もし、同じ場所で自分が視えているものが、
他の方には視えないという事実を知ったとしたら・・・。
今回のお話は、愛理さん(仮名)の駐車場での体験談である。
彼女は仕事から帰宅する際には、船に乗って海を渡っているのだが、
その船着場から、彼女の自宅までは、数十分間歩かなければならない距離にあるのだと言う。
しかし、姉思いの彼女の弟である良太郎くん(仮名)が、
そんな姉を気遣って、いつも車で船着場まで迎えに来てくれるらしいのだ。
その日もいつものように、彼女が船着場に着く頃には良太郎くんが既に待っており、
帰宅する前に古本屋にでも寄って行こうと言う話になったらしく、
駅の近くにあるという古本屋に向けて車を走らせたのであった・・・。
その古本屋には、十五分ほどで到着し、その駐車場に二人の乗った車が、
丁度、差掛かった時の事である。
駐車場に停めてある一台の車が、不意に彼女の目に留まったのであった。
・・・それは、良く見かける様な、黒い普通のミニバンであったらしい。
その黒いミニバンの運転席側のドアは開けたままになっていたらしく、
彼女は、無用心だなぁ・・・などと思いながら、不意に視線をその車の下に向けたのだと言う。
そこで彼女の目に映ったものは何と・・・地面に横たわる人間の青白い足であったのだ。
彼女は、車を運転している弟に、慌ててその事を告げた。
「何あれ!?誰か倒れてるよ!?・・・え?救急車!?」
彼女は驚きの余り、半ば取り乱しながらも携帯を取り出したらしいのだが、
そんな彼女に向かって、良太郎くんは不思議そうな顔をしながら次の様に告げた。
「・・・姉ちゃん、何を言ってるの?」
彼女は必死に、その黒いミニバンを指差し、気付かないのかとばかりに訴えたのだ。
「何言ってんの!?そこに人が倒れてるじゃない!」
そう言って車を指差す彼女に対して、良太郎くんはと言えば・・・。
またかと言うような顔をして、首を振りながら彼女に告げた。
「・・・俺には見えないよ?」
そして、そのまま駐車する為に、その車の横を通ると、
その黒いミニバンの運転席には、ちゃんと人が乗っていたのだと言う。
車のドアを開けたまま、車外に脚を放り出す様な格好をしており、
携帯電話で何やら話していたらしいのだが・・・。
・・・しかし、愛理さんの眼には、その車外に放り出された脚のすぐ側に。
人が倒れている姿がはっきりと映し出されていたのであった・・・。
その全身は彼女には視えなかったらしいのだが、
どうやら男性のものと思われる脚と腕が視えていたのだと言う。
しかし、良く視るとそれは・・・まるで生気を感じさせず、青白くて・・・。
「確実に亡くなっている方の色」だったらしいのだ。
そもそも倒れている人間の、すぐ上に駐車して。
それに何も感じないまま、携帯電話で話をする人間など常識的にいる訳が無い。
その倒れているものの顔までは、視えなかったらしいのだが、
彼女は得体の知れない恐怖心を覚え、その車を出来るかぎり避ける様にして、
その古本屋に逃げ込んだのだと言う・・・。
そして彼女が帰る時には既に。
その車も、倒れていた人の姿も消え去っていたのだと言う・・・。