精神障害者の生霊
今回のお話は美穂さん(仮名)の体験した嫉妬と逆恨みから始まる、負の感情が生み出した、
生霊についてのお話である。
尚、今回の話に関しては段階が存在するので、幾章かに分けて、話を進めて行く事にさせて頂
く……。
第一章:依存
美穂さんは心理カウンセラーであり、ネット上で臨床心理士の佐藤さん(仮名)と知り合い、
互いに情報の交換をしたり、心理的な技法の勉強などを行っていた。
その中で、佐藤さんがネット上のコミュニティで抱えている、多数の精神病を抱えた患者の一
人が、自分に異常なまでに依存をしていて困っているという相談を持ちかけられたのであった。
心理を扱う、この業界において、親身になって話を聴いてくれるカウンセラーにとっては、患
者に依存される事も少なからずあるものだ。
美穂さんは、その佐藤さんに異常と思える程の依存をしているという患者……雪さん(仮名)
に、それとなく接触し、経過の観察をしていたのであった。
……そんなある日、その雪さんに激しい感情の起伏が見てとれたのだ。
それは、佐藤さんのネット上の日記において、ある女性が、佐藤さんを呼び捨てにした……お
そらくは、佐藤さんのリアルな友達であったのであろうが、その書き込みに対して、異常な反応
をし、対抗意識を持ったが為であった……。
美穂さんは、雪さんをなだめるべく、次の様に書き込んだのであった。
「リアル友達か、同朋の方だから、呼び捨てにしたんじゃないですか?佐藤さんのリアルな生活
に、一人も女性の友達がいない方が変でしょ?」
……すると、現実を受け止めたくない雪さんは心に抱えていた持病を発症してしまい、あろう事
か、その怒りの矛先が美穂さんに向ってしまう事になってしまったのだった。
美穂さんは彼女に、しばらく佐藤さんと距離を置く事を提案し、その時は雪さんも「はい」と
言っていたのだが…どうやら、心の底では納得はしておらず、何より自分よりも後に、コミュニ
ティに参加してきた筈の美穂さんが、佐藤さんと親しくしているのが気に入らず、日に日に増す
憎悪を抑えきれなくなってきたのであろう…。
その頃から、美穂は徐々に体調を崩す様になってきており…ついには風邪をひいている訳でも
無いのに、高熱を出して倒れてしまったのである。
第二章:接触
そんな折、私の携帯に一本のメールが入った。……それは、美穂さんからのものであった。
それは美穂さんが運営しているコミュニティに極端な精神病患者がいるから、参考までに見て
みれば……という誘いのメールであった。
私は彼女がコミュニティを運営している事を、以前から知っており、私自身もまた心理カウン
セラーではあるのだが、【守りたいものだけを守るだけの力があれば良い】…と言う考え方によ
り、あえて幾人もの人間が集う、そのコミュニティに入るつもりは毛頭無かったのだが、古くか
らの友人の誘いと言う事もあり、結局、そのコミュニティに参加する事になったのであった…。
そして、そのコミュニティに入り、覗いた瞬間に目に飛び込んできたものは、【雪】という人
物による、美穂さんに対する誹謗中傷と、荒らしともとれる執拗な書き込みであったのだ。
傍観しようかとも思ったのだが、そのあまりにも礼儀知らずな言動に黙ってはいられずに、大
人としての言葉づかいに対する注意と、ネットマナーに対する意見を【雪】なる人物に対して、
書き込んだのであった…。
しかし、当たり前とも言える常識を理解できる人物では無かった。私の忠告など、まるで聴か
ずに、誹謗中傷を繰り返す彼女の言動に業を煮やした私は再び、書き込んだ。
「…人の好意を、そんな風にしかとれないなんて哀れな方ですね…。人をわざと傷つけようとす
るカウンセラーはいませんし、自分を助けてくれようとした人物に対して取るべき態度では無い
でしょう?いい加減にしなさい!」
そんな風にわざと、一喝したのである。
「私は一生、美穂を憎んでいるだけ。関係ない」
「私は真実を語っているだけ。関係ない」
「誰が何と言おうと佐藤さんがいる限り、私は退会しない。関係ない」
「仲良しカウンセラー軍団が私を攻撃してくる」
「佐藤さんがいる限り、私は退会しない。佐藤さん以外のカウンセラーは信じない」
「ストーカーしても良いと許可を得た。」
「闘えと彼が私に言った」
それはまるで、精神病患者と言うよりも、性格異常者の様に思えた。そして、美穂さんと同じ
心理カウンセラーだという事だけで、ひとまとめにされたと感じ取った私は、次の様に書き込ん
だ。
「私はあくまで大人としての言動とネットマナーについて、注意をしているだけで、私は貴女を
カウンセリングする気は全くありません。」
そんな彼女もまたコミュニティを運営していた。彼女は履歴を辿り、私の掲示板に辿りつくと
自分のコミュニティに誘いをかけてきたのであった。…それは、おそらく憎悪の対象となってい
た美穂さんを孤立させる為の手段であったのであろう。…しかし、私はその誘いに対して、私は
貴女のコミュニティに参加するつもりはありません…と、キッパリと断ったのだ。
大人としての礼儀もわきまえず、ネットマナーすら守れないような方のコミュニティに参加す
る気にはなれなかったからである。
…そして、私もまた【彼女の憎悪の対象】となってしまったのであった。
その翌日の事である。
普段ならば携帯のメールが着信した程度では起きない私が、二度のメール着信音で目を覚まし
た。
「…痛ッ!」
夜中に目が覚めて、突然の胃痛が私を襲ったのだ。
そんな事は初めてであったのだが…この痛みには経験があった。
それは、生霊による胃痛である。
もしやと思い、携帯に手を伸ばし掲示板に目を通すと…私が危惧した通りに、そこには、私が
胃痛を感じた時間と同じ時間に書かれた【雪】からの恨みの籠もった伝言が残されていたのだ。
「雪さん。貴女のコメントは不愉快なので削除させて頂きます」
彼女からの伝言を削除すると、そう書き残して私は再び眠りについたのであった…。
「あの雪っての…霊的に不味いんじゃねーか?…生霊とか飛ばすんじゃない?」
そんなメールを美穂さんに送った後になって、初めて私は美穂さんが胃痛と高熱に悩まされて
いる事を知ったのであった……。
そんな事もあり、私は【雪】なる人物と関わる事はしない様にしたのである。
「もう、あんな化け物に関わるな。ありゃ手に負える代物じゃねーぞ。」
そん忠告のメールを美穂さんに送って…。
第三章:変貌するもの
高熱にうなされる中、美穂さんの携帯が鳴った。…メールが受信されたのである。
「どうせ、どこかの通販サイトのメルマガだろ…」
そんな事を思いつつ、美穂さんは携帯を開いた。
…しかし、そこに浮かんでいたのは、画面いっぱいに、女性が睨みつけている画像なのであった。
「うわっ!?なに!?ウイルスメール?」
余りにも気味が悪いので、その画像を消去しようとしたのだが…消えないのだ。
幾度となく、消去しようとしても、睨んでいる女性が携帯の画面から消えないのである。
「なんて悪質なウイルスメールなんだよ…」
少々、落ち込みながらも、ひたすら削除を試みたのだが…どうも、おかしい。
その睨んでいる女性の静止画が、徐々に動いている様に見えたのだ。…そして、その女性は徐
々に顔から上半身へと変貌していき…まるで嘲笑うかのように高笑いをしている姿へと変わった
のであった。
「うわぁッ!!」
この段階になって、初めて彼女は確証した。…これは、生霊の仕業であると。
これは何とか、断ち切らなければならないと。 何か撥ね退ける方法は無いものかと、思考を
巡らせながら、ふと視線を左に落とすと…何とそこには、今握っている筈の自分の携帯があった
のだった。
「…やられた…」
彼女は全てを察し、存在しない携帯から手を離すと…途端に全てが消えうせた。
割れんばかりの頭痛も、まるで嘘だったかの様に消え失せ、すっきりとしたのであった。
…流石に熱は、一瞬では下がらなかったものの、微熱程度には快復した。
そして、その【生霊】が去ってから直ぐに彼女は、より霊的感覚に優れた友人である水城さん
(仮名)に、あえて「気持ちの悪い夢を見た」…と、その内容をメールしたのであった。
すると、普段、何も無ければ「夢だよ」と、はっきり言う水城さんが、まるで気を紛らわす様
な画像を山ほど送ってくれた事から、何か良くないものが感じられたのでは無いかと感じられた
のだと言う…。
そして、美穂さんは香を焚くと、お守りにしている天然石のブレスレットの数を増やした。
しかし、相手は生霊だから…一時的に退散したとしても、また来るんだろうな…と思いつつ。
【人を呪わば穴ふたつ】
人を呪うと言う事は、相手の墓を掘ると同時に、自分の墓穴を掘っている事と言う事である。
…そして、相手に憎悪から生霊を飛ばすと言う事は、もはや【呪い】と同じ様なものである。
当然、生霊を飛ばした本人も無事ではいられないだろう。
せめて、雪さんが、心穏やかになります様にと、願わずにはいられなかった……。
第四章:結界
そもそもの発端となっており、雪さんに依存されていた佐藤さんが、ついに体調を崩してしま
った。
この所、佐藤さんの仕事も忙しかったし、ゆっくり寝なよ…と美穂さんは、彼に告げた。
そして、ついに佐藤さんまでもが高熱で倒れたのである。
日頃から、佐藤さんは雑魚霊を集めやすい為に、熱で弱っている彼を霊障から守る為に、美穂
さんは佐藤さんに波長を合わせようとしたのであった。
実は普段、美穂さんは人が色で視えるのだ。
私の場合だと緑色に。…また、水城さんの場合だと赤紫のグラデーションにといった具合にで
ある。
しかし、その日の佐藤さんは違った。
まるで、ゼリー越しに見るかの様に、ぐにゃぐにゃとして、全く波長を合わせられなかったの
だ。
「…佐藤さんに何かが障ってる」
即座に、そう感じたのだ。
そこで、ゼリー越しの波長を、カメラのピントを合わせる様に、ゆっくりと合わせていき、フ
ラッシュをたく様なイメージで「パシッ」と弾いた。…しかし、弾いても、弾いても、ぐにゃぐ
にゃとした空間は一向に消えなかった。
これでは埒があかないと感じた彼女は、佐藤さんに結界を張る事にした。
その結界の中に、癒しの光を込めて…。
しかしながら当然、自分のパワーを佐藤さんに注ぐ分、自分自身の守りが手薄になる。
自分しかいない部屋に、男性の声や、女性の咳ばらいなどが聞こえ始め、有り得ない数の気配
がする。
「これはヤバイな…」
危機感を感じた彼女は、自分自身にも結界を張った…ところで気を失った。
しばらくして気がついた彼女は、再び佐藤さんに波長を合わせてみた。
すると今度は、一瞬で普段の佐藤さんの色……琥珀色とつながったのだ。
「…良かった」
この事を、佐藤さんに話すつもりは無い。
ただ、守りたいという気持ちは、必ず悪意に勝てるんだよ……というお話であると言う。
…しかし、この【雪】という人物が、自分のコミュニティで、何を書いているのかは解らないま
まである。
被害妄想が強く、酷く攻撃的な彼女の本性を知らずに、雪さんのコミュニティから、佐藤さん
の掲示板に訪れ、その掲示板に彼女を庇い、雪さんを助けてあげてくれと、他力本願で誰かが救
われる事を望む様な書き込みが、多数見られるのもまた事実なのである…。
…私は思う。
自分自身の目で、何が真実かを見抜くだけの力を持った者になって欲しいと。
本当に誰かを救いたいのであれば、自分が出来うる限りの力を出して、それでも無理ならば知
人の力を借りるのも良いかとは思うのだが、最初から他人の力を借りようとばかりせずに、自分
自身が守りたいものを守るだけの力をつけるべきだ…と。
第五章:陰陽師の霊
さて、実は私も美穂さんの事を心配して、実は、水城さんに連絡を取っていたのだ。
すると、水城から、美穂さんに対して再度、連絡が入ったのだと言う…。
「……もう一度、詳しく話してください」
霊的な事柄に関しては、美穂さんよりも水城さんの方が数段上であるが故、隠せる筈が無い
と思った美穂さんは、一連の話と事情を、かいつまんで話したのだと言う…。
……すると、水城さん以上に、彼女の背後にいる古代の霊団達は、事態を重くみたらしく、美穂
さんの元へ、かつて陰陽師と呼ばれる存在であった霊が派遣されてきたらしいのだ。
確かに、この頃、美穂さんから私の元へ空気が変わったとの報告を受けてはいたのである。
話によると普段、美穂さんの守護につくものは、癒しの役割を持った女性の霊が主だったら
しいのだが、美穂さんは今までに感じた事が無い程の格の高い霊の存在を、来た瞬間に感じたら
しく、凛と澄んだ様な空気に包まれ……それはまるで、神社の中で生活をしている様な感覚であ
ったのだと言う。
……そして、その翌日に、水城さんは壁にかかる玉串を視たとの事であった。
また今回の一件に関して、美穂さんは、次の様に私に語ってくれた。
何でもかんでも、後ろについて守護してくれている方々に任せて、甘えるつもりは無いけれど
時には助けを呼ばなければならない事もある事を学んだのだと言う。
流石に今回の件に関しては、だから関わるなと忠告しただろうと言う私の言葉にも、美穂さん
は、素直に「はい…」と答えていたのであった…。
また、その後の事ではあるが、やはり因果応報と言うべきか、問題の雪さんに関しては、あま
りに誹謗中傷が激しかったせいか、複数の方から、そのコンテンツを運営している会社に通報が
なされたらしく、通告があった様で、コミュニティの存続にもに支障をきたし始めている他、依
存をされていたと言う臨床心理士の佐藤さんも、今回の一件で、懲りた美穂さんから、次の様な
忠告をしたらしい。
「カウンセリングの域に無い患者を、いつまで引っ張るんだ? 切りなさい」
そして、佐藤さんは、雪さんとの関わりを、段階的に切っていく方向にむかっているのだと言
う…。