[TOP]  [used shop] [奏楽] [七拾四] [穴ブ会] [緑返し部] [出来事] 
[リンク]

七拾四の部屋
妄想の部屋6 ミナゴロシノウタ





私は・・・、生首。





ノドボトケは、おそらく・・ナイ・・・。





交通量の多い国道、

上下線を隔てる茂みに、

ただ置かれている、生首・・・。





イヤ、

ただ捨てられているだけの生首・・・。





倒れないのは、

木の根に刺し込まれているカラ・・・。

















「昨日から急増加した、中国籍旅行者の模様です。」

午後2時から始まる、いつものなにげないニュース。

手垢の付いた、灰黒い24インチのブラウン管画面には、

羽田空港周辺に、異常と、恐怖とも思える程の、

大量の中国人観光者の波が、押し寄せているのが映る。



そんなニュースを片手間に見ながら、

夜勤明けの、遅い朝食をとる。

そんな朝食は、いつも決まっていて、

朝日が昇り始めた仕事帰りに買う、コンビニ弁当。



テレビを、2時間程なにげなく見た夕方近く、

人が変わった様に、セッセと外出する仕度を始める。












「こんにちは〜。只今タバコの試供品を配っておりまして、

 簡単なアンケートに答えていただければ、無料でお配りしています。」



19才になったばかりの秋芳は、まだタバコなんか吸った事もなく、

明日は3週間ぶりの休みが取れ、

今晩は、大好きなアイドルグループのコンサートに来ている。



そんな意気揚々と、気分が高まっている秋芳は、

目の前で蛇の列を造る物販の列に、少しでも早く並びたく、

素通りする様に断ろうとしていたが、

隣で試供品を貰っている、いかにもアキバ系の、

細身、TシャツGパン入れが、うれしそうに受け取っていたのは、

そのアイドルグループの写真が印刷された、タバコ・・・。


予備校生一人暮らしの、無駄金の少ない秋芳は、

ネットで高く売れると思い、

住所、氏名まで丁寧に書き、アンケートに答えた。











今日でちょうど、一人暮らしが始まって4ケ月が達つ。

休み明けの夜勤仕事を終えた秋芳は、

いつもの様に、明日の朝食であるコンビニ弁当を買って帰る。

比較的新しめのアパートにすんでいる秋芳は、

いつもの様に、ポストに入っている物を確かめる。

ピザ、住宅、スーパーのチラシ。





そんな中に、一通のしわくちゃになった茶封筒が入っていた。





テーブルには、昨日の昼に食べたコンビニ弁当のゴミが置いてある。

その端にある、一昨日貰った試供品のタバコ。

好奇心からか、コンロの下にあるライターを探し出し、火を着けてみる。




ゴホッ、おえぇぇぇ・・・。




灰皿のない部屋、

秋芳は水道の水で火を消し、

一週間分は溜まっているゴミ袋の底に、ねじり込んだ。




胸のムカツキ様からか、寝付く事が出来ず、

いつもなら、明日午後の起床の際に、手紙の中身は確かめるのだが、

宛名書きの、女性が使う独特の丸文字を見て、

異性に縁がない秋芳は、ソワソワと開けてみる事にした。



二つ折りの文面には、















「個人差ハアルガ、7日以内ニ人ヲ殺サナイト、

 貴方ガモダエ死ヌ。」














勧誘や、絵画の悪徳商法にダマされた事がある秋芳は、

この手のいたずらには慣れていて、特に気にする事もなく寝る事にした。












バタバタバタ、バタッ・ッ・ッ・ッ。






と、いつもは聞かないヘリの音で目覚めた。

ムクッと起き、いつもの様にテーブルの上に置いてある、

昨晩買ったコンビニ弁当を開けながら、テレビをつける。



「先程、上野駅で起きた殺人事件の・・・。」


どうやら、刃物による殺人事件が起きたらしく、

午後2時のテレビでは、どこのチャンネルもこの話題を流していた。

次々と回していると、逮捕直後の犯人が映った映像が流れた。



「俺はやったぞ!俺は死なねぇぞっ!!!」



秋芳は、ふと画面に見入った。

そのホームレス風の男は、茶色い封筒を握りしめていた。

まさかな・・・。

ソワソワと気になりだし、カーテンの閉まっている窓から、

誰かが見張っているのかと、覗いてみる。

静まり返った、いつもの裏路地。

向こうの通りを、パトカー、続いて救急車と走り去る。

「ふふっ。」っと、自分自身に溜め息混じりに笑った。









この時、日本がざわついた。
















抑えられていたものが、爆発の様に広がり始める。




とてつもない不快さと、不安感に包まれた秋芳は、

もう一度、カ−テンの隙間から外を覗いてみる。

向こうの通りで、緊急車のサイレンが鳴り響いている。

向こうから、中国人旅行者と思われる男二人が、

無言で歩いて来るのが見える。

一瞬目が合った様に思い、サッとカーテンの隙間を閉める。




つけっぱなしのテレビからは、

「世界各地でテロらしきものが多発している様で・・」

他のチャンネルからは、

「浅草で老夫婦の遺体が発見されました・・」

「マンガ喫茶で、男性が刺されているのが・・」

「病院で医師が患者を安楽死させるという・・」




キッカケが出来た様に、確実に何かが始まっていた。




「中国では、 殺人予告の手紙が多数出回っており、

 殺人事件がこの数日間で急増加しており、国家・・」


「アメリカでは、タバコが原因と思われる窒息死患者が、

 急増加しており、同時に銃による事件・・」





タバコで窒息死・・・?

まさかそんなバカな事がある訳が・・・。











その時、背後でゆっくりと、静かにドアノブが回された。







ギチャッギチャッ


秋芳は、ゾクッっと異音のする方へ目をやると、

誰かにドアノブが回されていたのが見えた。


鍵はかけてあったが、ドアチェーンは掛けていなかったので、

すぐさまチェーンを掛けに走った。


緊張で脱力感に包まれたが、あわてて台所までオタオタと走り、

下の扉を震えながら開け、1本しかない包丁を両手で握り、

ドアから1番離れている、奥のカベに座り込んだ。









とてつもない時間を感じた。








喉の渇きを覚え、気付くと部屋は薄暗く、夜になっていた。

外のサイレンが、やたらと遠くに感じた。







秋芳は冷静になって考え出す事にし、

ゴミのコンビニ袋から、あの手紙を抜き出した。



手紙には、「個人差があるが7日以内に死ぬ」と書いてある。

これが本当にタバコが原因で死ぬとすると、

この手紙は、一昨日のアンケート時に住所を書いた時のものとし、

では、個人差とは吸った量か?

それとも性別とか、年齢とか、何かか?

だいたい何で人を殺すと、死を逃れられるんだ?

誰かが見ているとでもいうのか?

誰かが首を絞めに来るのか?

それで解毒剤を渡す・・・?

そんなバカな・・・。





いや、窒息死とニュースでは伝えていた。

タバコの毒が7日間かけて体内で変化し、

それが血液中で酸素と結合し、要するにシアンの毒性か?

そして人を殺す時に、脳内でアドレナリンに似た酵素が造られ、

その物資が中和をする・・・?

そんな物質あるのか?

だったら、他の方法で中和分泌させられないのか?

運動や、興奮じゃ駄目なのか?

人を殺すのとは、一体何が違うんだ?




秋芳は考え続けた。

だが次第に、どうすれば誰にも見られず殺せるか・・・。

そんな考えに変わっていった。






テレビは、どのチャアンネルも映らなくなっていた・・・。






誰を殺すか?

誰にもバレず、どうやって殺すか?

出来れば、心が痛まず、見つからない様に・・・。

老人なら、外人なら、手遅れの病人なら、犯罪者なら・・・。

誰なら・・・。



相手によって、殺害方法も違う・・・。














バィンバィンバィン!!!

「助けてっ!!!」

ギチャギチャギチャッ!!!








ドア向こうの廊下で、聞いた女性の叫び声がした。

自分の部屋を訪ねて来る女性に、

知り合いや、心当たり等いなかったが、

とっさに一人の顔が思い浮かんだ。






「れ、玲菜さんっ!?」

「そうっ、お願い開けてっ!!!お願い、早くっ!!!!」


秋芳は急いでチェーンと鍵を外し、

彼女の背中を強く押す様に、玲菜を部屋に入れた。

玲菜の顔の化粧は、涙と油汗でグチャグチャになっていた。




彼女は、上の階に住む、いわゆる水商売で生計を立てている女性で、

朝帰りの秋芳とは、よく帰りが一緒になり、

いつの間にか、エレベーターの待ち時間がある時には、

いつも泥酔している、玲菜に話しかけられ、

気兼ねなく、秋芳が唯一、雑談が出来る女性となっていた。




「大丈夫ですかっ!?」


秋芳は鍵とチェーンを掛け、浴室のハンドタオルを取りに行った。

玲菜は泣きじゃくりながら、つぶやく様に喋り出した。


「元彼が突然来て、でも恐くて、ドア開けれなくて、

 そしたら彼が廊下で誰かに刺されて・・・、

 私のせいだわっ!!!私がドアを開けてさえいればっ!!!」


壁にもたれかかり、泣きじゃくる彼女を見て動く事が出来ず、

ただ、秋芳はタオルを握り締めた。




その時、秋芳はふと何かにピクッと反応した。

非常に胸につかえていたが、それが何かはわからなかった。










二人が動けず、10分位は経っただろうか、

玲菜はヒソヒソとつぶやく様、また喋り始めた。




「私、吸ったの、あのタバコ・・・。

 あれって、窒息死するって本当だと思う・・・?」



密閉された部屋で、ム〜ンと暑くなり始め、

秋芳は手に持っていたタオルで、自分の顔の汗を拭きぬぐった。

そして玲菜に、新しいタオルを取りに行った。



膝を抱える彼女の手に掛ける様、タオルをソッと置き、

秋芳は、何に対してかわからないが、悔しそうに呟いた。

「わからない・・・。

 けど、僕も、吸った・・・。」





玲菜は、また強く震えながら号泣し始めた。

「私のせいだわっ!!!」





さっきから妙に気に、

何かに気になっていた。

胸に引っ掛かっていたもの・・・。

それだ、玲菜が先っきつぶやいた言葉だ!!!



”私のせいだわっ!!!”




もしかしてこれは、殺したのと同じになるのでは・・・!?

という事は、

一人が一人を殺す必要なんてないんじゃないのか?

集団で一人を殺すのでも、同じ事じゃないのか?








仲間だ・・・、

仲間が必要だ・・・。

秋芳は、テーブルの上の携帯を取りに行った。

もう、タバコの殺人効力を疑いさえしなくなっていた・・・。






仲間と言っても、親友と呼べる者はいなく、

押しアイドルのサイトで知った、比較的近場の仲間。

もちろん会った事はない。

そのサイトにいきさつを、こう書き込んだ。



「一人が一人を、殺さなくてもいいのかもしれない。

 何人かで一人を殺しても、アリなのではないかと思える。

 直接手を下さず、見殺しという手もアリかもしれない。

 賛同してくれる者へ、

 今夜0時に、都営五月町公園の噴水広場で待つ。」



もちろん、何人来てくれるかはわからない。

これが最善の策だと信じるしかなかった。

そして秋芳は、希望ありげに玲菜にこう告げた。



「もしかしたら玲菜さんは助かるかもしれない。

 それを証明する為に、ちょっと行ってくる。」



と告げ、包丁を手に取り外へ出た。





0時までには、まだ2時間程あり、

公園までは、30分も歩けば着く距離であったが、

足音を立てず、十分過ぎる周囲への配慮を考えると、

その位の時間は、必要だと思えた。

何より、玲菜の崩れ落ち込む姿に耐えられなかった。




夜道は街灯だけがついており、

家の電気は、どこの家も消していた。

ひんやりと感じる程、静まり返っていた。




予定通り、0時5分程前に公園に着いた。

噴水広場は、公園の入口から1分程の所にあるのだが、

そこまでは、両脇が高い木で生い茂っていて、

誰か隠れて、襲ってくるのではと考えると、

とても入って行ける雰囲気ではなかった。



秋芳は、耳に全神経を集中させ、

爪が手の平に突き刺さる程、包丁を右手で強く握りしめ、

静かに走り出した。



目の前に噴水広場が見えていたが、途方もなく遠く感じた。

足音が立たぬ様、つま先で走りきった。

ハァッハァッと、自分の呼吸がひどく大きく聞こえた。





噴水は止まっていて、排水溝の周りのゴミがガサガサと音を立てた。


その場には、誰もいなかった。

携帯を取り出し、時間を確認すると、

既に0時を少し超えていた。


秋芳はしばらく待つ事にしようとしたが、

ここでは目立ち過ぎる為、木の裏へ行こうとした時だった。


ゴシャゴシャっと木と葉がこすれ合う音がし、

片手にバットを持った、帽子を被った体格のいい男が出て来た。

それを合図とするかの様に、周りから数人が現れた。


殺されるかどうかもわからない状況に、

腰の力が抜け、そのまま後ろ向きで退きたかったが、

たじろぎながらも秋芳が目で確認すると、4人いた。




最初に出て来た体格のよい男が、話を切り出した。


「おまえが書き込んだヤツか?」


秋芳に向かって男が聞いた。

秋芳は言葉が出ず、コクンとうなずいた。

男は続けて話し始めた。


「ドイツをどうやって殺るんだ?ここにいるコイツ等の誰かか?」


秋芳達周りの4人は、一斉に構えた。

男はバットを肩に乗せ、話し続けた。



「アッハッハ、冗談だろうが、

 なんか後味のいい方法があんだろ?」



秋芳は話し始めた。



「ココに来るまでは、僕一人で人を殺すなんて出来ないから、

 返り討ちに合うかもしれないと思ってたから、

 後味も分担されるから、

 何人かで1人を殺す策の為に、

 こうやって仲間を募った。

 でも、途中でもっと良い考えが浮かんだんだ。」



秋芳は、玲菜が見殺しにしてしまった事を話した。

すると、今まで黙っていたYシャツを着た、細見の男がつぶやいた。


「なる程、誰かが殺されるのを助けなければ見殺しになる。

 それも殺すという行為に入ると言う訳か。」





体格のよい男は提案する。


「これからは5人で警戒しながら行動する。

 殺し合ってるヤツ等を見つけ出し、周りを囲む、

 助けを求めさせ、見殺しにする。

 一人で行動するより安全だろう。」

 ミゴロシ サイコー!



体格の良い男は、唾を吐く様に言い捨てた。

 

その時だった、



Yシャツを着た細見の男が、突然過呼吸状態になり、

膝を地面に打ち付ける様、崩れ落ちた。

突然の事に、皆は驚き一歩退いたが、

秋芳が助けようと近づくと、

後ろにいた男が秋芳を、後ろから押さえつけた。

突然の事に秋芳は現状を呑み込めず、

殺されるという危機感が、頭の中で爆増した。



その時、隣にいた体格の良い男が、Yシャツの男に近寄り、



「おい、落ち着け、息を整え・・うっ・・・!」



「フーッッ、ごめん・・・、

 僕には時間が・・・、フゥゥゥーッ、」



Yシャツの男の右手には、ナイフが握られており、

体格の良い男からは、流血が止まらなかった。


体格の良い男は、何も声にして漏らす事もなく、

額から崩れ落ち、ヴェゴッっと鈍い音をたてた。

薄暗い視界でも、はっきりとわかる位、

男は血だまりに、ズルズルと沈んでいった。




「ヒィッッ・・・、ヒィィィッッッ・・・、

 殺し・・・たの・・・に・・・、

 ィィィィ・・・・ィッ・・・・」

Yシャツの男は、そう言葉を残したまま、硬直した。





その光景に、あまりの恐怖感が残りの3人に振り降ろされ、

後ろに立っていた男が全力で逃げ出し、

奥で茫然として見ていた男も、尻込みする様逃げ、

秋芳も、その場からたまらず逃げ出した。



がむしゃらと、家へと走った。

何も考えられなかった・・・。



マンションの部屋の鍵を、ガリガリとうまく刺せない程、

秋芳の視界と眼球の奥は、恐怖で包まれていた。

玲菜がいる部屋に入る前に、落ち着きを取り戻す為、

玄関で意識が薄くなりかける程、深く深く、深呼吸をした。



その時、納得出来ない事を思い出した。

なぜ、Yシャツの男は死んだのか?

過呼吸の時点で、手遅れなのか?

それとも、死亡を確認していなかったからなのか?



秋芳は、もう呪いの次元でとらえていた。



手紙には・・・・!?



何かを思い出したかの様、

あわててゴミ箱から手紙を引きずり出した。



「個人差ハアルガ、7日以内ニ人ヲ殺サナイト、

 貴方ガモダエ死ヌ。」








7日以内ニ人ヲ殺サナイト!?






7日以内、2人を・・・?







ヒイィッッ・・・





部屋の奥で聞こえる、苦しめられる吐息。

秋芳は飛び走る。

奥の部屋の隅で、玲菜が首を掻きむしっていた。


「玲菜さんっ!タバコを吸ったのはいつっ!?」

「ヒッ・・・、お、おとと・い・・・ィッ。」



秋芳は、ハッキリと認識した。


やはり2人なんだ・・・。

2人殺さなくてはいけないんだ・・・。

この手紙は、文字のタイプミスなんだ!!!



もう時間がないのが、ハッキリとわかった。

秋芳は玲菜を担ぎ上げ、エレベーターに乗り込み、

屋上へと向かった。



屋上に着いた秋芳は、無理矢理に玲菜をフェンスによりかからせ、

自分はフェンスの向こうに立った。



「玲菜さん、押すんだ!!!

 早く俺を押すんだっ!!!!!」






秋芳と玲菜が出会ったこのマンションは、

実は偶然の出会いではなく、

毎朝仕事帰りに、コンビニで立ち読みをしていた秋芳が、

仕事帰りの玲菜に一目ぼれをし、

ストーキングして入居したのが、キッカケだった。


秋芳は、もう十分だった。

毎朝でなくとも、たまに酔った玲菜と話が出来た、

それだけで、満足だった。

またそれ以上に、玲菜だけは死なせたくなかった。

どんな事をしても・・・。

どうしても・・・。




屋上のフェンス越しで、秋芳は苦しむ玲菜の両手を取り、

その両手を自分の胸に押し付けた。

苦しむ玲菜の暴れる手は、秋芳を突き落とすには十分だった。



頭から真っ直ぐと落ちて行く秋芳は、

初めて玲菜に触れたぬくもりが胸に残っていて、

うれしそうに微笑んでいた。


後悔のない死に、走馬灯は見えなかった。

ただ、屋上の玲菜だけが心配で、

「玲菜さん・・・」

と嘆き堕ちた・・・。










グワシャグワシャグワシャ










秋芳は、予想出来外の乾いた音に包まれた。

辺りは真っ暗な夜で、下を見ている余裕等なかった秋芳は、

マンションの植え込みに突っ込んでいた。

その直後、













ゴシャッ!!!












窒息の苦しみに耐えれなかったのか、

心の苦しみに耐えれなかったのか

目の前の歩道に、玲菜が堕ちて潰れた。



その耳の奥にねばりつく鈍い音に、

秋芳は動けなかった。

落下の衝撃うんぬんより、

玲菜を救えなかったという、広がって行く放心感に、

喉の奥からおえつ声が出た。


そのまま意識が遠のいた・・・。












ザッザッザスッ。




気を失っていた秋芳は、その足音で目覚めた。

そこには、外国人と思われる男2人が、

聞きなれない言葉をボソボソと唱えながら、

歩道で死んでいる玲菜の前に立った。


そのうちの一人の、灰色のコートを着た男に見覚えがあった。

昨日の朝、マンションのエレベーターですれ違った男だった。




もう一人の男が、ナタの様な重量感のある包丁を取り出し、

玲菜の首を切断した。

そして切断された首に指を突っ込み、

手慣れた手つきで、喉仏を取り出した。



切れ薄れていく意識の中、秋芳はかすかに思い出した。

恐怖や、硬直で押し潰された喉仏は、

「奇跡の薬」と言われると・・・・。





男の持つ玲菜の喉仏は、大きく、いびつに膨れ上がっていた。

するとあのタバコは、喉仏を膨張させる為の毒薬・・・。

膨張した喉仏に、気管が押し潰されて窒息する。

じゃぁ、人を殺した位じゃ治らないんじゃ・・・?




灰色のコートの男は、玲菜の大きな喉仏を、

ポケットから出した小ビンに、カロンッと入れると、

秋芳の方に、ブツブツと唱えながら近寄って来た。



秋芳は、落下の衝撃で声も出せない状態だった。

男が、仰向けで動けない秋芳の喉元を指でさすり、

大きさを確認したかの様、

ナタ包丁を持っている、もう一人の男を呼んだ。


玲菜を失った秋芳は、抵抗する気力もなかった・・・。



もはや思い残す事もなく、秋芳は目を閉じた。

灰色のコートの男は、喉元をさすっていた指をどけると、


コングラチレション・・


と呟き、足早に去って行った。




秋芳は、プルプル震える指で、そっと喉仏を触ってみた。

特に腫れてもいない、違和感のない骨の突起だった。

安心より絶、望の気持ちを抱えながら、また気を失った・・・。










冷たい感覚が頬に伝わり、目覚めると点滴が垂れ下がっていた。

体を見てみると、5階の屋上から堕ちたにもかかわらず、

特に大きなケガはなさそうに見えた。



ココはどこの病院で、今は何日の、何時なのか?

ゆっくり起き上がると、小さなテーブルの上に、

秋芳が身に着けていた物が、たたまれ置かれてあった。

その中に、見慣れない赤い携帯があった。

その携帯には、ストラップが沢山付いており、

その1つのキャラクターにハッとした。

玲菜のだった・・・。



静かに手に取り、ゆっくりと電源を入れてみると、

待ち受け画面には、

朝方、酔っぱらって帰ってきた玲菜と、

エレベーターホールで撮った、秋芳と玲菜が映っていた。

嗚咽を上げながら、震え泣いた。






事態ごどうなっているのか気になり、

泣きながらワンセグを付けてみた。


一連の事件は終息状態にあり、

原因は調査中、

街には自衛官が巡回しており、

外出はなるべく控える様に、報道されている。


JTはタバコの販売を自粛し、

救急車には、自動小銃を持った自衛官が乗車し、

病院等の施設は、厳重なチェック体制がひかれていた。




コンコン




病室のドアが開き、一人の男が入って来た。






「やぁ、公園でも会ったね・・・。」






あの時、一緒に公園に集まったという男は話を続けた。



「あの時の君の発想には、正直驚いたよ。

 見殺しにする事で、殺人と同じになるなんて、

 正直、誰も思いつかなかったよ。

 あの時、公園に呼んでくれた玲菜に感謝だね。」



秋芳は、玲菜の名にひどく動揺し、放心状態のまま固まった。



その男の唇は、少し震えながら言った。



「元々タバコはね、呪詛の一端から始まったと言われているんだ。

 ニコチン、一酸化炭素、シアン化水素を含み、

 元々は、呪い殺す為の道具。

 それにちょっとした化学変化をつけて、

 今世紀最大の呪いの道具にしたって訳。

 でも、人を殺すと呪いが解けるってのは本当。

 大昔からの呪いって訳わからない一部があってさ、

 正直、今でも原因がわからないんだ。

 そして、君は呪いが解けた。

 だから、君をこの教団施設に連れて来た。

 原因を知るサンプルとして、君には感謝するよ。

 でも、僕が君を呪う気持ちに変化はないよ。

 

 君が現れなければ、玲菜は死なずにすんだんだっ!!!



 貴様が玲菜の心を変えたんだっ!!!」





と言い放ち、秋芳の持っていた玲菜の携帯を奪い取ると、

鉄製のベッドの端で打ち砕き、怒りのまま部屋を出て行った。

ドアが深く鈍い音をたて、グチャリと閉まった。

秋芳は何が何だか呑み込めず、男を追いドアから出ようとしたが、

ロックがかかっていて、出ることは出来なかった。



「何故俺だけが助かった・・・?

 玲奈さんと俺に関係なんて・・・。」



秋芳はドアの前で額を打ち、座り込んだ。

窓にかかる鉄格子は、静かに降る雨に浸かっていた。






点滴の袋がしぼみかけた頃、

ドアの目線付近に付いている、小窓がカラカラと開いた。


そこから覗き込んできたその顔は、

まぎれもなく、

あの夜の灰色のコートの男だった。

秋芳は、一瞬にして怒りが抑えられなくなり、

点滴の針を握り抜き、床に投げ捨て、

男が覗くドアへ、肩から突っ込んで行った。






ドゴオォォォォ


お前等は一体何なんだぁぁぁっ・・・!!!







その音と声は、部屋と廊下に響き渡った。

灰色コートの男は、秋芳をなだめる様喋りだした。



「俺は、玲奈の監視役だった・・・、

 それは、玲菜とも合意の上での役だった。

 君は、自分から玲菜と同じマンションに入ったと思っているだろうが、

 実際は俺が元教団の部屋を、君に格安で紹介した。

 もちろん監視カメラ付きでな。

 玲奈の希望でな、君で実験したかったらしい。

 君が朝、仕事から帰って来るのを車の中で待ち、

 水商売帰りのフリをして、君に近づく。

 そして飼いならす。

 全ては順調だったハズだったが、
 
 ある日から玲奈の何かが変わっていった。

 まるで人格が変わったみたいに、

 いや、人間そのものが変わったかの様に。

 そして、あのタバコを吸ったのに、君は生きている。

 玲奈が、君だけの呪いを解いたとしか思えない。

 玲奈の人格が変わり、君の呪いは解ける。

 最後まで解らなかったが・・・。

 もうすぐ、中国からの旅行者のフリをして入国して来た、

 大量の教団本隊が、この場所を嗅ぎつけるだろう。

 ここで、過激派の俺達は殺される。

 その前に知りたいんだ、

 何故、君は生きている?

 玲奈は、どうなってしま・・ッ・。」

 
灰色のコートの男は、ドアに顔をこすり付けながら、

その場に、ゆっくりと崩れ落ちた。

ドアの向こうでは、聞きなれない中国語が飛び交っていた。

俺は助かったのだろうか?

それとも、ここで一緒に殺されるのだろうか・・・?






秋芳は、ふと言い伝えを思い出した。











呪いを解くには、人柱が有効だと・・・。








生け贄・・・。



人身御供・・・・。
 








生け贄として殺される。


人身御供となり、身を捧げる・・・・。





玲奈さんは、それを証明したかったのかも・・・。





  
その為に、

その為だけに、玲菜さんは人格を変えた・・・・。




秋芳は、複雑な気持ちにもたれかかった。