休日…西郷家では、家族総出で押入れの整理の真っ最中。 さやか「あれ?何やろ、これ…」 静香「十手(じって)やな…さやかも、うちも知らへん物は大概…」 そう言いながら静香は、今日は仕事から帰ってきていた涼吾を見つめた。 涼吾「おっ、昔わいが京都で買(こ)うたやつやん…そこにあったんか〜」 そして、涼吾は優しい眼差しを、さやかに向けつつ十手を手渡した。 涼吾「何かのお守りになるかもしれへん…さやか、お前にやるわ」『2級試験…乱舞!さやかの十手』 今日も遠近学園の屋上で、休み時間恒例の井戸端会議である。 まさみ「さて、あたしだけ飛び級合格出来ずに、置いてけぼりだね」 さやか「ほんまやな〜」 前回の試験で、さやかは飛び級で2級に合格したが、まさみは3級合格に留(とど)まっていた。 この差を埋める手立ては無いものか…というのが今日の話題である。 さやか「このままやったら、うちが先に1級合格してまうな〜」 まさみ「あたしにとっちゃ、それは不都合でもあるし、何より少しだけ腹が立つ…」 これには、さやかも少々焦った。 さやか「ああっ、まさちゃん、怒らんといてぇ…」 おんぷ「ふふふ…」 口元に笑みを含んだおんぷに、さやかが顔を赤らめた。 さやか「おんぷちゃんまで…もうっ!笑わんといて!」 まさみ「全く、いつでも余裕な顔してるんだから…」 おんぷ「だって、2人の話聞いてたら、面白いんだもん♪」 さやか・まさみ「もうっ!!」 おんぷ「さて…」 ここで、おんぷが一息置いてから、新たな話を切り出した。 おんぷ「実はね、もうすぐ魔女の隠し芸大会ってのがあるのよ」 さやか・まさみ「…隠し芸?」 いきなり変な話題を振られて、さやか・まさみ共に首を傾げた。 さやか「それが、どないしたん?」 おんぷ「魔女界には娯楽があまり無いでしょ?だから年に一度、みんなが隠し芸を披露するのよ」 まさみ「だから、それがあたし達と何の関係があるの?」 おんぷ「前に話さなかった?どれみちゃん・はづきちゃん・あいちゃんの3人は、 この隠し芸大会で優勝した事がある…って」 さやか・まさみ「ああっ!!そう言えば!」 おんぷ「思い出した?」 さやか「うんうん、思い出した!思い出した!」 まさみ「でもさ、それって年末恒例行事じゃなかった?」 流石まさみ、ご尤もな質問である。 おんぷ「去年のが、ずれ込んじゃったのよ。去年は色々あったから… ほら、先々代の女王様の悲しみが広がっちゃって…」 さやか「あ、そないな話もあったな…美空とか関東の方では大変やったらしいな〜」 まさみ「ニュースでは『寝たら目が覚めない症候群』とか言ってたね…」 さやか「うちは、そん時は大阪におったさかいな…」 まさみ「幸か不幸か、あたしも札幌にいたから巻き込まれなかったけど…」 さやか「まさちゃんやったら、北海道におっても、何か感じ取っとったんやないか?」 まさみ「まあね…南から強い魔力が感じられて、何か不吉な事が起きてる気がしてた…」 おんぷ「そう…(でも、2人が巻き込まれなかったのは、それはそれで良かったのかも…)」 魔法の使い方については筋の良いさやかと、魔力を感じ取れるまさみ… 昨年、先々代の女王様の悲しみが人間界にまで及んだ時、2人が既におジャ魔女だったなら… かなりの戦力となり、問題解決への突破口ともなった事であろう…おんぷはそう思った。 そして、まさみが「幸か不幸か」と言ったのも、それを踏まえての事だった。 さやか「…何や、しんみりしてもうたな。話、戻そか」 おんぷ「そうね…あ、大事な事を忘れてたわ。 この隠し芸大会は、優勝したら女王様が願い事を1つ叶えてくれるの。 どれみちゃん達の場合、1人だけ3級試験に落ちてたどれみちゃんを、 2級まで飛び級させてもらったんだって」 さやか「おお〜!」 まさみ「つまり…」 さやか「まさちゃんを2級合格にしてもらうんも、ええっちゅう事(こっ)ちゃな!」 おんぷ「大当たり♪」 さやか「おっしゃあ!そうと決まれば、取っときの隠し芸で優勝あるのみや〜!」 張り切るさやかに、まさみは冷静に尋ねた。 まさみ「…で、その取って置きの隠し芸ってのは?」 さやか「へ?まさちゃん、何か芸無いん?」 まさみ「そう言う、さやちゃんこそ…」 どうやらさやかは、まさみが何か芸を持っていると決め込んでいたらしい。 それが見事に裏目に出て、その場は一気に白けた。 おんぷ「何よ、それ…」 これには、流石のおんぷも呆れる他になかった… その日の帰り道。仕事があるため、先におんぷが別れる。 おんぷ「じゃ2人共、ちゃんと隠し芸考えておいてね」 さやか・まさみ「は〜い」 おんぷの母・美穂の運転するワゴンに乗って、おんぷは窓から手を振った。 走り去っていく紫の車体を見送って、さやか・まさみは並んで歩き始めた。 さやか「…で、どないすんの?」 まさみ「どうするって言われてもね…」 さやか・まさみ「う〜ん…」 悩ましげな表情で腕を組んで、2人は商店街の中を歩いていく。 すると、電器屋の店頭にあるテレビが、時代劇を映し出していた。 これには、時代劇通のまさみが目を輝かせた。 まさみ「あっ、銭形平次親分だ♪」 さやか「おいおい、まさちゃん…ん?」 呆れていたさやかだったが、その画面を見て何やら考えていた。 場面は終盤、悪党相手に平次親分は十手を駆使して、次々に叩きのめしていく。 興奮するまさみをよそ目に、さやかは真剣な表情であった。そして… さやか「…これやっ!」 まさみ「え?」 さやか「これ!これならいけんで!隠し芸!」 まさみ「はぁ?」 さやか「まさちゃんは元々剣道出来るんやし、 うちが十手練習したら、うちら2人でチャンバラ出来んで!」 まさみ「ああ、そういう事ね…でも、さやちゃんが十手?」 さやか「せやから、練習する言うてるやろ? 都合のええ事にな、うちの押入れから十手が見つかってんねん。 お父ちゃんに聞いたらな、だいぶ昔に京都の骨董屋から、 ふざけた上に、値切りに値切り倒して買うてきたやつらしいで。 しかも、お守り代わりに持ってろ言うて、うちにくれてん。 それやったら、うちら2人でチャンバラ出来るやろ?」 まさみ「ふうん…ま、実物見せてもらって、それが使えるかどうかで決めよっか」 善は急げ、という訳でやってきた西郷家。 静香「まさちゃん、これなんやけど…どない?」 まさみ「拝見します」 静香から差し出されて受け取った、少々傷物の十手を、まさみはまじまじと見ている。 さやか「それ、元々傷付いとったし、チャンバラやったかて特に問題ないやろ… ま、お父ちゃんには申し訳無いけどな」 十手の柄に付いた房は紫色…まさみは、ここにも目をつけた。 まさみ「ふうん…紫房か…」 さやか「紫やと何なん?」 まさみ「十手の房は、持ち主の身分を示すんだよ。 役職で言えば、朱色が同心で、紫は与力。与力の方が偉くて権力もある。 そして飛鳥時代に聖徳太子が定めた冠位十二階でも、一番上の冠は紫。 つまり紫は、昔から徳の高い色なんだね」 こういった知識なら、まさみの頭の引出しには大量に納められている。 これには、さやか・静香親子は感嘆した。 静香「はぁ〜…うちの人、そんなん考えんで買ってきたと思うけどな…」 さやか「同感や…」 そして、さやかは心の中で、こんな事も考えていた。 さやか「(ほな、おんぷちゃんも偉いんかな…魔女見習い服、紫やん)」 しかし、まさみに言ったとて「それとこれとは筋違い」とでも言い返されるのが関の山である。 なので、さやかはこの事を胸の中にしまっておいた。 まさみ「まあ、これでいけるんじゃない?あたしは家にある刃引きのしてある刀があるから」 静香「さやか、気ぃ付けぇや。隠し芸や何や知らへんけど、チャンバラやなんて… まあ、さやからしいけどな…にしても、その性格、誰に似たんやろな〜…」 …とは言うものの、父親譲りである事は百も承知だ。 さやか「おっしゃ!これで決まりやな」 まさみ「さやちゃん、あたしが鍛えてあげるから覚悟してよ」 さやか「どんと来いや!」 踏ん反り返りながら、さやかは拳でポンと胸を叩いた。 そんな娘を、静香はふざけて突き放すような事を言う。 静香「まさちゃん、さやかに遠慮せぇへんでええから、ビシバシ鍛えたってや」 すると今度は、まさみの方が胸を張って、そこに拳を当てた。 まさみ「お任せ下さい!」 今度は酒井家。畳敷きのまさみの部屋に、さやかがチョコンと座りながら、十手を弄くっている。 しかし目線は、天井に届きそうなくらいにそびえ立つ本棚の方に泳がせていた。 さやか「うっひゃ〜…歴史物の本に、時代劇のビデオ… 本棚だけで、部屋の半分くらいになるんやないか?」 まさみ「かもね…でも、お爺ちゃんの書斎に比べたら、まだまだだよ」 棚からビデオを選りすぐりながら、まさみは背中を向けつつ答えた。 さやか「ほえぇ…」 まさみ「さてと…これくらいでいいかな?」 振り返ったまさみは、抱えていた多量のビデオをさやかの目の前にドサドサっと積み上げた。 さやか「はぁ!?十手の使い方分かる時代劇って、こない仰山あるん?」 まさみ「これでも候補、減らした方なんだよ…さて、どれから観る?」 さやか「ほな、さっき電器屋さんでやってたやつ」 まさみ「銭形平次親分?長続きしたシリーズだから結構、巻数あるよ?」 さやか「う〜ん…ほな、まさちゃんのお薦めでええわ」 まさみ「そんな、人任せな…」 お気楽なさやかに、まさみは呆れて溜め息を吐いた… さやか「それはそうと、流石お武家さんと言った所やな〜」 そう言って、さやかが指差した所は、なぜか酒井家では子供部屋にも存在する床の間。 掛け軸が掛かり、鹿の角を使った立派な刀架けに、大刀と脇差が揃っている。 まさみ「ふふっ…実は、ちょっとだけ自慢だったりするんだ」 さやか「しかも、これ…ほんまもんの鹿の角やん…どないしたん?これ…」 刀架けの、鹿の角の手触りを確かめながら、さやかは尋ねた。 まさみ「ほら、あたしの地元、北海道でしょ?ちょっと山に入れば鹿なら、いくらでもいるよ」 さやか「そりゃそやけど…鹿って勝手に捕ったら、あかんのと違(ちゃ)うの?」 まさみ「別に鹿を捕まえなくても、角は手に入るよ。 鹿の角は毎年生え変わるし、雄同士の戦いで折れる事もある。 農作物目当てに人里に下りてきて、置き土産代わりに角を落としてく事も、 北海道の、特に十勝とかの畑作地帯では、よくある事だよ。 そんなのを貰ってきて、うちではこうして刀架けにしてるって訳」 さやか「ほえぇ…そんでもって、まさちゃんの使う刀って、もしかしてあれなん?」 まさみ「うん、大刀…長い方ね」 さやか「まさか…喰ろたら死ぬんちゃうやろな…?」 まさみ「そんな大げさな…」 そう言いつつ、まさみは刀架けに手を伸ばして大刀を手にした。 まさみ「ほら、見てみなよ」 左手で腰元に刀の鞘を持って右手で柄(つか)を握り、 間合いを確かめた上で、まさみはシャッと刀を抜いた。 さやか「ひっ…」 刃渡りおよそ70pといった所だろうか。切っ先が光り、刃文が浮かび上がる。 まさみ「見た目は、それなりだけど…」 …と言いながら、まさみは左二の腕を突き出して、その上に刀を滑らせた。 例えるなら、蝦蟇の油売り。さやかに腕を見せてみるが、特に切り傷などは付いていない。 さやか「ほえ?…どういうこっちゃ?」 まさみ「これ、刃引きのしてある模擬刀なんだ。 これくらいの品なら、京都の土産屋でも売ってるよ」 実際に京都の土産物屋では、この手の模擬刀や木刀が、 主に修学旅行生や外国人観光客に、よく売れるのだそうだ。 尤も、修学旅行生の場合は購入した後で、教師に大目玉を喰らうという事も多々あるようだが。 なぜなら、帰路で飛行機に乗る場合、危険物という事で機内持ち込みが禁じられ、 結局、宅急便に頼まなければならないからだ。 さやか「ほ〜…ま、うちのお父ちゃんも、京都でこの十手、買うてきたっちゅうてたからな…」 まさみ「…って訳だから、別に喰らっても死ぬ心配はなし。 まあ、打撲くらいにはなるかもしれないけど」 さやか「おいおい…せやけどこれ、ちゃんと先っぽ尖っとるやん…刺したら確実に死ぬやろ…」 まさみ「ああ、大丈夫。今回は、突き技は封印するから」 刀を鞘に収めながら言うまさみを、少々疑うような目で見つめるさやか。 さやか「ほんまに大丈夫かいな?まさちゃんの得意技、咽突きやなかったっけ? つい癖で、うちの咽、突いたりとかせぇへん?」 まさみ「確かに必殺技ではあるけど…大丈夫だって、手加減するから。 あたしを信じて。ね、お願い」 手を合わせて懇願するまさみを、さやかは横目で見ながらニヤリと笑う。 さやか「…ま、信じさせてもらいまひょ」 まさみ「全く、生意気なんだから…」 少し怒っているような口振りだったが、さやかの笑顔に釣られて、まさみも自然と 笑っていた… カン、キン、カン、コン… ある程度時代劇のビデオを見た後で、庭に出た2人。 さやかの十手と、まさみの刀とがぶつかり合う音が響く。 しかし、まだまだ鍛冶屋が槌を叩くようなスローペースで、チャンバラと呼べるものではない。 さやか「ていっ、やあっ、とうっ…」 時代劇を観て真似たお陰で、それなりに十手の扱いは慣れてきたようだ。 さやかは十手を何とか捌いて、まさみの振り下ろす刀を受け止める。 まさみ「だいぶ上手く受けられるようになったね。 でも、次の太刀筋に反応するのが、まだ遅いかな?」 さやか「ほな、どないすんねんな〜…」 そこにやって来たのは、今日は特に急ぎの仕事がない、祖父の洞爺。 洞爺「いや、太刀筋は読めておるが、受ける方だけで手一杯と見えるのぉ」 まさみ「お爺ちゃん…」 さやか「確かに、受け止めるんで精一杯かも…」 洞爺「笠間杜夫あたりの殺陣かな…見様見真似で覚えたようじゃが、まだまだじゃな…」 まさみ「流石、お爺ちゃんだね。一目で見抜いちゃった」 さやか「おお〜…俳優さんの名前まで分かるとは…」 驚くさやかを、まさみがさらに驚かせる。 まさみ「杉遼太郎さんとか里美浩太郎さんくらいなら、あたしも太刀筋の癖は見分けれるよ」 さやか「マジかいな…」 洞爺「さて…わしには、さやちゃんの十手が、少々無理しておるように見えるがのぉ」 さやか「無理?」 洞爺「ああ…まさみの太刀筋が見えておって、それを受けるのは良い。 じゃが、受け方に問題があるのぉ…」 そう言いながら、洞爺は下駄に履き替えて縁側から庭に出た。 洞爺「貸してみなさい」 さやかの手から十手を貰い受けると、洞爺はまさみに十手を向けた。 洞爺「まさみ、何度か斬り付けてみなさい」 さやか「ほえ!?」 まさみ「分かった」 刀を構え直してから、まさみは洞爺に刀を振り下ろした。 それも、さやかを相手にしていた時よりも速く。 キン、カキン、キン、キン、カキン… まさみの刀が連続で洞爺を襲うが、洞爺は十手で全てを上手く防いでいる。 いや、かわしていると言った方が良いだろう。 洞爺の機敏さからは、年齢が全く感じられない。とても孫を持つ者とは思えない動きだ。 さやか「ほえぇ…」 洞爺「よし、もう良い」 その声を拾って、まさみは刀を止めた。 まさみは少し息が上がっているが、洞爺は汗すらかいていないように見える。 洞爺「さやちゃん、見たかのぉ?わしは受けるのではなく、受け流してみたんじゃ」 さやか「受け流す…」 洞爺「そうじゃ。相手の力を受け止めるのでは、負担がかかりすぎる。 無理せずに、受け流すんじゃ。さすれば、無駄な動きもせずに済む。 見てみなさい。まさみは肩で息をしておるが、わしはどうかな?」 さやか「ほぉ…なるほど…」 十手をさやかの手に戻して、洞爺は再び縁側に上がった。 洞爺「ふっ、年甲斐も無い事をしたのぉ…」 口元に笑みを浮かべつつ、洞爺は書斎へと戻っていった。 さやか「お爺ちゃん、おおきに!」 その声を背中に聞きつつ、洞爺は軽く手を振っていた。 まさみ「素直じゃないんだから…頑張れの一言ぐらい、言っても罰(ばち)当たらないのに…」 さやか「まさちゃん、人の事言えた義理かいな?」 まさみ「何さ、それ!」 さやか「あっ!堪忍、堪忍…さ、練習再開や!」 さやか・まさみの、チャンバラの練習に励む日々が続く。 当然ながら、学校でも暇を見つけては十手と刀を振り回している。 授業の終わりを知らせるチャイムがなった途端に、さやか・まさみが飛び出していった。 鳩山「どっしぇ〜…酒井と西郷、早っ!」 田中「おっ、鳩山が豆鉄砲食らってやがる!」 三木「おいおい、鳩山は鳩じゃないだろ…」 男子達が勝手な事を言っている中、おんぷは机に頬杖をつきながら… おんぷ「(2人共、頑張ってるみたいね…ちょっと様子見てみようかしら)」 そして向かった所は、校舎の裏…さやかが十手を手に、瞳を閉じている。 おんぷ「さやちゃん…あら?まさちゃんは…?」 すると、上方から小石や木の枝がバラバラと落ちてくる。 おんぷ「!?」 さやかのいるのは、その落下点。しかし、さやかは全くもって動じない。 おんぷ「(危ない!)」 正(まさ)に、さやかの頭に小石が当たろうとした時、 さやかは目を見開き、十手を振るって、小石を突っ撥ねた。 それでも、まだ終わりではない。他の小石や木の枝が次々と降ってくる。 さやかは、それでも逃げる事無く、全ての落下物のコースを見極め、十手で払い除けた。 それも、ただ打ち返すのではなく、落下する方向を逸らせていたのだ。 おんぷ「(凄い…これが、さやちゃんの隠し芸…?)」 落ちてくる物はなくなった。しかし、さやかはまだ手に十手をしっかりと握りしめていた。 おんぷ「(まさか、まだ何かあるって言うの…?)」 そのまさかだった。今度は小石が上から高速で降ってきた。 そう、まるで誰かが投げ落としたかのように。 カンッ!と乾いた音か響き、小石は地面に転がった。 さやかは、既に十手と一心同体と化しているようだ。 そして、おんぷは今まで物が降ってきた方を見上げた。 すると屋上には、まさみの姿があった。 まさみ「さやちゃん、今の不意打ちの受け流し、上手かったよ」 さやか「そうか?他のと風切る音が違ったさかい、逆に分かりやすかったけどな」 まさみ「さやちゃん、耳いいみたいだしね」 さやか「まさちゃんが魔力感じ取れるんと一緒やな。 うち、魔女見習いになってから、感覚が色々と良うなったねん」 まさみ「へえ…」 さやか「元々、五感のどれも、それなりに良かったんやけど、 魔法使うようになってから、格段に良うなった気がすんねん」 まさみ「確かに、あたしも魔力を感じる力は伸びたって、おんぷちゃんに言われてる…」 さらに、さやかは突拍子もない事を言い出した。 さやか「それにうち、魔力が見えるようになったんちゃうかなって思う…」 まさみ「魔力が見える!?」 さやか「確かやないけど、おんぷちゃんやまさちゃんの胸元から、光が見えるっちゅうか… 普通にしとる時は何ともないねんけど、集中した時だけ… 確かやないし、まだ良う分かれへんねんけど…」 まさみ「ふうん…精神を集中すると、魔力の発信源が見えるって感じかな?」 さやか「せやから、まだ分かれへんねん…」 まさみ「ま、今度、機会があったらおんぷちゃんに聞いてみようよ」 さやか「せやな」 そんな2人を見つめながら、おんぷは考えていた。 おんぷ「(魔力が見える力か…やっぱり、さやちゃんも目覚め始めたのね…)」 どうやらおんぷは、さやかの感覚が特化していく事を以前から予想していたようだ。 おんぷ「(私は最初から何となく感じてた…2人は、何か伸びる種を持ってるって… その予想通り、まさちゃんは魔女見習いになった事で、 元々持っていた第六感…魔力を感じ取る力を発達させたわ。 そして、さやちゃんの場合、感覚が色々と良くなったみたいね… 特に視力は魔力を見極めるまでになって…これからが楽しみね)」 おんぷは、かつて天才魔女見習いとも呼ばれたほどの人材。 そんな天才には、自分と同じ天才となる人材が分かるのかもしれない。 これは、ある意味でおんぷの一番強力な力とも言えるであろう。 そして、ついにやって来た魔女の隠し芸大会。 会場には、魔女達が所狭しとひしめいている。しかも全員、既に酒が入っている。 さやか「酒臭っ!」 まさみ「よくもまあ、飲んだくればっかり集まったもんだね…」 おんぷ「魔女界って、娯楽が少ないから…」 そして、さやかは必死に鼻を抑えながら涙目になっている。 さやか「うち、鼻も利く方やさかい、めちゃしんどい…」 まさみ「こればっかりは我慢してもらうしかないね…」 おんぷ「ほらほら、頑張って。まさちゃんの合格が懸かってるんでしょ?」 さやか「あ、せやった!」 まさみ「さてと、さやちゃんの気合いが入った所で、ステージ裏で仕度しよっか!」 おんぷ「2人共、ファイト!」 さやか・まさみ「うん!!」 司会魔女「次は、おジャ魔女2人組みの隠し芸です!」 会場全体に響き渡る、司会を務める魔女の声。 ステージ上には、十手を持ったさやかと、刀を腰に差したまさみ。 荒く激しい動きになるのは分かりきっているので、あらかじめ両人とも帽子は脱いでいる。 そして、まさみは細い鉢巻きのような布で目隠しをしている。 観衆が固唾を飲んで見守る中、まさみがゆっくりと腰の刀に手をかける。 おんぷ「(始まるわ…)」 次の瞬間、まさみの一太刀…つまり最初の斬り付けが、シュッと空を切った。 いきなりの抜きざまに斬り付ける、居合い抜きだ。 まさみは目隠しして見えていないはずなのに、さやかに的確に斬りかかった。 さやかも、しっかり間合いを取ったまま後ろに跳んで下がった。 そうこうしている内に、まさみの刀が間髪入れずに斬り付けてくる。 しかし、さやかは十手を駆使して、一撃一撃を上手く受け流していく。 おんぷ「(2人共、凄いわね…)」 さやかのツインテールが、まさみのセミロングが舞い踊る。 観衆は、目の前で繰り広げられる、とんでもない光景にざわめき始める。 そんな中、さやか・まさみの心中はと言うと… さやか「(酒臭いんも、オバハン連中が騒がしいんも、関係あらへん。 まさちゃんの太刀筋だけ…見極める!)」 まさみ「(魔女がいっぱいで、感じられる魔力もいっぱい。 しかも生まれながらの魔女だから、揃いも揃って強い魔力… でも、さやちゃんの魔力の位置だけを、寸分たりとも狂わせずに感じ取らなきゃ!)」 まさみは、さやかの魔力をp、いやo単位で感じ取って、さやかの動きを把握していた。 一方さやかは動体視力の良さで、まさみの太刀筋を見極めギリギリの所でかわして、 そして次は、どこから太刀筋が襲ってくるかを予想する。 さやか「(太刀筋が流れた…まさちゃんは、こっちから来る!)」 まさみ「(さやちゃんの魔力…よし、この立ち位置か!)」 間合いの加減はバッチリ、あとは互いの信頼関係がものを言う。 さやか「(まさちゃんやったら絶対…)」 次の太刀筋を予想し、十手を構える。 まさみ「(さやちゃんなら、きっと…)」 こちらも十手の構えを考え、右肩からの袈裟斬りを一閃。 さやか・まさみ「(ここっ!!)」 そして、さやか・まさみの心が1つになった時… カッキーン!…まさみ渾身の一撃を、さやかの十手は見事に右脇へと流した。 さやか「(ビンゴ!)」 まさみ「(ドンピシャ!)」 2人にしてみれば、これと同じ事を繰り返すだけ。しかし、観衆は狂喜する。 おんぷ「(2人の息が合ってこそ出来る技ね…)」 そして、そんな舞台上の2人を、上座から女王様が見つめておられる。 女王様「…」 上からの視線に気付き、おんぷは振り返って玉座を見上げた。 おんぷ「(女王様…2人の頑張り、いかがですか…?)」 それに答えるかのように、女王様はベールの下で微笑んでおられるようだった… 隠し芸大会は無事終了。そして今回の優勝組は… 司会魔女「…おジャ魔女2人組です!!」 歓声が巻き起こる。だが1人、平然を装っている者が… おんぷ「(当然よ…でも、おめでとう…)」 そして今回も、畏れ多くも女王様自らが表彰の役を買って出て下さった。 女王様「さやかちゃん、まさみちゃん…皆を楽しませてくれましたね」 さやか「どうも…」 まさみ「恐れ入り奉ります…」 女王様「では、願いを1つ叶えましょう…」 さやかは、まさみの顔を見つめた。まさみも、さやかの顔を見つめた。 そして、瞳で互いに思いを伝え合った。 まさみ「(さやちゃん、言って…)」 さやか「(うちが言うてええんか?)」 まさみ「(うん…自分で言うのも何だし…)」 さやか「(…分かった)」 2人は視線を女王様の方へと戻した。そして、さやかがゆっくりと口を開いた。 さやか「…まさちゃんを、2級にしたって下さい!」 そんな願いを聞き届けない訳がない。女王様は、優しく頷きなさった。 女王様「いいでしょう。今回の功績をもって、まさみちゃんを2級見習い試験合格扱いとします」 それを聞いて、さやかは大喜び。その横では、まさみが嬉しそうに微笑む。 無論、そんな喜びに浸る2人を見つめて、おんぷも拳を握って小さくガッツポーズしていた。 さやか「おっしゃ〜!」 まさみ「さやちゃん…ありがと」 さやか「ええって、ええって」 そして笑い合いながら肩を組んで、さやか・まさみは師の元へと帰還する。 まさみ「おんぷちゃん!」 さやか「うちら、やったで〜!」 駆け寄ってくる2人を、おんぷは両腕を広げて迎えた。 おんぷ「おめでとう!」 さやか・まさみ「ありがと〜!!」 ギュッと抱きしめ合って、3人は喜びを分かち合った。 さやか「これで、まさちゃんも次は、うちと一緒に1級試験や〜!」 おんぷ「良かったわね、まさちゃん♪」 まさみ「ありがとう…さやちゃんのお陰だよ…本当に、ありがとう…」 さやか「まさちゃん…うち、何もしてへんって…」 何度も礼を言われて、さやかは照れくさそうに頭を掻いた。 しかし、まさみもまさみで、首を横に振った。 まさみ「ううん…あたしは元から剣道出来たんだし、今回成功したのは… 頑張って練習した、さやちゃんのお陰…」 さやか「まさちゃん…」 ここまで言われては、さやかも根負けする他にない。 おんぷ「じゃ、今回の功労者は、さやちゃんに決定ね♪」 さやか「おんぷちゃんに言われちゃ、しゃあないな〜」 まさみ「もう、さやちゃんったら!」 おんぷ・さやか・まさみ「あはは…」 3人の笑い声は、いつまでも響き渡っていた… その後、帰宅したまさみは、布団に入る前に刀を見つめていた… ソソ「ソ?」 不思議そうに尋ねるソソに、まさみは優しく答えた。 まさみ「どうかしたかって?いや…今日の出来事、色々と思い出しちゃってね… さやちゃんには本当、感謝しきれないよ…」 ソソ「ソ〜ソ〜…」 まさみ「そっか、分かるか…じゃ、寝よっか」 同時刻、西郷家…さやかの寝室には、十手を見つめる、さやかの姿があった。 さやか「うちも受かったし、まさちゃんも受かって、ほんま良かったわ〜」 笑みを浮かべるさやかに、ティティも微笑みかける。 ティティ「ティ〜♪」 そして、さやかはまた、涼吾へも思いを馳せていた… さやか「(うちのお陰やない、お父ちゃんの十手のお陰や…お父ちゃん、おおきにな… それとうち、この十手、これから肌身離さず持っとるようにするわ…)」 次回予告 おんぷ「これで2人共、次は一緒に1級試験ね…」 さやか「ついに1級かいな…」 まさみ「気合い入れなきゃね…」 おんぷ「さあ、一体どうなるのかしらね…」 ??「大丈夫だって。心配しなくても…あっ、おんぷ、久しぶりだね!」 さやか・まさみ「…誰??」 おんぷ「次回、おジャ魔女おんぷTriple‐S(トリプル・エス) 『1級試験…さやかとまさみは2人で1つ!』…プ〜ルルンプルンすずやかに〜」 6話端書き さやかと十手…新規に設定起こしました項目です。 刀のまさみとの、好対称を狙ってみました。 おんぷを真ん中に据えて、十手のさやか・刀のまさみが両脇に… イメージとしましては、姫様と近衛兵、王将に飛車角…って感じですね。 この設定が、どこまで活かされるのか…筆者、頑張らねばです(汗) さらに、さやかにはもう1つ新規設定が…視力です。 魔力が見える…なんて爆弾発言しちゃってます。 今後、どのように活かされるのか…筆者の腕前が問われそうです… さて、時代劇俳優の名前、完全にもじってます。 笠間杜夫…「かさま」を「かざま」にすると…(以下略) 杉遼太郎・里美浩太郎…変換しただけですので、読みで分かると思います。 遼→良、美→見となるのが本来です。そのまま使う訳にいきませんから… 鳩山・田中・三木…すみません、名字しか設定作ってません(大汗) 由来は、戦後の首相なんで言わずとも、ある程度は分かるかと… 鳩山首相の孫と田中首相の娘なんか、今も永田町にいますしw