夏休み…多くの学生にとって、最も楽しい時期であろう。 
さやか「夏休み♪夏休み♪」 
休み前最後の授業を終えた帰り道。ご多分に漏れず、さやかは大はしゃぎだし、おんぷも上機嫌。 
おんぷ「さやちゃんとまさちゃんがいる夏休み…何だか楽しくなりそう」 
ただ1人だけ、まさみは… 
 


『夏のまほう・Triple-Sとカエル石』
まさみ「…暑い」 普段から騒ぐ玉ではない上に、北海道育ち故、関東の暑さに喘いでいる模様。 さやか「ほへ〜…まさちゃんが、へばっとる…」 おんぷ「埼玉の方だったかしら?最高気温の記録、更新しそうなんだって」 そんな事を言われては、まさみは余計に暑さが身に応える。 まさみ「おんぷちゃん…最近、意地悪するようになったよね…」 おんぷ「てへっ♪まあ、それは置いといて、旅行の準備は出来てる?」 さやか・まさみ「勿論!!」 声を揃えるさやか・まさみに、おんぷも笑顔を向けた。 おんぷ「マジョルカに言って、私達3人のオフは一緒にしてもらったし、     後は、どれみちゃんの田舎に行く日を心待ちにするだけね♪」 さやか・まさみ「うんっっ♪♪」 おんぷの大親友・どれみの父方の実家は、岐阜の高山にある。 小学5年の時、おんぷも春風家に同行して訪れた事がある。 無論、連れて行ってもらったのはMAHO堂メンバー全員だ。 当時ハナのみは幼児だったため、美空にて留守番だったが… そして今年、どれみの案で同窓会を兼ねて、再び飛騨高山に行く事になった。 さやか・まさみの参加を、おんぷが提案した所、誰も反対する訳がなかった。 3人の仕事の都合については、マジョルカに処理、もとい尻拭いをさせる事になったが… そして当日、名古屋駅… どれみ「中学生になって、初めての夏休み…こうして、みんなと一緒にいられるなんてね」 はづき・あいこ・おんぷ・ももこ・ぽっぷ「ね〜」 どれみ「それに新しい面子も加わったし…楽しもっか!」 さやか・まさみ「うんっ!!」 春風家4人だけなら、父・渓介の運転する車で移動する方が、小回りが利く。 しかし、この大人数では乗り切れないため、移動の主体は列車となった。 はづきは中学は違えど美空市内なので、春風家と共に美空を出発。 おんぷ・さやか・まさみの3人は、大空市から出発して東京駅で合流。 ももこはNYから国際線で成田空港、さらに列車で東京駅へ出てきて合流。 東京駅から新幹線で名古屋駅、ここで大阪から来たあいこと合流して、全員集合したのだった。 あいこ「ごっつ高いビルやな〜」 駅に併設されたビルを見上げるあいこに、はづきが解説開始。 はづき「セントラルタワーズっていって、54階建てで245mもあるのよ。     駅ビルとしては世界一高くて、ギネスに記録が載ってるらしいわ」 これを聞いて、最年少のぽっぷが跳ねた。 ぽっぷ「凄〜い!行ってみたい!行ってみたい!」 どれみ「駄目だって、次の列車の時間まで、あんまり無いんだから」 さやか「ちぇ〜…」 妹を宥める姉に返事をしたのは、何と他人だった。これを見て、ももこが大笑い。 ももこ「アヒャヒャヒャ」 さて、遠足気分なのはいいが、そろそろ移動しなければ。 渓介「ここから高山線の特急に乗り換えるんだ。えーと…何番線からだったっけ?」 ド忘れした渓介を、おんぷがすかさずフォロー。 おんぷ「高山線の岐阜・高山・富山方面は11番線ですね」 以前に夜行列車で大阪へ行った時のように、今回も鉄道系は、おんぷにお任せ。 はるか「流石おんぷちゃんね。それに比べて…ねぇ、あなた」 険悪な顔の妻に肩を叩かれ、渓介は父親の威厳ゼロ… 渓介「あはは…はぁ…」 11番ホームへ移動すると、既に列車は入線していた。 側面は銀色のステンレスが光り、窓枠下部にオレンジの帯が回っている。 ももこ「Wow!」 さやか「ほへ〜!」 ぽっぷ「格好いい〜!」 歓声を上げる面々だが、どれみは少しぽっぷに文句があるようだ。 どれみ「ぽっぷったら、新幹線の時も全く同じ事言ってたじゃん」 ぽっぷ「こっちのほうが、もっと格好いいの!」 言い合う春風姉妹を横目に、先程はづきに出番を取られたお返しとばかりに、おんぷの解説。 おんぷ「85系特急型気動車…この列車の一番の特徴は、窓が大きい事よ。     観光路線の車窓を余す事なく楽しめるように、こうして大きく設計されてるの。     そして先頭車は、抜群の前面展望が自慢のパノラマカーなのよ。     ただグリーン車だから、ちょっとお値段が…ね」 割高である…そう続くのだ。予算の都合上、今回一同が乗るのは、残念ながら普通車。 ぽっぷ「ねえ、おんぷちゃん…新幹線の時も、そうだったけどさ、     おんぷちゃんって、凄い物知りなんだね。あたし、感心しちゃったよ」 おんぷ「あ、それはね…」 まさみ「お父さんのお仕事が、寝台特急の運転手だから…」 先に結論を、まさみに言われてしまったおんぷ。 おんぷ「まさちゃん…それ言っちゃ駄目」 あいこ「お〜い、早(はよ)乗らんと、列車出てまうで〜」 そうこうしている間に、列車は名古屋駅を定刻通りに発車した。 名古屋から最初の停車駅・岐阜を過ぎると、市街地から山間部へと車窓も移り変わってきた。 線形の関係で、岐阜からは進行方向が逆転したが、どれみ達は一向にお構いなし。 回転クロスシートを向かい合わせて、持ってきたトランプで大富豪を始めた。 大富豪と呼称する場合が多いようだが、逆に大貧民と呼ぶ事もあり、地方ルールも多いゲームだ。 シートを向かい合わせにして、ももこ・あいこ・さやか・どれみがプレー。 通路を挟んで隣の席には、残りの面々が陣取って、このような配置になる。 渓介  はるか 通 ももこ あいこ   はづき ぽっぷ どれみ さやか 路 まさみ おんぷ ももこ「6だヨ」 あいこ「おっしゃ、9や」 さやか「ほなJ…あ、ジャックバックあり?」 どれみ「え?」 横方向から説明を買って出たのは、やっぱりはづき。 はづき「Jを出したら、流れるまで小さい数を出すルールよ」 あいこ「構へん、やったれやったれ」 どれみ「嘘〜!じゃあ、あたしJより小さいの出さないと駄目じゃん!」 ももこ「小さい方が出しやすいと思うヨ」 どれみ「え〜…あたし、後が辛くなりそう…」 また通路の向こう側から声が来るが、今度の声の主はまさみだ。 まさみ「どれみちゃん、下手に喋ると手札の状況バレるよ」 あいこ「まさちゃんに言われんかて、どれみちゃん大きいの持ってへんのは知っとんで」 どれみ「げっ(それ、当たってるんだけど…)」 ここで、まさみに目をやると、どれみの方を見ずに声を掛けていた。 代わりに、何やら書き込まれた手帳を熟読している。 おんぷ「まさちゃん、何読んでるの?」 まさみ「ああ、これ?今回の旅行の予習」 どれみ・はづき・あいこ・おんぷ・ももこ・ぽっぷ・さやか「予習?」 他の全員が驚くが、まさみは至って涼しげな顔。 まさみ「だって行く先の事、色々と知っときたいしょや?」 どれみ「それって、行ってから知るもんじゃないの…?」 するとここで、ももこがどれみに催促する。 ももこ「それより、どれみちゃんの番だヨ。早く出してヨ」 どれみ「ちょっと待ってよ〜…まさちゃん、そのまま話して」 あいこ「あたしらも聞いとるから…おっ、どれみちゃん、そんなん出してええんか?」 どれみ「ええっ!?じゃあ、ちょっと待って〜!」 さやか「何アホな事言うてんねん!待った無しやて」 どれみ「あぁ〜…あたしって世界一不幸な美少女だ〜…」 トランプ組は、話を聞きながらも大富豪を続行。どれみが圧倒的に負けているのは一目瞭然だ。 残りのメンバーは、偶然にも成績の中から上の優等生が集まっていたため、 まさみの予習内容について、話に花が咲き始めた。 はづき「それで、どんな事を調べてきたの?」 ぽっぷ「教えて教えて!」 まさみ「いいよ。まず高山市について…岐阜県高山市は、日本一面積が広い市として有名。     いわゆる平成の大合併で、周辺9町村を吸収合併したんだよ。     日本一広い町・北海道足寄町、日本一広い村・奈良県十津川村よりも広いしね。     それどころか香川県と大阪府は、都道府県なのに面積では高山市に負けるんだから。     ただ高山市は、約90%が山林で占められてるっていう落ちがついてるけどね」 手帳に書き込んだ項目を、はづき・おんぷ・ぽっぷに説明したまさみ。 ぽっぷ「すっご〜い!」 はづき「よく調べたわね」 おんぷ「だって(私の♪)まさちゃんだもん」 自分の子供を自慢するかのような様子のおんぷ。流石に「私の」は口にしなかったが。 まるで、おんぷに私物化されているようだが、まさみも満更ではないようだ。 まさみ「もう、照れるしょや…(まあ、悪い気はしないけどね)」 さやかが笑う。まさみが微笑む。見ていて嬉しい筈なのに、おんぷの心は晴れなかった… しばらくして、おんぷが席を立った。 おんぷ「ちょっと、ごめんね…」 はづき「おんぷちゃん、おトイレ?」 おんぷ「え、ええ…」 デッキへ出ていく際、おんぷの歯切れが良くなかったのを、さやか・まさみは聞き逃さなかった。 まさみ「…ごめん、あたしもお手洗い」 立ち際にまさみは、予習した手帳をぽっぷに渡した。 まさみ「ぽっぷちゃん、これ読んで暇潰してて」 ぽっぷ「いいの?やった〜♪ありがと〜」 まさみもいなくなると、さやかも連鎖反応か、そわそわし始めた。 さやか「うちも、ついて行こかな…」 ももこ「さやちゃんモ?」 さやか「あ、うちはトイレ違(ちゃ)うねん」 どれみ「じゃあ駄目!まだ終わってないんだから!」 負けっ放しのせいか、機嫌の悪いどれみ。今の順番は、どれみからさやかへ、という所だが… さやか「ほな…どれみちゃん、何でもええから出して」 どれみ「何でもいいの?じゃあA!これでどうだ!」 2もしくはジョーカーが出なければ、どれみが流して次の親になるのだが… さやか「ジョーカー流して、8切りで流して、4・5・6の階段で上がりや♪」 ジョーカー、8、4・5・6の順で、さやかはポイポイと手札を捨てた。 5枚も残っていた手札を、さやかは鮮やかに纏めて流してしまったのだ。 ジョーカーが最強のカードというルールは、ほぼ全国的に広まっているそうだ。 渡し船として有名な「矢切(やぎり)の渡し」を洒落た8切り(やぎり)は、別名を8流し。 8を出せば無条件で流して、8を出した者が次の親になるルールだ。 連続した数字を一度に出す階段、これは3枚以上で組めるというルールが多いらしい。 ももこ「Wonderful!」 あいこ「うわ!さやちゃん上がってもうた」 どれみ「やっぱ、あたしって世界一不幸な美少女だ〜…」 落ち込むどれみの肩を叩いて、さやかは席を立って、おんぷ・まさみの後を追う。 さやか「元気だしや〜♪ほな」 デッキへ出て、ドア窓から見える景色を眺めるおんぷ。 おんぷ「はぁ…」 そこに、さやか・まさみもやって来た。 まさみ「おんぷちゃん」 さやか「どないしたん?」 おんぷ「あ…2人共…」 振り向いたおんぷの後ろを、小さな駅舎と行き違いの普通列車、という景色が飛んでいった。 おんぷ「2人は私とは違うんだな…って思ったら、何だか…」 駅を通過すると、車窓は再び緑の山並みと美しい渓谷に戻った。 おんぷ「私が売れっ子でいられる訳、2人は分かる?」 簡単なようで難しい質問だ。さやか・まさみは疑問符を浮かべていた。 さやか「…ほへ?そりゃあ、可愛えからやろ?」 まさみ「歌や演技が上手いから…とか?」 おんぷ「それだけじゃないわ。歌っても演じても、それを見てくれる人…     私を、熱心に、そして一生懸命に応援してくれる人達がいる。     だから私も、その人達のために頑張れるし、一生懸命になれる。     そういう人達が居なかったら私は、ただの女の子なのよ?」 返事に困る2人。無言でいた所、サラリーマン風の男性が携帯電話を片手に現れた。 男性「毎度どうも…はい、その件につきましては…」 出張中だろうか、先方から電話が掛かってきて、慌ててデッキに出てきたという感じだ。 そして3人の先客に気付き、声のトーンを少し落とした。 しばらく会話した後、男性は携帯電話を仕舞いながらデッキを後にして、再び静寂が戻った。 その静寂な空気を壊さずに、おんぷは話を再開した。 おんぷ「私は、誰かがいるから輝ける…太陽の光を受けて光る、月みたいに…     誰かがいないと私は、光も何も無くて、存在すら分からない…     でも2人は、月より小さくても、自分で光を放って輝ける星…そう思った…」 少しシリアスな表情のおんぷに、やはり2人は何も言えずにいた。 おんぷ「私が、4年生になったばかりの頃の事…あんまり話してないわよね。     どれみちゃん・はづきちゃん・あいちゃん…3人共、凄く仲良くってね…     あの頃の私、それまで嫌な事ばかりしていたのに、とっても優しくしてくれたの。     だけど…3人のそういうのが私、何だか逆に嫌だったの。     いつも私だけに気を遣って、まるで他人行儀みたいで…     でもね、気付いたの…それって、ただの私の焼餅だって…     みんなは純粋に私と、本当に仲良くなろうとしてくれているのに、     私ったら、何つまらない意地を張っているんだろう…って」 意外だった…さやか・まさみの今の心中を表すならば、この一言に尽きるだろう。 最初こそ、いざこざはあっただろうが、すぐに打ち解けて仲良くなった… さやか・まさみ共に、そうであるとばかり思っていた。 まさかおんぷが、そんな風に悩んでいたとは、夢にも思わなかった。 さやか「おんぷ…ちゃん…」 まさみ「そう…だったんだ…」 おんぷ「2人が、みんなと仲良くしてるの見て私、何だか羨ましかった…     私がみんなと仲良くなるのに、色んな事を考えて、そして1人で悩んで…     自分の中で折り合いがつくのに、凄く時間が掛かったのに…     さやちゃんも、まさちゃんも、私の何倍もの速さで、みんなと仲良くなって…     私が埋めるのに苦労した空間を、あっという間に2人は乗り越えて…     気付いたら、どれみちゃん達と最初から、一緒にいたみたいになってて…」 要するに、さやか・まさみとの違いを、おんぷは痛烈に感じていたのだ。 月のように己だけでは輝けないおんぷと、星のように自分で輝くさやか・まさみ… どれみ達と大親友になるのに時間を要したおんぷと、もう既に仲間になってしまった2人… そんな2人が羨ましく、そして自分が情けなくなって… さらに心配をかけまいと平静を装おうとした、おんぷの心中…察するに余りある。 おんぷ「2人共、凄いわよね…それに比べて、私なんか…」 さやか・まさみ「そんな事ない!!」 おんぷ「…え?」 それまで押し止めていた感情が破裂して、2人の口から同時に溢れ出た。 さやか「うちらはうちら!おんぷちゃんはおんぷちゃんや!」 まさみ「そうだよ!自分を過小評価しすぎ!」 さやか「おんぷちゃんは、うちらよりもええ所、言い切れんくらい仰山ある!」 まさみ「そんな自信無くして、弱気になってるおんぷちゃんなんか、おんぷちゃんじゃないよ!」 とまあ、感情に任せて叫んだ後は、微笑みを伴って優しげに語りかける。 さやか「おんぷちゃんが悩んで、うちらが悩まへんのは、うちらがアホなだけやで」 まさみ「おんぷちゃんが月だって言うなら、あたし達が及ばずながら照らしてあげるって」 おんぷ「さやちゃん…まさちゃん…」 2人の笑顔が、渓流に反射した夏の日差しに照らされて明るかった… おんぷ「(何で私、こんなつまんない事で悩んでたんだろう…      2人の、とびっきりの笑顔を見てたら、不思議と迷いがフッと消えてっちゃった…)」 いつしか、おんぷの頬も緩んでいた。 おんぷ「ありがとう…てへっ♪」 どうやら吹っ切れたご様子。さやかはガッツポーズして喜び、まさみも笑窪が出た。 さやか「よっしゃ!いつもの『てへっ♪』出た!」 まさみ「これで一件落着だね」 おんぷ「(何だか、前よりも笑える気がする…私、2人の魔法に掛かっちゃったのかな…      さやちゃんと、まさちゃんの…夏のまほう…♪)」 列車の足が、徐々に遅くなってきた。 放送「ご乗車お疲れ様でした。まもなく高山です。高山では後ろ3両、切り離しとなります。    1号車から3号車は当駅止まり、8号車から10号車が終点・富山まで参ります。    2号車の自由席にご乗車で、飛騨古川・猪谷・越中八尾・富山へおいでのお客様、    いらっしゃいましたら、ご面倒ですが前側9号車の自由席へご移動下さい…」 運用の関係で、6両編成の後ろ半分が切り離されるため、誤乗の無いように放送がなされる。 高山止まりと富山行きと行き先が違うため、号車も1〜3・8〜10と変則的になっている。 どれみ「わあぁ、降りる支度しなきゃ〜!」 はづき「どれみちゃん、慌てなくても大丈夫よ」 おんぷ「切り離しに時間が掛かるから、4分の停車よ」 ぽっぷ「もう、お姉ちゃんったら…」 こうして、高山駅に到着。ここで後部3両を切り離すための係員が待機していた。 乗降の間に係員によって連結器が解放されるのを、興味津々に見つめる面々も。 まさみ「連結器って、1本じゃないんだ…」 あいこ「ほんま、チューブとかごちゃ混ぜになっとんねんな」 おんぷ「それはね、ブレーキや電気関係の管よ。これが全部ちゃんと繋がってないと駄目なのよ」 さやか「うちやったら、絶対どっかで間違えて繋ぎそうや…」 発車時刻となり3両の身軽になった編成は、雄大な山々をバックに富山を目指して走り去った。 渓介「さて、次はバスだぞ」 はるか「今度は私が調べておいたから、安心してついて来てちょうだい」 名古屋で乗り場をド忘れしたのを、よっぽど根に持っているらしい。 渓介「…おいおい」 高山自動車興業なる地元のバスの、大瀧温泉行に揺られる事、数十分… 赤錆びた看板のバス停から降りて、しばらく田舎道を歩いて行くと… どれみ「着いた〜!」 さやか「ほへぇ…今時こんな家あるんやな…」 まさみ「こいつは風流だね…」 山間の集落に古民家で居を構えるのが、春風雄介・陸の夫妻。渓介の両親である。 渓介「悪いな…親父、お袋。また大勢で押し掛けちまって」 雄介「いやいや、よく来た」 どれみ・はづき・あいこ・おんぷ・ももこ・ぽっぷ・さやか・まさみ 「お世話になりま〜す!!!!!!!!」 陸「おやまあ、新しいお友達も増えて…さあさ、荷物を置いてらっしゃい」 ぽっぷ「さやちゃんとまさちゃんには、あたしが部屋の案内するね」 どれみ「ぽっぷったら何、生意気言ってんだか」 ここからは、楽しい事が目白押し。さて、何から手を付けるのかと思ったら… まずは春慶塗を生業とする、雄介の職人技を拝見。 さやか「塗りもんが仰山…」 はづき「さやちゃん、漆器って言うのよ」 木地に漆を塗って仕上げるため、「塗り物」「漆器」と呼ばれる。 ももこ「英語では磁器をChina、漆器をJapanって言うヨ」 欧米では磁器は中国、漆器は日本の特産品とされていて、このような愛称があるそうだ。 まさみ「高山の伝統工芸品、飛騨春慶塗ですね」 雄介「おお、よく知っておるのぉ」 まさみ「飛騨春慶は、秋田の能代春慶・茨城の粟田春慶と並ぶ、日本三大春慶塗の1つで、     今は統合で経産省になったけど、昔の通産省から伝統的工芸品指定も受けてる。     材料の木目を吟味してから、木地師が形にして、こうして塗師が塗り上げる…」 雄介「そうじゃ。儂ら塗師は、木地師の苦労を無にせぬよう、心して塗らんとならん」 このように日本の伝統工芸の中には、何人もの職人の手を経て完成する品が少なくない。 まさみ「江戸時代、木の多い山国・飛騨で生まれ、他の漆器と違って木目を活かす春慶塗は、     各国の諸大名に珍重され、徳川将軍家にも献上されたとか…」 江戸時代ともなれば、まさみの専門分野である。予習は完璧だ。 どれみ「しょ、将軍!?それって凄くない?」 ぽっぷ「お爺ちゃん、本当なの?」 雄介は漆を塗りながら、黙って頷いた。 はづき「まさちゃん、予習の成果が出たわね」 ももこ「お爺ちゃんも凄いけど、まさちゃんも凄〜い!」 あいこ「もしかしたらまさちゃん、お爺ちゃんに弟子入り出来るんと違(ちゃ)うか?」 まさみ「ちょっとちょっと、知識と腕は別だよ」 遠慮するまさみに、おんぷの悪戯な笑みが向けられる。 おんぷ「あら?まさちゃん、手先は器用だったと思ったけど?」 さやか「せやせや。この際やから、後継ぎにしてもらいーな」 この2人に攻められるのには、どうしても弱いまさみ。 まさみ「もう…煽てるのも、その辺にしてよ…」 作業の手を進めつつも、静かに笑みを浮かべる雄介。 それを見て、少々驚き顔で囁き合う春風姉妹。 ぽっぷ「お姉ちゃん…お爺ちゃん、笑ってる…」 どれみ「あの頑固なお爺ちゃんが笑うなんて、滅多に無いんだけどね…」 陸「さて、また今年もみんなで、おやつの水羊羹でも作ろうかのう」 今度は陸が、水羊羹作りをご教授してくれるとの事。 どれみ「分かった!着替えてくるね!みんな、行こう!」 家の裏手に立ち並ぶ8人だが、新参の2人だけ仔細が掴めていない様子。 さやか「何や何や?」 まさみ「水羊羹作るってのに、なしてこんな所に?」 おんぷ「まあ見てて♪」 その間に、どれみが明るく元気に踊っていた。 シュッシュ♪ どれみ「プリティ〜ウィッチ〜どれみっち〜♪」 ますます訳が分からない2人をよそに、どれみの魔法が炸裂。 どれみ「ピ〜リカピリララ・ポポリナペ〜ペルト!みんな、パティシエ服になれ〜!」 お菓子作りとなれば、コスチュームはこれしか無かろう。 そして、ぽっぷ・さやか・まさみの3人は、パティシエ服初体験となった。 どれみ「成功、成功!」 はづき「ぽっぷちゃん、似合ってるわよ」 ぽっぷ「えへへ」 おんぷ「さやちゃんも、まさちゃんも、なかなか決まってるじゃない」 さやか「せやろ?うちも気に入った♪」 嬉しそうなさやかの横で、微妙な表情を呈するまさみ。 まさみ「ま、悪くないかな」 あいこ「素直やないな〜」 支度も整った所で、台所にて調理開始。 ぽっぷはスウィートハウスの時に少し手伝いをしているし、天才気質なのもあって手慣れた様子。 そして、さやか・まさみも、お菓子作りの経験は無い筈なのに手際が良い。 陸「新顔の2人も、筋がええのう」 さやか「おおきに。うち、お父ちゃんが仕事で留守にする事多いさかい、     お母ちゃん手伝っとったら、自然と料理は出来るようになってもうたん」 まさみ「あたしも、お母さんが死んだ後、女がお婆ちゃんとあたしだけになっちゃって、     お婆ちゃん1人に、ご飯支度させる訳にいかなかったから…」 目が少し寂しげなまさみの心中を察し、どれみが表情を曇らせた。 どれみ「あ…」 まさみ「どれみちゃん、人の事気にしてる暇あったら自分の手、動かして」 つっけんどんな口調のまさみ。どれみは気まずくなるが… おんぷ「あれでも、気にしないでって言ってるのよ」 さやか「ほんま、素直やないからな〜」 慣れている2人が、間を取り持ってくれた。 おんぷ・さやかが笑みを向けると、まさみも頬を少し赤らめていた。 そのやり取りの間、陸は目を細めて、終始にこにこ微笑んでいた… とっぷり日も暮れて、夕餉も済んだ囲炉裏端で、陸から恒例の昔話が語られた。 時代が時代なだけに、まさみの解説も挟めながら聞くとしよう。 陸「昔々の事じゃったが、お代官様の年貢の取り立てが厳しゅうてのう、   村人は食べ物が無うて、死にそうやったそうな。そんな時…   善十郎という若者が、江戸から来なさった偉う人に、助けてもらいたいと願い出たのじゃ…   その頃は偉う人に訴える事は、重い罪になっておってのう、善十郎は打ち首、獄門じゃ…」 まさみ「もしかしたら、これって…お婆ちゃん、あたし心当たりがあるんですけど…」 陸「おお、聞かせてもらおうかのう」 まさみ「みんなもいい?」 一同の頷きで承諾を得てから、まさみは説明を始めた。 まさみ「飛騨高山は、外様大名の金森家が国替えになってから、飛騨代官に任されてた。     だけど12代目代官の、大原彦四郎紹正(あきまさ)ってのが…」 ももこ「悪代官ネ!」 言うだろうと思った。時代劇好きのももこなら、この単語を知らない訳がない。 まさみ「そう!この悪代官、村人の窮状を無視して年貢を増やすとくるから、堪ったもんじゃない。     村人は江戸の老中・勘定奉行に直訴するも受け入れられず、遂に一揆にまで発展。     代官も代官で、幕府に応援を頼んだもんだから、さらに事が大きくなる。     隣り合う苗木・大垣・郡上八幡・岩村・富山の5藩から、2千もの兵を繰り出して鎮圧。     代官の名前を取って通称・大原騒動。罰せられた村人は、千名を超えるとか…」 どれみ達は、思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。 まさみ「その内、獄門になった村人が7人いてね…本郷村善九郎って名前が残ってるんだ…     本郷村は今では高山市内。諸説あるけど善九郎は、当時17から19の若者だったって。     地域はほぼドンピシャだし、名前も音と字が似てるし、年齢的に見ても多分…」 十中八九、その人だろう。善十郎は、歴史資料に名を刻んでいたのだった。 ここから先は、どんな資料にも載っていないであろう伝説である。 陸「善十郎にはなぁ、マユリという好き合った娘がおったんじゃが、   善十郎が打ち首になった事を聞いて、マユリは嘆き悲しんで、   笑う月の晩に、川に身を投げてしまったんじゃと…   ところが村の衆が亡き骸を見つけた時、おかしな姿をしたカエルがマユリに縋り付いて、   まるで母親のように泣いておったそうじゃ…   じゃからマユリと善十郎を弔うために、カエル石を作って拝み続けてるんじゃよ。   そんでな、笑う月の出る晩には、不帰山の生き物はまるで死んだように静かになって、   魔力を失うので、魔物も近寄らないと言われとるんじゃよ」 さやか「カエル…?」 まさみ「魔力を…失う…か」 やはり興味をそそられるのだろう。真剣な眼差しの2人だが、渓介に釘を刺された。 渓介「明日は笑う月の晩か。不帰山は、帰らずの山になるから、近付かない事だな」 その夜、布団を並べる一同… さやか「カエル石か…めちゃ気になんなぁ…なあ、おんぷちゃん」 おんぷ「さやちゃん、行っちゃ駄目よ」 行きたいのはお見通しだったようで、即座に断られる。 さやか「ほな、まさちゃ…」 まさみ「ん?」 その機嫌の悪そうな返事だけで、さやかは危機感を覚えた。 さやか「き、聞くだけ無駄やな…はづきちゃん、どや?」 はづき「駄目って言われたでしょ」 断られっ放しだが、まだまだめげない。 さやか「ももちゃ〜ん」 ももこ「お爺ちゃんに怒られるヨ」 ここで頼るは、さやかとは同郷のあいこ。 さやか「なあ、あいちゃん、同じ浪花っ子の誼で…」 あいこ「あかんあかん。あたし、お爺ちゃんに怒られるん、どうも苦手やねん…」 やはり駄目。残るは春風姉妹のみ。 さやか「ぽっぷちゃんは…」 ぽっぷ「く〜…」 さやか「もう寝とるんかい…どれみちゃん!頼みの綱や」 どれみ「あたしもパス…お爺ちゃん怖いし…」 これで全滅。各方面から断られてしまった。 さやか「こうなったら、1人で行こかな〜」 どれみ・はづき・あいこ・おんぷ・ももこ・まさみ「だから駄目!!!!!!」 最後に駄目押し。それでも、ぽっぷは起きなかった。 ぽっぷ「く〜…」 翌日の昼下がり… ぽっぷ以外の面々が昼寝から目を覚ますと、何とさやかが姿を消していたのだ。 だが昨夜の会話を思い出せば、どこに消えたか予想はついていた。 おんぷ「きっと、カエル石を見に行ったんだわ…」 まさみ「あの、お馬鹿…あたし達の寝てる間に!」 不帰山を見据える、おんぷ・まさみ。 あいこ「おんぷちゃん!まさちゃん!2人で探しに行こ思てるやろ」 おんぷ・まさみ「あいちゃん…」 不意に声を掛けられて、ハッとする2人。 あいこ「あかんで。今日はTriple-Sやない…あたしらも、おるんやからな!」 どれみ「そうだよ!あたし達、大親友じゃん」 ももこ「2人共、水臭いヨ!」 はづき「そうよ!…あら?ももちゃん、そんな言葉いつ覚えたの…?」 おんぷ・まさみ「みんな…」 心強い応援に、おんぷ・まさみ共に嬉しくなった。 まさみ「さてと…行くとなったら、1人でも人数が欲しいね。     本当は大人に知らせるべきだけど、あたしの力の説明が出来ないや…」 さやかの魔力を感じた、などと大人達には言える筈もない。 まさみ「ちょっと酷だけど、ぽっぷちゃんも起こそっか」 どれみ「ううん、あたし達だけで行こう」 おんぷ「そうね。やっぱり起こしちゃ可哀想よね」 どれみ「それもない訳じゃないけど、ぽっぷ寝起き超悪いし…」 何を隠そう春風ぽっぷ、寝起きが壮絶に悪いのだ。 過去にどれみ達が起こそうとして、強烈な反撃を食らった事も数多し。 まさみ「何それ…ま、あたしが起こしてみる」 格闘する事、数分間… ぽっぷ「く〜…」 まさみ「はあ…はあ…これくらいにしとこっか…」 やっぱり起きないぽっぷと、肩で息をするまさみ… おんぷ「信じられない…」 あいこ「まさちゃんが、息切らしとる…」 武芸に秀でたまさみですら、ぽっぷを起こす事は出来なかった。 まさみ「無駄に時間費やしちゃった…あたし達だけで行こう…」 どれみ「だから言ったじゃん…」 まさみ「うん…さて、さやちゃんの魔力、辿らないと…」 空では、雲行きが怪しくなってきていた… その頃、山に入ったさやかは… さやか「…あかん、完全に迷うた」 どちらかと言うと方向音痴なさやかだ。1人で迷わない確率の方が低かった。 さやか「こういう時は♪」 シュッシュ♪ さやか「プリティ〜ウィッチ〜さやかっち〜♪」 空を突き刺すかのように真っ直ぐに伸びる杉の木を、すり抜けて天空に躍り出たさやか。 さやか「ほへ…いつの間に天気、崩れとったんやろ?」 入山の際には晴れていたのに、今や暗雲が立ち込めている。 さやか「それに何や…今日は箒の座り心地、しっくりせぇへんな…」 いつもと違って、箒が右に左にふら付いてしまう。 さやか「このアホ、しっかり飛びやコラ…」 箒をどやしてみても何にもならず、遂には浮力を失って降下を始めてしまった。 さやか「あっ、ちょっ…何で落っこちんねん!」 言う事を聞かない箒に、最早さやかは愛想を尽かした。 杉林の中へ突っ込んだ所で箒を乗り捨てて、何でもいいから枝を掴もうと必死にもがいた。 襲い来る枝葉から目を守ろうと、反射神経が目蓋を強制的に閉じさせる。 さやかは何も見えないまま、どこかの枝を掴んでは折れて、また掴んでは折れて… そうこうしていると、ドサッと地面に腰が付いて、さやかの落下は終わった。 さやか「ほへぇ〜…死ぬかと思た…」 必死の抵抗の跡として、折れた枝が幾つも周辺に散らばっていた。 さやか「あたた…何とか、地面に直撃はせぇへんかったみたいやな…」 頭は打っていないようだ。胴体も多少の痛みはあるが、激痛と言うほどではない。 両腕も手の指も動くし、立って足踏みしてみても何ら問題は無い。 木々が衝撃を和らげてくれたのだった。さやかは、枝が数本無くなった杉達を見上げた。 さやか「うちのために、堪忍な…それと、おおきにな…」 そして自分の体を見て、さやかはやっと異変に気が付いた。 さやか「あああっ!?服、戻っとる!」 慌ててコロンタップを出して、自分自身に吹きかけてみようと試みるが… カスッ… さやか「…ほへ?」 何度やってみても同じ事。お着替えが完全に出来なくなっていた。 さやか「何でや〜!?」 訳が分からず叫んでみるさやかの脳裏を、昨夜の陸の言葉が過る… [陸「魔力を失うので、魔物も近寄らないと言われとるんじゃよ」 回想終了…さやかは頭が真っ白になった… さやか「あれ…ほんまやったんか…」 思考停止状態のさやかの上に、泣き出した空の大粒の雫が、滝のように雪崩れ落ちてきた… さやか「ほへ〜!踏んだり蹴ったりや〜!」 その頃、不帰山の麓… さやか捜索隊が、魔力の感知能力のある、まさみのリードで慎重に歩みを進めるが… まさみ「えっ…嘘、どうして…」 突然、戸惑い出したまさみに、一同が駆け寄る。 おんぷ「どうしたの?」 まさみ「この山に入ってから、魔力が感じられないの…     さやちゃんの魔力だけじゃない…ここにいる、みんなの魔力ですら…」 そこにナイスタイミングで、はづきの頭に雨粒が落ちて、同時に蛙の鳴き声が。 ポタッ…ゲロッ… はづき「キャ〜〜〜!!!」 そしてなぜか、はづきは急に何かに取り憑かれたかのように、あの陸の台詞を言い出した。 はづき「魔力を失うので、魔物も近寄らないと言われとるんじゃよ」 静まり返る一同… はづき「キャ〜〜〜!!!マジョリカマジョリカマジョリカ…」 狂い出したら、もう誰にも止められない。雨降る山道を、はづきは超速で駆け登り始めた。 どれみ・あいこ・おんぷ・ももこ・まさみ「はづきちゃ〜ん!!!!!待って〜!!!!!」 やっと木の洞(うろ)に落ち着き、降り注ぐ雨をやり過ごす捜索隊一行。 あいこ「この展開、前と一緒や…」 おんぷ「迂闊だったわ…魔力を失うって事は、まさちゃんの場合、     魔法が使えなくなるだけじゃなく、他の魔力を感じ取る事も出来なくなるのね…     まさちゃんがこの調子だったら、さやちゃんも魔力が見えない筈だわ…」 まさみ「向こうも、こっちの魔力を道標にしたくても出来ない訳だ…」 意気消沈していた所に、どれみが案を出した。 どれみ「だったらさ、カエル石の所に行こうよ!     前も歌の通りにしたら、カエル石の所に着いたんだし!」 ももこ「でも、さやちゃんがカエル石の所にいるとは限らないヨ」 どれみ「あ…そっか…」 しかしながら、敢え無く撃沈… あいこ「せやな…今年はまだお婆ちゃん、あの童歌、歌ってへんもんな…」 おんぷ「童歌を知らないさやちゃんが、カエル石の所に着いてるとは考えにくいし…」 まさみ「ねえ、さっきから言ってる童歌って?」 さやかと同じく、童歌を知らないまさみが尋ねると、合唱が始まった。 どれみ・はづき・あいこ・おんぷ・ももこ 「カエルが一つなきゃ 雨ザーザー アーゲロ ヨーゲロ♪  カエルが二つなきゃ 道まよう アーゲロ ヨーゲロ♪  カエルが三つなきゃ 山のぼれ アーゲロ ヨーゲロ♪  カエルがうんとなきゃ 一本杉めざせ アーゲロ ヨーゲロ♪  カエルがしんみりなきゃ 日が暮れる アーゲロ ヨーゲロ♪  カエルが哀しくなきゃ 人恋し アーゲロ ヨーゲロ♪  カエルが明るくなきゃ 愛し合う アーゲロ ヨーゲロ♪  カエルが楽しくなきゃ お月様わらう アーゲロ ヨーゲロ♪」 まさみ「…カエルが一つなきゃ 雨ザーザー アーゲロ ヨーゲロ♪」 単調な歌なので、まさみも一通り聞けば簡単に歌えた。 おんぷ「まさちゃんなら気付いたでしょ?この歌の通りにすれば…」 まさみ「山を登って一本杉を探せば、カエル石の所に辿り着くっていう寸法か」 おんぷ「大当たり♪」 まさみ「ここに留まってるよりは、行ってみた方がいいか…     さやちゃんがいるって保証は無いけど」 後ろ向きなまさみに対して、逆にどれみは前向きであった。 どれみ「でもそれってさ、いないかもしれないけど、いるかもしれないって事だよね」 おんぷ「ふふっ…どれみちゃんらしいわね」 あいこ「ほな、カエルが三つなきゃ…♪」 この歌い出しに続く童歌を、全員で口ずさむ。 どれみ・はづき・あいこ・おんぷ・ももこ・まさみ「山のぼれ♪」 再び、さやかの様子を見てみると… さやか「あ〜…もう登っとるんか下りとるんかも分からへ〜ん…」 雨に濡れ、べそをかき、泣きっ面に蜂という状態で、迷い続けるさやか。そんな所に… ???「カエルが一つなきゃ 雨ザーザー アーゲロ ヨーゲロ…♪」 さやか「…ほへ?」 周りには自分以外に誰もいる訳がないのに…そう思ったが… ???「カエルが二つなきゃ 道まよう アーゲロ ヨーゲロ…♪」 さやか「だ、誰なん…?」 やはり聞き間違いとは思えなかった。だが人の気配は無く、童歌が木霊するのみ… さやか「ちょ…返事くらいしてぇな〜!」 ???「カエルが三つなきゃ 山のぼれ アーゲロ ヨーゲロ…♪」 これを返事と言っていいのかどうかは疑問だが、とにかく歌だけは返ってくる。 さやか「ほ、ほへ…おんぷちゃん…まさちゃん…助けて…」 姿なき声にすっかり怯えきって、さやかは最も信頼する2人の名を呼んだ。 さやか「おんぷちゃ〜ん…まさちゃ〜ん…」 2人の名を連呼する内に、2人の顔が浮かんできて… おんぷ・まさみ「さやちゃん…さやちゃん…!!」 すると、さやかは次第に冷静さを取り戻してきた。 さやか「あかんあかん…頼りきって、どないすんねん…うちも、しっかりせな」 さて、落ち着いた所で、さやかなりに考えてみる。 さやか「この声…少なくとも、うちの知っとる声やないな…     しかもさっきから、何や知らんけど歌、歌っとるし…     あ…雨ザーザー…道まよう…山のぼれ…これ、何や意味ありそうやな…」 耳は悪くない、むしろ音を拾うのは得意な方だ。 頭で考えるのも苦手ではあるが、じっくり時間をかければ大体の事は分かる。 さやか「声質からして女やろな…まさか、まさかやけど…」 またしても、陸の昔話を思い返す… 陸「善十郎にはなぁ、マユリという好き合った娘がおったんじゃが…」 回想終了… さやか「この歌…マユリさん違(ちゃ)うやろな…」 いつもは、クールなおんぷ・頭の切れるまさみの陰に隠れがちだったが、 こうしてみると、さやかの推理力も侮れたものではない。 ???「カエルがうんとなきゃ 一本杉めざせ アーゲロ ヨーゲロ…♪」 問いかけに答えるかのように、童歌が続く。 さやか「何や、当たっとるみたいやな…」 しかし、この歌に素直に従って良いものかどうか、さやかは考え込む。 さやか「雨ザーザーで道迷ったんは、紛れもない事実や…     せやけど、そんで山登って一本杉目指せって、どういう意味や…     幽霊の言う通りにして、三途の川まで連れてかれても困るし…」 だが今までの経験からして、さやかが少し怖気付いた後は、絶対に首を突っ込む事になるのだ。 さやか「あ〜っ!もう考えるだけ無駄や!行く!行ったろやないか!     マユリさんの幽霊出てきたら、何でうちの魔法使えへんのか説明してもらお!」 怖いもの知らずの本領発揮…と、ここで思い直すさやか。 さやか「あ…怒鳴り散らすんはあかんか…マユリさん、善十郎さんの後追って死んだんやった…     そないな人に当たり散らしてもうたら…せや、うちかて出来る事あるやん!     慰めになるか分からへんけど、話相手になるくらいやったら…」 そしてやはり、何度も聞いている内に覚えてしまい、さやかも童歌を歌い出す。 さやか「カエルが一つなきゃ 雨ザーザー アーゲロ ヨーゲロ♪     カエルが二つなきゃ 道まよう アーゲロ ヨーゲロ♪     カエルが三つなきゃ 山のぼれ アーゲロ ヨーゲロ♪     カエルがうんとなきゃ 一本杉めざせ アーゲロ ヨーゲロ♪」 童歌に従い、山道を行きつつ上機嫌で歌っていると、いつの間にやら背後に何かの気配が… さやか「…ほへ?」 疑いも無く振り返ってみると、女の能面が笠と蓑を着て立っていた… さやか「あ…もしかして…マユリさん?」 すると無表情な筈の能面が、優しく微笑んだように見えた。 さやか「やっぱな…」 物怖じしないさやかに、先程の歌声と同じ声が話しかけてきた。 マユリ「笑う月が出るというのに、どうして山に…?」 さやか「あ、すんません…悪気あった訳やないんですけど…ごめんなさい…」 神妙なさやかに、マユリも責める気にはなれないか… マユリ「変わった子…私が怖くないの…?」 さやか「怖ない…魔力無くなって困るっちゅう事は、うちも幽霊と似たようなもんやし」 おジャ魔女は、人間ではないという点では、確かに幽霊に近いのかもしれないが… マユリ「本当に不思議な子…」 さやか「えへへ…うち、平凡って言われるん嫌やから、変わっとる言われた方がええわ。     それよりマユリさん…やっぱ善十郎さんと一緒になれへんで、淋しかったん?     淋しゅうない訳ないか…大好きやったのに…大好きやったのに…!」 感極まって、ダムが決壊したかのように、さやかの瞳から大粒の涙が溢れ出した。 そんなさやかの前でマユリは、無言のままそっと面を外した。 さやか「ほへ…?」 素顔のマユリはにっこりと微笑むと、さやかに面を手渡した。 さやか「あ、あの、これ…」 涙目のまま戸惑うさやかに、マユリは優しい笑みを向けたまま、スッ…と消えていった… さやか「マユリ…さん…」 渡された面を手に、呆然と立ち尽くすさやか…そこに… おんぷ・まさみ「さやちゃ〜ん!!」 さやか「おんぷちゃん!?まさちゃん!?」 吃驚仰天して振り返ると、大親友の2人が駆け寄ってくるではないか。 まさみ「さやちゃん!もう心配ばっかりかけて!なして、そうやって勝手な事ばっかり…」 頭ごなしに怒鳴り続けるまさみだったが、その目には涙の潤いが見て取れた。 おんぷ「まさちゃん、その辺にしといてあげたら…」 まさみ「だって…だって…うっ…」 感情の高ぶりに伴って、まさみも遂に涙ぐんだ。 おんぷ「まさちゃん…」 詳しい事は何も言わずに、おんぷはハンカチを差し出した。 まさみ「ごめん…」 しかし、おんぷからハンカチを受け取ろうとした矢先に、もう1枚のハンカチが差し出された。 さやか「ごめんなさい…ほんま、ごめんなさい…」 今日ばかりは、いつもの「堪忍」ではなく標準語の「ごめんなさい」を連発。 おんぷ・まさみ「さやちゃん…」 まさみに負けないくらいに、涙を湛えるさやか… おんぷ「もう許してあげたら?」 まさみ「うん…さやちゃん、まずは自分の涙拭きなやね」 さやか「それ言うたら、まさちゃんこそ…」 結局、それぞれ自分の涙は自分で拭うのだった… そこに、どれみ他4人が駆けてきた。 あいこ「落ち着いたみたいやな…」 どれみ「どうなるかと思ったよ〜…まさちゃん、凄い怒りようだったから…」 ももこ「でも、さやちゃん見つかって良かったネ」 はづき「だけど、1つ聞いてもいい?さやちゃんは、ここまでどうやって来たの?」 おんぷ「そうよね…ここ、一本杉よ…」 さやか「…ほへ?」 何という事だ。童歌を知っていたどれみ達と、そのどれみ達と一緒だったまさみはいいとして、 童歌を知らない筈のさやかが、カエル石のある一本杉まで1人で辿り着いたのは… さやか「マユリさんに連れてきてもろた」 どれみ・はづき・あいこ・おんぷ・ももこ・まさみ「!?」 マユリの面を一同に見せながら、笑って言うさやか。 さやかの予想だにしなかった返答に一同、対応に困った…かと思われたが… まさみ「頭部に目立った外傷なし。頭を打った可能性は低そうだけどな…」 素早くさやかの頭部を調べ始めたまさみに、さやかは額に皺を寄せた。 さやか「うちの事、馬鹿にしてへん…?」 おんぷ「どうやら本当みたいね」 瞬間移動した訳ではなさそうだが、いつの間にか離れていたおんぷが、一本杉の根元を指差す。 さやか「ほへ?そこ何?」 まさみ「ここにカエル石があって、善十郎さんとマユリさんの面が納められてるんだって…」 おんぷ「みんな、来てみて」 手招きされるままに、祠のようになった一本杉の根元へ足を進めていくと… おんぷ「ほら」 魔女ガエルの形そのままのカエル石に、善十郎とマユリの面が立て掛けられている筈だったが… どれみ「嘘っ!マユリさんのお面が無い!?」 あいこ「ああっ!ほんまや!」 あるのは善十郎の面のみだった。そして何も言わずとも、さやかの持っていた面が気になる… ももこ「じゃ、じゃあ、今さやちゃんが持ってるお面って…」 まさみ「マユリさんの…でも、なして…?」 マユリに会ったさやかと、いつだってクールなおんぷは別として、ガクガク震えだす一同… はづき「ま、まさか…ゆ、幽霊…!」 お決まりのパターンではあるが、止めようがないのもまた事実である。 はづき「マジョリカマジョリカマジョリカ…」 1人で祠の中を走り回るはづきなど知らん顔で、おんぷは静かに言った。 おんぷ「迷子のさやちゃんを、放っておけなかったのかしら…優しい人なのね、マユリさん」 どれみ「あたし達の時は、全然助けてくれなかったのに?」 不満そうなどれみだが、おんぷのマイペースは崩れない。 おんぷ「さやちゃん、きっとマユリさんに気に入られちゃったのね」 振り向いて、静かにさやかを見つめるおんぷ。さやかは、今までの事を回想する… さやか「うちのために、堪忍な…それと、おおきにな…」 さやか「慰めになるか分からへんけど、話相手になるくらいやったら…」 さやか「淋しゅうない訳ないか…大好きやったのに…大好きやったのに…!」 回想終了… 木々に感謝の意を示し、マユリの悲しみを汲み取り、そして己の事のように悲しむ… そんな純真無垢なさやかに、どうやらマユリは心を開いたようだ… おんぷ「さやちゃん」 さやか「あ、せやった」 目配せしたおんぷの横をすり抜けて、さやかはカエル石にそっとマユリの面を戻した。 さやか「お世話になりました…」 合掌するさやかに倣って、残りの面々も手を合わせるのだった… 楽しい時はすぐに過ぎ去り、あっという間に帰路… 列車の窓から遠ざかる、青々とした飛騨の山脈を見つめながら、思いに耽る3人… おんぷ「2人が、みんなと仲良くしてるの見て私、何だか羨ましかった…」 さやか「淋しゅうない訳ないか…大好きやったのに…大好きやったのに…!」 まさみ「さやちゃん!もう心配ばっかりかけて!なして、そうやって勝手な事ばっかり…」 回想終了… それぞれの心が揺れに揺れた日々…いつまでも消えない、夏のまほう… どれみ「背高のっぽのヒマワリに ちょっとだけ追いついた♪」 あいこ「キラキラしてた陽射し 今日は優しい♪」 おんぷ「このまま時間が 止まればいいナ♪」 はづき「ギュッとギュッと瞳(め)を閉じた 緑の風の中♪」 どれみ・はづき・あいこ・おんぷ・ももこ「また会えるけど もう会えないね♪」 ももこ「光る水しぶき はじけた笑顔♪」 どれみ・はづき・あいこ・おんぷ・ももこ 「夏がまぶしくて とてもまぶしくて まばたきしても きっと消えない ずっと消えない♪」 さやか「小麦色したひざの上 開いた絵日記は 透きとおる川の音 真っ白な雲♪」 まさみ「約束 指切り 忘れないでね 君になにかあげたくて ポケットさがしたよ♪」 さやか・まさみ「遠く遠くまで 走った季節 トンボを追いかけた 麦ワラぼうし♪」 おんぷ・さやか・まさみ「夏に手をふって 君に手をふって そっと見上げた 夕焼けの空♪」 どれみ「また会えるけど もう会えないね 雨上がりの虹 大きな太陽♪」 どれみ・はづき・あいこ・おんぷ・ももこ・さやか・まさみ 「夏がまぶしくて とてもまぶしくて 心の中に きっと消えない ずっと消えない♪」 次回予告 おんぷ「色々あったわね…」 まさみ「うん…」 さやか「せやけど、まだまだ夏休みは終わってへん!やっぱ遊ぶに限るわ!」 おんぷ「でもね、さやちゃん…あまり気を緩めてもいられなさそうよ…」 まさみ「次回、おジャ魔女おんぷTriple‐S(トリプル・エス)『逃亡者・西郷さやか!?』     さやちゃんが逃げるって、その理由は?追っ手は誰?」 さやか「ほへ!?何で、うちが追われなあかんねん!何も疚しい事あらへんって!     とにかくバックれよ!プレサ〜パトレ〜ヌ!」 22話端書き 夏のまほう!カエル石!もうネタの過積載で、文章量が鬼仕様ですよw お陰で端書きも長ったらしくなります。ご了承の程を… まず最初の方の、高山線の車窓から(筆者の趣味w)が長いですね。 そこに「おんぷの羨み」とか、別タイトル付けたいくらいに長い台詞のシーンがありますし… 着いたら着いたで、陸お婆ちゃんの昔話が、これまた長い長い… 陸お婆ちゃんの台詞、方言まで忠実に再現するために、DVDの字幕オンでリピート再生です。 そして、おんぷ・陸お婆ちゃんに負けないくらい長い台詞を喋ってるのが、まさみですね。 高山市の面積・春慶塗・飛騨の百姓一揆…この雑学、調べるのに結構な時間を使いましたよ… さらに、さやかが不帰山で迷子になるわ、マユリさんと出会っちゃうわですよ。 さやか側は内容が濃くて長くなり、捜索側は人数が多くて台詞が多くなり… あと「カエルが一つなきゃ」の歌詞でも長くなってるのか… その上、飽き足らずにエンディング「夏のまほう」ですから! 1番は、どれみ・はづき・あいこ・おんぷ・ももこのパートを調べ上げて忠実に。 2番は本来5人合唱の所、おんぷ・さやか・まさみのTriple-Sでパート分けしてみました。 最後は、どれみさんの神秘的ソロパートは不動で、まさやか2人を最後の合唱に入れてみて… あと今回は、善十郎についても力を入れてみましたが、色々と調べてみて正直、驚きました。 大原騒動という歴史上の実際の事件が元になっていて、善十郎のモデルまでいようとは… まさみに大方は喋ってもらいましたが、大原騒動と善十郎の関係、まだあるようなんです… 明和8年・1771年 大原彦四郎紹正の税政に村人の不満が募り、大古井村伝十郎らが江戸へ出向いて訴えを起こす。 これが不首尾だったため、伝十郎らを中心に打ち壊し騒動になるが、大原紹正が鎮圧。 伝十郎は死罪となり、その他54名が投獄された。 安永2年・1773年 大原彦四郎紹正、さらに年貢を増やして、村人からの請願書も無視。 村人側も8人を江戸に送り、老中・勘定奉行に直訴するも5人が死罪、3人が牢死という結果に。 遂に村人の怒りが爆発し、飛騨全域に及ぶ国一揆となり、幕府は近隣5藩に応援を要請。 本郷村善九郎ら7人が獄門の他、一揆の暴動による死者49人、磔4人、獄中死12人、 島流し17人、1000人を超える追放者と、被害者の人数は桁外れになった。 天明8年・1788年 大原彦四郎紹正に替わって、息子の大原亀五郎正純も、私利私欲に走る悪政ぶりを見せる。 江戸から飛騨に来た巡見使に訴状が出され、ようやく江戸の老中も重い腰を上げた。 結果、大原亀五郎正純に八丈島流しの刑が下るが、訴えた村人も死罪となった。 以上が、3期に分けられる大原騒動の概要ですが、3期それぞれに注目箇所が… 1期目のキーワード・大古井村伝十郎…名前を見ればお分かりでしょうが、伝十郎と善十郎… 2期目のキーワード・本郷村善九郎…これは本文中で説明した通り、善九郎と善十郎… 3期目のキーワード・江戸から飛騨に来た巡見使に訴状…訴えた村人も死罪… 「江戸から来なさった偉う人に、助けてもらいたいと願い出たのじゃ…  その頃は偉う人に訴える事は、重い罪になっておってのう、善十郎は打ち首、獄門じゃ…」 この台詞(劇場版DVDの字幕から本文中に使用)に相当するかと… 善十郎という人物は、実際の大原騒動の端々から要素を集めて生まれたのだと考えられますね。 (本文より)高山自動車興業なる地元のバスの、大瀧温泉行に揺られる事、数十分… この一文で、劇場版のOP直前のバス停のシーンを思い出せたら、相当のどれみ通です。 雨に濡れるバス停には「大瀧温泉行 登山道入り口 高山自動車興業」と書かれてる筈ですよ。 あ、さりげなくパテ服が出てますたw