まさみ「あたしの嫌いなもの…決まりを守らない奴、虎の威を借る狐。 英語の授業も今一つ分かんないし、実を言うと茄子も好きじゃない。 そして毎年必ずやって来る、あたしの嫌いな日… お父さん・お母さんの命日と誕生日…それに、母の日と父の日…」『まさみとお母さんの声色』 池浦やくも「ありがと…」 おんぷ・さやか・まさみ「!?」 朝、場所は遠近学園、中等部の廊下。すれ違いざまに、池浦やくもが放った言葉… 池浦やくも「私ね、夢を見たの。夢の中で、あなた達3人に助けられたの。 暗闇の中で体の自由が利かなかった私を、助けてくれた…」 それを聞きつつ、3人は顔を見合わせた。 池浦やくも「ぼんやりだけど覚えてる…白っぽくて、魔女みたいな、 まるで、アニメにでも出てくるかのような服の、あなた達… 一応お礼は言っとくわ。私、借り作るのは嫌いだから…じゃあね」 去っていく池浦やくも。まずは、さやかから声が上がる。 さやか「…どういう事(こっ)ちゃ!?何で覚えとんねん! あれやったら、うちらがロイパトやっちゅうの、バレとるやん!」 毎度の事だが、さやかの「動」に対し、おんぷ・まさみは「静」という傾向がある。 まさみ「語弊があるよ…あたし達の正体、完全に知られてる訳じゃない。 それと、さやちゃん…声、大きい。それこそ周りにバレるよ」 おんぷ「ちょっとだけ記憶が残っちゃったみたいね… まあ、いいわ。気にする程じゃ、なさそうだし」 まさみ「それに、お礼言われるのに越した事もないっしょ」 さやか「…せやな。悪い気は、せぇへんわ」 これが後々、吉と出るか凶と出るか… 所で、時は5月初頭…母の日も近くなってきていた。 そうなれば、どこでもその話題が出てくるもので、遠近学園とて例外ではない。 男子の橋本・宮沢が人目を憚るように話し合っている。 橋本「おい、女子は母の日だって騒いでるけどよ、お前はカーネーション買うか?」 宮沢「ま、まあ1本ぐらいはな。ちょっと照れくさいけど…橋本もだろ?」 橋本「おっ、おい!そんな大きな声で言うなよ…俺だって恥ずいんだからよ…」 宮沢「へへっ、真っ赤になってやんの」 2人共に殊勝なもので、なかなか母親思いであると見える。 そんな所に、しゃしゃり出るのが得意な、東久邇なるみが割り込んでくる。 東久邇なるみ「あら、カーネーション1本だなんて、男のくせにスケールの小さい事…」 橋本「何だと!?」 宮沢「そう言う東久邇は、どうなんだよ?」 東久邇なるみ「私でしたら、既に花束で注文してありますから、ご心配なく。 あなた達、それくらいの度胸が無いと、女はついて来ません事よ〜」 自慢げに高笑いする東久邇なるみだが、それを一刀両断するような台詞が飛んできた。 さやか「アホくさ…」 先程までの東久邇なるみのマシンガントークに、嫌気が差していたのだろう。 さやかが、真っ向から向かっていく。 東久邇なるみ「何ですって!?」 さやか「アホくさい事アホくさ言うて、何が悪いねん。あんな、1つ言うてええか? そないに金と物で全て済ませようとするんはな、人間の器が小さいっちゅうもんやで」 窓辺に佇んでいたまさみも、そのやり取りを聞きながら頷く。 まさみ「(全く、その通りだよ。天狗になってた東久邇さんには、いい薬だね…)」 普段は泥仕合に縺れ込む所だが、今回は東久邇なるみの分が悪い。 一方的な、さやかの攻めの体勢である。 さやか「大事なんは、心が籠っとるかどうかやないんか? カーネーション1本かて100本かて、貰うお母ちゃんにしてみれば、 数は関係あらへんやろ?なあ、なるちゃん?」 東久邇なるみ「そ、そうですね…」 そして、さやかはニンマリと笑って続けた。 さやか「分かればええねん…あと、橋本に宮沢」 橋本・宮沢「なっ、何だよ…」 さやか「そない照れんと、堂々とカーネーション、お母ちゃんに渡したりぃ」 橋本「…ああ、そうだな」 宮沢「サンキュ、西郷」 微笑ましい光景だが、まさみは窓の向こうに目を逸らした。 まさみ「(でも、やっぱり見てられないや…母の日が近くなると、どうしても辛くなる…)」 そんな思いを巡らせていた、まさみの元に、さやかがやって来た。 さやか「まさちゃん?どないしたん…あ、分かった! おんぷちゃん、おらへんから拗ねてんねんな」 おんぷは仕事の都合で、今日は早引けしていたのだ。 まさみ「いや、別にそうじゃないって…」 しかし、まさみの否定の言葉を遮るように、別の声が割り込んできた。 ???「あら♪私がいないと、やっぱり淋しいの?」 さやか・まさみ「!?」 2人共、鳩が豆鉄砲を喰らったよう。おんぷは今、ここにいる筈がないのだ。 それなのに聞こえてくる、おんぷの声…さやか・まさみ共に周囲を見回す。 しかし、そばにいた女子は「原こはく」ただ1人。 まさみ「まさか…原さん?」 原こはく(おんぷ声)「てへっ♪歩く変声機こと、原こはくです」 さやか「かぁ〜!また騙されてもうた〜!」 声色を自在に変えられるという特技を持つ、原こはく。 女声しか出せないが、瀬川おんぷを始めとした、大体の女優の声は網羅している。 ちなみに部活は、合唱部と放送部を兼部。声域の広さが売り物だ。 さやか「も〜!ビックリしたやんか〜!」 原こはく(おんぷ声)「ゴメンね♪だって浮かない顔してたから」 まさみ「そりゃ、そうだけどさ…で、何で、おんぷちゃんの声のままなのさ? 普通に自分の声で話したらいいしょや… そう言えば、原さんの地声って聞いた事無いよね…」 さやか「当ったり前やん!こはくちゃんのほんまの声っちゅうたら、 今や、遠近学園七大ミステリーの1つやで?」 どこの学校にもある、いわゆる七不思議だ。 他の6つが何なのかは、ここではとりあえず置いておく。 原こはく(おんぷ声)「そうそう。簡単には明かせないわ」 まさみ「原さん…その内、自分の声、忘れるんじゃない?」 少し心配そうなまさみだが、原こはくは一向に気にしない。 原こはく(おんぷ声)「大丈夫。1人の時は、ちゃんと地声なんだから」 さやか「さよか…あれ?何の話しとったか忘れてもうた〜!」 原こはくの割り込みで、話が完全に寸断されてしまった。 まさみ「(さやちゃんは、お気楽だね…ま、腹の内探られなくて良かったかも…)」 そして昼休み、隣の1年B組から訪問客がやって来た。 百済「すいませ〜ん!弓道部の百済(くだら)ですけど、まさちゃん… …じゃなくて、酒井さんいますか〜!」 C組教室の隅から隅まで響き渡る大声。 弓道部と聞くと淑やかなイメージがあるが、百済には当て嵌まらないようだ。 そして、そんな百済に負けじと、さやかも大声でまさみを呼びつける。 さやか「まさちゃんならおんで〜!まさちゃ〜ん!お客さんやで〜!」 まさみ「そんな大声出さなくても、ちゃんと聞こえてるって!」 少々呆れながら、まさみは百済の元へと向かった。 まさみ「なしたの?」 百済「今度の試合、助っ人に出て!」 大声で、しかも結論だけを先に言ってしまった百済に、まさみは聞き返さねばならない。 まさみ「それまた、なしてさ?」 百済「副部長が風邪拗らせて、出れないってのよ!」 まさみ「そっか…分かった。あたしで良ければ、いくらでも使って」 百済「じゃ、これからミーティングだから一緒に来て。その試合の説明するって」 まさみ「了解…わっとと」 せっかちな百済は返事を聞くと、すぐにまさみの手を引っ張って連れて行こうとする。 これには、まさみも少し慌てた。 さやか「頑張ってきぃや〜」 そして百済が、まさみを連れて出て行った後、取り残されたさやかの元に… おんぷ「さ〜や〜ちゃん♪」 突如、背後からやって来た大好きな声。さやかも満面の笑みで迎える。 さやか「おんぷちゃ〜ん!…あれ?お仕事は?」 そうだ。おんぷは仕事があるから早引けした筈。なぜ戻ってきたのか… おんぷ「衣装が間に合わなくて撮影、延期になっちゃった。あら、まさちゃんは?」 さやか「弓道部のミーティングやて。副部長はんが風邪拗らせて、欠員出たっちゅうてたから」 おんぷ「そう…」 少し淋しそうな顔のおんぷ。やはり、まさみがいないのが不満のようだ。 そこに、何者かの気配が歩み寄ってくる。 ???「何さ、あたしがいないからって、膨れっ面して」 おんぷ「まさちゃん?」 さやか「ほえ!?」 てっきり、ミーティングを終えて帰ってきたものかと思い、おんぷは振り返った。 一方さやかは、まさみは行ったばかりで、まだ戻ってくる筈はない… そういう風に考えていたため、かなり驚いた。 そして、2人の背後にいたのは…またしても、原こはくであった。 おんぷ「え…?」 さやか「またかい…」 おんぷは戸惑い、さやかは溜め息を吐いた。 原こはく(まさみ声)「あたしじゃ駄目だって言うの?」 さやか「駄目に決まっとるやん…まさちゃんやのうて、こはくちゃんやねんから」 おんぷ「それにしても、本当にそっくりよね…」 原こはく(まさみ声)「おっ。こりゃあ、ありがたいや」 おんぷ「それに、口調まで似せてるしね」 さやか「目ぇ閉じとったら、絶対分かれへんわ…あっ!」 突然、何かを思い出したようで、さやかは素っ頓狂な声を上げた。 原こはく(まさみ声)「ちょっと何さ…大声出さなくても、聞こえるしょやね」 さやか「まだ、まさちゃんの真似しとったんかい…まあ、ええ。 おんぷちゃん、今日な、まさちゃんが、あんま元気あらへんねん…」 おんぷ「え?どうして?」 さやか「分からへんねん…朝もな、窓の方ばっか向いとったんや。 せやさかい、何でやって聞こうと思ったんやけど、こはくちゃんがなぁ…」 原こはく(さやか声)「うちが、おんぷちゃんの声出して、邪魔してもうたんやな」 遮った原こはくの声は、またも変わっていて、その上さやかの声だった。 さやか「こ、こはくちゃん…あんた、自分で言うとったら世話無いわ… しかも今度は、うちの声って…何や、変な気分やわ…」 おんぷ「何だか、さやちゃんが2人いるみたいね」 さやか「おんぷちゃん!そういう問題違(ちゃ)うねん!」 おんぷ「てへっ、ゴメンゴメン♪…それにしても、まさちゃんが元気無いだなんて…」 考え込むおんぷに、さやかがニコニコ笑いつつ言う。 さやか「なあ?気になるやろ?気になるやろ?」 おんぷ「さやちゃん?」 さやか「知りたいやろ?な?」 とにかく笑顔だけを向けるさやかに、おんぷも笑顔を返す。 おんぷ「私に調べてほしいのね♪」 無論さやかは、笑顔のまま。 さやか「そういう事(こっ)ちゃ」 おんぷ「今のまさちゃんだったら、直接聞いても答えてくれそうにないわね。 それなら…搦め手から攻めましょ」 原こはく(さやか声)「搦め手って…何?」 自分の質問を取られ、さやかは原こはくにツッコミ。 さやか「あんたが聞くんかい!」 さて、おんぷの言う搦め手とは… 放課後の校舎裏、おんぷ・さやかと、ロロ・ティティ。 さらにソソが、なぜかティティに羽交い締めにされている。 おんぷ「うふふ…」 さやか「さて、何から聞いたろかな〜」 双方、目が笑っていない。正直、怖い… ソソ「うわ…」 ちなみになぜ、こういう状況になったかと言うと… 数分前… まさみ「じゃ、お先に」 今や時の人となった、さやか・まさみ。 テレビ・雑誌は勿論の事、レコード会社からも話が来ていた。 さやか「頑張って、ええ曲にしぃや〜」 おんぷ「期待してるからね♪」 今日、まさみはレコード会社と新曲の打ち合わせ。 さやかにも同様の話は持ち掛けられてはいるが、打ち合わせの日取りは、まだだった。 まさみ「そうやってプレッシャーかけないでよ…」 その傍らでは… ロロ「ねえソソちゃん、ちょっといい?」 ソソ「何さ?」 ロロ「ちょっと、こっち来てもらえる?」 言われるままに、茂みの中へ向かうと… ティティ「とりゃ〜!」 ソソ「はっ!?」 気づけばソソは、ティティに両腕の自由を奪われていた。 そんな訳で、まさみ1人が先に遠近学園を出た所で… おんぷ「さてと…ロロ、ティティ、上手くいった?」 ロロ「OK〜♪」 ティティ「捕まったで〜」 ソソ「ちょっと、どういう事〜!?」 再び現在… ソソ「ちょっと、あたしが何したって言うのさ!」 ジタバタしながら聞くソソに、暴れるのを抑えながらティティが答える。 ティティ「さやちゃん達がな、聞きたい事あるんやて」 ソソ「したっけ、こんな事しなくたって、いいしょやね!」 ロロ「普通に聞いたら、答えてくれないかもしれないから」 ソソ「え…どういう事さ?いいから聞かせてよ」 さやか「ほな聞くで。まさちゃん、ここん所元気ないやん?」 おんぷ「それがどうしてか、聞きたかったの」 ソソ「そう来たか…」 途端に、ソソは黙り込んだ。 さやか「なあ、何でや?」 ソソ「さあ…あたしからは、何も言えないよ」 ティティ「なっ、何やて〜!」 ソソ「あたしは、まさちゃんの妖精…性格も、まさちゃんから貰い受けてる。 主(あるじ)の秘密は、たとえ口が裂けても言うもんか!」 まさみ譲りの気構えで、ソソは気風(きっぷ)良く啖呵を切った。 さやか「かぁ〜…一丁前な口利くな〜…」 おんぷ「まさちゃん、随分しっかりと躾けてあるわね」 ソソ「力尽くで口を割らせようもんなら、この舌噛み切って果ててやるんだから!」 終いには、自決する覚悟まであると言う始末… ロロ「ねえ…こんな事まで言ってるわよ…」 ここで出ますは、女優・瀬川おんぷの演技力。 おんぷ「そう…言いたくないなら、無理に言わなくてもいいわ。 でも、まさちゃんは、ずっとこのまま元気のないままでしょうね」 ソソ「そ、それは…」 おんぷ「ソソは、それでもいいの?まさちゃんは、大事なご主人様でしょ?」 精神面から攻められ、ソソは堪らず… ソソ「あ〜…もう知らないよ!まさちゃんが元気になんなかったら、承知しないんだから!」 ティティ「おっしゃ。その気になったんやったら洗い浚い、ぶち撒けたれ!」 気分ノリノリなティティだったが、ソソの重い口調に笑顔が消えていった。 ソソ「みんな…まさちゃんのお母さん、亡くなってるのは知ってるしょ?」 おんぷ・さやか・ロロ・ティティ「あっ…!!!!」 驚きの余り、ティティは羽交い締めを解いていた。 ソソ「まさちゃん、母の日って聞く度に、辛(つら)そうな顔してる…」 おんぷ「そう…だったの…」 さやか「すっかり忘れとったな…」 ソソ「さあ!ここまで話せば十分でしょ?まさちゃんのために、何か講じてよ。 じゃ、まさちゃんに怪しまれるといけないから、あたし戻るよ」 そう言って、ソソは姿を消した。 ロロ「あ、逃げられちゃった…」 ティティ「あ、抑えるの忘れとった…」 さやか「あんたなぁ…そないな落ち、いらんわ…」 夕刻、まさみが仕事を終えて、酒井家に帰宅… まさみ「ただいま」 玄関に靴を丁寧に揃え、まさみは自分の部屋に向かう。 そこに、祖母の七恵が声を掛けてきた。 七恵「お帰りなさい、まさみ。ご飯、もう少し待って下さいね」 …などと言いつつ、まさみの表情を読み取った七恵は、 まさみの胸に引っかかるような事を言い出した。 七恵「まだ、ご機嫌斜めみたいですね」 まさみ「分かってるなら言わないでよ…」 七恵「そんな顔してると、真浪さんも悲しみますよ」 まさみ「もう…」 さらに浮かない顔になって、まさみは自分の部屋に鞄を置くと、 続き間になっている、隣の仏間に足を進めた。 線香に火を点け、仏壇に手を合わせるまさみ。 鈴(りん)の音だけが静かに、しめやかに響いた。 まさみ「お母さん…」 静かに合掌するまさみ…ここからは、まさみの心中… まさみ「(お母さん…あたし、なして魔法に手を出したか、少し考えてみたんだ。 勿論、悪い事を無くせたらっていう理由はあったよ。 だけど、あたし本当は、お母さんに近づきたかったのかも… おジャ魔女っていう、人間から離れた存在になる事で、 もう人間じゃない、お母さんに何か伝えたい思いが…あったのかも…)」 そして、まさみは… まさみ「お馬鹿だよね、あたし…もう手遅れなのに…」 瞳を潤ませ、力なく呟くのだった… まさみが奥の仏間に入るまでの様子を途中まで、空から覗き込んでいたのは、 同じく仕事を終えた後、箒で飛んできた、おんぷ・さやか。 おんぷ「まさちゃん、何だか可哀想…」 さやか「ほんま…母の日は、まさちゃんには酷やな… 何しろ、カーネーションあげようにも、そのお母ちゃんがおらへんねんから…」 おんぷ「そうね…あんな悲しそうな顔、初めて見たわ…」 さやか「なあ、おんぷちゃん…まさちゃん、何とか元気にしてあげられへんやろか…?」 おんぷ「そうね…こういう時はマジカルステージが一番いいと思うけど…」 さやか「せやけど、当の本人巻き込む訳にいかへんやろ… …って、それやと2人やから、人数足りひんのか…」 おんぷ「…そうだ!それなら応援を呼びましょ♪」 さやか「おお〜!そりゃええわ〜…って、応援?」 …という訳で、その夜に空を駆ける、おジャ魔女の影が2つ。 さやか「なあ、おんぷちゃん、どこに向かっとんの?」 おんぷ「うふふ…ナイショ♪」 少し楽しそうに、おんぷは笑う。 おんぷ「もうちょっとで着くから我慢して。あ、ほら見て。海が見えるわ」 さやか「話、逸らさんといて…」 だが、おんぷの言った通り、眼下には海と山とに囲まれた街並みが見えていた。 おんぷ「ここが美空市よ…私が小学生時代を過ごした所…」 つまり、おんぷが…いや、それでは語弊がある。 どれみ・はづき・あいこ・ももこと共に、おジャ魔女として活躍した地である。 さやか「お〜…ここが…」 そして、さやかが今おジャ魔女であるのも、元を辿ればこの美空市が由縁であると言えよう。 なぜなら、どれみがいなければ今のような心優しい、おんぷはいなかっただろうし、 そのおんぷがいなければ、今のおジャ魔女としての、さやかは存在しないのである。 ???「あっ、おんぷちゃ〜ん!」 突如として夜空に響いた、おんぷを呼ぶ声。 この声の主も、おジャ魔女・さやかの誕生に遠からず関わった人間と言える人物… おんぷ「はづきちゃん!」 さやか「ええっ!?」 吃驚したさやかは、おんぷの顔を見た。 さやか「はづきちゃんって…あの、はづきちゃん!?」 おんぷ「ええ、そうよ。そして、今夜の応援要員よ」 さやか「それでナイショ言うとったんか!」 さて、さやかの驚きが、まだ落ち着かない内だが、はづきの自己紹介である。 はづき「初めまして、藤原はづきです。西郷さやかさんね?」 さやか「ああ、さいです…あ、気軽に『さやちゃん』って呼んでくれた方が… うち、堅苦しいのは駄目やさかい…」 はづき「じゃ、そうさせてもらうわ…私も、下の名前でいいわよ」 さやか「ほんま!?ほな、はづきちゃん?」 はづき「何かしら?」 さやか「矢田君っちゅう、格好ええ男子と出来とるっちゅう話、おんぷちゃんから聞いとるけど?」 はづき・おんぷ「!?」 さやかは、とにかく楽しい事・面白い事が大好き。 以前おんぷから聞いていた恋話を、いきなりぶちまけた。 はづき「あ、あの、それは…おんぷちゃん!どんな話したのよ!?」 おんぷ「わ、私は別に…さやちゃん!こんな所でそんな話、持ってこなくてもいいじゃない!」 これは予想外だったようで、おんぷも少々戸惑っているようだ。 さやか「あっ、何や痛い所、突いてもうたみたいやな…堪忍してや。 それより何で、はづきちゃんが?」 おんぷ「あの後、私1人の時に、パトレーヌコールで連絡取ったのよ。 そうしたら、はづきちゃんは予定が空いてるからOKって」 さやか「ほな、どれみちゃんは、どないしたん? 美空やったら、どれみちゃんかて、おんねんやろ?」 おんぷ「そうね、連絡取れなかったけど…はづきちゃん、知ってる?」 はづき「どれみちゃん、美空中でイケメンの先輩を見つけたって張り切ってたのよ… その先輩が部活の遠征に行くって聞いたら、どれみちゃん、 いても立ってもいられなくて…」 どれみの性格を知っているおんぷは、ここまで聞けば結論は予想出来る。 一目惚れした相手を、魔法を使ってまで追いかけていったというのを想像して、おんぷは… おんぷ「相変わらずね…」 やはり呆れていた。そして、さやかも話だけは聞いていたので、同様に呆れていた。 さやか「噂に違わぬ…とは正(まさ)しく、この事やな〜…」 さて、この場にいないどれみの話で盛り上がった所で、そろそろ本命に… 夜の公園には人影は見当たらない。3人は等間隔の距離を保って円形に並んだ。 はづき「パイパイポ〜ンポイしなやかに〜」 おんぷ「プ〜ルルンプルンすずやかに〜」 さやか「プレサ〜リラティ〜なめらかに〜」 はづき・おんぷ・さやか「マジカルステージ!!!まさちゃんが元気になる方法を教えて!!!」 すると…何も起きていないようだ… おんぷ「え…?」 さやか「不発かいな?」 はづき「そんな筈ないわ!マジカルステージなんだから、きっと何かある筈よ!」 そんな風に、向きになるはづきの後ろに、いつの間にかスラリとした若い女性が立っていた。 おんぷ・さやか「!?」 はづき「どうしたの?2人共…」 おんぷ・さやか「はづきちゃん、後ろ、後ろ…」 2人に言われて、振り向いたはづき… しかもこの女性…足元を見ると、向こう脛辺りから先がスッと消えている… はづき「足が…無い…!?」 もう落ちは分かっているであろうが、とりあえず書くだけの事は書いておく。 はづき「キャ〜〜〜!!!マジョリカマジョリカマジョリカ…」 おんぷ「はづきちゃん…それは、やっぱり治らないんだ…」 さやか「これも話通りや…はいはい、落ち着きぃや、ほれほれ…」 腕力には自信があるさやかが、はづきを後ろから羽交い絞めにして、何とか抑えた。 はづき「マジョリカマジョリカ…あら?落ち着いてみると、怖くないわ…?」 ???「それは多分、私が恨み辛(つら)みで幽霊になったんじゃないからだと思うわ…」 口を開(ひら)いた女性の正体は、何と幽霊…!? はづき「ゆ、幽…霊…!」 眼鏡が妙に光るはづき。さやかも冷や汗。 さやか「あかん!はづきちゃんが壊れる!」 おんぷ「はづきちゃん、大丈夫よ。さっき落ち着いたら怖くなかったでしょ?」 言われて、はづきはハッと我に返った。 はづき「あ、そうだったわ…」 さやか「はぁ〜…はづきちゃんって、扱うん疲れるわ〜…それにしても、この人…」 おんぷ・さやかには、この女性の顔に見覚えがあった… さやか「あれ?どっかで会(お)うた事あるかな…?」 おんぷ「えっと…ああっ!」 大声を上げたおんぷの脳裏には、以前訪問した酒井家で見た、女性の写真… そう、まさみの母・真浪の遺影が蘇っていた。 おんぷ「まさちゃんのお母さん!」 さやか「あっ、せや!」 真浪「ご名答…確かに私は、まさみの母・酒井真浪よ。 おんぷちゃん、さやかちゃん、あなた達の事は、まさみから聞かされてるわ…」 おんぷ・さやか「えっ!?」 はづき「それって、どういう事ですか?」 真浪「あの子、毎日のように仏壇に向かって、その日の出来事を報告してくれるの。 学校の事、あなた達の事、そして…魔女の事も」 これには3人共、一瞬にして背筋が凍りついた。 はづき・おんぷ・さやか「!!!」 しかし真浪は、あっけらかんとしている。 真浪「あら?バレてもいいんでしょ?私、もう人間じゃないし」 さやか「あ、そっか…お化けとかには、バレてもええんやったな」 おんぷ「その前に、マジョガエルの呪い自体が、もうなくなってるわ」 真浪「そうだ。あなた達には、お礼も言わないとならないのよね。 まさみと、いつも仲良くしてくれて、どうもありがとう」 おんぷ・さやか「そんな…」 2人は顔を合わせ、そして揃って頬を赤らめた。 そして、おんぷから大体の経緯は聞いていたはづきが、単刀直入に真浪に尋ねた。 はづき「あの、母の日が近いのもあって、まさちゃんの元気が無いんです… 多分、お母さんの事を思い出してるんだと思うんですけど…」 すると、真浪は悲しそうに溜め息を吐いた。 真浪「そう…今年もなのね…」 はづき・おんぷ・さやか「今年も!?」 真浪「あの子、二親がいないのに頑張ってるように見えるけど、あれでいて随分と弱虫なのよ… 母の日と父の日、それに私達夫婦の誕生日と命日… 毎年必ず、1人で手を合わせながら泣いてたわ…」 話しながら、真浪も涙を流す。聞いていた3人も、揃って貰い泣きしていた。 はづき「うっ…うっ…まさちゃん、可哀想…」 さやか「あかん…聞いとるこっちまで泣けてきた…」 おんぷ「私達に話してくれれば良かったのに…」 真浪「だから、あなた達から、まさみに伝えてくれないかしら? 今年の母の日には、私には何よりもまず、まさみの笑顔を頂戴って…」 さやか「まさちゃんの笑顔…ですか?」 眉を八の字にして困り果てる、はづき・さやか。 しかし、おんぷだけは違った。何か策があるようだ。 おんぷ「それなら、私に任せて下さい! ちょっとだけ、まさちゃんのお母さんにも、お手間を取らせますけど…」 真浪「手間?ええ、いいわ。娘のためなら、一肌でも二肌でも脱ぐわ」 翌日、遠近学園の屋上…休み時間に1人、まさみが佇んでいる。 まさみ「はぁ…やっぱり2人に、心配かけちゃってたんだな… ソソの様子見れば、2人に話しちゃったのは分かっちゃったし…あ〜あ…」 やはり後ろめたいのだろう。昨日の事が胸に引っ掛かっているようだ。 まさみ「(それにしても、お母さん…どうして、あたしを置いて逝っちゃったの…?)」 胸には思いが込み上げ、涙腺からは涙が湧いてきていた。その時… ???「まさみ…私には、笑顔のまさみが一番よ…」 まさみ「えっ!?」 声の聞こえた方向に、まさみはバッと振り返った。 その勢いで、瞳からは涙の雫が、遠心力によって横向きに飛んだ。 そして、まさみが振り向いた先には…少々驚いた表情の、原こはくが立っていた。 まさみ「原さん…今の、原さんだったの!?」 原こはく(真浪声)「ええ…やっぱり、あの夢の通りだった…」 まさみ「夢…?」 原こはく(真浪声)「あのね、信じてもらえないかもしれないけど、昨日…」 回想…昨夜、原こはくの夢の中… 原こはく「あの…誰ですか…?」 真浪「初めまして。私は酒井真浪、まさみの母です…」 原こはく「まさみちゃんの、お母さん…?」 真浪「あなたの咽を見込んで、お願いがあるの…聞いてもらえるかしら?」 原こはく「お願い…ですか?」 真浪「ええ。あの子に…まさみに、私の声を届けてもらえないかしら?」 原こはく「お母さんの声を?どうして直接言わないんですか?」 真浪「それは…私は既に、この世に存在しない身の上だから…」 原こはく「それって…!」 真浪「はい。私は、いわゆる幽霊です。 母の日が来る度、先立った私を思い出して涙を流す、あの子が心残りで…」 原こはく「未練があるって事ですか…?」 真浪「そうなりますね…ですから私の声を、私に代わって、あの子に、まさみに…」 原こはく「…分かりました。私、出来るだけの事はやってみます!」 回想終了… 原こはく(真浪声)「この声は、その夢の中で聞こえた、まさみちゃんのお母さんの声…」 まさみ「驚いたね…本当に、そっくりだよ…」 原こはく(真浪声)「驚いたのは、こっちの方よ… 私の声を聞いたら、まさみちゃん、泣いてるんだもの…」 まさみ「だって、お母さんが本当に帰ってきたのかと思ったんだもん…」 未だに、まさみの涙は乾かない。手で目元を拭きながら、まさみは少し可笑しそうに笑った。 まさみ「何でだろ…涙が出てるのに、笑っちゃう…」 原こはく(真浪声)「言ったでしょ?まさみは、笑顔が一番だって…」 まさみ「もう!原さんったら!」 原こはく(真浪声)「ねえ、そろそろ、そういう呼び方やめない? ここまで親しくなったんだし、呼びやすい呼び方で呼んでもいいのよ?」 まさみ「あ、そっか…『こはくちゃん』でいい?」 原こはく(真浪声)「私、かなり親しい間柄では『はく』… 琥珀の『珀』の字を取って、『はくちゃん』って呼ばれてるのよ」 まさみ「へえ…はくちゃんか…」 原こはく(真浪声)「そっちは、まさちゃんよね。おんぷちゃん達が、いつもそう呼んでるから」 まさみ「うん。それでいいよ」 その様子を、校舎内に通じる階段から、扉の陰に隠れて覗き込む者達が… おんぷ・さやかともう1人…何と真浪まで、おんぷ・さやかの背後にいた。 真浪「まさみ…良かった。笑顔を見せてくれて… おんぷちゃん、さやかちゃん、あなた達には何とお礼を言っていいやら…」 おんぷ「いえいえ…大した事してませんから」 さやか「よう言うわ…昨日の、あの作戦…」 回想…昨夜、原こはくの自宅… おんぷ「ここね…」 さやか「おんぷちゃん…ここって、こはくちゃん家(ち)やん…?」 はづき「一体、何をする気なの?」 真浪「それに私は、何をすれば?」 質問が飛び交うが、おんぷは一向に気にしない。 おんぷ「こはくちゃんは私達のクラスメイトで、凄い喉を持ってるんです。 女性の声なら、どんな声でも出せる、とっても凄い喉を…」 はづき「本当に凄い子ね…」 感嘆するはづきの横で、さやかが大声を出した。 さやか「…まさか!」 おんぷ「そのまさかよ♪」 そして結論を口にしたのは、真浪だった。 真浪「その子に、私の声を出させて、まさみに聞かせるの?」 おんぷ「そういう事です」 さやか「せやけど、どないにして、こはくちゃんに声、教えんねん…」 おんぷ「直接会わせるのよ」 さやか「はぁ!?せやから、その会わせるには、どないしたら…」 おんぷ「そこで、これよ♪」 得意げなおんぷの手には、ジュエリーポロンが。 おんぷ「プ〜ルルンプルン・ファ〜ミファ〜ミファ〜! こはくちゃんの夢の中に、まさちゃんのお母さんを連れてって!」 回想終了…以下、原こはくの夢の通りである。 さやか「あの魔法には参ったわ〜…あんなん思いつかへんって…」 おんぷ「それが思いつくようじゃないとね♪」 真浪「じゃ2人共、これからも、まさみを宜しくね…」 それを聞いた途端に、2人は一転して淋しげな表情を浮かべた。 おんぷ・さやか「もう…逝っちゃうんですか…」 真浪「ええ…あの子は、もう大丈夫そうだから… それに、あの人を待たせる訳にもいかないし」 さやか「あの人…あ、まさちゃんのお父ちゃんか!」 おんぷ「まさちゃんのお父さんにも、宜しくお伝え下さいね」 真浪「勿論よ。まさみと、あなた達の事…正爺さんと2人で、見守らせてもらうわ…」 淡い光が真浪を包み込んだかと思うと、心地良い風に乗って、 扉の隙間から吹き抜けて、天高く舞い上がっていった… そして、おんぷ・さやかの2人のみが、その場に取り残されていた。 さやか「満足したんかな…」 おんぷ「ええ、きっと…」 笑みを浮かべて、2人は空を見上げた… 一方、まさみ・原こはくにも… 真浪「まさみ、笑顔をありがとう…お友達を大切にね…」 まさみ「…!」 真浪「こはくちゃん、だったわね…色々と、ご面倒かけたわね…ありがとう…」 原こはく「…!?」 聞こえない筈の声が聞こえた…まさみと原こはくは、驚いて顔を見合わせた。 原こはく「今の…私、声出してない…」 まさみ「あたしでもない…」 原こはく「それじゃ…今のは…」 まさみ・原こはく「本当の…お母さんの声色…」 2人が突き合わせた驚き顔は、いつの間にか笑顔になっていた… ここで、まさみは原こはくに、少々無理を言ってみた。 まさみ「でさ、せっかく仲良くなったんだし、はくちゃんの地声、聞いてみたいな♪」 原こはく(真浪声)「私の地声?…いいわ。まさちゃんにだけ、聞かせてあげる…」 笑顔を浮かべた原こはくは、まさみの耳元に二言三言、囁いた… 原こはく「あのね、これが私の本当の声…どう?」 その声の余韻に浸るように、まさみは静かに頷いた。 まさみ「へえ…いい声してると思うよ…」 原こはく「ありがとう、まさちゃん…」 琥珀のように透き通った、その声色は…まさみと原こはく、2人だけのナイショ… 次回予告 おんぷ「私達のクラスメイトの、阿部ゆきのちゃん…」 まさみ「女子では、おんぷちゃんに一番最初に自己紹介してたね」 さやか「そんなん、よう覚えてんな〜…その、ゆきちゃんが最近、落ち込んどんねん…」 まさみ「どうやら何か、裏がありそうだよ…それにしても梅雨って、嫌な天気だね…」 おんぷ「次回、おジャ魔女おんぷTriple‐S(トリプル・エス) 『不運続き雨続き…さやか雷雲に舞う!』さあ次回も、プ〜ルルンパトレ〜ヌ!」 13話端書き まずは前回の続きで、池浦やくもちゃんが登場。 しかも意味深な流れになってます。今度どうなるのか… さて母の日です。あいこ・さやか・まさみトリオの時にも母の日は、まさみ主演でした。 設定上、書き易いってのもありますが… 絵板にてeuphoriaさん曰く「まさちゃんは準黒キャラ」ですから…(ぇ) ちなみに今回、まさみの暗い部分が出てますね… おジャ魔女になった本当の理由は、お母さんの死を認めたくなかったからかも… あ、euphoriaさんが絵板で、ダークなまさみを描いて下さった時のショートストーリー、 結構、かなり…いえ、物凄く参考になってます。この場を借りて厚く御礼申し上げます… クラスメイト紹介、男子の橋本・宮沢…多分、出番はここだけ(ぇ) どっちも由来は近年の総理…しかも橋龍か(ぉ) 女子の原こはく…最後の一文から分かる通り、漢字表記は「琥珀」です。 最近、こういう風流な名前を考えるのに凝ってる筆者です。 さらに、ご来賓としまして、はづきちゃんでありますw しかも幽体の真浪さんに対し、お馴染みマジョリカ連呼…笑うしかありません…