神野さん(仮名)は成人を過ぎた頃に、母方の祖父の霊の声を聞いた。

・・・そして、それ以来、霊の存在が視える様になった。

 少なくとも、そういう風に自分では思っていた。


・・・しかし、それはどうも。
そう思い込んでいただけだったらしいとの事だったのです。


・・・ふと思い出した幼き日の古い記憶。

それは彼女がまだ6歳の時の事でした。


 彼女自身も、詳しい理由については、良く覚えていないらしいのですが、
彼女の両親は、仕事や細々とした用事などで、何かと外出する事が多かったそうです。

 それは彼女がまだ幼稚園に通っていた頃。

そんな幼くして、彼女は、半日以上も留守番をさせられていた事もあったそうです。


 そんな中。彼女の自宅の真向かいに住んでいた加藤さん(仮名)と言う夫婦が、
よく彼女を預かってくれていてくれていました。

 加藤さん夫妻は二人とも、工場の夜勤をされていたらしく、
出かけるのは決まって夜に近い夕方に。

 既に社会人となっている子供が四人いて、
彼らが帰宅すると、入れ替わる様に二人が仕事に出かけるという生活をしていたそうです。

 加藤さん夫妻は草花が大好きで、
その自宅の庭にはいつも四季を通じ、色とりどりの沢山の花が咲いていました。

 彼女が加藤夫妻宅に預けられている間は、加藤夫妻のご主人。
彼女の言う所の「おじさん」がよく「お花の話」をしてくれて、
それが彼女にとっては、とても楽しい時間だった事を覚えているとの事でした。

 おじさんは度々、その奇麗な花を「花束」にして、
彼女にプレゼントしてくれていたりもしていたのだそうです。

 彼女にとっては親戚よりも良くしてくれたのは、
紛れも無く、その加藤夫妻だったとの事でした。


・・・しかし、そんな矢先。


 加藤夫妻のご主人は、どうやら昔から心臓が弱かったらしく。
突然、50代という若さで他界されてしまったのでした・・・。


 そして悲しげに。・・・淋しげに。
生前、おじさんも大好きだった花壇の手入れをするおばさん。

 そんな、おばさんの姿に彼女は幼いながら、少しでも励ましたいと思ったのでしょう。
しばしば、自分からおばさんに「お花のお手伝い」を申し出ていました。

 その度におばさんは彼女に礼をいい笑顔を見せてくれていたのだそうです。


・・・そんなある日の事。


 彼女は花壇の花の手入れをしているおじさんを見たのです。
植木用ハサミを持ち、草花の手入れをしている加藤さんの亡くなった筈のご主人を・・・。


 彼女が見ている事に気付いたおじさんは、笑って手を振ってきたので、
彼女も喜んで、手をふりかえしたそうです。

「おじさんは死んじゃったって聞いたけど、病院からおうちに元気で帰って来たんだ」

 彼女はそう思って喜んだのですが、ふと「ある疑問」が頭をよぎりました。


葬式は数日前に確かにおこなわれた筈だという事に気がついたのです。



「・・・あれ?じゃあ、今のおじさんは?」


 彼女が振り向いた時には既に、おじさんはいなくなっていました。

 そんな事が度々続いたらしいのですが、
彼女は、何故だか自分だけの中にしまっておこうと思ったらしいのです。


 その数日後。彼女は再びおじさんに逢いました。


 生前の様に、おじさんは花の手入れをしていたのだそうです。

彼女は、全く怖いとも思わずに、おじさんに声をかけました。


「おじちゃん!ありがとう!バイバイ!」


おじさんは笑顔で彼女に、こう答えたそうです。


「いつまでも、お花の好きな子でいてね。バイバイ!」


その言葉を最後に、おじさんは消えてしまったのだそうです。


・・・そしてそれ以来、おじさんは二度と彼女の前に姿を見せる事はありませんでした。


 当時、僅か6歳の子供であった自分が、その時。
何を理解したのかは自分でもよく解らないらしいのですが、

「おじちゃんは神様の元に帰ったのだ」

そう、彼女は自分に言い聞かせていたのだそうです・・・。
紫陽花

おじさんのこと。