仮面ライダーフリークス&恐怖!夜伽話

      精神病院


 今回は、かつて美穂さん(仮名)が、精神病院に勤めていた頃に体験したと言う、やり場の
無い憤りや、悲しさをも感じさせる様な・・・そんなひとつのお話である。

 精神病院と言えば、勿論、哀れにも精神的に壊れてしまって、普通の生活が出来ない方も多く
入院しているし、麻薬などを常用し、そこから抜ける為であったり、突発的に自殺してしまう可
能性があるような方が一時的に入院している事もある。

 そして、その一方では認知症の末期の方々も結構多く入院しているらしい。

 本来ならば、その様な認知症の老人は、介護施設などに入居する方が良いのだが、施設に空き
がなかったり、施設の空きを待っている間に亡くなってしまう方もおられるのが現実だと言う。

 その中でも美穂さんが凄く悲しかったのは、精神病院に入院した時点で、「もう何があっても
例え死んだとしても、誰にも連絡してこないで下さい」と言う家族や親族の方が、とても多い事
だったらしい。

 心が疲れて壊れてしまっただけで、まだ生きているのに。
 色んな事を理解することが難しくなっただけで、まだ生きているのに・・・と。

 そんな家族や親族の中では、その患者さんは入院した時点で、既に記憶から抹殺されてしまう
という事が、とても悲しかったのだと言う。

・・・美穂さんは、その精神病院に併設する【デイナイトケア】という施設で働いていた。

 精神病院のデイナイトケアは、少し特殊であったらしく、認知症の方もいれば、加齢によって
身体に少し不自由を感じ出した方や、また年齢は若いけれど、心が少し疲れた状態で、生活リズ
ムや人との関わりをやり直す意味で通う方もおられるらしい。

 つまり老いも若きも一緒に過す場所であったのだと言う。
 そして、そのデイナイトケアの施設の建物のある真横に病院の霊安室があった。

・・・考えてみれば不思議な構造であったと言う。

 通常ならば、霊安室は院内の地下や、何階かに設置してあるのだが、美穂さんの働いていた精
神病院では、建物の外に霊安室だけがポツンとあったらしい。

 そして、先ほど、ご家族や親族の方の話を語った事は、これから話すことに繋がる事となる。

 病院内で、その命を終え、霊安室に安置された時の事なのだが、ご家族のどなたかがお迎えに
来て下さる方の場合は、病院内に霊となって現れる事は、まず無かったと言う。

 しかしながら、ご家族も親族もおられない天涯孤独の方や、ご家族がおられるにも関わらず、
連絡を拒否された方は、よく同僚の靖子さん(仮名)に憑いてしまっていたらしい。

・・・それは、寂しさと悔しさと、悲しさを感じる霊だったと言う。

 勤務中は、その施設のドアや窓の位置の関係上、霊安室は見えなくなっている。
 したがって、霊安室が空いているか、使用中かなど、勤務中には分かる筈が無いのだ。

 しかし、どなたかが安置された瞬間、いつも靖子さんは身体に不調を覚え、トイレに駆け込ん
で嘔吐していたのだと言う。・・・所謂、霊障を受けてしまったと言う状態であろう。

 だが、そんな風に憑かれる割に、靖子さんは、自分の意識を乗っ取られる様な事は無かったら
しく、ただただトイレに篭り続けていたらしい。靖子さんの持つ何かが、防衛本能を発揮してい
るのだろうと美穂さんは漠然と感じていたのだと言う。

 最初は、美穂さんも自分に霊感がある事を変に悟られたく無かったし、霊能力者を名乗れる程
の能力も無い事から、どうしたら良いかもわからず、ただ彼女の背中をさする事しか出来なかっ
たらしい。

・・・しかし、ある日、ふと思ったのだと言う。

 生きている間は、心が壊れてしまっていた方も、物事が理解出来なくなっていた方も、肉体か
ら開放されたのであれば、自分が一番輝いていた頃に戻れるのではないだろうか?・・・ならば、
言葉も通じるかもしれない・・・と。

 靖子さんの背中をさすりながら、美穂さんは心の中で語りかけてみたのだと言う。

「あなたはもう苦しみからも、頭のもやもやからも解き放たれたはずですよ?何処にでも、好き
 な所へ行ける筈ですよ。あなたが本当に行きたい場所は、この娘の所では無いでしょう・・・?
 行きなさい・・・あなたが行きたかった場所へ」


 そう心の中で語りかけながら、靖子さんの背中を、ポンと叩くと、背中から肩・・・そして腕か
ら手先へと撫でていったのだ。それで抜けたかどうかは定かでは無かったらしいのだが、靖子さ
んの中に感じていた【他人の気配】は無くなったのだと言う。

「・・・ありがとう。ちょっと楽になったよ」

 それと同時に靖子さんが美穂さんに礼を言ったのであった・・・。


 霊障と言うものは、瞬時に消える人もいれば、うっすらと残る人もいる様で、彼女の場合は 
徐々に薄れていく体質の様であったと言う。

 そこが病院であるが故に、その命を終える方は幾人もおられたらしいのだが、以後、靖子さん
に憑く度に、美穂さんは同じ様に背中をさすりながら語りかけていたと言う。

・・・不思議と抜けない霊は居なかったらしい。

 ただ、全ての霊が納得して何処か、その方の望む場所へ旅立った訳では無く、靖子さんからは
離れても、院内をうろうろしている霊も居たらしいのだ。


 その病院は、現在は移転してしまい、施設も霊安室も、もう無くなっていると言う。

 彼女がその病院を辞めた後、靖子さんも辞めた為に、その後【あの悲しい霊たち】が、どうな
ったのかも解らないままだと言う・・・。

 そして、その頃の事を振り返りながら、美穂さんは次の様に語っていた。


「悲しいお話でしょう?・・・精神病院って、そんなに忌み嫌われなきゃならないものなの?
 その他にも、病院から連絡の電話をかける時は生命保険会社の名前をと名乗って下さいだとか
 送り迎えの車は、病院の名前が入っていないものにして下さいだとか・・・。

 とにかく【精神病院」という響きは、凄く嫌われてた。

 そんな引き取り手の無い、ご遺体が哀れでね・・・。せめて頭のもやもやが無くなって、元気な
 心で旅立って欲しいと願わずにはいられなかったよ。そんな悲しい霊を慰める意味もあってか
 あの病院の霊安室には、普通の病院ではそこまではしないだろうってくらい豪華な花束が、い
 つも飾られていたよ。本当に 何度経験しても お見送りは悲しかったなぁ・・・」

 心を病んでしまったが為に、また認知症になってしまったが為に、今まで共に過ごしてきた家
族や、自分を産み、育ててくれた親の存在を抹消してしまおうとする様な方が多くおられるとい
う悲しい現実・・・。

 あなたは、この話を読まれて、どう感じるであろうか・・・?