7月初頭…4日のまさみの誕生日が過ぎ、7日の七夕が過ぎた頃… 
遠近学園の校門に1人の女性が現われ、キャップの下から校舎を見上げた。 
??「ふ〜ん、ここね…」 
 


『彗星のごとく!羽衣纏ってさやかは翔る!』
放課後になっても女性は壁に寄り掛かって、校門の前から動かない。 当然ながら、下校する生徒達の注目の的となる。 女子「ねえねえ…あの人、誰か待ってるのかな?」 女子「さあ…でも奇麗よね」 男子「見てみろよ、結構美人だぜ」 男子「ああ、でも何してんだろ?」 女子「まさかスカウトとか?」 女子「え〜?まさか〜」 女子「でも案外あり得るかもよ」 そんな風に言われているのも、どこ吹く風。女性は、ずっと無言だった。 キャップの鍔で顔を隠し、視線を下げていると… ??「…え?」 隠れて見えない顔を、しゃがみ込んで下から覗き込んでいたのは、さやかだった。 さやか「お姉さん、何しとんの?」 すると、すぐさま残りの2人がやって来て、さやかを女性から引き剥がす。 まさみ「さやちゃん!被り物の下から顔を覗くのは、無礼極まりないよ!」 時代劇でも、笠に隠れた武士の顔を覗こうとして斬られそうになるシーンが、よく見られる。 その前にさやかに言いたいのだが、制服のスカートでしゃがみ込むのは少々はしたないのでは… おんぷ「そうよ。失礼じゃない…織姫様に向かって」 さやか「…ほえ?」 全てお見通しのおんぷは、笑顔を女性に向ける。そう、女性の正体は織姫だった。 織姫「久々ね。今年の七夕も済んだ事だし、また遊びに来ちゃった」 そう言って茶目っ気を振り撒くと織姫は、まさみの元へ歩み寄った。 織姫「元気してた?この格好で会うのは初めてね」 まさみ「全く、お忍びとは言え、おふざけが過ぎますよ…」 織姫「言ってくれるじゃない。あんたに会いたくて、こうして来てあげたのに」 こちらも3級試験で既に対面済み。その上まさみは、持ち前の六感で織姫の来訪に気付いていた。 おんぷは、まさみの様子から大体の見当はついていたし、織姫のラフな服装も初めてではない。 よって、さやか1人だけが雰囲気が読めず、織姫は呆れてしまった。 さやか「ほえ…織姫様…?」 織姫「この子、鈍いわね…」 おんぷ「まあ織姫様、話は歩きながらにしましょ。ここじゃ何ですから」 確かに、このまま校門前で話していたのでは、目立ってしょうがない。 今の所、生徒達は皆、通り過ぎて行っているので、おんぷ達の話を聞いていないようだが。 まさみ「織姫様、変に話聞かれても困りますから」 織姫「あ、それもそうね」 …という訳で、おんぷ・さやか・まさみは、織姫と共に帰り道を行く。 さやか「ほえ〜…ほな、お姉さんが織姫様なん?」 織姫「だから、さっきからそう言ってるでしょ」 さやか「織姫様のイメージと全然ちゃう…」 織姫「何百年も織姫やってるとね、イメージが勝手に独り歩きするもんなの。困っちゃうわ」 さやか「ほな、お姉さんが大酒飲みで気紛れで七夕すっぽかした、あの織姫様…」 こうまで言われては、織姫の疑いの目がおんぷの方を向く。 織姫「ねえ、この子達にどんな話したのよ?」 おんぷ「ありのままを話しましたけど?」 まさみ「悪事千里を走る…悪い事は出来ませんね」 織姫「あのねぇ…」 そんな話をしながら、4人は赤信号に足止めを食らう。 そこに突風が吹き、織姫のキャップを吹き飛ばした。 織姫「あっ…」 キャップは宙に舞い、織姫の長髪も風に舞った。 さやか「ほえ…奇麗な髪…」 そしてキャップは、フワフワと降りてきて… あろう事か、信号待ちのトレーラーに積んであった丸太に引っ掛かった。 織姫「えっ…」 しかもタイミングよく信号の色が変わり、トレーラーは低いエンジン音と共に発進しだした。 織姫「ちょっ、ちょっと!」 その声は届く筈もなく、トレーラーは快調に加速して走り去ってしまった。 織姫「もう…」 渋い顔をしながら、織姫は指を弾こうとした。 3人の内では、おんぷしか見た事は無いが、織姫は魔女と同様に魔法が使える。 魔法があれば失い物の1つや2つ、どうって事ないのだが… 織姫「え?」 指を弾く寸前の所で、織姫は気付いた。さやかがいない。 何と、さやかは歩行者用信号も青になったので、ダッシュでトレーラーを追いかけていた。 さやか「待て〜!止まれ言うとるやろ〜!」 叫んでも無駄だった。速度が違いすぎて、勿論さやかは振り切られた。 さやか「はぁ…はぁ…」 そこに、おんぷ達も追い付いて、さやかに声を掛ける。 おんぷ「さやちゃん、無理よ…」 さやか「無理やない!次の信号にでも引っ掛かれば…」 まさみ「実際、追い付けてないけど?」 さやか「うるさいな〜…」 やけに必死なさやかに、織姫は疑問を感じて尋ねてみた。 織姫「ねえ、さやかだったわよね…あんた、どうしてそんなに必死なの?    あんたのならともかく、あれ私の帽子よ?」 さやか「そんなん関係あらへん!さっき織姫様の顔覗いてもうた、お詫びがしたいだけや!」 織姫「それにしたって、あんたも魔法使えるんでしょ?」 さやか「うん、使えるけど…今は使いたないねん…」 織姫「…え?」 言っている意味が飲み込めず、織姫は聞き返した。 さやか「魔法使たら、お詫びにならへん気がすんねん…」 織姫「あんた…」 おんぷ・まさみ「さやちゃん…」 少し間を置いてから、沈黙を破ったのは織姫だった。 織姫「そう…分かったわ」 そう言うと、織姫は指を弾いた。そして、その手には七色に光る布地があった。 さやか「ほへ…」 まさみ「それは…」 おんぷ「織姫様の羽衣…」 織姫「これ、あんたに貸したげる」 さやか「ほへ?」 訳の分からない内に、さやかの体には織姫が羽衣を纏わせていた。 織姫「これで体が軽くなる筈よ。これなら追い付けるかもね」 さやか「織姫様…ほな」 まさみ「ちょっと待った」 さやか「ほえ?」 急に呼び止めたまさみ。さやかが振り返ると、まさみは手早く羽衣を襷掛けにした。 着物の裾を捲くる時に∞の形に結ぶ襷掛けも、和服に慣れたまさみならお手の物。 長く余った部分は大きく蝶結びにしたので、まるで背中から羽が生えたようにも見える。 まさみ「これでよし、っと」 さやか「わぁ〜…☆」 おんぷ「さやちゃん、可愛い♪」 まさみ「こうして見ると、天女にも見えなくもないね」 織姫「へぇ〜…まさみ、あんた、やるじゃない」 まさみ「これは、どうも」 おんぷ「さて、行くなら早くしないと」 さやか「せやったせやった。ほな!」 改めて走り出したさやかは砂煙を立てて、あっという間に消えていった。 おんぷ「す、凄く速い…」 まさみ「あの、織姫様…あの羽衣、魔法かかってますよね…」 織姫「ええ。私を浮かすぐらいのもんだけど、それが?」 まさみ「あたしが感じ取った限りじゃ、さやちゃんの魔力と怖いぐらいに調和してますよ…     さやちゃんの持ち前の運動神経も相俟って、瞬発力や脚力、跳躍力が超人的に…」 織姫「いいんじゃない?それで私の帽子が返ってくるならね」 まさみ「そんな人事(ひとごと)みたいに…あれじゃ騒ぎになっちゃうかも…」 おんぷ「でも、それはそれで面白いかも♪」 まさみ「ちょっと、おんぷちゃん…!」 駆け出したさやかは、飛ぶが如く、歩道の歩行者を縫うように、トレーラーを追い上げていく。 さやか「こりゃええわ!」 長いツインテールは後ろに真っ直ぐ靡き、さやかの走り去った後には一陣の風が残される。 さやか「体がめっちゃ軽いわ〜…まるで、あのアニメみたいやな〜…     何ていうたかな?え〜と…あ!キュアプリや!」 これ…ツッコミ入れていいのかどうか、悩むナレーションです… さやか「キュアキュア♪プリプリ♪さやかはキュアプリ〜♪」 ご機嫌で歌っていますが…もう、どうしていいんでしょうか… さやか「おっしゃ、もうちょっとで追いつくで…」 そんなこんなで、目標のトレーラーを目前にした、その時だった。 さやかがビュンと走り抜けた際の突風で、すれ違った子供の風船が手から離れてしまった。 子供「あ、風船…」 さやか「しもたっ!」 キュキュキュキュッ…瞬時に体を翻して、さやかは急ブレーキ。 さらに、その反動を活かして大きく跳び上がった。 さやか「待て!このアホ!」 羽衣のお陰で体が軽い。異常なまでに軽い。 さやかは最初のジャンプで、そばにあった郵便ポストに軽々と足を着ける。 即座に踏み切って2度目のジャンプ、今度は電話ボックスの上に。 さらに3度目、街路灯を足掛かりに、さやかは風船を追って空へ躍り出た。 さやか「逃がすか〜!」 懸命に伸ばした手は、風船に結わえられた紐をしっかりと掴み取った。 さやか「いよっしゃあ!!」 上がった物体は重力に従って、落ちるのが自然の摂理。 さやかの体も例に違(たが)わず、だんだんと重力に引かれ始める。 しかし落ちるまでの時間に、さやかは体勢を整えていた。 さやか「よっと…」 スタッと歩道に着地し、さやかは子供に風船を手渡してやった。 さやか「ほい、もう飛ばされへんように、しっかり持っときや」 子供「ありがとう!お姉ちゃん!」 さやか「えへへっ…ほなな!」 手を振りながら、再びさやかは駆け出した。だが… さやか「うわ〜…お節介焼いとったら、トラック見失ってもうた〜…」 そうだろう。子供の風船を取ってやったはいいが、タイムロスになってしまった。 街を吹き抜ける風のように走りつつ、さやかは辺りを見回す。 さやか「せっかく乙姫様の羽衣貸してもろたんや、何が何でも帽子取り返さな!」 素早く跳ね回っても、持ち前の動体視力で狙った獲物は逃がさない。 正面の赤信号を見て道路を一っ跳びにし、股下に通過する車の風を感じながら、 交差している道路の先を見た際、チラッと視界に一瞬だけ映ったトレーラー… それを、さやかはしっかり捉えていた。 さやか「おったぁ!」 しかし、追いかけるさやかのベクトルと、遠くに走り去っていくトレーラーのベクトル、 この2つは直行ベクトル、つまり角度が90度違う直角という事だ。 この誤差を、さやかはどうやって修正するのか… さやか「よっと!」 車の行き交う道路を跳び越えてきたさやかは、着地する前に街灯に腕を絡めて、 クルッと向きを変えてから歩道に足を着け、そして再び走り始めた。 さやか「うちから逃げれると思たら大間違いや〜!」 やがて追っていく内に、さやかとトレーラーの距離が徐々に縮まって、遂には追い付いてしまった。 さやか「後は、あの帽子取るだけやな…」 追い付いた所で、今度はトレーラーに高々と積み上げられた丸太に引っ掛かった帽子、 これをどうやって取るかだ。トレーラーの積み荷の丸太、これと合わせた車高は3m超。 ここで、忘れた頃にやって来る番外編… はづき「突然ですが、はづきの解説コーナー♪     道交法57条では、積載物を含む車高は3m80cm以下と定められています」 まさみ「さらに加えて、まさみの補足コーナー♪     道交法施行令22条より、4m10cmまでの積載が可能な場合があります。     ただし道路交通状況に支障が無いと、公安委が認めた自動車に限ります」 はづき・まさみ「せ〜の、解説おしまい♪♪」 番外編終了… さやか「ほへ?はづきちゃんと、まさちゃんの声がしたような…空耳やな」 話が逸れたが、トレーラーの積み荷に対して、さやかの身長が150cm台。 その差は歴然だが、今のさやかには羽衣がある。 ここに来るまでに、散々見せつけられてきた跳躍力で、何とでもなるか。 さやか「う〜ん…どないしよっかな…」 トレーラーの左方に付いて並走しながら、考え込むさやか。 すると前方には、小高い丘を貫くトンネルが大口を開けて構えていた。 さやか「おっ♪こりゃええわ」 何を思い付いたか、さやかはさらに加速してトレーラーを追い越し、トンネル開口部へ一直線。 さやか「必殺・壁走り〜!」 などと叫びながら、さやかはトンネル断面の壁面を、湾曲した坑口に沿って走り出した。 本来なら重力のせいで、こんな芸当は出来ないのだが、今のさやかに物理法則は通用しない。 車道の真上まで来た所に、遅れてトレーラーがやって来た。 さやか「よっしゃ!タイミング、バッチリや!」 荷台の丸太の先端部に引っ掛かったキャップに、さやかの右手が上から伸びる。 そして見事、織姫のキャップはさやかの手中に。 トレーラーは轟音と共にトンネルの中へと消え、さやかは惰性で反対側の歩道に降り付いた。 さやか「ほへぇ…織姫様の帽子は取り返したけど…なぁ…」 なぜか、さやかの表情は浮かない。 さやか「聞き間違いやないもんな…」 リプレイ・先程さやかが丸太から帽子を取った時… さやか「よっしゃ!タイミング、バッチリや!」 その時さやかの耳に入った、ピピッ、ピピッ、という鳴き声… リプレイ終了… さやか「あの鳴き声…丸太ん中からしとったよな…」 鍔を手前に、さやかは織姫のキャップを被り、さらに向きを後ろ前にした。 さやか「…行こか!」 決意を固めたさやかは、道路脇に芝生の斜面を見つけ、そこを駆け出す。 斜面を駆け足で下るさやかは加速が付いた所で、思いっきり地面を蹴った。 さやかの魔力と羽衣の魔力、合わさった2つの魔力で、さやかは天女のように宙へ舞い出た。 そしてコロンタップを片手に、大空で華麗にお着替えを開始した。 シュッシュ♪ さやかは虹色の光に身を委ねて、胴体部を緑色の光に浴する。 両手にも発光の範囲を広げ、空中で大きく体を回転させると、 弾け飛んだ光の中から、魔女見習い服がピシッと体にフィットした状態になる。 さらに足元もブーツに早変わり。頭にも、とんがり帽子が現れて、ツインテールが飛び出した。 さやか「プリティ〜ウィッチ〜さやかっち〜♪」 これは前代未聞、空前絶後。空中でお着替えしたおジャ魔女など、今までいただろうか。 そんな事を知ってか知らずか、さやかは素早く箒を出現させて腰を落ち着かせた。 さやか「ほへ〜…足、着かへんかてお着替え出来るもんやな〜…さて、急がな!」 箒を駆り立てて、さやかは先程のトレーラーを再び追跡。 トンネルから出て尚も快調に走り続けるトレーラーに、上空のさやかが追い付いた。 さやか「さてと…」 狙いを定めるかのように、さやかはポロンを手にした。そして… さやか「プレサ〜リラティ〜・ペレナ〜エルプラノ!丸太ん中の鳥さん、助けたって〜!」 トレーラーの荷台で、若葉色の魔法が炸裂。さらに、さやかの手元には幼鳥が3羽も出現。 さやか「おっしゃ、レスキュー成功!」 優しく雛鳥達を抱き抱え、さやかは付近にあった林の中へ紛れ込んだ。 さやか「あっ…この子ら、どないしょ…ほな、もう一丁やったるか…     プレサ〜リラティ〜・ペレナ〜エルプラノ!この子らのお母ちゃん、連れて来て〜!」 再び魔法を炸裂させたさやかの前に、今度は小柄で細長い野鳥が現われた。 その親鳥はすぐさま、雛鳥達を抱えたさやかの手に羽を休めた。 さやか「おっ、キツツキの子やったんか…あ、それで丸太ん中から声がしたんか…」 キツツキ科の鳥は木に穴を開け、そこに巣を作って春頃に産卵し、子供を育てる。 どうやら、この親子の巣穴があった木が伐採され、しかも雛鳥達が取り残された模様。 初夏、巣立ちを前にしての不幸であった。 だが伐採されてすぐの運び出しだったのが幸いし、時間の経過はそれ程でもないようだ。 親鳥を眼前に、雛鳥達は元気に声を上げた。 さやか「おっしゃ、お腹は減っとるみたいやけど、まだ体力あるみたいやな」 手頃な枝を見つけ、さやかは雛鳥達を解放し、親鳥と寄り添わせた。 さやか「ほなな♪」 別れの手を振るさやかに、親鳥が礼でも言うかのように美しい鳴き声を響かせていた… さて帽子も取り返して、後は持ち主の織姫の元へ舞い戻るのみ。 空を駆けて帰路を急ぐさやかの耳に、誰かの叫び声が。 女性「誰か止めて〜!」 さやか「…?」 すると目下、緩やかな下り坂を1台の乗用車が、コロコロ下っていくではないか。 しかもよく見ると、運転席には人影が無い。車が無人で坂を走っているのだ。 さやか「何やねん、あれ…そっか!さてはサイド(ブレーキ)引かんかったな!」 その通り。この車の持ち主は、先程声を上げていた女性。 緩い下り勾配に気付かず、少しの間だからと、サイドブレーキをかけずに路上駐車したのだ。 その結果がこれである。当然、辺りは大混乱に陥った。 通行人「おい何だよ、あの車!運転手乗ってないぞ!?」 通行人「何とかしないと、この坂の下、交差点だぞ!」 通行人「何とかって、下手に近付いたら轢かれるだけだろ!」 そうしている間にも、車は徐々に速度を上げつつ坂を下っていく。 さやか「えらい事(こっ)ちゃ!」 すぐさま急降下、人目につかないビルとビルの間に潜り込み、さやかは普段着に。 そして通りに走り出て、織姫のキャップを後ろ前に、つまり鍔を後ろに被ったまま、 はみ出た長い髪と羽衣をはためかせて、車を追いかけ、転がるように坂を下り始めた。 羽衣の加護と下り坂というのもあって、さやかはすぐに追い付いた。 さやか「要はサイド引けば、ええんやろ!」 そう言って、さやかは車の左横に並んで走りながら、助手席ドアの取っ手を引っ張ったが… さやか「…は?」 開かない。何度引いてみても、後部座席ドアを引いてみても、頑としてドアは開かない。 さやか「あの姉ちゃん、ロックはちゃんとしとったんかい!」 何と各ドアの鍵だけは、しっかり閉めていたようだ。 これでは、中に乗り込んでサイドブレーキを引くという、さやかの作戦が実行に移せない。 さやか「くっそ〜!これだけは、しとうなかったんやけどな〜…しゃあない!」 何を思ったか、さやかはジャンプして、車の屋根に装備されたルーフレールにしがみ付いた。 たまたま車はステーションワゴンで、屋根には各種キャリアを取り付けるレールが付いていたのだ。 さやか「SUBARUのLEGACY TOURINGWAGONか…」 そう呟きながら、さやかはルーフレールの上に真っ直ぐに倒立した。 そして体を「く」の字にした状態で、足から左後部窓ガラスに突っ込んだ。 つまりブランコのように勢いをつけ、窓ガラスを蹴破ったのだ。 さやか「弁償や〜!!」 ガッシャ〜ン!! よくもまあ、交通事故対策で頑丈に出来ている、車の窓ガラスを蹴破れたものだ。 今日は羽衣を纏ったさやかの、超人的な脚力に驚かされる一方である。 で、見事に破砕された窓ガラスの破片と共に、さやかは車内の後部シートに転がり込んだ。 さやか「おっしゃあ!後はサイド引くだけや!」 突入した際に崩れた体勢を立て直し、さやかは運転席と助手席の間に両腕を伸ばして、 両シート間、シフトギアの手前にあるサイドブレーキを、さやかは力の限り引っ張った。 さやか「止まれアホ〜!」 ギュギュギュギュッ…車は、つんのめるように速度を落とす。 さらに前輪が自然に曲がったのか車は斜めになって、歩道のガードレールに左前部を当てた。 そしてフロントバンパーと左前照灯を擦って、ようやく止まる兆し… さやか「ほ、ほへぇ…」 何とか、坂の下に待ち構えていた交差点に突っ込むのだけは免れた。 完全に車が停止すると、さやかは肩の力が一気に抜けてしまった… そして… まさみ「全く、随分と時間を食ってると思ったら…」 おんぷ「まさか、こんな事になってるなんてね…」 織姫「よくもまあ、ここまで大事(おおごと)になったもんね…」 さやか「あはは…」 笑うさやかに、今回ばかりはまさみだけでなく、おんぷも一緒に叫んだ。 おんぷ・まさみ「笑い事じゃない!!」 さやか「あ…堪忍…」 帰りの遅いさやかを心配して、おんぷがパトレーヌコールで連絡した所、この事が発覚。 場所があまり遠くなかった事から、おんぷ・まさみ・織姫も現場に赴いたのだった。 …で、この坂道の車の件は、当然ながら警察沙汰になってしまった。 警官「気を付けて下さいよ。駐車の際には必ずサイドブレーキを引く。    教習所で一度は教わってる筈ですからね。初心に帰って、安全運転を」 女性「はい…」 警官「それと、この子の勇気と行動力に感謝する事ですね。    下の交差点まで行ってたら、確実に多重事故になってましたからね」 言いつつ警官は、さやかの方に顔を向けて… 警官「少々手荒だが、よく頑張ったね」 さやか「はいっ!」 そして女性も、さやかの前にしゃがみ込んで高さを合わせて、面と面を向かい合わせた。 女性「ごめんなさいね、怖かったでしょう?でも、本当にありがとう!    あなたがいなかったら、どうなっていた事か…」 さやか「せやけど、お姉ちゃんの車…うち、壊してもうた…」 申し訳なさそうに涙ぐむさやかに、女性は首を横に振った。 女性「ううん、悪いのは私の方なのよ。そんな気にしないで。    逆に、窓ガラスにライトとバンパー、これだけで済んだと思えば…    あなたが止めてくれなかったら、お陀仏になってたわ、この車」 結局、運転手の女性が全て自己責任だと言って、さやかに車の弁償は求めなかった。 それどころか、さやかの思い切った行動がなければ、この程度では済まず大惨事になっていた… 事故処理に駆けつけた警官からも、お褒めのお言葉を頂いたさやかであった。 一件落着した後、織姫がさやかに尋ねた。 織姫「ねえ、さやか…」 さやか「ほへ?」 織姫「あんた、目の前の事に夢中になりすぎて、周りが見えなくなるタイプね」 さやか「えへへ…何も言い返せへん」 織姫「全く…その調子じゃ、今年の七夕の願い事も、自分の事でしょうね…」 さり気無く織姫は、さやかから七夕の願いを聞き出そうとしていた。 織姫「(帽子取ってきた、せめてものお礼に、聞いてやろうとしたのに…)」 すると、予想外の答えが返ってきた。 さやか「ううん、七夕にお願いした事、うちだけの事やない…」 織姫「へぇ…じゃ、どんな願い事したの?」 さやか「…うちら3人、ずっと笑(わろ)うていられますように…って」 おんぷ・まさみ「さやちゃん…」 織姫「え…」 さやかの声に、昨年の七夕が思い起こされる織姫… ハナ「どれみ達と、ずっと一緒にいられますように…って」 織姫「…物好きな、お願いだこと」 呟いた織姫の口元が、微かに笑っていた… まさみ「全くだよ」 おんぷ「私も同感♪」 2人も一緒に、さやかを見て微笑むのだった。 織姫「じゃ私、そろそろ帰るわ」 突如言い出した織姫に、さやかは即座に聞き返す。 さやか「ほへ?帰る?どこに?」 織姫「私が帰る所って言ったら、決まってるでしょ…」 呆れながらも、織姫が空を真っ直ぐに指差すと、さやかはようやく気付く。 さやか「あ、そっか」 尤も、おんぷ・まさみは先に気付いていたようだが。 周囲に人気(ひとけ)の無い、夕日に染まる遊歩道… ピンッと指を弾くと織姫の姿が一変、袖も裾も長々と伸びるような服になった。 織姫「さてと、これ返してもらうわね」 さやかの肩にそっと手を伸ばし、織姫はスルッと羽衣を抜き取り、そして自分の体に纏わせた。 織姫「さやか、帽子ありがと」 さやか「どういたしまして♪」 織姫「それと、今日みたいにあちこち跳ね回るなら、もっと広い所で派手にやりなさい」 さやか「…ほへ?」 織姫「こんな狭い地上じゃなく、星の世界で踊りなさいってこと。    いつか遊びに…いや、いつかと言わずに、今夜いらっしゃい!」 飛んで、走って、跳ねて、舞って… 羽衣を纏い天女となったさやかには、地上という狭い舞台よりも、 夜空という広大なステージの方が、何倍もお似合いだろう。 さやか「はいっ!喜んで!」 だが、張り切るさやかの調子を、常に冷静なまさみが挫く。 まさみ「いらっしゃいと仰られても、どうやって行けば…」 すると、おんぷがあっさりと済ませてしまって、まさみも調子が外れる。 おんぷ「マジカルステージ☆」 まさみ「あ、そうですか…」 織姫「じゃあ待ってるわ。来なかったら承知しないからね!」 おんぷ・さやか・まさみ「はいっ!!!」 織姫「それと、おんぷとまさみ、ちょっと耳貸して」 おんぷ・まさみ「え??」 言われるまま、2人は織姫に歩み寄った。すると織姫は小声で… 織姫「さやかの願い、叶えてやらなかったら、私が承知しないんだからね」 それを聞いて、おんぷ・まさみ共に微笑んで快諾した。 おんぷ・まさみ「はいっ!!」 さやか「…何なん?」 首を傾げるさやかに、おんぷ・まさみは左右からさやかを挟み込むように肩を組んだ。 おんぷ「さやちゃんにはナイショ♪」 まさみ「まあ確かなのは、あたし達は腐れ縁だって事かな♪」 さやか「何やそれ〜!余計、分からへんて〜」 織姫「ふふっ…お子様は元気でいいわね」 フワリと浮き上がり、やがて織姫の姿は夕空に消えていった… そして、夜… おんぷ「プ〜ルルンプルンすずやかに〜」 さやか「プレサ〜リラティ〜なめらかに〜」 まさみ「ポクセル〜カソペ〜きよらかに〜」 おんぷ・さやか・まさみ「マジカルステージ!!!星の世界に連れてって!!!」 …という訳でやってきました星の世界、早速お出迎え下さいましたは… 織姫「来たわね。元気の有り余ってるお子様達♪」 さやか「織姫様、そないな言い方…」 ぼやくさやかに、おんぷ・まさみは面白そうに笑う。 おんぷ「まあ、外れてる訳でもないから♪」 まさみ「そうそう。当たってるんだから、文句言わないの」 言い合っていると、織姫がパンパンと手を叩いた。 織姫「はいはい、それくらいにして…    こっちは暇を持て余してて、退屈凌ぎにあんた達を呼んだのよ。    さあ、派手に踊りなさい!私を満足させるまで、帰さないんだからね!」 これを聞いて、おジャ魔女3人は… まさみ「…だってさ。こりゃあ今晩は、踊り明かす羽目になりそうだね」 おんぷ「この際だし、踊るついでに歌も歌っちゃいましょ♪」 さやか「織姫様の貸切ライブや☆」 その夜、織女星の周りで3つの小さな星が、舞い踊るように瞬き続けていたそうな… まるで彦星に飽いた織姫を、踊りで持て成す天女のように… 次回予告 さやか「いや〜、面白(おもろ)かった〜」 おんぷ「さて、今度は神社の夏祭り!まさちゃんの弓の腕前、見せてもらいましょ♪」 さやか「せやけど、あそこの神社、出るらしいで〜…妖怪・尻触り〜…」 おんぷ「キャ〜!」 まさみ「はいはい、ただの痴漢でしょ…そんな大仰に言わないの。     …とは言え、あたしとしちゃあ、こいつは放っとけないね…!」 さやか「次回、おジャ魔女おんぷTriple‐S(トリプル・エス)    『踊るまさみの大捜査線2!夏祭りに罰当たり!?』…事件簿シリーズ再びや☆」 おんぷ「まさちゃん刑事の活躍、お楽しみにね!」 まさみ「そういう訳で、あたしの当番ですので…次回も、ポクセルパトレ〜ヌ!」 19話端書き さやかに織姫様の羽衣を纏わせたら、体が軽くなって跳ね回って… そんな事を考えてたら、こんなのが出来ました。 相変わらず本編の設定から、新規設定を考え出してしまいました始末です。 さて、織姫様ご登場は2度目であります。この方、性格がさっぱりしてて好きなんですよ。 何て言いますか、筆者としても話を展開させやすいキャラと言いますか、はい… さやか、無茶苦茶アニソン歌いまくってます。はい。キュアプリですw 初代の「ふたりは…」のオープニングだってのは、バレバレですよね、はい… まあ過去に、おジャ魔女どれみシリーズがやってた時間枠なんですよね。 でも、さやかの動きとしましては、やっぱモデルとしたのはプリキュアの戦闘シーンで。 特にプリキュアは、スプスタや5になってから、動きが派手になってると筆者は思うのです。 とにかく「見せる」ためのアクション、これはプリキュアじゃないと… またまた出ました、CDドラマでお馴染み、はづきの解説コーナー♪ 今回は補足として、まさみまで友情出演☆でも、さやかには空耳w で、さやかの願い事がハナちゃんの願い事に重なる…というシーン、 ドッカ〜ン!23話「七夕なんてやーめた!」を参照していただけると宜しいかと… 後になって気付きましたが、さやかに羽衣を着せたらプリキュアになる… プリキュアで羽衣というと、丁度スプスタのキュアウィンディなんですねw