遠近学園、廊下を行く帰り際の3人に、幣原が後ろから声を掛けた。 幣原「やあ、1年PTAの懇親旅行の件、助かったよ。ありがとう」 おんぷ・さやか・まさみ「…え???」 聞き返した3人に、幣原は不思議そうな顔をした。 幣原「あれ?社長から聞いてないのかい?」 おんぷ・さやか・まさみ「社長!?(マジョルカ!?)」『歌って弾けて!?波乱の温泉旅行』 ルカ・エンタープライズ事務所… 一目散に駆け込んできた3人、社長室のドアを蹴破らん勢いだ。 おんぷ・さやか・まさみ「マジョルカ〜〜〜!!!」 マジョルカ「なっ、何だい何だい、うるさいねぇ…」 だが3人は構わずに、社長専用の机に圧し掛かって、マジョルカに詰め寄った。 おんぷ「PTAの懇親旅行の事、聞いたわよ!」 さやか「何で、うちらが一緒についてく事になっとんねん?」 まさみ「おんぷちゃんのママ…じゃなかった。マネージャーからも聞いてないよ!」 するとマジョルカ、いきり立つ3人に押されるどころか、開き直る始末。 マジョルカ「当り前だろ。私が決めて、今日お前達に伝えるつもりだったんだからね」 おんぷ「どういう事よ?」 マジョルカ「お前達の学校から話が来て、いい仕事だと思ったからさ」 そんなマジョルカに、疑いの目を向ける3人… おんぷ「言っとくけど私達、幣原先生から色々聞いたわよ?」 まさみ「どうやら行き先、山梨の温泉らしいね」 さやか「マジョルカ…自分が温泉入りたいだけなんと違(ちゃ)う?」 マジョルカ「(ギクッ…)」 見事言い当てられて、一気に表情が崩れたマジョルカ。 さやか「図星やな…」 おんぷ「呆れた…」 マジョルカ「うっ、うるさいね!とにかく、決めちまったもんは決めちまったんだよ!」 まさみ「職権濫用…」 マジョルカ「それ以上言うと、クビにするよ!」 おんぷ「すれば?そうしたら、この事務所、立ち行かなくなるんだから」 たまに昔のような小悪魔ぶりを発揮してしまうのが、おんぷの悪い所。 だが、こうでも言わなければマジョルカの横暴は止まりそうもない。 マジョルカ「お、おんぷ〜…そんな事言わずに、なぁ?頼むよ〜」 さやか「今度は下手(したて)に出よったがな…調子ええんやから…」 まさみ「さやちゃん、人の事言える?」 さやか「そこツッコまんといて…」 おんぷ「ま、しょうがないわね。さやちゃん、まさちゃん、この件OKしましょ。 その代わり、温泉では思う存分楽しませてもらうって事で♪」 少し嫌味な目線が、マジョルカに突き刺さる。 マジョルカ「わ、分かったよ…」 おんぷ「良かったわね、さやちゃん、まさちゃん」 さやか・まさみ「わ〜☆☆」 だが旅行前日になると、さらなる騒動が勃発した。マジョルカの元に、珍客が訪れていたのだ。 マジョリカ「おお、久々じゃな。おんぷ」 おんぷ「マジョリカ!?」 珍客とは、何とマジョリカ。初対面のさやか・まさみは只々、驚く他にない。 さやか「ほへぇ〜…!?」 まさみ「この人が…」 おんぷ「そうよ…あ、そうだ。2人に紹介しなくちゃ。 私の大親友・どれみちゃんのお師匠で、元・美空のMAHO堂店主のマジョリカ。 それでマジョリカ、この子達が…」 マジョリカ「言わんでも、噂は儂の所まで聞こえとるわい。さやかとまさみじゃろ? それにしても、おジャ魔女が、おジャ魔女を弟子に取るとは… おんぷ、お前らしいと言えば、お前らしいわい」 これを言われると正直な所、おんぷは嬉しいらしく、頬が茜色に染まった。 おんぷ「ふふっ…ありがと。それにしても、一体どうしたの?」 マジョリカ「どうしたもこうしたも、マジョルカの奴が温泉に行くと聞いてな。 これを放っておく手はないわい。のっほっほっ…」 高笑いするマジョリカに、呆れるおんぷ。 おんぷ「相変わらずね…」 まさみ「あの〜…1つ質問していいですか?」 ここで割り込んできたまさみに、マジョリカは怪訝そうな表情を見せる。 マジョリカ「あん?」 まさみ「どうやって、あたし達についてくるつもりですか? マジョルカは、あたし達の社長だからいいとしても…」 マジョルカ「何だい、そんな事かい…マジョリカ、見せておやり」 マジョリカ「ふっ…久々にやるかのぉ」 そう言うとマジョリカ、軽く指パッチン。すると… おんぷ・さやか・まさみ「あああっっっ!!!」 3人の足元には、ちんまりとした緑色の物体が… マジョリカ「ふっふっふっ…おんぷ、懐かしいじゃろ?」 さやか「ほ、ほへぇ…」 まさみ「これが、まさか…」 おんぷ「そう、そのまさか…これが魔女ガエルよ…」 最早、説明するまでもないのか、おんぷが説明する気になれないのか… さやか「蛙っちゅうよりは、スライムやろ?これ」 そう言いながら、さやかは面白そうにマジョリカを突(つつ)く。 マジョリカ「やめんか馬鹿も〜ん!!」 これまた久々の怒鳴り声。さやかは勢いで吹っ飛んだ。 マジョリカ「…まあ、これなら体が小さいから、 元魔女ガエル村の連中が全員来ても、場所は取らんじゃろ」 おんぷ・まさみ「…え??」 一瞬にして凍りついた。聞き間違いではなかろうか… おんぷ「マジョリカ…今、何て言った?」 マジョリカ「じゃから、おジャ魔女3人を出しにして、 元魔女ガエル一同の温泉旅行にするんじゃよ!」 おんぷ・まさみ「はぁ〜??何それ…」 開いた口が塞がらない2人… だが、吹っ飛ばされて起き上がったさやかはニコニコして、とても嬉しそう。 さやか「まあ、賑やかになるんやから、ええんと違(ちゃ)う? 訳聞いたら、めっちゃ面白(おもろ)そうな話やん」 マジョルカ「さやかは賛成みたいだからいいけどさ、おんぷ、まさみ、頼むよ〜」 まさみ「どうする?」 おんぷ「どうしようかしら」 さやか「ええやん♪ええやん♪うちらとPTAのお母ちゃん方と、魔女ガエル御一行様、 滅茶苦茶賑やかな温泉旅行になりそうで、うち興奮してきたで☆」 テンションの上がるさやか。逆にテンションを下げるまさみ。 まさみ「そんな能天気な…」 おんぷ「ま、それはそれで楽しいかもね♪」 まさみ「おんぷちゃんまで、そんな〜…」 振り回されるしかない、まさみなのであった… 出発前夜、ルカ・エンタープライズ… マジョリカ「全員揃ったようじゃな」 事務所内に犇めく、魔女ガエルの集団…見ていて異様だ。 マジョ梅「やっぱり儂ら、この姿の方が和むんじゃな」 マジョ松「何だかんだでマジョルカ、あんたも魔女ガエルになっとるのか」 マジョルカ「そりゃあ、おジャ魔女共の世話をしとるより、ず〜っといいからねぇ」 マジョ竹「それはそれとしてじゃ、魔女ガエル饅頭は持ったか? 道中のおやつは必須アイテムじゃ。小腹が空(す)いたら困るぞ」 マジョ松「魔女ガエル外郎も、忘れちゃいかんのぉ」 マジョ梅「それより酒じゃ。酒が無きゃ何にもならんわい」 マジョリカ「それとサンバじゃ!サンバの衣装も持っていくんじゃ〜!」 どうやら、珍道中になる事は必至のようだ… そして当日…学園前に並ぶバスの列。楽しそうに笑顔を見せるのは、PTAの奥様方と… さやか「わ〜!温泉旅行や〜!楽しいなったら楽しいな〜!」 とにかく上機嫌なさやか。それを見て笑うおんぷ、そして呆れるまさみ。 ちなみに服装は、学校の催事という事で、3人は制服を着用。 おんぷ「さやちゃんったら、随分と楽しそうね♪」 まさみ「はしゃぎ過ぎだよ…」 おんぷ「まあ、いいじゃない。見てるだけでも楽しいし」 まさみ「おんぷちゃん…そういう問題じゃないっしょ…」 やはり調子が下がり気味のまさみに、上がり調子のさやかが首を傾げた。 さやか「まさちゃん、あんま楽しそうやないな…何で?」 おんぷ「まさか、こういう旅行って嫌い?」 まさみ「ううん、そうじゃないよ…」 さやか「ほな、まさちゃんも思いっきり弾けよか!ほらほら!」 そう言うと、さやかは突然まさみの両脇を擽り始めた。 まさみ「あっ、あはは…さやちゃん!やめてよ…あはは…」 さやか「ほらほら、もっと笑(わろ)て笑て!」 まさみ「わっ、分かったってば…あはは…やだ、涙出てきた!」 おんぷ「うふふ…まさちゃんの負けね」 そこにやって来た、担任の幣原。 幣原「朝から仲良しだな…だが、お楽しみはバスに乗ってからにしてもらえるか? 席に着いてもらわないと、出欠確認が出来ないからな…」 まさみ「あっ、先生…」 おんぷ「ごめんなさ〜い…」 さやか「堪忍な〜」 ここで3人の内で最も力のある、まさみが持たされている、大きめのバッグに注目しよう。 この中には、何とマジョガエルの一行が詰まっているのだ。 マジョリカ「狭苦しいが、温泉までの我慢じゃな」 勿論、そんな事を幣原が知る筈がない。 幣原「さて、その大きいバッグは荷室に入れてもらおうか」 これを聞いた3人は心の中で、ほくそ笑んだ。 おんぷ「ねえ、3人で入れましょ」 そしてマジョリカ達の入ったバッグを、バス下部の荷室に勢いよく放り込んだ。 おんぷ・さやか・まさみ「せ〜の、えいっ♪♪♪」 ドサッという音と共に、何かが聞こえた。 マジョリカ「んぎゃっ」 幣原「…ん?今、何か変な声がしなかったかな?」 しかし3人、揃ってしらばっくれる。 まさみ「きっと気のせいですよ」 さやか「せやせや。気のせい気のせい」 おんぷ「さ、早く乗りましょ」 しかも幣原も、深くは追求しない。 幣原「うん、そうだな」 マジョリカ「お前ら〜…」 苦痛の叫びも虚しく、バスの運転手によって荷室の扉は閉じられる。 運転手「もう荷物ないですね?じゃ閉めますよ〜」 バタン…荷室内は、真っ暗闇になった。 マジョリカ「おジャ魔女共め〜…後で覚えとれ〜…」 マジョ梅「まあまあマジョリカ、そうカッカするな」 マジョ松「そうじゃそうじゃ。こっちの方が儂らの貸し切りでええわい」 マジョリカ「ま、それもそうじゃのぉ」 指を弾くと、光源がないのに蛍のように明かりが灯った。 これで周りが見えるようになったので、積んである荷物を端に寄せスペースを作った。 マジョリカ「憂さ晴らしじゃ〜!みんな踊るぞ〜!」 何と、あろう事かサンバを踊り始めたではないか。 やはりこの面々が集まると、こうなってしまうのか… 一同を乗せたバスは目的地の温泉を目指し、高速道に入った。 おんぷ・さやか・まさみは、一番後ろの列の席に3人並んでいる。 5つの座席が並ぶ最後列の、進行方向に向かって左手、 その窓際から、さやか・まさみ・おんぷの順だ。 そして他の奥様達は、それぞれ思い思いに時間を過ごしている。 …と、ここで幣原から1つ提案が出された。 幣原「皆さん、ただバスに揺られてるだけってのも、味気無いでしょう? それに、うちのクラスには、既にデビューしてる歌手が3人もいる訳です。 どうでしょう?ここらで、3人のミニライブなんてのは?」 名指しはしていないが、おんぷ・さやか・まさみを指しているのは明らかだ。 さやか「ほへっ!?」 おんぷ・まさみ「えっ!?」 これには奥様方、大喜びで手を叩く。 PTA「あら、おんぷちゃんの歌が聴けるの?」 PTA「そりゃあ、いいわねぇ。楽しいじゃない」 PTA「さやちゃんも、まさちゃんも頑張ってちょうだい」 予想外のイベントに、当の3人の内、さやか・まさみが困る。 まさみ「参ったね…」 さやか「いきなり何言い出すねん、幣原せんせ…」 しかし、こんな事は慣れっこのおんぷ。 おんぷ「まあ、やりましょ。2人共、ファンは大事にしないとね♪」 まさみ「それも尤もだね…」 さやか「せやな。ほなトップバッターは、おんぷちゃんやろ?」 おんぷ「任せて!」 丁度、通路が真正面だったのもあって、おんぷが先陣を切る事になった。 座席の間の通路は、恰も花道のよう。 おんぷが前に出てくると、黄色い歓声に加えて、拍手と口笛が鳴り響いた。 備え付けられていたポータブルのマイクを手に取って、おんぷはスイッチを入れた。 おんぷ「それじゃあ1曲目…『Cherry Bomb!』行ってみよっか!」 大歓声が湧き起こって、風のように駆けるバスの車内は、ライブハウスと化した。 ここから先、歌の間は、お邪魔にならないよう、ナレーションを控えさせて頂こう… おんぷ「Love me 優しく見つめて熱く Kiss me♪ 爆発しそうなCherry Bomb! ハートはCherry Bomb!♪ 私となら うんと楽しい事 教えてあげる 絶好のSunny day♪ 太陽さえ ほら私の味方 片想いは昨日でね もうbye-bye♪ 君が笑う 君がはしゃぐ それが嬉しい♪ 胸にピョンとしがみついて ギュッてしたいよ♪ Love me 気付いてピンクのほっぺに Kiss me♪ 甘そうで手強いCherry Bomb! ドキドキCherry Bomb!♪」 さて、これで曲は完結ではないが区切りが良いので、ここでおんぷから交代のアナウンス。 おんぷ「さて、次は…さやちゃん、まさちゃん、どっちが先?」 さやか「はいは〜い!ほな、うち〜!」 手を真っ直ぐ上げて、さやかが名乗り出た。 おんぷ「じゃ、交代ね」 駆け寄って来たさやかに、おんぷからマイクがバトンタッチされる。 さやか「はい、おんぷちゃんファンのお母ちゃん方、堪忍な〜。 今度は、うちの歌やけど聞いてや〜」 PTA「いいわよ〜さやちゃんも可愛いから♪」 さやか「おおきに〜♪ほな、こないだ発売のデビューソロアルバムから『Green Breeze』、 これから歌うさかい、気に入ったら買(こ)うてや〜」 PTA「まっ、商売上手ねぇ」 PTA「私、買っちゃおうかしら」 実は、この度さやかはCDデビューしていた。 ちゃっかりCDの宣伝をしてから、さやかはノリノリで歌い始めた。 さやか「キラリ輝く朝露に うちもウインク返すんや♪ 道の木漏れ日 ええ気持ち 陽気なお日さんは友達や♪ 滑らかな風 身に纏い 軽いステップで駆けてくで♪ 緑の草木 吹き抜ける風 髪靡かせて うちも踊るで♪ Green Breeze 緑のそよぐ風♪ 葉っぱに雫ポタポタリ うちの気分もしんみりや♪ でもな落ち込んでいられへん 雨風やって仲間やし♪ 滑らかな風 身に纏い 水溜まりピョンと飛び越えて♪ 緑の草木 吹き抜ける風 雨のリズムに心弾むで♪ Green Breeze 緑のそよぐ風♪ 滑らかな風 身に纏い 走っていこか どこまでも 緑の草木 吹き抜ける風 いつも一緒に うちもはしゃぐで Green Breeze 緑のそよぐ風…そよぐ風♪」 ラストにサビをもう一度、という形で終わった。 やはり明朗なさやかの声は、澄んだ青空によく似合う。 大きな拍手に、さやかはペコリと礼をした。 すると多くのお母さま方が手を振ったり、口笛を吹いたりした。 さやか「わ〜い♪皆さん、おおきに〜!」 ここまで絶賛を頂いて上機嫌のさやかは、マイクをまさみの目の前にまで持って来ていた。 さやか「ほい♪」 まさみ「…は?」 ニコニコするさやかに、まさみは首を傾げていた。 さやか「次は流れ的に言うたら、まさちゃんの番やで♪」 まさみ「えっ…あたしも歌うの!?」 さやか「当ったり前やん!」 おんぷ「ファンサービス、ファンサービス♪」 隣で、おんぷも何だか楽しそうに囁いた。 まさみ「そんなぁ…」 そして4月に自己紹介した時、男子達が囃し立てたように、さやかがふざける。 さやか「ま〜さ〜ちゃん!ま〜さ〜ちゃん!」 こうなると、お決まりのパターンで、まさみの顔は、 まるで酸を帯びたリトマス試験紙の如く、見る見るうちに赤くなっていく。 まさみ「…全く、もう!」 半ば奪い取るように、さやかの手からマイクを受け取ると、まさみは最前列まで歩み出た。 まさみ「では、僭越ながら酒井まさみのデビューソロアルバムより…どうぞ!」 PTA「頑張ってね!まさちゃん」 前に出た途端に、角張っていた声色が急に丸くなったまさみ。 選曲は、かつておんぷ・さやかに一部だけ聞かせた「雪と星の申し子」だ。 こちらも、さやかと同時にCDデビューとなっていた。 まさみ「あたしは北国育ち 雪と星の申し子…♪ 雪の斜面に弧を描(えが)いて 吹雪のように滑ってく♪ でもこの雪も いつか溶けて消えちゃう それが切ない定めだから♪ 新たな命が芽吹く頃あたしは 鈴蘭の鐘の音(ね)に耳傾けて♪ 白雪舞い遊ぶ北の空に 願いを込めて あたしは北国育ち 雪と星の申し子♪ 夏の夜空に夢描(えが)いて 刹那に消える箒星♪ 全ての星は いつか燃えて尽きちゃう そんな儚い命だから♪ 新たな星が光る頃あたしは 誰思い何願いどうしてるだろ♪ 銀星流れゆく北の空に 祈りを捧げ あたしは北国育ち 雪と星の申し子♪ 白銀に煌めく北の空に 思いを馳せて…♪ 白雪舞い遊ぶ北の空に 願いを込めて あたしは北国育ち 雪と星の申し子♪ 銀星流れゆく北の空に 祈りを捧げ あたしは北国育ち 雪と星の申し子♪ 白銀に煌めく北の空に 思いを馳せて あたしは北国育ち 雪と星の申し子♪」 最後はサビを3回も繰り返し、余韻を一杯に残して、まさみは静かに頭を垂れた。 まさみ「どうも、お耳障りでした…」 幣原「おいおい酒井くん、そんな謙遜するなよ… 君の歌も良かった。まるで心が洗われるようだったよ…」 まさみ「そんな…母の歌っていたのを、うろ覚えで歌ったまでの事… CDなんかにしちゃって、母がどう思ってるか…」 幣原「きっと喜んでるだろうよ。酒井くん」 さやか「う〜ん…この曲やと、やっぱ空気重なってきたわ…」 いつの間にか、さやかまで口を挟み込んでいた。 おんぷ「あら?この曲はこの曲で、私は好きだけど。私、そういう曲も歌ってるし」 さやか「せやけどな〜…そういう曲、うちの性分には合わへんねん…」 おんぷ「まあ♪…さてと、次は誰が歌う?」 ちなみに客室が歌で盛り上がっている間、荷室でも… マジョリカ「まわれまわる世界は あたしのためブラボー!♪ いくよ!みんなせ〜ので マジョリカ・ブラボー!♪」 こちらもこちらで、盛り上がっていたのだった。 その後、目的地の温泉に到着して… マジョリカ「信玄の隠し湯じゃ〜!」 マジョ梅「風呂は風呂でも、やっぱり露天風呂に限るのぉ〜」 マジョ松「景色もええし、酒も美味いのぉ〜」 マジョ竹「来て良かったのぉ〜」 マジョルカ「日頃の疲れが取れるねぇ〜」 別行動となって、人里離れた岩場の露天風呂に集う、魔女ガエル御一行は置いておいて… さあ、入浴シーンは入浴シーンでも、Triple-Sの入浴シーンは…? さやか「ぷは〜っ!ええ湯やったな〜」 まさみ「気分爽快だね」 おんぷ「本当、気持ち良かった♪」 既に女湯から出てきてしまって、浴衣姿の3人…残念でした… さやか「何や変な声、聞こえへん?」 おんぷ「さやちゃん、そこは気にしないの」 あの…ナレーションにツッコむのは困ります… まさみ「話の腰、折らないで…それで、お風呂は良かったけど、さやちゃん騒ぎすぎ」 さやか「せやかて風呂場は声響いて、ええ気持ちなんやもん♪」 まさみ「だからって、お湯に浸かりながら歌うのは…」 おんぷ「それも六甲颪…」 さやか「風呂で歌うとなったら、六甲颪やろ〜」 大阪育ちで阪神ファンのさやかが調子に乗って歌うとなれば、これしか無かろう。 さやか「六甲颪に颯爽と 蒼天翔ける日輪の♪ 青春の覇気 美(うるわ)しく 輝く我が名ぞ 阪神タイガース♪ オウ オウ オウオウ 阪神タイガース フレ フレフレフレ♪」 これには、おんぷも唖然…まさみに至っては、呆れるあまりに頭を抱え出す… おんぷ「さ、さやちゃん…」 まさみ「また歌い出すし…何だか頭、痛くなってきた…」 さやか「…あっ、風呂あがりと言えば、あれやらな」 そう言って、さやかが指さした先には… おんぷ・まさみ「卓球…」 卓球台があった。こんなにも目立つ物に、なぜ往路で気付かなかったのか… さやか「温泉入ったら、瓶牛乳も飲まなあかんけど、卓球もせな☆」 異様なまでに瞳を輝かせ、さやかは既に卓球のラケットを手にしていた。 おんぷ「さやちゃん…」 まさみ「準備早すぎ…」 さやか「ごちゃごちゃ言うとらんと、早(はよ)勝負!」 そんな訳で、さやかVSまさみの卓球対決が勃発… 正確に言えば、さやかの方が一方的に、まさみに勝負を仕掛けた事になるのだが。 さやか「どりゃあ〜!!」 まるで鷲が逃げ惑う小鳥に襲い掛かるかのように、さやかのラケットが球を襲う。 さやか「(球に真っ正面からラケット当てて、そのまま押し戻すっ! でもって、うちのパワーで相手コートに叩き付ける、その名も…)」 パカーン!! まさみ「うわっ!」 快音が響き渡り、球はまさみ側のコートで跳ねた後、飛んでいって壁に当たった。 そして床に落ちて数回バウンドを繰り返してから、ようやく動きを止めた。 さやか「必殺さやかストレートスペシャル〜!!」 おんぷ「何?今の…」 驚くおんぷに、あくまでマイペースのさやか。 さやか「せやから、必殺さやかストレートスペシャル〜言うたやん」 おんぷ「だから、そうじゃなくて…」 ここで、まさみが解説を買って出た。 まさみ「理屈を言うと、球に余計な回転を与えず、真っ直ぐに打ち返してきたんだよ。 さやちゃんの馬鹿力も相俟って、反応しにくい速球になる訳だね…」 さやか「馬鹿力て、まさちゃん一言多いわ」 おんぷ「ふ〜ん、確かにストレートね…捻りのないネーミングだけど」 言われたさやかは少々、不貞腐れる。 さやか「おんぷちゃ〜ん…それ言うたら、あかんがな〜…」 おんぷ「てへっ、ごめんごめん♪それより、まさちゃん、早く取り返さないと」 まさみ「はいはい、分かっております」 それから試合は一進一退、どちらが優勢とも言い難い状況だった。 まさみ「(このラケットも、あたしの手にだいぶ馴染んできたし…やってみるかな…)」 向かってきた、さやかの打球を、まさみの鋭い眼光が睨み付ける。 水中に光る銀鱗に狙いを定め、魚を捕らえんとする川蝉の如く… そして川蝉の嘴が水面を切り裂くように、まさみのラケットが空(くう)を切った。 まさみ「(球の表面から皮一枚削ぎ落とす感じで、下から上に一瞬で擦り上げる… 考え方としては、ラケットを刀にして球を…斬るっ!)」 スパーン!! さやか「ほえっ!」 放たれた打球は、さやか側のコート面に当たると、逃げるようにコートの外へと飛び出した。 まさみ「ざっと、こんなもんか…」 おんぷ「これも凄〜い!」 それでも、まさみは落ち着き払って、静かに笑うだけ。 まさみ「どうって事ないよ…ただ球に強烈な順回転を与えただけ。 前向きに回転が掛かってるから、相手コートに接した途端、 跳ねずにコートの外に向かって転がってくんだよ」 理屈はどうあれ、さやかにとっては不満でしかない。 さやか「そない簡単に言うてくれるけど、ぶっちゃけ返せへんで、この球…」 まさみ「返せなければ、さやちゃんが負けるだけ」 さやか「そんなん嫌や〜」 おんぷ「うふふ…頑張って♪」 その後、宴会場…奥様方が、お食事・お酒に耽る中、またしても3人はライブを敢行。 さやか「ほ〜い!うちら3人で宴会部長、務めさせていただきます〜!」 まさみ「あたし達の芸、隅から隅まで、あ、ずずずいぃ〜っと、ご覧あれ!」 おんぷ「それじゃ、BAN×2いっちゃいますね〜♪」 拍手と歓声が巻き起こった。さあ、先陣を切るのは…? さやか「ほな、今度うちから歌います〜!」 そう言うが早いか、さやかは再びマイク片手にご挨拶。 さやか「今度はソロアルバムに入っとる、もう1曲『With You!』聞いて下さい!」 カラオケの装置が作動し始めると、またもノリの良い前奏が流れてきて、さやかが歌い出した。 さやか「With you every time With you everywhere I will be with you forever♪ うちと一緒に いつも どこでも いつまでも♪ Hi!おはようさん 今朝もええ笑顔 君と会えたなら 運勢◎(にじゅうまる)♪ 昨日 落ち込んだ事は忘れよか 今日は今日の風 君と駆け出そう♪ With you 君となら With you どんな風も♪ With you 背に受けて With you 飛んでいけるで♪ With you every time With you everywhere I will be with you forever♪ うちと一緒に いつも どこでも いつまでも♪ Yeah!ほな行こか 放課後の町へ 君と一緒なら 楽しい事だらけ♪ ここで別れても 明日また会える うちはそよぐ風 君へ流れてく♪ With you 君となら With you どんな時も♪ With you 手を繋ぎ With you 超えていけるで♪ With you every time With you everywhere I will be with you forever♪ うちと一緒に いつも どこでも いつまでも♪ With you 君となら With you どんな風も♪ With you 背に受けて With you 飛んでいけるで♪ With you 君となら With you どんな時も♪ With you 手を繋ぎ With you 超えていけるで♪ With you every time With you everywhere I will be with you forever♪ うちと一緒に いつも どこでも いつまでも♪」 幣原「いや〜、西郷くんらしさが出てて、とても良かったよ」 さやか「ほんまでっか?そりゃ、おおきに!」 絶賛と拍手喝采を頂き、さやかは天にも昇る心地になった。 おんぷ「さて、まさちゃんのデビューソロアルバムにも、曲まだ入ってたわよね☆」 まさみ「…つまりそれは、次はあたしが歌えって事?」 おんぷ「自分で考えて♪」 ただ笑うだけのおんぷ。まさみは対応に困った… さやか「ほい♪」 そんな所に、さらにマイクを突き出してきた、さやか。 さやか「まさちゃ〜ん、空気読もうや〜♪」 まさみ「あたしの心中は察してくれないの…?」 結局、歌わざるをえない状況になってしまった、まさみ。 渋々さやかからマイクを受け取ると、前に進み出る。 しかし観客の奥様方を前にした途端に、表情が晴れやかになっていた。 まさみ「どうも♪酒井まさみデビューソロアルバムより、もう1曲歌わせていただきます☆」 さやか「さっきまで浮かない顔しとったのに…態度、変わるの早っ!」 おんぷ「態度と言うか、気持ちの切り替えが上手なのよ。 やる時はやる…真面目な、まさちゃんらしいわ」 などと言っていると、まさみの指摘が入った。 まさみ「はい、そこ静かにね!さて、お騒がせしました。それでは『四季巡る風』お聞き下さい♪」 今度のまさみの曲は、1曲目よりも、テンポの良い曲のようだ。 先程のさやかに負けず劣らず、朗らかな歌声が始まった。 まさみ「巡り巡る季節は 回り回る風車(かざぐるま)♪ あたしも風が歌うように 四季を歌い継ごう♪ 咲き競う花々と 春を祝う鳥の歌♪ 夏の積丹ブルーは 遠く波が鳴る♪ paykar sak cuk mata rekpo a-ki♪ spring summer fall winter I sing the song♪ 春・夏・秋・冬 歌 歌おう♪ あたしの歌は どこまでも♪ pirka rera tura rekpo a-ki♪ 風と一緒に歌おうよ♪ 秋の葉は風に舞い 踏み締めればメロディ♪ 寒く永く続く冬も 雪風が啼くよ♪ paykar sak cuk mata rekpo a-ki♪ spring summer fall winter I sing the song♪ 春・夏・秋・冬 歌 歌おう♪ あたしの歌は いつまでも♪ pirka rera tura rekpo a-ki♪ 風と一緒に歌おうよ♪ 巡り巡る季節は 回り回る風車(かざぐるま)♪ あたしが永久(とわ)に眠っても… 歌は終わらない♪ paykar sak cuk mata rekpo a-ki♪ spring summer fall winter I sing the song♪ 春・夏・秋・冬 歌 歌おう♪ あたしの歌は 常しえに♪ pirka rera tura rekpo a-ki♪ 風と一緒に歌おうよ♪」 まさみにしては珍しいのではないか。一部、英語の歌詞があるようだ。 当然ながら、さやかがツッコミを入れる所となる。 さやか「まさちゃん、よう英語覚えたな〜」 まさみ「なめないでよ。これでも歌手の端くれだよ?」 さやか「よう言うわ。リリース遅れたん、英語の歌詞なかなか上手く歌えへんかったからやん」 まさみ「さやちゃん、それ言わない約束でしょや…」 おんぷ「でも、大変な曲には違いないわ。何しろ3ヶ国語だもんね」 幣原「3ヶ国語?酒井くん、ずっと気になってたんだが、 日本語でも英語でもないと思う歌詞があったけど、何語なんだい?」 まさみ「アイヌ語ですよ。北海道の先住民、アイヌの言語です」 幣原「へえ、凄いな…それで、何て歌ってたんだい?」 まさみ「それは…あたしのCD買って下されば、歌詞カードに解説が書いてますから」 幣原「おいおい…まあ、先生こういうノリは嫌いじゃないな」 まさみも、こういう理屈を捏ねるのは得意だった。ドッと笑いが溢れた。 どうやら、昼間のバス車内ライブよりも、盛り上がったようだ… 夜も更けて、同じ部屋に川の字になって寝た3人…さて、どんな様子か… おんぷ・さやか・まさみ「エッチ!!!出てって!!!」 手酷く追い返された…風呂に引き続き、またしても残念… 翌朝…早朝だというのに、風呂場に人影が… まさみ「…誰も、いないみたいだね」 周囲を気にしつつ、朝風呂を浴びに来たのは、まさみだった。 まさみ「実を言うと、さやちゃんの事あたしも言えないんだよね…」 昨日の風呂上がり、入浴中に六甲颪を歌ったさやかに、眉を顰めていた筈のまさみが… まさみ「ヤーレン ソーラン ソーラン ソーラン ソーラン ソーラン ハイハイ♪ 鰊来たかと 鴎に問えばぁ 私ゃ立つ鳥 波にぃ聞け♪ チョイ ヤサ エーエンヤーンサーノ ドッコイショ♪ ハァ ドッコイショ ドッコイショ♪」 鰊漁の歌として有名な北海道の民謡・ソーラン節を歌い出し、気分上々のまさみ。 まさみ「(こんな所、さやちゃんは勿論、おんぷちゃんにも見せられないや…)」 翌日、帰途…元来た高速道を直(ひた)走るバス。その車内で3人は、ばば抜きの真っ最中。 座席が横並びであったのに加えて、さやかがトランプを持ち合わせていたのだ。 楽しければ何でもいいという、さやかの性格からすれば、これしきの事は想像に難くない。 さやか「まさちゃん、朝風呂行くんやったら、何で誘ってくれんかったん?」 まさみ「鼾かいてた人の言う台詞じゃないね。それに多分、起こしても起きなかったと思うよ」 事実、昨夜のライブでエネルギーを使いきって、真っ先に寝息を立てていたのは、さやかだった。 おんぷ「私も行きたかったのに〜…」 まさみ「おんぷちゃんの場合は、めんこい寝顔を崩したくなかったから」 おんぷ「まあ…まさちゃんったら♪」 まさみ「(本当は、お風呂で歌ってるの、知られたくなかったから…)」 そんな話をしつつ、ばば抜きは進行。 さやか「あかんて、それ持ってかんといて…あっ、そっちも駄目…」 手札を持つ手までが震えている、さやか。引くカードを選んでいるのは、まさみだ。 まさみ「さやちゃん…そんなに喋ったら、ばば抜きになんないしょ…それっ!」 さやか「あっ…」 カードを1枚抜き取った途端に、まさみの顔が青褪めた。 まさみ「えっ…!?」 さやか「あははっ!引っ掛かった引っ掛かった〜!」 どうやら、さやかは持っていくなと言いながら、まさみの手を、ばばに誘導していたようだ。 そして、まさみの表情から、おんぷも、ばばが現在まさみの手札にある事は分かってしまった。 おんぷ「どうしよっかな♪」 ルンルン気分で、おんぷはサッとまさみの手札から適当な1枚を抜き取る。勿論、ばばを避けて。 まさみ「もう負けた…おんぷちゃん相手じゃ、騙せっこないよ…」 そんな折、3人は表情を変えた…そして考えが、自然と一致していた… おんぷ・さやか・まさみ「(この先…何か変な感じがする…!!)」 そんな3人の嫌な予感が的中した。しばらくして、バスは前進できなくなった…渋滞である。 薄暗いトンネル内、見通せる限りでは渋滞は、ずっと先まで続いている。 もう動かなくなって数十分になる。バス車内の奥様は退屈さのあまり、眠り出す方が続出。 幣原「こりゃあ、事故か何かあったな…いや〜、参ったな…」 一番前に腰掛ける幣原も、頭を抱えていた。 その一方で、おんぷ・さやか・まさみが額を寄せ合った。 おんぷ「さやちゃん、まさちゃん…ただの渋滞じゃないわよね…」 まさみ「うん…薄々だけど、これの気配を感じる…」 そう言うまさみの人差し指と中指には、トランプのジョーカーが挟まっていた。 さやか「あっ、ばば…まだ持ってたんかい…」 まさみ「そこはツッコまないで…」 おんぷ「まあ、それは置いといて…不吉な物…って事ね」 さやか「この渋滞の、もうちょい先やな。くすんだ魔力が見える…」 窓際のさやかは、バスの先に続く渋滞を見つめていた。 おんぷ「早く行きましょ…って言いたいけど、まずはどうやって、このバスから出るかよね…」 まさみ「それなんだよね…前には幣原先生がいるから、引き止められるのが見え見え…」 さやか「せやなぁ…せや。2人共、耳貸して…」 何かアイデアがあるようで、さやかはおんぷ・まさみの耳に何か囁いた… その密談が終わった直後… さやか「あ〜!退屈でしゃあないわ〜!ちょっと様子見てこよっと!」 あからさまに聞こえるように、さやかは大声で言いながら、窓を開けた。 そして両足を抱え込むと、その足を窓の外へと向ける。 幣原「おい、西郷くん!何してるんだ!?」 やっと異変に気付いて、幣原が立ち上がった。 しかし、その時には既に、さやかは窓枠の上部に手を掛けて、窓の桟に腰掛けた状態だった。 さやか「ほな、行ってきま〜す」 そう言って、さやかは窓から路肩へと飛び降りた。スタッと着地して、さやかは一言。 さやか「うわっ!制服のスカート、大っぴらに広がってもうた… それにしても、ハイデッカーも大した事無いな〜…」 こういった大型バスは、下に荷室があって、客席が高いのが特徴だ。 しかし運動神経の良いさやかにとっては、飛び降りるのに高すぎるという事はなかったようだ。 さやか「さてと、この先どないなってんやろか?」 タタタッと、さやかは路肩を駆け出した。予想外の出来事に、幣原は慌てる。 幣原「おっ、おい、こらっ…」 さらに、そのタイミングを見計らって、おんぷ・まさみが座席を立って通路を駆け出す。 まさみ「もう!あの、お馬鹿!」 おんぷ「先生!さやちゃん連れ戻してきます!」 幣原「あっ、君達…」 おんぷ「すみません、ドア開けてもらえますか?」 幣原が止めるよりも早く、おんぷが運転手に乗降扉を開けさせた。 ドアが開くと同時に、ステップを段抜かしで2人は飛び降りた。 幣原「仲がいいって、こういうもんなのかなぁ… まあ瀬川くんと酒井くんは、しっかりしてるから大丈夫だとは思うけど…」 などと言っている内に、幣原にも睡魔が襲ってきた。 幣原「ふぁ…何だか眠くなってきた…」 その横では、何と運転手まで目が虚ろに…荷室でも、魔女ガエル御一行が眠り込んでいた。 しかもトンネルの照明が、次第に明るさを失ってきていた… おんぷ・まさみが渋滞の続くトンネルの路肩を走っていくと、さやかが2人を待っていた。 さやか「おっ、来た来た。こっちこっち」 手招きされるままに駆け寄ってきた2人に、さやかが言う。 さやか「絶対おかしいで、これ…」 高速道は本来、歩行者がいてはいけない所。 だが、バスを抜け出してきたさやかを、他のドライバーが窘める事はなかった。 その理由を示すように、さやかは一番近くに止まっていたセダンを指差した。 さやか「どの車の運ちゃんも、こないなっとんで…」 こちらでも、ドライバーは運転席で眠りこけていたのだ。 まさみ「今まで走ってくる途中の車の運転手さんも、みんな寝てた…」 おんぷ「多分、この先もずっと…」 見つめる先には、延々と薄暗さが続いていた。 さやか「この先ずっとって、このトンネルの長さ、なんぼ?」 まさみ「入口の看板には、全長2002mって書いてた」 おんぷ「このトンネル、長くて緩い上り坂だから、渋滞のポイントなのよ」 まさみ「どうやら、それを利用されたみたいだね… 渋滞したトンネルを闇で包み込んで、大量の人間の生気を奪う…」 そう言っている間にも、辺りの視界は失われ、暗黒が広がっていく。 さやか「なあ…ちょっとヤバいん違(ちゃ)う?」 まさみ「したっけ、いつものあれ」 おんぷ「やりましょ」 では、お馴染みとなりました、この台詞からどうぞ… おんぷ「瀬川のS!」 さやか「西郷のS!」 まさみ「酒井のS!」 おんぷ・さやか・まさみ「3人合わせて…Triple-S!」 さあ、次はお着替えとマジカルステージを通しで、お願いしよう。 シュッシュ♪ おんぷ「プリティ〜ウィッチ〜おんぷっち〜♪」 さやか「プリティ〜ウィッチ〜さやかっち〜♪」 まさみ「プリティ〜ウィッチ〜まさみっち〜♪」 おんぷ「プ〜ルルンプルンすずやかに〜」 さやか「プレサ〜リラティ〜なめらかに〜」 まさみ「ポクセル〜カソペ〜きよらかに〜」 おんぷ・さやか・まさみ「マジカルステージ!!!このトンネルの闇を晴らして!!!」 純白のロイヤルパトレーヌとなった3人に、さらなる漆黒の闇が迫る。 まさみ「嫌な魔力が増してきた…」 おんぷ「ねえ、さっきよりも暗くなってきてない?」 さやか「まさか、うちらも丸め込もうっちゅう魂胆かいな?」 そして遂には、真っ暗な闇が3人を包み込んで、3人は互いの姿すら見えなくなった。 おんぷ「えっ!?…何これ?」 さやか「おんぷちゃん!まさちゃん!どこや?何も見えへん!」 まさみ「何これ…嫌な魔力が濃すぎて、2人の魔力が感じられない…」 3人が困惑する中、さらに、あのマジョリーチの声が聞こえてきた。 マジョリーチ「いい気味だ…」 おんぷ・さやか・まさみ「マジョリーチ!?」 マジョリーチ「流石に、これ以上お前達に邪魔されると、面倒なのでな…」 さやか「どこや!どこにおるんや!」 まさみ「さやちゃん!声だけだよ!気配は無い!」 その間に、おんぷが叫ぶ。 おんぷ「プ〜ルルンパトレ〜ヌ!」 …しかし、何も起こる気配はない。 おんぷ「…どうして?」 マジョリーチ「この闇は、お前達の魔法をも飲み込む… 3人離れ離れのまま、この闇に飲まれて朽ち果てるがいい…」 その声が消えると、3人の声だけが闇の中に響き渡るようになった。 さやか「ほえ〜!どないすんねんな〜!」 おんぷ「さやちゃん、まずは落ち着いて…まさちゃん、本当に私達の魔力は感じ取れないの?」 うろたえ続けるさやかに対し、おんぷ・まさみは何とか事態を打開しようと、冷静に考える。 まさみ「うん…只々、深い闇と嫌な魔力が立ち込めてるだけ…」 さやか「なあ、うち、さっきからずっと走り回っとるんやけど、何にもぶつからへんで!」 おんぷ「何も無い空間…魔法も飲み込まれる闇…一体どうやったら出られるの?」 さやか「それより、早う3人一緒になりたい〜!」 まさみ「だったら落ち着いてよ!」 ここで何やら、おんぷがある事に気付いたようだ。 おんぷ「あら?…この空間、何も無くて何も感じられないようだけど、 1つだけ存在するものがあるじゃない…たった1つだけ…」 さやか・まさみ「えっ??」 驚いて聞き返すさやか・まさみに、おんぷの答えは… おんぷ「私達の声よ…お互いに声が聞こえてるからこそ、こうして会話出来てるんじゃない!」 まさみ「あっ!そっか…でも声が聞こえてても、それでどうこう出来る?」 さやか「う〜ん…せや!」 何か名案が浮かんだらしく、突然さやかが大きな声を出した。 おんぷ「どうしたの?」 さやか「ええ事思いついた!おんぷちゃん、何でもええから歌って!」 おんぷ「…分かったわ!」 さやかを信じて、おんぷはその提案に乗った。そしてノリノリの歌声が響き始めた。 おんぷ「We can do anything if we do it together きっと出逢えるよ…can do!♪」 それに合わせて、さやかも歌声を織り交ぜ始めた。 おんぷ・さやか「何かが変わり始める 新しい私に♪」 歌手でもあり、おんぷファンでもあり、さやかも歌では引けを取らない。 さらに1人残った、まさみを誘いにかかる。 さやか「まさちゃんも歌いや!」 まさみ「でも…」 おんぷ「お願い♪」 まさみ「…もう!」 本来なら間奏のタイミング中に、早口で会話がなされた。 そして、おんぷ・さやか・まさみの3重唱になった。 おんぷ「書きかけのdiary 溜め息をついてる 心の言葉見つからなくて♪」 さやか「大好きなリボンでも ちぐはぐしてる気分ね いつもみたいに笑えない♪」 まさみ「もっとぎゅっと 手の平つないだなら 雨上がりの虹に会えるよね♪」 瞳を閉じて歌いつつ、おんぷは歩みを進める。 同じく歌いながら歩き、さやかは耳を済ませていた。 乗り気ではなかったまさみも、いつしか歌声と共に歩数を重ねていた。 おんぷ・さやか・まさみ「We can do anything if we do it together♪ みんな一緒なら…can do! 涙も勇気に変わる 笑顔になるよ♪」 その瞬間、3人が前方に差し伸べた手の平は1つに合わさり、3人は互いの姿を確認出来た。 歌詞だけでなく、それぞれの顔からも笑みが零れる。 おんぷ・さやか・まさみ「We can do anything if we do it together♪ きっと出逢えるよ…can do! 何かが変わり始める 新しい私に♪」 そして歌声と一緒に本人達も、言葉通り三位一体となった所で、リースポロンに力を込めた。 おんぷ「プ〜ルルンパトレ〜ヌ!」 さやか「プレサ〜パトレ〜ヌ!」 まさみ「ポクセルパトレ〜ヌ!」 すると、いつの間にか3人の目の前には、明るい光が広がり始めていた。 その光が空間を占める割合は次第に大きくなり、そして闇に代わって3人を包み込んだ… おんぷ「…?」 さやか「ほえ…」 まさみ「あ…」 見回してみると、そこは元のトンネル内だった。 おんぷ「私達…戻ってきたのね!」 さやか「ほんまや!うちら、ちゃんと生きとる!」 手放しで喜ぶさやかに、やはり呆れるまさみ。 まさみ「縁起でもない…でも、さっきまで絶体絶命だったってのは確かだね…」 さやか「せやろ?せやろ?」 まさみ「それにしても、どうして3人一緒になれたんだろ… 最初に歌えって言ったのは、さやちゃんだったよね?」 さやか「せやけど、声だけは聞こえてる言うたんは、おんぷちゃんやで」 まさみはさやかに尋ねたが、さやかはおんぷにパス。 おんぷ「声だけが聞こえるんだったら、声を道標(みちしるべ)にすればいいって事よ♪」 さやか「うちは、ただ声出すより歌った方が面白(おもろ)いと思ただけや♪」 笑みを浮かべるおんぷ・さやか。まさみは大きく溜め息を吐いた。 まさみ「何さ、それ…2人共、確信犯だった訳ね…そして、その思いつきが見事に当たったと… あの闇の空間から脱出する方法は、声と心と魔法を1つにする事だったみたいだね」 さやか「せやせや!絆の勝利や〜!」 おんぷ「We can do anything if we do it together…一緒なら何でも出来る…ね♪」 まさみ「まあ、そういう事にしておきますか…」 おんぷ「さ、早く普段着に戻って、バスに戻りましょ。すぐ渋滞が動き始めるわ」 さやか「せやな。ばば抜きの続きせな」 まさみ「ちょっと〜…また負けるの、あたしじゃないの?」 そんな会話をしながら、3人は駆け足で元来た道を戻っていった。 しばらくして、バス車内… 幣原「う〜ん…やっと流れてきたな〜…」 後部座席では、おんぷ・さやか・まさみが小声で話し合う。 おんぷ「良かったわね。みんな、特に何ともないみたいね」 さやか「うちらの魔法の事も、覚えてないみたいやしな」 まさみ「後は、この下に陣取ってる人達が、どうなってるか…まあ大丈夫だとは思うけど」 バスの下の荷室… マジョリカ「ふぁ〜…まだ着かんのか…」 マジョ梅「疲れすぎて寝てしもうたわい…」 マジョ松「それだけ楽しかったんじゃなぁ…」 マジョリカ「…もう一寝入りするかのぉ」 マジョルカ「そうだねぇ…じゃ、お先に寝かせてもらうよ」 だが、これで一件落着、めでたしめでたし…と、都合良く事は運ばなかった。 酒井家、洞爺の書斎に電話が鳴った。 洞爺「もしもし…おっ、久々ですな。何かありましたかな?…何!?美空症候群か!」 美空症候群…洞爺は、悲しみに侵された者が眠りにつく症状を、このように名付けたのだ。 洞爺「場所はどこじゃ?…ほう、中央道の上り、小仏付近…トンネル渋滞で…ふむ…」 今日の出来事が、洞爺の耳に伝わった… 捜査が進めば、孫のまさみは勿論、おんぷ・さやかにも危機が迫るか…!? 次回予告 おんぷ「自転車で乱暴な運転をする生徒が、この遠近学園にいるんですって?」 まさみ「その正体は、うちのクラスの浜口みさおちゃんとの噂…」 さやか「MTB乗り回すんは、格好(かっこ)ええねんけどな〜」 おんぷ「でも浜口さん、追いかけてきたパトカーを振り切ったそうよ」 まさみ「あたしのクラスメイトに、そんなのがいたとは、いい度胸じゃない… よしっ!この一件、あたしが片付けてやるんだから!」 おんぷ「次回、おジャ魔女おんぷTriple‐S(トリプル・エス) 『踊るまさみの大捜査線!自転車爆走事件』…警官の娘・まさちゃんの大活躍ね♪」 さやか「どっかで聞いた事あんで、このタイトル…」 16話端書き さあさあ、見所満載であります! まずは、我らが西郷さやか・酒井まさみ、2人揃ってデビューシングル発売〜! どうぞ皆様、お買い求めは、お近くのCDショップで(ぇ) ちなみに西郷さやか盤は、15000hitとして見本がございますw では、ここで「四季巡る風」の歌詞に出てきました、アイヌ語の解説を致しましょう。 ちなみにアイヌ語は、カタカナでは本来の音を正確に表現するのが難しいため、 学術的にはアルファベットで表記する事になっております(筆者の大学の講義より)。 paykar(パイカル)春 sak(サク)夏 cuk(チュク)秋 mata(マタ)冬 rekpo(レクポ)歌 a-ki(ア・キ)私・する→私は〜する 上記より、前半の歌詞「paykar sak cuk mata rekpo chiki」は、 「春・夏・秋・冬 私は歌う」と訳します(私は歌をする→私は歌う) 「spring summer fall winter I sing the song」「春・夏・秋・冬 歌 歌おう」と、 ほぼ同じ意味であり、対応させてあります。 pirka(ピリカ)美しい・奇麗な rera(レラ)風 tura(トゥラ)〜と共に・〜と一緒に 上記より、後半の歌詞「pirka rera tura rekpo chiki」は、 「美しい風と共に私は歌う」と訳します。 こちらも「風と一緒に歌おうよ」に対応しております。 注…上記のは、ご先祖を辿ると本州系になってしまう筆者の、見様見真似のアイヌ語です。 文法や用法には全く自信ありません…とりあえずアイヌ語の風味だけという事で… 補足・今回の使用曲 WE CAN DO!(唄:瀬川おんぷ) Cherry Bomb!(唄:瀬川おんぷ) Green Breeze(唄:西郷さやか) With You!(唄:西郷さやか) 雪と星の申し子(唄:酒井まさみ) 四季巡る風(唄:酒井まさみ) マジョリカ・ブラボー(唄:マジョリカ) 六甲颪(球団歌・正式名「阪神タイガースの歌」) ソーラン節(北海道民謡)