魔女界の競技場…ゴールテープが用意され、観客席は大いに盛り上がっている。 そこに、さやか&ティティ・まさみ&ソソが駆け込んでくる。 さやか「おっしゃ!あとちょっとや!」 しかし、物凄い砂煙を巻き上げながら、二足歩行の兎と亀が猛烈に追い上げてくる。 さやか「勤勉な兎だか、足の速い亀だか、よう知らへんけど…」 まさみ「あたし達を相手にしたのが、そもそもの間違いだよ!」 そしてゴールテープが切られた。勝利をもぎ取ったのは…『3級試験…光り輝け!まさみという星』 朝、遠近学園駅から中等部校舎に向かうさやか・まさみ。話題は、昨夜の試験の事。 さやか「いや〜、あそこまで本気出して走ったんは久々や〜」 まさみ「にしても、あれで4級とは…一体、何考えてんだかね…」 そこに背後から、駅前で車を降りて、2人を追いかけてきた、おんぷが登場する。 おんぷ「試験の本題は、魔法を効率良く使えるか…なのよ。体力は二の次」 さやか「あっ、おんぷちゃん!おはようさん!」 挨拶しつつ、まさみは疑問をおんぷに投げかける。 まさみ「おはよっ。ねえ、今の所あたし達って順調なのかな?」 おんぷ「そうじゃない?9・7・5・4級と、着実に合格してきてるじゃない」 実を言うと、さやか・まさみ共に7級時にも、飛び級という好結果を叩き出していた。 飛び級連続で奇数級しか受けていない、おんぷ先生にしてみれば、当然の結果だろうが。 さやか「せやけど、5級から飛び級が出てへんなぁ…」 しょんぼりするさやかに、おんぷは優しく声を掛けた。 おんぷ「そんな無理しないでいいのよ」 さやか「せやかて、おんぷちゃんは飛び級で、4級はパスしてんねんやろ? それを受けてもうたうちらは、おんぷちゃんより下っちゅう事やん…情けな…」 うな垂れるさやかを、おんぷが諭す。 おんぷ「さやちゃん…私は調子が良すぎたの。さやちゃんはさやちゃん、私は私よ」 さやか「さよか…」 おんぷ「終わり良ければ全て良し。1級さえ合格してくれれば…ね」 さやか「…それもそうやな!おっしゃあ!」 まさみ「全く、調子がいいんだから…ところで、次の3級はどんな事をするの?」 おんぷ「3級はね…」 その声を遮るように、プップッと車のクラクションが鳴った。 振り向くと、そこには黒く大きな四輪駆動車が。 サイドにCYGNUSという、金色の英文字が大書きされている。 そして運転席から顔を出したのは、担任の幣原だった。 幣原「おはよう。君らは仲がいいなあ」 おんぷ「え、そうですか?」 さやか「幣原先生、うちらに構っとる暇あったら、 早(はよ)車停めてきた方が、ええんと違(ちゃ)いまっか?」 まさみ「こら、さやちゃん!」 幣原「いや、全くその通りだ…じゃ、教室で」 再びエンジンを吹かして、幣原の四駆は再び発進していった。 さやか「LANDCRUISER CYGNUS…盗んでくれ言うとるような高級RVやん…」 まさみ「露国とかでは土地柄、日本の四駆が売れるから、盗む奴が多いんだよね…」 出身が北海道で、しかも警察関係事項にも詳しいまさみ。 露国への盗難車の密輸は、北海道の港町が拠点になっている事が多い事は、前から知っていた。 他にも北方領土問題や密漁など、北海道と露国は接点が多い。 おんぷ「ところで、名前の意味は分かるの?さやちゃん」 3人の中で一番の英語通はさやか。即座に答えが返ってきた。 さやか「LANDが陸で、CRUISERはそのまんま船のクルーザー、CYGNUSは星座の白鳥座や」 まさみ「へえ…」 おんぷ「それにしても、白鳥座なんて豪華そうな名前ね」 豪華という言葉から費用がかかると連想したさやかは、こんな事を言い出した。 さやか「それにランクル言うたら、燃費は結構かかるはずやで」 まさみ「なして、そこで燃費の話になるかな…まあ、教職員って儲かるみたいだしね」 おんぷ「それに遠近学園は、芸能人御用達の私立だもんね」 実際に遠近学園の教職員には、外車や高級国産車を学校に乗り付けている者が多い。 まさみ「そして、おんぷちゃんは大型外車で送ってもらう…と」 さやか「あっ、そう言えばそうやな…」 おんぷ「あら?さやちゃんのお父さんも、いい車乗ってるって言ってなかった?」 ここで、さやかは父の愛車について説明し始めた。 さやか「IMPREZA SPORTSWAGON WRXやからな…日本車やけど、飛ばすには持って来いの車やな。 何しろインプは、世界レベルのラリー出まくっとるし…」 まさみ「ねえ、何か車の談議になってるけど…?」 おんぷ「もうっ、さやちゃんったら話を脱線させるのが上手なんだから♪」 さやか「うちのせいなん?話振ったん、おんぷちゃんやないの? ランクルの意味聞いたん、おんぷちゃんやろ?」 まさみ「あはは…何2人して擦(なす)り付けあってんのさ」 おんぷ・さやかに向かって、まさみは楽しげに笑った。 教室に入っても、3人は話に花を咲かせていた。 さやか「何やろ…ワクワクもするけど、ドキドキもすんで…」 まさみ「どっちかって言うと、あたしは後者かな…心配と緊張の方が大きいかも…」 おんぷ「う〜ん…やっぱり、あの話は早い方が良かったかな?」 すると、さやか・まさみは口を揃えて言い返す。 さやか「当たり前やん!」 まさみ「当たり前っしょ!」 さやか「初めて聞いたで。3級落ちる魔女見習いが多いやなんて… おんぷちゃん、何で今の今まで言わんかったん?」 まさみ「あたし達にも、心の準備ってもんがあるんだからね…」 おんぷ「忘れてたの。てへっ♪」 ペロッと舌を出して笑うおんぷに、今回はまさみだけでなく、さやかまでも呆れる他になかった。 さやか・まさみ「おいおい…」 おんぷ「それに私、3級もキッチリ飛び級で合格してたし」 さやか「つまり、おんぷちゃんにとっては簡単やったんやな…」 おんぷ「そういう事」 まさみ「だからって、あたし達まで飛び級出来るとは限らないしょやね…」 おんぷ「かもね…どれみちゃんと、ももちゃんは見事に落ちてるし」 さやか「それって、ほんまの話?おんぷちゃんの大親友でも落ちとるんか?」 おんぷ「ええ、そうよ」 途端に、まさみはガックリと落胆する。 まさみ「したっけ、9級すれすれ合格のあたしも落ちる可能性大…?」 おんぷ「あっ、これは言うべきじゃなかったかも…」 さやか「おんぷちゃ〜ん…しっかりしてや〜…」 しばらくして、数学の授業中… 幣原「5X+36=3X+50…こういう方程式は左辺にX項、右辺に定数項を移項して…」 遠近学園は文武両道を旨とする。どんな特技があろうと、勉強を怠る事は許されない。 教科書片手に説明しながら、幣原が机の間の通路を行き来し、生徒達の進み具合を見る。 そんな折、山県ともえの様子を見てみると…教科書が二重に立ててある。 表向きは教科書、裏手は…何やら台本のようだ。 幣原「山県くん…聞いてるよ。今度、子役のオーディション受けるんだって?」 不意に声を掛けられて、山県ともえは顔が強張った。 山県ともえ「あっ、はい…まあ…」 必死の作り笑いを見せる山県なつき。幣原も笑っていたのだが… 幣原「授業終わるまで没収」 笑顔を崩さず、台本を取り上げる幣原。山県ともえは駄々を捏(こ)ねる。 山県ともえ「あ〜ん!返して〜!先生の意地悪〜!」 幣原「少しは瀬川くんを見習ってくれよ。彼女が学校で台本開いてる所なんか、見た事無いぞ」 そう言う幣原の流し目が、おんぷの方を向く。おんぷは少し頬を赤く染めた。 ここで視点を2つ前の席…つまり、さやかの方へ移してみると、こちらも授業など上の空。 小声でボソボソと、今度の3級試験の事を考えているようだ。 さやか「どれみちゃんはともかくとしてや、ももちゃんまで落ちたっちゅうんはなぁ… う〜ん…ほんまに一体全体、何の試験なんやろ…せや、まさちゃんにも聞いてみよ」 思い立ったが吉日…とは言うが、さやかは後先考えずに行動に出る事が多い。 もう授業の真っ最中である事など、既に脳内から消え去っている。 さやか「まさちゃん、まさちゃん…」 後ろを振り向いてまさみの机を指で突付きながら、小さく呼びかける。 しかし返事が無い。さらに、その間に背後から忍び寄る影に、さやかは気付いていなかった。 次の瞬間、さやかの後頭部に柔らかな打撃が加えられた。 ポカッ… さやか「ほえ?」 幣原「西郷くん…何してるのかな?」 さやか「幣原せんせ…」 先程の打撃は、山県ともえから没収した台本を丸めて棒状にした物によるものだった。 幣原「前を向いて、ちゃんと授業に集中するように…いいね?」 さやか「は〜い…」 山県ともえ「それより先生〜!私の台本丸めた〜!どうしてくれるの〜!」 駄々っ子な山県ともえは、さらに喚いた。 幣原「ん…ああ、これは済まなかった…」 そして幣原は、まさみにも目をやるのだが… 幣原「おや…」 こちらもこちらで、先程の3級試験の話が後を引いている模様だ。 まさみ「(どうしよう…3級から段違いに難しくなるだなんて…)」 結果的に合格したとは言え、普通にやっていたら9級に落ちていたであろうまさみ。 3級試験からレベルアップするというのは、プレッシャーにしかならない。 さやかが後ろを向いても気付かなかったほどだ。かなりの重圧である。 まさみ「(まずい…今まで試験って言ったって、あたしの得意な学科試験は皆無だし…)」 幣原「酒井くん…酒井くん!」 まさみ「えっ!?幣原先生!?」 これは不覚。考え込んでいたまさみの真ん前に、幣原の顔があった。 幣原「酒井くん…ボーっとして、具合でも悪いのかい?」 まさみ「あっ、べ、別にそういう訳じゃ…」 幣原「それなら説明してた問題、解いてもらおうか」 ここで、お調子者のさやかが、なぜかノリノリ。 さやか「まさちゃんゴーゴー♪」 まさみ「何言ってんのさ!」 さやかを怒鳴り散らして、まさみは黒板へ向かう。 まさみ「(3級…3級…)」 チョーク片手に方程式に向かうが、意識は試験の事ばかり… だが凄いのは、ここからだった。何と、まさみは空ろな状態で、式を解いてみせたのだ。 5X+36=3X+50 5X−3X=50−36 2X=14 X=7(答) 書き終わって席に戻りながらも、まだ頭の中では心配事だけが巡り続ける。 まさみ「(落ちるかも…でも落ちる訳にいかない…)」 幣原「うん…正解だ…」 これには幣原も、ちょっとビックリ。 さやか「まさちゃん、やる〜♪」 終始お気楽なさやか。一方で、おんぷはと言うと… おんぷ「(あの精神状態で、数式がちゃんと解けるなんて…試験も、それくらいお願い…)」 こう願わずには、いられないのだった… 幣原「う〜ん…こういう面白い事されるとな〜…先生ちょっと悔しいぞ〜…」 そして夜の魔女界… 相変わらずスローテンポなモタ・モタモタが試験内容の説明を始めるが… モタ「3 級 試 験 は 〜」 全部聞いていると非常に遅いので、こちらで詳細だけ説明させてもらう。 ルールは簡単。3つの扉を探して通り抜けて、制限時間内にゴールに着けばよし。 3つ目の扉がスタート地点に繋がっているので、厳密にはゴールはスタート地点なのだが。 ただし箒は使えず、移動は徒歩。試験中に魔法は2回までしか使えない。 ここで、さやかの割り込みツッコミ。 さやか「え〜!何でやねん!」 まさみ「魔法が3回以上使えたら、3つの扉をそれぞれ魔法で探し出せるから…じゃないの?」 おんぷ「そういう事♪」 なお、スタート地点には足の生えた巨大な時計が立っていて、それで時間を計る。 時計の針が1周するまでに、戻ってこなければならない。 さらに、1人の魔法で2人分の扉を探すのも禁じ手。個別試験となる。 …という訳で、2つの三角形をした扉の前に、さやか・まさみ各々が立つ。 最初の扉を目の前に、さやかは深呼吸して落ち着こうとする。 その隣で、まさみは目付きを鋭くして拳を握った。 おんぷ「(2人共、落ちた魔女見習いがいるって聞けば、流石に真剣になるわね…)」 モタ・モタモタ「そ れ じ ゃ 〜 試 験 開 始 〜」 その声と同時に、さやか・まさみはそれぞれの扉の向こうへと足を踏み入れた。 おんぷ「(いろいろな世界をランダムに繋いでいる扉を3つ通る… 魔法をどのタイミングで、どう使うかがキーポイントね…)」 1つ目の扉をくぐった、さやかの目の前に広がっていたのは、薄暗い光景だった。 頬のこけた、ある有名絵画から抜け出てきたような生物…仮にムンクお化けとでも呼称する。 そんなムンクお化け(以後ムンク)が数体、さやかの前に現れる。 ムンク「うぅ〜」 これには、さやかも最初こそ驚きはしたが、よく見てみればそれ程でもない。 さやか「ほえぇ〜…へ?何やねんな?あんたら」 ムンク「あの〜…怖くないんですか?」 さやか「うん、全然…」 おんぷの知っている面々の内、はづき・ぽっぷがここを通過している。 はづきは性格上パニックに陥り、ぽっぷは逆にムンク達と仲良くなっていた。 だが、さやかはどちらのケースにも当て嵌まらなかった。 さやか「ほな、うち急いどるさかい」 ムンクを簡単にあしらって、さやかは6級合格から使用が許されるクルールポロンを回す。 この魔法が、とんでもない展開の鍵となる。 さやか「プレサ〜リラティ〜・ペレナ〜エルプラノ!3つの扉、開いて一直線に並べっ!」 するとムンク達の背後に、1つ目の扉が開いた状態で現れる。 その向こうには、合わせ鏡のように別の光景と扉とが交互に続いていた。 勿論、一番遠くにはゴールとなる、元の試験会場が小さく見えている。 目の良いさやかは、おんぷの姿を確認した。 さやか「おんぷちゃ〜ん、すぐ帰るで〜!」 後は、自慢の体力と持ち前の向こう見ずな性格に任せて、走って走って走り抜くだけ。 途中に何があろうとも、全くお構いなし。 そして気付けば、試験開始から3分も経っていない。文句無しの合格だ。 モタ「合 格 〜」 モタモタ「凄 く 早 か っ た か ら 〜 飛 び 級 で 2 級 も 合 格 〜」 それを聞いて、さやかは手放しで喜んだ。 さやか「へっ?ほんま?…よっしゃあ!」 そして、にこやかに微笑むおんぷに凱旋報告。 さやか「これで、ええねんやろ?」 おんぷ「ええ♪自分の行きたいように行っていいのよ。 扉が出てこなければ、自分の魔法で出せばいいんだから」 過去に、おんぷも3級試験を飛び級合格している。 どうやら今回のさやかと同様な手段を選んでいたようだ。 モタ「は 〜 い 認 定 玉 〜」 言われて、さやかは持ち合わせていた、透明で筒状の容器である、認定証を差し出した。 こちら、6級合格時に与えられるものだが、さやか・まさみ、さらには過去のおんぷも飛び級。 故に3人は、5級合格の際に受け取っていた。おんぷ大先生様様である。 さて、その中に球が3つくっ付いた、例えるなら水の分子モデルのような形の認定玉が追加された。 さやか「おっしゃ…で、まさちゃんは?」 キョロキョロ辺りを見回してみても、まさみの姿が見当たらない。 おんぷ「まだよ」 さやか「そっか…やっぱ堅物のまさちゃんは、この作戦思い付かへんか〜…」 おんぷ「でしょうね…律儀に扉を探しながら来るわね…」 さやか「飛び級合格は無さそうやな…」 おんぷ「それよりも、時間内に戻って来られるかどうかよ… ほら、まさちゃんって嵌まると抜け出せない性格じゃない?」 さやか「かぁ〜…望みは薄いなぁ…」 そんな風に言われている事も知らないまさみは、スタートの扉を抜けて星の世界へ出ていた。 まさみ「何?ここ…綺麗だけど…」 尤も、まさみには何も知る術がないので、星の世界にいるなどという自覚はないが。 足元にはドライアイスが昇華したようにモクモクと、虹色の雲が隙間なく敷き詰められている。 ふと、まさみの第六感が何かを感知した。割と近距離に、人間ではない何者かがいるようだ。 まさみ「この際、選んでられないか…ここがどこか、扉はどこにあるか聞かないと…」 ブツブツ言いながら走っていくまさみの前に現れたのは… 何と、まさみと同じくらいの大柄な蟹であった。まさみは自分の目を疑った。 まさみ「えっ!?なっ、何なの!?」 驚きで顔の引きつるまさみに、蟹が名乗り出した。 蟹座「失礼な、我輩は蟹座だカニ」 まさみ「蟹座っていったら、あたしも7月4日生まれの蟹座だ…何たる偶然」 ここで落ち着いたまさみは、とりあえず質問してみる。 まさみ「あの〜…ここって、どこなんですか?」 蟹座「星の世界だカニ」 まさみ「じゃあ、他の所に繋がってる扉って、どこにあるんですか?」 蟹座「知らんカニ」 まさみ「頼りないもんだね…」 蟹座「済まんカニ…そう言えばお前、さっき蟹座だと言ったカニ?」 まさみ「言ったけど何さ?」 蟹座「せめて占ってやるカニ」 まさみ「占い…まあ聞くくらいなら」 すると蟹座は、毎朝のテレビで放送しているような事を言い出した。 蟹座「今日の蟹座は波のある、楽には運ばない運勢だカニ。 友人の何気ない一言に耳を傾ける方がいいカニ。 ラッキーカラーは、金色と黒だカニ。ラッキーパーソンは自分より知識のある人だカニ」 まさみ「ふうん…でもあたし、占いは都合のいい所しか信じない事にしてるの。 ま、頭の隅っこにでも置いとくよ」 蟹座「せいぜい気を付けるカニ〜」 見送られつつ、まさみは駆け出した。 まさみ「さてと、扉、扉…」 すると今度は、翼の生えたライオンが、鞄を掛けて悠々と歩いている。 まさみ「ええっ…ん?待てよ…」 ここが星の世界だという事を考慮に入れると、まさみの頭の中では納得がいった。 まさみ「なるほど、あれは獅子座か…」 ちなみにこの獅子座、おんぷも過去に、どれみ達と一緒に出くわした事があった。 時に、小学6年の七夕騒動の際であった。 そして、まさみの状況だが、蟹座に別れを告げて獅子座を見つけたという事は、 太陽の通り道・黄道と同じ道を通った事になる。 まさみ「…となると、この先は乙女座・天秤座・蠍座と続く訳だ…」 だが、こんな事を考えている暇はない。早く扉を見つけなくてはならないのだ。 まさみ「制限時間があるから急いだ方がいい…なら魔法で!」 しかしクルールポロンを手に取って、まさみは考えた。 魔法は2回しか使えない。その内の1回を、ここで無碍に使って良いのか…と。 まさみ「この先、もっと難しい状況になるかも…そう考えたら、魔法はなるべく使わない方が…」 かと言って、このままでは合格の前に、1つ目の扉すら見つけられないで終わってしまう。 まさみ「もう!どうしたら…あっ、待てよ…」 ここで、まさみは先程蟹座に言われた、占いの内容を思い返してみる。 まさみ「友人の何気ない一言…そう言えば、この前さやちゃんが…」 ここで、登校中のさやかの「…CYGNUSは星座の白鳥座や」という台詞を思い出す。 まさみ「ラッキーカラーは、金色と黒…金…黒…ああっ!」 黒の地に金色でロゴが書かれている、幣原の車を思い浮かべる。 そこにあった英文字がCYGNUS…即ち白鳥座である。 まさみ「後は、自分より知識のある人…なるほど」 どうやら、合点のいく答えが浮かんだようだ。 まさみ「幣原先生は勿論の事、さやちゃんにも英語の知識では頭が上がらないや」 これで全てが1つに繋がった。とにかく、まさみは白鳥座を目指す事にした。 まさみ「獅子座の次の乙女座は、天の赤道と交わってたね。 天の赤道を辿って行けば、鷲座が見つかるはず。 鷲座の1等星・アルタイルは彦星、同じく琴座の1等星・ベガが織姫で、 それに白鳥座の1等星・デネブが夏の大三角形で繋がってる。 全く、夜空を西から東に横断しなきゃなんないね…急ごっ!」 まさみは英語以外の勉強なら、お茶の子さいさい。大体の星座なら、まさみの頭に入っている。 即座にルートを検索して、まさみは先を急いだ… しばらくして… ??「ふ〜ん…あんたも大変ねぇ…」 まさみ「本当ですよ…でもお陰で、あなた様にお会い出来ましたけどね」 唐風の天衣を身に纏い羽衣をたなびかせる美麗な女性と、言葉を交わすまさみ。 相手の女性は何を隠そう、琴座の1等星で七夕伝説の主役・織姫であった。 織姫「今日といい去年の七夕といい、何でこうも魔女見習いと縁があるのかしらね」 この織姫は、マンネリ化した七夕の儀式に愛想を尽かし、おんぷ達の元へやって来た事があった。 まさみ「おんぷちゃんから1度だけ聞いた事がありましたけど… あたしでも、七夕すっぽかしたかも」 織姫がニヤリと笑う。まさみも同様にニヤリと笑う。そして声を揃えて言うには… まさみ・織姫「彦星が、あんな柔な男じゃ…ねぇ〜♪」 織姫「全く、付き合って『やってる』って感じよね」 まさみ「女の尻に敷かれるような男は最低です!」 織姫「おっ、あんた分かってるじゃない!そうよ、男は選んだ方がいいわよ〜」 さて、男に対しての意見が一致した所で、まさみに与えられた時間には限りがある。 まさみ「それで織姫様、申し訳無いんですけど、あたしの試験の話に戻らせて下さい…」 織姫「ああ、そう言えば急いでるんだっけ?私に出来る事なら、してあげるけど?」 まさみ「ありがとうございます。で、別の世界に繋がってる扉って、どこにあるか知ってますか? 蟹座の占いでは、白鳥座に向かえって事みたいなんですけど…」 織姫「白鳥座が天の川で羽を休めてるのは知ってる?」 まさみ「ええ、白鳥座は天の川の真ん中に位置する星座ですからね。 両翼を天の川の岸に渡している事から、織姫様と彦星を結ぶ橋に例えられてますよね」 実際、七夕伝説でカササギが天の川に橋を架けるというのは、 白鳥座の位置関係を元にしていると言われている。 織姫「白鳥座の近くに橋があるの。そこに扉があったと思ったけど…案内するわ」 細かな星が川になって流れている天の川。そこに大きな白鳥が悠然と漂っている。 そして、そこには架け橋があり、その真ん中にちょこんと三角形の扉が乗っている。 まさみ「あれだ!織姫様、どうもありがとうございます!」 深々と礼をするまさみ。織姫は笑顔で見送ってくれた。 織姫「まさみ…あんたとは話しててスーッとするわ。また機会があったら会いに来なさい」 まさみ「はいっ」 織姫に微笑を返しつつ、まさみは目映い光の差す扉の向こうに消えていった… 先程から魔法を使うのを躊躇っていたまさみには、やはりこの試練が待っていた。 2つ目の世界は、見渡す限りの砂漠。 陽炎の立つ灼熱地獄の中でも、まさみの体内にあるレーダーは狂ったりしない。 まさみ「こっちから魔力を感じる…」 蹴り上げた砂が風に散る。まさみは駆けに駆けて、やっと人影の見える所へと辿り着いた。 まさみ「はぁ…はぁ…」 武道で鍛えた体は丈夫とは言え、北国育ちの身には熱気が鬱陶しくてたまらない。 額(ひたい)から滴り落ちる汗を手で拭いながら、まさみは座り込んでいる魔女に声をかけた。 まさみ「大丈夫ですか?」 魔女「咽が…渇いて…」 まさみ「分かりました!」 それまでは魔法を渋っていても、こういう時に思い切りの良いのが、まさみの性分である。 まさみ「ポクセル〜カソペ〜・トワラ〜エクセルス!キンキンに冷えた氷水、出てこい!」 ポンッと音がして、大きなコップにロックアイスの浮いた水が現れた。 まさみが魔女にその水を飲ませると、その魔女は瞳に涙を浮かべて一言、こう言った。 魔女「ありがとうよ…美味しかったよ…」 そして煙に紛れるように魔女は消え、代わりに第2の扉が現れた。 まさみ「ほっ…魔法、とっといて良かった…」 そして、まさみはゆっくりと扉を開き、第3の舞台へと足を踏み入れた… 最後は、かつてどれみ・ももこが勝てなかった、誘惑と合格との二者択一。 だが今回は、以前とは少し趣旨が違うようだ。 まさみ「扉が…2つ?」 片方の扉の向こうには、モタ・モタモタの姿がある。こちらが正解なのは一目瞭然。 まさみ「何さ、もう目の前でしょやね…」 しかし、もう片方の扉に目をやると…その向こうには真浪と正爺の姿が見える。 まさみ「お母さんにお父さん!?」 正解の扉の向こうでは、おんぷ・さやかが、じれったい気持ちを抑えられずにいる。 特に気の長くないさやかに至っては、地団駄を踏んでその気持ちを表している。 さやか「かぁ〜っ!何で、こっちに飛び込んで来ないんや〜!」 おんぷ「どうしたのかしら…まさか、誘惑に負けそうなんじゃ…?」 さやか「んなアホな!?あの堅物のまさちゃんが、食べ物に負けるかいな?」 おんぷ「そうよね…まさちゃんが、どれみちゃんや、ももちゃんみたいに、 食べ物で釣られるとは、ちょっと考えにくいわね…」 すると今度は、さやかの苛々が、モタ・モタモタに向けられた。 さやか「なあ?向こうには何があんねんな?あんたら知ってんねんやろ?」 モタ「知 っ て る け ど 〜」 モタモタ「試 験 だ か ら 〜」 モタ・モタモタ「答 え ら れ な い わ 〜」 さやか「あ〜!そこで変にハモらんといて!余計に腹立つわ!くそっ!」 とにかく落ち着きを知らないさやかを後目に、おんぷはひたすらに、まさみを見つめるのだった。 おんぷ「まさちゃん…あなたの足を引き止めてるのは、一体何なの…?」 まさみが頭で考える前に、足が勝手に微笑む両親の元へと向いていた。 行ってはいけない…それは分かっている。 そうは思っても、どうしても体が言う事を聞いてくれない。 そして、まさみは自分で自分を律するように、拳に力を込めつつ大声を上げた。 まさみ「…もう!まさみ!しっかりすれ!」 叫ぶと足は止まっていた。さらに今度は小さく掠れるような声が、まさみの口から漏れた。 まさみ「ごめんなさい…」 続けて、蚊の鳴くような声が、切れ切れに流れ出た。 まさみ「あたしは、お母さん・お父さん達とは一緒にいられないの… 七夕の日に短冊に書いたって、この願いは決して叶わない… 魔法が使えるったって、一度消えた命は二度と蘇らせる事は出来ない…」 最後に、まさみは絞り出すかのように呟いた。 まさみ「全ての星は、いつか必ず燃え尽きる…それが定め…」 うつむき気味に、まさみは踵を返すと、おんぷ・さやかの待つゴールへの扉を通り抜けた… 制限時間を示す時計の針は、もう少しで1周しようとしていた。 モタ「ゴ 〜 ル 〜」 モタモタ「ギ リ ギ リ だ け ど 合 格 〜」 合格を示す鈴の音も、まさみの耳には入っていなかった。 さやか「いや〜…ほんま焦ったで〜…心配かけんといてや〜… ま、飛び級は出来へんかったけど、とりあえず合格おめでとさん」 まさみ「ああ…ありがと…」 元気の無いまさみが気に掛かり、おんぷは声をかける。 おんぷ「まさちゃん…最後の二択、何があったの?」 まさみ「…なして、そんな事聞くのさ?」 おんぷ「あ…言いたくなかったのなら、ごめんなさい… でも、こっちから見てて、まさちゃん何だか深刻そうな顔してたから…」 その時からの深刻な顔つきを残したままのまさみは、やはり表情を緩める事なく話した。 まさみ「あのね…お母さんとお父さんがいたの…」 おんぷ「えっ…!?」 さやか「何やて!?」 まさみ「嘘っぱちだってのは分かってた…でも、でも…」 言葉を詰まらせたまさみの肩に、おんぷが優しく手を置いた。 おんぷ「もう、いいわ…まさちゃんの言いたい事、全部分かったから…」 さらに、さやかも目を潤ませながら、必死に笑顔を作ろうとしていた。 さやか「まさちゃんのお父ちゃんとお母ちゃんは、まさちゃんの心の中におんねんやろ… それでええやん…それだけで十分と違(ちゃ)うか…」 まさみ「さやちゃん…!」 さやかの言葉をしっかりと受け取ったまさみは、さやかの瞳に自身のためではない涙を見た。 まさみ「もう…あたしより先に泣かないでよ…」 さやか「なっ、泣いてなんかおらへんって…」 最早バレバレの言い訳をするさやかは、誤魔化すように瞬きを繰り返す。 まさみ「嘘つき…でも、ありがと…」 おんぷ「さやちゃんったら、貰い泣きが上手ね…って言ってたら、私も泣けてきたかも…」 喋りながら、おんぷも目元に人差し指を宛がっていた。 まさみ「ありがと、おんぷちゃん…」 箒に乗って帰途につく、おんぷ・さやか・まさみ。 隊列の最後尾に位置するまさみは、何やら口ずさんでいた。 まさみ「夏の夜空に夢描(えが)いて 刹那に消えるほうき星♪ 全ての星は いつか燃えて尽きちゃう そんな儚い命だから♪ 新たな星が光る頃あたしは 誰思い何願い どうしてるだろ♪」 他の2人には、全く聞き覚えのない曲。 まるで遠くの誰かに伝えるかのように、まさみは歌っていた。 さやか「まさちゃん…邪魔するようで悪いんやけど…」 おんぷ「その曲、何なの?」 まさみ「ああ、2人は知らないよね…小さい頃、お母さんが歌ってるのを覚えたんだ。 確か『雪と星の申し子』っていったかな。雪もいつか融ける、星もいつか燃え尽きる… でも代わりに、雪融けの後には必ず春が来る。 古い星が消えても、また新しい星が煌めき出す…そんな歌だよ…」 さやか「ふ〜ん…」 おんぷ「…いい歌ね」 まさみ「ありがと」 礼を返しつつ、まさみは今までの出来事を振り返っていた。 まさみ「(蟹座といい、織姫様といい…何だか、星と縁のある事ばっかりだったな… 星は必ず燃え尽きる、それが定め…でも、それまでは懸命に煌めき続ける…)」 いつしか、まさみの瞳には爛々とした輝きが戻ってきていた。 まさみ「(あたしという星は…燃え尽きるその時まで、光を失わないんだから! …そう、お母さん・お父さんの分まで!)」 次回予告 おんぷ「それにしても、困った事になったわね…」 さやか「うちだけ飛び級合格してもうて、まさちゃん置いてけぼりや…」 まさみ「仕方ないしょや…あたしの実力がそれまでだったって事なんだから」 さやか「せやけど、何とかならへんのかいな〜…って、まさちゃん、どないなんねんな?」 まさみ「さあ?…まあ、その辺はお楽しみだね… 次回、おジャ魔女おんぷTriple‐S(トリプル・エス) 『2級試験…乱舞!さやかの十手』…ポクセル〜カソペ〜きよらかに〜」 5話端書き 最初っから4級試験でお馴染み、兎&亀とのレース…でも最初だけ(笑) 前置きはさておき、難しくなると本編(無印40話)でも言われておりました、3級試験です。 さやかは、ここぞとばかりに飛び級しちゃいまして…まさみに至っては、かなり遠回り… あと4級以前の試験は、めんどいからって端折りました…あんまりな筆者で(汗) 3級試験の内容入りましょうか。 さやかが最初に出くわしたのは、無印40話のムンク… 本編では、はづきちゃんの1つ目でしたが、あれは絶叫でしたね… まさみは、1つ目がドッカ〜ン23話絡みの星の世界… もう獅子座は出るわ、織姫様は出るわ…蟹座は最早お馴染み、筆者のでっち上げ(笑) 2つ目には、砂漠で水をくれと言う魔女…無印40話で、あいちゃんの3つ目でした。 そして3つ目…これも筆者でっち上げ、亡きご両親がまさみを誘う…もう、意地悪な筆者w でもって、本編にも出てきたアイテムも目白押しであります。 6級以降には、クルールポロンと認定玉が登場ですから、当然さやか・まさみにも… はい、毎度毎度の遠近学園1年C組メンバー紹介、今回は2名…内、担任が1名。 幣原喜重(のぶしげ)…戦後すぐの幣原首相、下の名前は喜重郎(きじゅうろう)で… 郎を取って、音読みを訓読みにしたら…はい「のぶしげ」ですね。以上(ぇ) 山県ともえ…明治の山県首相、有朋(ありとも)から「とも」だけ頂きました。 そしてまた、車の名前が連発。しかも実在しますし。 幣原先生の愛車、LANDCRUISER CYGNUSは略称ランクル、TOYOTAの四駆です。 さやか父・涼吾さんのIMPREZA SPORTSWAGON WRXは略称インプ、SUBARUのスポーツタイプで。 車名・メーカー名がカナでなくアルファベットなのは、変に検索で引っ掛かっても何 ですのでw それにしても、まさみの曲まで考えちゃいましたw しかも、これでも一部分…続きは、またの機会に…(笑)