夢の中で、まさみが魘されている… ??「不合格〜!あなたみたいなおジャ魔女、久々に見たわ〜」 おんぷ「まさちゃん、駄目じゃない…」 さやか「何やっとんねんな〜…」 まさみ「やめてよ…おんぷちゃんも、さやちゃんも、そんな目で見ないで…」 ここで目が覚めて、まさみは布団からガバッと跳ね起きる。 そして額や首筋に手を宛がって、冷や汗でグッショリと濡れているのに気付く。 まさみ「はぁ…もう嫌、こんな夢…」『初めての試験!まさみ大暴走!?』 遠近学園の1年C組で、まさみが朝から疲れ気味。 暗い雰囲気が嫌いなさやかは、何とか場の空気を明るく出来ないかと考える。 そして何やら思いついたようで、さやかは両隣の女子に目配せする。 その2人が顔を寄せた所で、さやかは後ろのまさみを指差した。 何も言わずとも分かるだろう、励ましてやれないか…といった様子である。 その意思を酌んで2人の女子は、まさみに少し心配そうに声を掛ける。 加藤めい「まさちゃん、どしたの?最近、元気無いけど…?」 寺内せいこ「悩みがあるんだったら、言ってみて。力になれるかもしれないわ」 さやかの左隣の加藤めいは、いつも活発で、ダンスが得意なアイドル志望。 いつもさやかと仲が良い事から、おんぷ・まさみにも頻繁に話し掛けてくる。 加藤めいと反対側、つまり右隣の寺内たけこは、女優志望の物静かな性格。 さらに成績も良い方で、ご令嬢という言葉の似合う少女。 真面目なまさみとは気が合うようで、おんぷ・さやかには及ばないが、親しい仲である。 まさみ「めいちゃん、たけこちゃん…心配してくれて、ありがと… まあ、悩みって言えば悩みなんだけど…2人に言っても、どうなる訳じゃないし…」 おんぷ「まさちゃん、言っちゃ駄目よ」 まさみ「分かってるって…」 加藤めい「あ〜!おんぷちゃん、知ってるんだ〜!」 寺内たけこ「瀬川さん、何があったの?」 おんぷ「だからね、話せない訳があるのよ」 そこに、寺内たけこの右斜め後ろから「東久邇(ひがしくに)なるみ」が口を挟んでくる。 東久邇なるみ「あら?何だか面白そうな話…わたくしも混ぜて」 こちらも女優志望で、容姿は良いのだが、性格に少々難のあるのが玉に傷。 さやか「うわ〜…C組むずい名字7人組の、お喋り好きが来たわ〜…」 東久邇なるみ「何ですって!?」 ここで、さやかと東久邇なるみの間でケンカが勃発。 だが周りは既に慣れているので、苦笑いするだけ。 おんぷ「また始まったわね…」 まさみ「お互い、飽きないもんだね…」 そんな周りの目など気にも留めず、さやかと東久邇なるみは唾を飛ばし合う。 さやか「せやかて、お喋りなんは、ほんまの事やん! 自分に関係無い話かて、なるちゃん口突っ込んでくるんやから!」 東久邇なるみ「あら?興味を持つ事の、何がいけませんの? 第一、口が減らないお喋り屋さんなのは、あなたの方ですよ!」 さやか「言うたな〜!」 ちなみに、さやかが『C組むずい名字7人組』と言ったが、 確かに言うだけあって、C組には難読名字が揃っている。 その内さやかが選んだ7人のメンバーは、まずは、この東久邇なるみ。 男子は海部(かいふ)だけ。犬養(いぬかい)・近衛(このえ)・西園寺(さいおんじ)、 そして山県(やまがた)・米内(よない)…残りは全員、女子である。 まさみ「あたしの事で、なして2人が喧嘩しなきゃなんないのさ? …って言うより、さやちゃんは事情、知ってるくせに」 口を滑らせそうになったまさみに間髪入れず、おんぷが口止めする。 おんぷ「まさちゃん!それは禁句よ!私達だけのナイショ!」 しかし叫んだのは逆効果。すかさず、話好きの東久邇なるみが喰い付いてきた。 東久邇なるみ「あら?酒井さん・西郷さん・瀬川さんの3人で内緒なんて…どういう事?」 加藤めい「やっぱ気になる!もしかして3人って、いけない仲? まさか、ゆりゆりな三角関係だったりして?きゃ〜☆」 変な想像をする加藤めいを、寺内たけこが止めようとする。 寺内たけこ「もう、やめましょ。ほら3人共、困ってるじゃない。 まさちゃん、ごめんなさいね。無理には聞かないわ」 まさみ「こっちこそ、ごめん…その方が助かる…」 さやか「…っちゅう訳やから、なるちゃんも、さっさと引っ込んでぇな」 東久邇なるみ「選りによって、瀬川さんと秘密事だなんて…」 ブツブツ言いながら、東久邇なるみは自分の席に戻る。 そんな彼女に向かって、さやかはアッカンベーをする。 まさみは、さらに溜め息を吐く。おんぷは肩肘をついて、少しだけ口元に笑みを含ませる。 おんぷ「(まさちゃんの悩み…それは魔法が上手く使えない事… 9級試験が近いってのに、なかなか思い通りにいかないのよね…)」 そんなに真剣に悩まず、気楽にすればいいのに… そういった思いで、おんぷはまさみを見つめていた。 一方のさやかは飲み込みが早く、流石のおんぷも目を瞠っている。 こういう両極端な弟子を抱え、おんぷは何だか日々が楽しかった… それから数日経った、とある休日の早朝、酒井家の屋根の上… まだ日が顔を少ししか出していないと言うのに、まさみは魔女見習い服姿で腰掛けて… まさみ「う〜ん…やっぱり上手くいかない…」 またしても悩ましげな様子。だが悩んでいても仕方が無いので、ポロンを振るってみる。 まさみ「ポクセル〜カソペ〜・トワラ〜エクセルス!鉛筆、出てこい!」 しかし手元に転がるのは、鉛筆ではなく万年筆。 まさみ「はぁ〜…やっぱり違う物が出るんだよね〜…」 しかも出たばっかりの万年筆が、10秒もしない内に消える。これには、まさみもうんざり… まさみ「なしてさ〜…お蕎麦って言えば、素麺が出るし… おまけに、すぐ消えるしさ…一体なしてさ…」 その時、まさみは自分の第六感の働きで、師匠の接近を知った。 まさみ「おんぷちゃん…おはよう」 おんぷ「おはよっ♪頑張ってるじゃない」 やはり自分の弟子が練習に励んでいるのを見ると、師匠は嬉しいものである。 眠気も覗かせず、おんぷは笑顔だった。 まさみ「なしたのさ?こんな朝っぱらから」 おんぷ「まさちゃんったら…学校で、自分で言ってたじゃない。 毎朝、平日だけじゃなく休みの日も、魔法の練習してるって」 まさみ「えっ…それで来てくれたの?ありがとう!」 礼を言われ、おんぷは恥ずかしそうに、頬を人差し指で掻いた。 おんぷ「ううん、それほどでも…私が魔女見習いに引き込んだんだもの。 これくらいは当たり前じゃない。それと…」 まさみ「それと?」 おんぷ「本当は、後ろから『わっ!』って驚かそうとしたんだけど、 その前にバレちゃったのよ。てへっ♪」 いつもの台詞と共に笑ってみせるおんぷだが、まさみは呆れ顔。 まさみ「おいおい…あたしの勘が強いの、忘れた訳じゃないっしょ?」 おんぷ「だって、あんまり根を詰めてるんだもの」 まさみ「そりゃあねぇ…今あたし、絶不調だよ…」 肩を落とすまさみに、おんぷは思い出し笑いをする。 おんぷ「ふふっ…最初の頃の誰かさんと一緒ね」 まさみ「時々おんぷちゃん、小学校の時の、おジャ魔女のお友達…どれみちゃんだったっけ? その子の事を思い出してるみたいだけどさ、あたしと比べないでよ…」 おんぷ「あら?どれみちゃんに比べたら、まさちゃんの方が、まだいい方よ。 どれみちゃんなんか、9級試験に落ちちゃったんだから…ま、追試で受かったけどね」 9級試験に落ちた経験のある、おんぷの大親友・春風どれみ。 今や魔女界で、どれみの名を知らない者はいない。 しかし、まさみは出会った事のない、どれみの事をまだ知る由も無かった。 まさみ「ふうん…したら、あたしも落ちるかな…」 マイナス思考なまさみに、おんぷは少し語調を強めた。 おんぷ「そんな事、この私がさせないわ! まず、まさちゃんの魔法がどうして上手くいかないか、考えてみたの」 まさみ「へぇ…で、どうなりました?」 落語調の返事をするまさみに、おんぷは説明し始める。 おんぷ「まさちゃんには、魔力を感じ取るって力があるじゃない?」 まさみ「それは、紛れも無い事実だね」 おんぷ「私が思うに、そのせいだと思うのよ」 まさみ「…何となく分かる。特殊な能力がある分、普通の魔法が上手く働かないって事?」 おんぷ「ピンポーン♪まさちゃんの場合、小さい時からその力に気付いてて、 しかも、それを頻繁に使ってたんでしょ? 多分まさちゃんの魔力は、他の魔力を感じ取る事に特化しちゃってるのよ」 それを聞いて、まさみは腕を組んで、さらに悩ましげな表情になった。 まさみ「なるほど、そいつは便利で厄介だ…」 おんぷ「で、まさちゃんが魔法を上手く使うには…」 まさみ「使うには…?」 焦(じ)らすおんぷを、まさみは真剣に見つめる。そして、おんぷの答えは… おんぷ「…やっぱり練習しかないわね♪」 途端に、まさみは肩の力が抜けてしまった。 まさみ「そっか…まあ、予想はついてたけどね」 おんぷ「私が魔法使うの上手くなったのだって、形はどうあれ魔法をいっぱい使ってたからだし」 形はどうあれ…と言うのは、おんぷが『いっぱい使ってた』という魔法は、 そのほとんどが、禁断魔法であったからだ。 まさみ「何だかんだ言って、やっぱり場数を踏むしかないんだね」 おんぷ「そういう事。私が見ててあげるから、やってみて」 まさみ「了解」 それからしばらく、おんぷ先生の指導の下(もと)で、まさみの魔法練習は続いた… そして数日後の夜、おんぷの所属事務所… おんぷ「心の準備はいい?」 さやか「OKや!」 まさみ「…とりあえずは」 魔女界へと繋がる扉を開くおんぷ、その後ろにさやか・まさみが続く。 不思議な空間が広がる魔女界…おんぷに案内されて、試験場へと赴くさやか・まさみ。 呪いが解かれた今、月が出てさえいれば、人間界と魔女界との出入りは基本的にいつでも良い。 試験官の都合さえ良ければ、毎日だって試験を受ける事が可能になった。 前置きもそこそこに、おんぷと2人の愛弟子が試験会場に到着。 そこで、おんぷから2人の魔女が紹介される。 おんぷ「紹介するわね。試験官魔女のモタとモタモタよ」 モタ「初 め ま し て 〜」 モタモタ「2 人 共、宜 し く 〜」 この2人は、喋る速度が凄まじく遅い事で有名である。 さやか・まさみ共に、威勢も緊張も吹っ飛んでしまう。 おんぷ「2人共、相変わらずね…」 さやか「えらいスローやな…まさにモタモタや…」 まさみ「名は体を表すって言うけどさ、何か力が抜けちゃう…」 だが顔馴染のおんぷだけは、いたってすまし顔。 おんぷ「これが2人の喋り口なの。すぐに慣れるわ。さ、早く試験始めましょ」 まずは、さやかが指差され、課題が出される。 モタ「じ ゃ 〜 あ な た か ら〜 早 速 〜 行 く わ よ〜」 早速…と言いながらも遅いモタに、浪花っ子・さやかは痺れを切らす。 歩く速度が速かったり、口が良く回ったり、信号を無視するなど、 大阪人には何かとせっかちなイメージがある。 そして、さやかはそのイメージ通りの、筋金入りのせっかちだった。 さやか「ええから早う!」 しかし、2人の試験官魔女の話す速度は、超低速のまま変わらない。 モタ「先 の 尖 っ た 〜…」 さやか「せやから、尖った何?」 モタモタ「牛 乳 プ リ ン 〜」 さやか「そりゃまた、けったいな注文やな〜…」 おんぷ「ふふっ…魔女見習い泣かせの注文は相変わらずね」 これを聞いたまさみは、顔から血の気がサーッと引いていく。 まさみ「おんぷちゃん…こんなの、あたし無理…」 おんぷ「まさちゃん、何とかなるわよ♪」 余裕綽々なおんぷの言葉も、まさみの耳には入らない。 まさみ「何とかって…普通の魔法でもしくじってるのに、こんな注文の多い魔法…」 そうこうしている間に、さやかがポロンを振るう。 さやか「プレサ〜リラティ〜・ペレナ〜エルプラノ!先の尖った牛乳プリン、出ろ〜!」 そして現れたのは、円錐形で真っ白な牛乳プリン。早速、モタがスプーンで一口。 モタ「う 〜 ん♪ 美 味 し い 〜」 モタモタ「合 格 〜」 合格を示す鐘の音が響く。さやかは手放しで大喜び。 さやか「おっしゃ〜!」 おんぷ「まあ、こんな感じで、まさちゃんも頑張って」 まさみ「そんな〜…」 いよいよ緊張で凝り固まった、まさみの番。ところが、そこに駆け込んできた女性が1人… マジョポン「ねえ、テキちゃん見なかった?」 モタ「う ち の テ キ ち ゃ ん 〜?」 突然に飛び込んできた若手の魔女に、おんぷは見覚えがあった。 おんぷ「マジョポンじゃない。どうしたの?」 この魔女の名はマジョポン、魔女幼稚園の保育士である。 ちなみに、テキと言うのはモタの子である。 マジョポン「1人で外に出て、そのままいなくなっちゃったの!」 おんぷ「何ですって!?」 その時、一陣の風が巻き起こり、まさみが箒に跨って空へと踊り出た。 おんぷ・さやか「まさちゃん!?」 大事を察したまさみは何も言わずに、そのまま飛んでいった。 さやか「こら待て〜!」 おんぷ「ちょっ、ちょっと!」 慌てて、おんぷ・さやかも箒に腰掛けて、まさみを追いかけた。 しばらく飛んだ所で、まさみにおんぷ・さやかの2人が、ようやく追いついた。 おんぷ「まさちゃん、ちょっと待って!」 さやか「待てっちゅうんが聞こえへんのか!」 しかし、さやかの声を上回る声が、まさみの口から飛び出す。 まさみ「待てって言われて、待つ馬鹿はいないよ!」 威勢の良いさやかの売り言葉と、それを遥かに凌ぐまさみの買い言葉だ。 勢いに乗ったまさみの舌は、回りだしたら止まらない。 まさみ「あたしは警官の娘!こんな緊急事態に、じっとなんかしてられない! こうなったら試験なんか、くそ喰らえだよ!」 さやか「正義心の固まりやな…」 まさみ「何とでも言うがいいさ!あたしは、あんな目に遭うのは、もう御免なんだから…」 そう言うまさみの脳裏には、父母との死別の時が回想されていた… 回想中… 病院のベッドに、既に事切れた正爺が横たわっている… まさみ「お父さん…なして寝てるの…なして起きないの…?」 まだ幼かったまさみは、事態をよく把握していなかった。 洞爺「まさみ…正爺はな、父さんはな、もう二度と起きないんじゃ…」 まさみ「なして?なしてさ?…ねえ、お母さん…?」 頻りに尋ねるまさみを、もう大人達は哀れとしか思えないのであった… 七恵「うう…可哀想なまさみ…」 真浪「まさみ…これからはお母さんが、まさみとずっと一緒にいてあげる…」 だが真浪は、約束を果たせなかった… まさみ「お母さん…一緒にいるって、嘘だったの…?」 通夜の席、遺影に向かって問うまさみ。 七恵「どうして…どうして真浪さんまで…」 ただ泣き暮れるだけしか出来ない七恵… まさみ「約束したしょや…ずっと一緒にいるって…約束したしょや〜!」 悲痛な叫びだけが、葬儀場に木霊する…それを見つめる洞爺も、下唇を噛み締めた… 洞爺「まさみ…くぅ…」 回想が終わって、まさみの顔付きは、とても悲しげだった。 まさみ「魔女だって人間だって同じ…大切な誰かがいなくなれば心配する… 勿論、万一の事があれば尚更の事!命が1つである事に、変わりはないんだから! あんな悲しい思いをするのは…あたしだけで十分だよ!」 まさみは言葉の上では強がってこそいたが、その瞳の中は涙で満たされていた… 二親を亡くしているのは先刻承知のおんぷ・さやかは、まさみの悲痛な気持ちを察していた。 おんぷ「まさちゃんの気持ちは分かったわ…でも、闇雲に探すだけじゃ…」 まさみ「探さないより、幾分かましだよ!」 しかし、まだまだ高ぶっているまさみに、おんぷの声までもが自然と大きくなる。 おんぷ「そうじゃないわ!まさちゃんも魔女見習いなのよ!魔法が使えるのよ!」 まさみ「魔法…そっか!」 言われてすぐに、まさみはポロンを手に、呪文を一息で唱えた。 まさみ「ポクセル〜カソペ〜・トワラ〜エクセルス! お願い!いなくなった子の居場所、あたしに教えて!」 その叫びが響くと、微かに風が吹いて、まさみの前髪を揺らした。 まさみ「…こっちか!」 すぐさま、まさみは風の吹く方に方向転換し、再加速した。 おんぷ「ちょっ、ちょっと!」 さやか「もう!ええ加減にせぇ!」 微風に気が付かなかった2人は、まさみの後を必死で追い、まさみに加速の訳を尋ねる。 おんぷ「どうして方向が分かったの?」 まさみ「さっき、あたしの魔法で風が吹いたの!風は図形で表せば一本線! それが方向を示すとしたら、風上か風下のどっちか! その両延長上に精神を集中したっけ、風下でドンピシャ! そうなりゃ、追い風に乗るだけっしょ!」 さやか「お〜!まさちゃんの魔法、とちってへんやん!」 今まで魔法では失敗ばかりだったまさみだが、確かに今回の魔法は上手くいっている。 おんぷ「いざって時には、ちゃんと使えるのね」 まさみ「御託は後で聞く!もうそろそろ追いつくよ!」 そして眼下を見ると、テキの姿が見つかった。 まさみ「目標、確認!」 さやか「ビンゴ!」 見つけた喜びのあまり、さやかは指をパチンと鳴らした。 おんぷ「でも、ちょっと待って!」 そう叫んだおんぷの指差した先には、切り立った崖と谷川。 おんぷ・さやかの顔が、見る間に青く染まっていく。 しかもテキ本人は気付いていないらしく、そのまま進もうとする。 その時、まさみは箒の上で右の膝を立てて、やや下方向を向いていた。 まさみ「危ないっ!」 テキ「だぁ?」 しかし気付くのが遅かった。テキの体は重力に従って、崖の下へと向かおうとする。 そしてテキが宙に投げ出されると同時に、まさみは… 何と、跨っていた箒を蹴り飛ばして、頭から真っ逆さまに急降下。 おんぷ・さやか「まさちゃん!!」 これには、残された2人は思わず大声を上げた。 まさみ「(浮力を伴う箒で降下するより、あらかじめ加速をつけた重力落下の方が速い!)」 重力のままに、高速で落ちていくまさみ。灰色のとんがり帽子だけが、その場に残された。 その帽子を、さやかが掴まえて、おんぷに手渡した。 さやか「おんぷちゃん、パス!…ったく、とことん手間掛けさせんねんな!」 その間に、まさみは空中でテキを抱きかかえ、我が身を下に向けていた。 まさみ「(下は川、水で衝撃を和らげれる!あたしが身を挺せば…この子だけは助かる!)」 捨て身のまさみは最早、自分までも助かろうとはしていなかった…その時だった。 さやか「プレサ〜リラティ〜・ペレナ〜エルプラノ!2人を助けて〜!」 すると、まさみは頭を下に宙ぶらりんの状態で、落下が止まった。 まさみ「…え?」 よく見ると、まさみの右足に紐が括り付けられ、その先には大きな風船が浮いていた。 まさみ「風船…?」 セミロングの先端は下を向き、川風に揺れる。 そして上からゆっくりと降りてくる、おんぷ・さやか。 さやか「ふ〜…間に合(お)うた〜…」 まさみ「さやちゃんか…ありがと、助かった」 おんぷ「まさちゃん、大丈夫?」 まさみ「うん、お陰様で…おんぷちゃん、この子、頼めるかな?」 おんぷ「ええ…さやちゃん、まさちゃんの帽子、渡してあげて」 さやか「はいな」 おんぷはまさみからテキを受け取り、まさみは逆さまのままで、さやかから帽子を受け取った。 まさみ「さてと…ん?」 よく見ると、おんぷが顔を赤らめていた。その訳を、まさみは尋ねてみた。 まさみ「おんぷちゃん、なして顔真っ赤にしてるの?」 右手にテキを抱きかかえ、両目を左手で覆った状態のおんぷは、 どうして気付かないのか…といった気持ちだった。 おんぷ「まさちゃん…自分のスカートがどうなってるか、気付いてる?」 上下逆さまで宙ぶらりんなのだから、まさみの見習い服のスカート部分は… 当然ながら、そして恥ずかしながら…重力に従って捲れていた。 まさみ「ああっ!!」 途端に赤面しながら、まさみは左手で帽子を抱きかかえ、右手でスカートを直そうとする。 そんな風に慌てふためく様子を見て、さやかは腹を抱えて大笑い。 さやか「あはは…何やっとんねんな〜…あはは…」 まさみ「さやちゃん!!」 さらに顔を真っ赤にして、まさみが怒鳴る。 おんぷ「笑っちゃ駄目じゃない。こういう状態にしたのは、さやちゃんでしょ?」 さやか「あっ、せやった…」 おんぷ「さやちゃんの魔法、咄嗟に使ったにしては良かったけど、 もうちょっと、括り付ける場所を考えてほしかったわね」 さやか「う〜…それもそうやな〜…あはは…」 少し嫌味な目で、さやかを見つめるおんぷ。 さやかは後頭部に手をやって、申し訳無さそうに笑った。 まさみ「それとそろそろ、あたしの箒に戻ってきてもらわないとね… このままじゃ頭に血が上っちゃうし、何よりスカートが…もう!嫌になっちゃう!」 捲れるスカートを抑えながら、必死なまさみ。 それを見ながら、おんぷ・さやかも苦笑いしていた。 そして再び、モタとモタモタの所へ戻る。 モタ「テ キ ち ゃ 〜 ん! 心 配 か け た ら 駄 目 じ ゃ な 〜 い!」 テキ「う〜…」 そして、もう既に諦めている感を漂わせるまさみが、試験官魔女に催促する。 まさみ「さてと、さっさと宣告しちゃって。あたしの合否判定…」 モタモタ「じ ゃ 〜 言 わ せ て も ら う わ 〜 …」 まさみ「(あ〜あ、真面目一徹で通してきたあたしが、試験すっぽかして不合格か…)」 しかし、ここで思いも寄らない結果が返ってきた。 モタモタ「飛 び 級 で 7 級 合 格 〜」 まさみ「ええっ!?」 自分の思いとは裏腹な返答に、当然ながら吃驚仰天するまさみ。 隣のさやかも、全くもって信じられない様子。 さやか「まさちゃん、何ズルしたん?」 不正行為を疑うさやかに、正義感の強いまさみは、これを全力で否定して叫ぶ。 まさみ「してませんっ!」 しかし、おんぷだけは違った。特に驚きもせず、まさみに向かって冷静に説明をし始める。 おんぷ「人助けをしたし、的確に魔法を使えてたからよ」 モタ「テ キ ち ゃ ん を 探 す 時 〜 魔 力 を 感 じ 取 る 力 と 〜 魔 法 と を 〜 上 手 く 組 み 合 わ せ て 使 っ て た か ら 〜」 まさみ「そっか…って、あの様子、見られてたんだ…」 さらに、さやかには、もっととんでもない事実が待っていた。 モタモタ「そ れ に 〜 あ な た も 7 級 合 格 〜」 さやか「ほええっ!?うちも!?」 おんぷ「あら?まさちゃん達を助けるのに咄嗟に使った魔法… あれ、9級程度じゃ済まないわよ?」 さやか「あっ、そうなん…って事は、おんぷちゃん気付いとったな〜!」 おんぷ「てへっ♪バレちゃった」 やはり経験豊富なおんぷは、2人が共に飛び級合格する事を予想していたようだ。 まさみ「それじゃ…あたしの心配は一体…」 おんぷ「だって、まさちゃんったら自分が落ちるって思い込んでるんだもん。 私は分かってたけど、本当の事なかなか言いにくくてね」 まさみ「おいおい…」 可笑しそうに笑うおんぷに、まさみはガックリと肩を落とした。 モタ「そ れ じ ゃ 〜 あ な た 達 に 〜 渡 す 物 が あ る わ 〜」 さやか・まさみ「えっ…?」 おんぷ「(ついに来たわね…今回のお楽しみ…)」 この後の展開が読めているおんぷは、面白そうに微笑んでいた… さやか・まさみに手渡されたのは、さやかのは緑の、まさみのは灰色の水晶球… 2人が見入っていると、それぞれの球から、てるてる坊主に手の生えたような格好の、 これもまた、言葉で形容のしがたい生物が浮かび出てきた。 おんぷ「その子達が、2人の妖精よ」 さやかの方には、さやかにそっくりなツインテールで、緑色の服を纏った妖精。 まさみの方には、まさみ同様のセミロングで、灰色の服を着た妖精が現れた。 さやか「ほえ〜…これが、うちの妖精…」 まさみ「なるほど、確かに魔力の固まりだ…」 2体の妖精は主人を確認し、それぞれ主に擦り寄る。 そして、まずは緑色の妖精の方から第一声を上げる。 ??「ティ〜!」 さやか「ほえ?」 ??「ティ〜!ティ〜!」 緑色の妖精は嬉しそうに、さやかの周りを飛び回る。 おんぷ「もう懐かれちゃったわね、さやちゃん」 さやか「えへへっ…それにしても、さっきからティ〜ティ〜ばっか言うとるな… よっしゃ!あんたは『ティティ』や!」 ティティ「ティ〜♪」 共に喜び合うさやか・ティティを横目に、まさみは呆れている。 まさみ「そんな安易な名前の付け方…」 おんぷ「あら、私のロロだって、最初はロロしか言わなかったのよ」 まさみ「え…」 思わず固まってしまったまさみに、灰色の妖精が不思議そうに近付いてくる。 ??「ソ〜?」 まさみ「ん?」 ??「ソ〜…ソソ…」 まさみ「そっか、呼び名がいるか…みんなに倣うとすると…『ソソ』でいいのかな?」 ソソ「ソッ!ソソッ!」 満足そうに何度も頷くソソを見て、まさみも笑みを浮かべた。 まさみ「うん、嬉しいか…そいつは良かった」 さらに、その隣では、おんぷが微笑を浮かべていた。 おんぷ「うふふ…何だかんだ言って、まさちゃんも嬉しいんじゃない」 まさみ「おんぷちゃん…ふふっ、実を言うと図星」 ソソ「ソソッ」 恥ずかしそうに頭を掻くまさみと、その真似をするソソ。 おんぷ「あら、やっぱり妖精は主人に似るわね。その内、も〜っと似てくるわよ」 さやか「そうか〜…そりゃあ楽しみやな〜… そう言えば、ロロみたいに喋れるようになるんは、いつなん?」 ティティ「ティ〜?」 さやかの真似をして、ティティも首を傾げる。 おんぷ「それには1級に合格しないとね」 まさみ「なるほど…喋れるようになると、余計に主(あるじ)に似てくる訳だ」 おんぷ「そういう事。早く妖精と、お喋りが出来るように頑張ってね」 さやか・まさみ「うん!!」 ティティ「ティ〜!」 ソソ「ソ〜!」 翌日、駅から遠近学園へ通学路を歩む3人。 おんぷ「2人共、おはよっ♪」 さやか・まさみ「おはよ〜!!」 明るく挨拶する2人の通学鞄には、それぞれ緑と灰色の水晶球が、 キーホルダーの様にぶら下がっている。その中には… ティティ「ティ〜♪」 ソソ「ソソ?」 昨日2人の元にやって来た、それぞれの妖精が、ちんまりと収まっていた。 おんぷ「とりあえず、言われた通りには出来てるわね。 その水晶球に妖精を入れておけば、他の人からは見えないわ」 まさみ「正確には、ある程度の魔力を持ってない人に限って、見えないんだけどね」 さやか「はいはい、難(むず)い理屈は後回しや… ティティ達が自分で消えられるようになるまでは、これに入れなあかんねんな?」 おんぷ「でも、使わないで済むように、早く姿消せるようにね」 そう言って、おんぷはティティ・ソソの入った水晶を突付いた。 おんぷ「それと、妖精に出来る事は、まだまだあるわ。色々教えるから、ちゃんと覚えてね」 さやか・まさみ「は〜い」 おんぷ「(さてと…これから色々と騒がしく、さらに忙しくなるわね…)」 こうして、さやか・まさみに新たなパートナーが誕生し、おんぷの心意気も上々で あった… 次回予告 おんぷ「さやちゃんと、まさちゃんが妖精を貰いました。私としても嬉しいです☆」 さやか「さらに楽しい事が待ってんで〜!」 まさみ「部活動の勧誘が盛んになって、各部で見学が出来るようになってるね」 おんぷ「で、私達は何部に入る?…次回、おジャ魔女おんぷTriple‐S(トリプル・エス) 『部活動見学、響け3人のハーモニー♪』 私達3人の奏でる音楽は、どんな音色かしら?」 まさみ「あの〜…それだけで部活が分かっちゃう気もするんだけど…」 さやか「まさちゃん、その辺はツッコんだらあかんわ…」 おんぷ「とりあえず次回も、プ〜ルルンプルンすずやかに〜」 3話端書き さやか&まさみの初の見習い試験、さらには妖精登場! さて筆者は、ティティ&ソソの出番を作ってやれるのか?(爆) とりあえず、ティティ&ソソの解説… ティティの名前の由来は、音階の「シ」ですが、シシじゃ言いづらいので、 正確に発音すると「Ti(ティ)」なのを利用して、ティティになりました。 ソソは言わずもがな、音階の「ソ」そのまんまです。 勿論、本編で使用済みの「ド」「レ」「ミ」「ファ」「ラ」を避けてます。 で無印9話の、妖精が水晶に隠れるってシーン、使わせてもらいました。 こんな調子でも妖精の出番、作らないと…ねぇ(汗) 今回も本編キャラが… 試験と来たら、お馴染みモタ&モタモタのコンビ出さない訳に行かないでしょう(笑) マジョポンとテキも出てますが、こだわった点は特に無し…(おい) あ、今回はクラスメイトが結構出てきましたので、そちらの説明も… 加藤めい…加藤首相は大正期に2人実在し、その内の「高明(たかあき)」の方を使用。 そして、高明の「明」を「めい」と読み替えただけ。 ちなみに、もう片方の加藤首相は「友三郎」と申します。 寺内たけこ…寺内首相も大正期で、ビリケン宰相とも言いますw 「正毅(まさたけ)」の「毅」を取って、「たけ」を冠する名前という事で… 東久邇なるみ…東久邇宮首相は終戦直後、54日間と最も短命内閣で、 さらに唯一の皇族首相だったりと、記録尽くしだったりします。 まず、東久邇宮(ひがしくにのみや)から宮だけ取って、 「稔彦(なるひこ)」の「稔」から、「なる」を冠する名前にしました。 まさみのチラリズムは…筆者からのサービスのつもりでw どんな様子かは、皆様ご自由にご想像…もとい、ご妄想下さいませ(爆)