天井に浮かぶ少年。
今回のお話は愛理さん(仮名)から寄せられた心霊体験談である。
彼女はいつも愛犬と共に眠るらしいのだが、その日もいつもと変わらない様に、愛犬を自分のベットに放り込むと、お互いに落ち着く場所を探り、そのまま眠りについたのだと言う。
愛理さんは元来、寝つきの悪い方であったのだが、その頃は珍しい事に、割と早い時間から、猛烈な睡魔が襲ってきていたらしく、その日もすんなりと眠りにつく事が出来たらしいのだ。
しかし、彼女は【何がしかの動く気配】を感じると、根本的に眠りが浅いと言う彼女は、まるで眠りの淵から引き上げられるかの様に、目が覚めてしまうのだと言う・・・。
それは時に、一緒に眠っている、彼女の愛犬が動く時の微細な振動であったり、また隣の部屋に眠っている彼女の姉が立てる物音であったりと様々であったらしい。
・・・それが気配を発するものであれば、その存在の生死に関わらずに・・・である。
そして、ある夜の事であった。
彼女は,またもや眠りの淵から、突如として引き上げられてしまったのだと言う。
鈍い耳鳴りを伴いながら・・・。
そして、彼女の目に飛び込んできたもの・・・それは一人の少年であったのだと言う。
赤い縞模様の長袖のシャツに、デニムのオーバーオールを着たその少年は、裸足で膝を抱え、その膝に頭を埋めるかの様な姿勢で、蹲っていたのだと言う・・・。
それは、もし仮にその少年の姿を、昼の街中などで見たとしたならば、この世のものなのか、この世のものでは無いのかの見分けもつかないであろうと思えるほど鮮明な姿であったらしい。
(うわぁ・・・今度は子供かぁ・・・)
以前にも彼女は自分の部屋で、深夜に黒い服を着た男性が黙って部屋に立ち、あらぬ方向を見ている姿を目撃していた彼女は、そんな状況下にありながらも、未だ夢うつつの状態であったらしく、その少年の不自然な姿には、すぐには気付なかったらしい。
・・・しかし、徐々に現実の世界に引き戻されていった彼女は、気付いてしまったのだと言う。
その少年は、膝を抱えたまま横倒しになったかの様な姿のままで、彼女の部屋の天井の隅に
浮遊していたのであった・・・。
幸いにも、金縛りなどにはなっていなかった彼女は、何気ない素振りを装いながら、その少年から目を逸らす様にと、体の方向を変えたのだと言う。
・・・そして、その行動には理由があったのだ。・・・それは、彼女の感じた言い知れぬ恐怖感・・・。
(この子供と目を合わせちゃ駄目だ)
・・・得体の知れない恐怖感と共にそう感じたのだと言う。
さり気無く確認した時刻は、午前2時を回ったばかりであったらしい・・・。
愛理さんはおそらく、その霊的な感覚から、その子供の危険さを感じ取っていたのであろう。
・・・気付かれない様に。そして、その目を合わせてはならないと思わせる程に。
その耳鳴りは、とても酷く不愉快なもので、グワァングワァンと鈍く低い音が、鳴り続けていたらしいのだが、彼女はそれに引きずられない様にと必死になっていたのだと言う。
そして、彼女は意識的に違う事を脳裏に浮かべる様にしていたらしい。
欲しかった本の事や、これから始めたいと思っている習い事の事などを・・・。
もし、仮にこの状況で、その耳鳴りに気を取られてしまったならば、聞きたくも無い声まで、聞いてしまう事になるだろうと、霊の声を聞く能力に長けている彼女は、その経験上から解っていたらしいのである・・・。
・・・そんな状況の中、ずっと耐え続けていた彼女の耳鳴りは、随分と長い間続いていたのだが、何故か不意に消え失せたのだと言う。
そして、傍にあった携帯電話に手を伸ばし、確認した時間は・・・午前三時五十分であった。
結局、その少年が完全に消え失せるまで、約二時間ほどの時間を要したのであった・・・。
・・・そして、そんな彼女の翌日の仕事は随分と厳しかったのだと言う。
彼女は最後に、次の様に語っていた。
「私の睡眠時間を返せ」・・・と。
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・・・さて、今回のお話の中で出てきた言葉。
「仮にその少年の姿を、昼の街中などで見たとしたならば、この世のものなのか、この世のもの では無いのかの見分けもつかないであろうと思えるほど鮮明な姿であった」
この部分に関して、私が愛理さんと行動を共にしている際に目撃した「鮮明な姿の者」に、ついての話を少々、付け加えておこう。
・・・それは、彼女と街中を歩いている時の事であった。
「・・・凄いなぁ?あの姉ちゃん。派手な髪型してるよなぁ?」
私が、愛理さんに話しかけ、そこから少しだけ歩いた時の事である・・・。
「氷川さん(仮名)・・・今、あの〜って言ってた、赤い服を着てた男の人がいたでしょ?」
・・・確かに、誰に話しかけていたのかすら気にも留めていなかったのだが、その男性の姿は視界の隅に映っていたし、その声も聴こえてはいたのだ。・・・しかし正直、彼女が何を気にしていたのかすら私には解らなかったのだ。
・・・そこで、私は彼女に訊ねてみたのであった。
「うん?いたけど・・・それがどうしたの?」
すると、彼女は予想外の事を私に告げたのであった。
「あの人・・・この世の人じゃないですよ・・・?」
驚いて、後ろを振り向いた時には既に・・・その男性の姿は無かったのである。
「ね?・・・いなかったでしょ?それと、あの〜って声をかけた相手は、私たちじゃなくって・・・。 多分、さっき氷川さんが言ってた派手な頭の女の人にですよ」
・・・彼女曰く。見分けのつかないものとは、そんな風に【日常の風景】の中に、紛れているものなのだと言う・・・。