草履と玉暖簾
今回のお話は、美穂さん(仮名)が自宅に一人でいた時に体験したという、不思議な心霊体験
談である。
彼女は昼寝をしようと思っっていたのだが、夕飯の買い物から支度をする為、寝過ごしては不
味いと思い、目覚まし時計代わりに携帯のアラームを午後四時五分にセットすると、二階の自室
にて昼寝をしていたらしい。
そのまま眠りについていた彼女は、階下からの物音に、ふと目を覚ましたのであった。
同居している義祖父が帰ってきたのか?・・・と思いながらも、時計で時間を確認すると時刻はまだ四時前であったのだと言う。
その時間帯には、ご主人は仕事に出かけており、義祖父が遊びに行って帰ってくるのは、早く
ても、いつもは午後六時頃であったのだと言う。
(・・・泥棒!?)
咄嗟にそんな事が脳裏をかすめ、怖くなった彼女は警察に電話をかけようと思ったらしい。
彼女の自宅は警察署から、目と鼻の先にあるのだが、電話で会話をしてしまうと、自分の存
在と居場所が泥棒に知られてしまうので、通話状態のまま、かけたままにしようと思いついたら
しい。・・・そうすれば、異常を感じて警察が駆けつけてくれる筈だと。
もし、仮に泥棒に見つかって拘束されたり、刺されたりしても五分もあれば警察が駆けつけて
くれるだろうから命は助かるだろうと思ったのだ。
そして電話をかけようとした彼女だったのだが・・・何故か身体が起こせなかったのだと言う。
(またか・・・)
そう、彼女が幾度と泣く経験している【金縛り】である。
ここで、彼女は階下にいる泥棒が、この世の存在では無い事に気がついたらしい。
その彼は階下を物色した後に、やがて二階へと上がってきたのだ。
ぺったらすちょん ぺったらすちょん・・・
それは草履の音であった。
彼女も草履を愛用している為に、スリッパと草履の音の違いが解るらしい。
やがて階段を昇り終えた足音は、箪笥が置かれている部屋に入った。
彼女のいる部屋の隣にあたる、その部屋で何やら物色している様であったという。
(ひぃッ・・・・)
恐怖に駆られながらも、金縛りにあっている為に、彼女は何も出来ないでいた。
しかし、ある考えが思い浮かんだのだという。
(・・・ひょっとしたらイビキをかいて寝ていたら、自分の事に気付かれてないと勘違いして、そ
っと出て行ってくれるのではないだろうか・・・?)
試しに彼女はイビキをかいているフリをしたのであった。
すると部屋を物色し終えた泥棒が、ゆら〜りと部屋から出て行った様子が伺えたのだと言う。
彼女が普段、昼寝をする際の居場所は、頭上から顔の正面には本棚が位置している様な場所で
あると言う。
勿論、そんな位置からでは、廊下や隣の部屋はおろか、自分の部屋の様子ですら見えない。
・・・しかし、彼女には視えたのであった。
夕日を背に、ゆら〜りと出て行く泥棒の影が・・・。
徐々に大きく、はっきりとしてきた、その姿は時代劇などで良く観る【町人】の姿そのもので
あったと言う。
(うわぁ・・・次はこっちの部屋に入ってくるんだろうなぁ・・・嫌だなぁ・・・)
そんな恐怖に駆られながらも、彼女は覚悟を決めた。
しかし、そんな彼女に気を止める素振りも見せず、まるで彼女のいる部屋など存在すらしない
かの様に、彼は廊下に出ると、くるりと後ろを向くと、再び階段を下りていったのだと言う。
勿論、物理的にその姿が見えない位置にいるにも関らず、彼女には【町人の様な姿をした彼】
が、立ち去っていく後姿がはっきりと視えていたらしい・・・。
そして、その町人が去っていく際に彼女は存在する筈の無い音を聴いた。
ぱらぱらぱら・・・
・・・それは【玉暖簾】をかき分ける音であったらしい。
彼女の自宅には玉暖簾など存在しないにも関らず、その彼は玉暖簾をかき分けて出て行ったの
だという・・・。
何故、その町人の姿をした【この世のものでは無い泥棒】は、彼女の部屋に入る素振りすら見
せなかったのだろうか?
彼の行き来している世界の中に、彼女の部屋は含まれてはいなかったと言う事であったのだろ
うか?
・・・そして存在しない筈の玉暖簾の音は一体、何だったのであろうか?
勿論、金銭的な面からしても彼女自身にとっても何の害も無かったらしいのだが、実に奇妙な夕暮れを過ごしたのだと言う・・・。
しかし、彼女を金縛りに遭わせたのも、視覚や聴覚に訴えかけてきたものも【この世のものではない彼】の影響である事は間違いないであろう。
彼が立ち去った後、約五分ほどしてセットしていた携帯のアラームが鳴り響いたのだと言
う・・・。