死に気付かない子供の霊

今回のお話は、優れた霊感の持ち主である玲子さん(仮名)が、ホームヘルパーとして病院に
勤めていた頃に体験したという「自分の死に気がつかなかった子供の霊」に関する心霊体験談で
ある…。
その日は朝からの夜勤であり、疲れて眠くなってしまった彼女は、ナースステーションで、う
とうとしていたのだと言う。
…そんな中、何処からか子供の叫び声が聞こえてきたらしいのだ。
「助けて〜!」
その声に目を覚ました彼女は、飛び起きたのだが、その声を発している様な子供は周囲には見
当たらなかったのだと言う。
しばらくすると、ナースステーションに看護師が戻ってきたらしく、子供が助けを求める声を
聞かなかったと訊ねると、先ほど救急車で十歳の男の子が交通事故で運ばれて来たのだが、残念
な事に息を引き取ってしまったとの事であったらしい…。
その時は、その子供の最期の叫びだったのかと半信半疑に思いながらも、再び仕事へと戻り、
各病棟を巡回し終わった彼女は、しばしの眠りにつく為に、ナースステーションにある仮眠室へ
と入り、ようやく床についたのであった…。
…それから一時間ほど経過した頃であったと言う。
突然、ガラスをバンバンと激しく叩くような音で目を覚ました彼女が周りを見渡すと、眠り込
んでいる看護師が三人…。そして彼女と同じく、その音で目を覚ました看護師が一人いるだけで
あった。
彼女は、同じく目を覚ました看護師と、その音の出所を突き止めようと耳を澄ますと…どうや
ら外側に設置されていた窓からの音の様であったと言う。そして、恐る恐るカーテンを開けて確
認すると…。
そこには血で赤く染まった子供の手形が、鮮明に浮かび上がっていたのであった。
彼女は、ほぼ直感的に、これは先程亡くなったばかりの子供の仕業だと解ったのだと言う。
そして、彼女の仮眠の時間も終わり、再び各病棟の巡回に行った時の事であった…。
処置室の前に悲しげに立っている子供の姿があった。
…間違いなく、先程亡くなった子供の霊であろうと察した彼女は、その子に話しかけたのだと言
う。
「僕、どうしたの?」
すると、その子は悲しげな瞳で、彼女に訴えてきたらしい。
「体中がいたいの…お姉さん助けて…」
彼女は、その子供に優しく語りかけたと言う。
「僕…辛いだろうけど、僕はね、事故で亡くなったんだよ。…だからもう痛くないよ。大丈夫だ
よ。僕の名前は何て言うの?お祖父ちゃんか、お祖母ちゃんを呼ぶから、一緒に往くんだよ?」
…すると子供は、それを理解したのか次の様に告げたと言う。
「ぼくね…直樹(仮名)って言うの」
彼女は、直樹と言う名の、その子供の霊を説得したのだと言う。
「…そっかぁ。直樹君のお祖母ちゃん呼ぶから、一緒に往こうね?」
そして彼女は、直樹君のお祖母さんに当たる女性の霊を呼び出すと、直樹君に告げた。
「直樹君、ほら!お祖母ちゃん来たよ?もう心配しなくて良いからね。お祖母ちゃんと一緒に往
くんだよ…?」
そして彼女は、直樹君の霊を、呼び出したお祖母さんの霊に任せたのだと言う…。
それからは、その子供の霊も姿を見せる事は無くなり、また仮眠室にあった筈の血の手形も消
えていたらしいのである…。
予期せぬままに突然、その生命を奪われてしまった幼い子供の霊は、自らの死を認識できなか
ったのであろう。…しかし、不幸中の幸いとでも言うべきか、この少年の霊は霊能力を持った彼
女との出会いによって無事に霊界へと向かう事が出来たのである。
悲しいながらも、何処か心に残る様な…そんなひとつのお話であった。