役割を果たす成分は含まれていないのです。よって、水彩画の鑑賞や収蔵には『紫外線カットのアクリル板』や『光源の調整(直射を避ける)』が不可欠となるのです。
  『皮膜を持った水彩絵具』…これはかつて油絵の対抗馬として持て囃された『テンペラ画』です。アンドリュー・ワイエス(下に注釈)等の名作で知られる『テンペラ』は水溶性タンパクで水彩絵具粒子を包み込む描法です。水溶性タンパク?…例えば卵黄の『カゼイン』です。でも、カゼインには『虫が付きやすい』という難点があり、特に日本のような湿度の高い環境では『カビ』も天敵です。よって防腐剤として酢酸などが用いられています(今度は臭いが気になる…;)。1950年代に入ると、アメリカの化学界が新たな皮膜を生み出しました。『アクリル・エマルジョン』です。アクリルも水に可溶で、しかも一度乾いたら二度と溶けない丈夫さを兼ね備えてます。アメリカが発祥の地ですから『新時代の絵具』として一気に脚光を浴びました。日常的には聞き慣れない『アクリル画』ですが、家庭用のペイント材は、今や殆どが『アクリルペイント』なのです(その証拠に使ったハケは水洗い出来ます)。現在、水彩画の公募展では『アクリルも可』という規定書が多く見うけられます。これには、逆に『アクリルは不可』とすると作品が集まらなくなるという状況の現れでもあるのです。

※注釈)アンドリュー・ワイエス(Andrew Wyeth)1917〜
  アメリカの20世紀を代表する水彩画家。徹底したリアリズムを身上とし、都会から離れた2箇所の田舎を主な制作の場とした。代表作に『遠雷』、『クリスティーナの世界』などのテンペラの他、詩情溢れる水彩画に秀作が多い。1996年、丸沼芸術の森のが彼の素描(習作も含む)238点を購入し、国内の美術館にて巡回展を展開している。左写真は同所に収蔵されている『穀物袋(1961)』。
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