芥 子 の 花 の 開 く 音  http://www.k2.dioin.ne.jp/~raindogs
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1、微かな足跡


 空も辺りの空気も緊張しているのがわかった。待っても待っても来ないのに、匂いは微かに届いていたから、すぐ近くでは降り始めていたのだろう。
 通りのさざんかが何故咲いていないのか、今日になりやっと気付いた。枝を落とされ整えられた樹木が花を咲かせるわけがない。もしかしたら待っていても此処にはまた届かないのかもしれない。夕刻になっても鼠色の空は黙ったままだった。


 それからどのくらい経ったろう。初めは雨だった。ばしゃばしゃと辺りを叩くような音を、カーテンを閉めた部屋で耳に拾った。暫く続いた其の音が静かになり硝子戸の向こうを覗いてみたけれど、雨が小降りになっていただけだった。
 テレビをつけると、そこには東京の街に白いものがはらはらと舞っている様子が映っていた。電車を十五分も乗れば、きっとそこでも舞っているのだろう。そんなにも此処だけいつも残される。


 待ち草臥れ火燵に潜り横になるうちあたしは眠ってしまったらしい。外はどうなったのだろうと起き上がり、玄関の扉を開くと隣の庭の樹木たちの頭が白くなっていた。びちゃびちゃと耳に入る音を煩わしく感じながらあたしは、雪だ・・・、と想った。
 一向に積もる気配の無い雪は、それでもあたしの眠っている間にゆっくりと草木に重なっていったらしい。夜明け前に降り止んでいた雪は、草木のところどころにうっすらと足跡を残していった。
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