抜け出せない幽体
美穂さん(仮名)が自宅の二階で昼寝をしていた時の事であった。
階段から聞こえてくる妙な足音に、ふと彼女は目を覚ました。
ご主人のものとも、同居している義父のものとも異なる足音が、階段を昇ってきたのである。
それは、まるで寝ている彼女を起こさない様に気配を出来るだけ消している様な忍び足であっ
たと言う。
ひた ひた ひた
その足音は、階段の最上部につけてある仕切りのドアの前で止まった。
しかし、その何者かは一向に声をかけてくる様子もなく、ただただ、佇んでいたらしい。
「・・・ん?何だ?誰なんだろ?」
気にはなったらしいが、その時は、もし用事があるなら声をかけてくる筈だと、対して気にも留めずに、また彼女は眠りについた。
・・・しかし、しばらくすると、また足音が階段を上がって来る足音に目を覚ました。
ひた ひた ひた
再び、階段最上部の仕切りのドアの前で、その足音は止まった。
相変わらず、声もかけて来る訳でも無く、ただ佇んでいる。
「何なんだろう?・・・って言うか、誰?
用事があるなら 声を掛けて来ればいいのに…」
流石に不気味に思ったらしいのだが、睡魔の方が勝り、彼女はまた眠りについた。
その後、ふと目が覚めた彼女は先程の足音の事が気になり始めていた。
「・・・さっきのは、何だったんだろ?」
そんな事を思いながら、ようやく起きようと思ったらしい。
ちなみに彼女は、身体の左側を下にして、横向きに寝ていたのだが、そういう姿勢で寝ている
場合、左手を軸に身体を起こすであろう事は理解出来ると思う。
彼女もまた、その様にして身体を起こしたのだが・・・ある異変が起こっていたのだ。
そして、その異変とは、彼女の身体が透けて視えているという現象であった。
(右手が!?・・・右手が透けてる!?・・・幽体離脱だ・・・)
自分の身に降りかかっている事態を瞬時に理解した彼女は、陽気にも幽体離脱したら、遠く離
れた実家にも、簡単に帰る事が出来ると喜んでいたらしい。
(よいしょ)
彼女の右手が抜け、次に頭も動いた。
・・・だが、どうしても左手だけが抜けない。
左が抜けない為に、何だか無理なストレッチをしている様な姿勢になった。
(・・・ぬぬ?)
・・・そこで、一旦意識が途切れた。
それから、どれほどの時間が経過したのかは解らないが再び彼女は目を覚ました。
そこで彼女はまた幽体が抜けるのかを試したくなったらしい。
(よいしょ)
また抜けた。・・・右手と頭だけは。
しかし、何故かまた、どうしても左手が抜けず無理な姿勢になる。
・・・そしてまた、そこで意識が途切れた。
その一連の動作を何度も何度も繰り返していたらしい。
何故そんなにまで繰り返したのかも、冷静に考えれば不思議に思えたらしいのだが、その時は幽体離脱を試みては抜けずに意識が途切れるという事を、延々と繰り返したらしい。
流石に幾度も繰り返すと疲れてくると共に・・・徐々に冷静にもなってきたと言う。
(・・・これ・・・マズイんじゃないの?一度、ちゃんと起きなきゃダメだ)
意を決した彼女は、そのまま勢い良く起きてみた。
・・・特に変わった事も無く普通に起きる事が出来たらしい。
(・・・一体・・・何?・・・それで、何故左手だけが抜けなかったの?)
そんな疑問が彼女の中に残ったと言う・・・。
その因果関係は定かではないが彼女は、その数日前に【巡り合わせ】や【石が自分を選んだ】
としか言いようが無い様な、ある稀少なパワーストーンを信じられない程の安い価格で譲り受け
る事が出来たのだと言う。
その際に手に入れた三つの石で作られた二本のブレスレットと、一本のネックレスは、共にとても霊力が高いとされている水晶系のパワーストーンであるらしい。
中でも、特に二本のブレスは、身につけた瞬間に強烈なパワーで、手首がジンジンとする程で
あり、彼女は、この二本のブレスを料理と入浴時以外の全ての時間に【左手首に】つけていたら
しいのだ。
・・・彼女曰く。
その石が、彼女の幽体離脱を察して【おまえはまだそちらの世界に行くべきではない】と現世に
留めてくれたのだろうかと、そんな気がしてならないのだと言う。
そこに、どんなものが関っており、どの様な因果関係があったのかは不明だが、彼女にとって
は、実に不思議な体験だったと言う・・・。