仮面ライダーフリークス&恐怖!夜伽話

      虫の知らせ。


 例えば、何だか悪い予感がして、乗る予定だった飛行機をキャンセルした所、
その飛行機が事故に逢った。

 夢に知人が出てきた翌朝に、その方が亡くなっていた・・・。

 この様な偶然に近いとも言える出来事は、一般的に「虫の知らせ」とも言われている。

 今回のお話は、そんな「虫の知らせ」についての話である。
今回のお話については、私の心理的な要素が多分に含まれているので、
一概にそうだとは言い切れない事例ではあるのだが・・・。

 私の祖母が春に花見に行った際に、
転倒して頭部を強打してしまい、しばらく入院する事になった。

 しかし、元来「痴呆症」の進んでいた祖母は、その危険を察知する事が出来ず、
その入院先の病院にて、またも転倒した際に右大腿部を骨折し、
更に入院は長びいてしまっていたのであった。

 そのリハビリ中だったのだが、またも同じ事を繰り返し、
今度は左大腿部を骨折。
 急遽、自宅の近所にある病院へ手術をする為に転院してきたのであった。

 そして私が仕事から帰宅した直後に、
その手術について話し合いが行われる事となったのだ。

 既に祖母は、かなりの高齢である為に、その回復には時間がかかる。
 そして既に痴呆症が進行していた祖母は、入院をきっかけに更に悪化。
 最早、自分が病院に入院をしていると言う事すら、
理解出来ていない状態になってしまっていたのだ・・・。

 今回の話し合いの内容とは、「手術をするべきか否か」と言う事であった。

 その骨折に関しては、手術をしなくても時間はかかるが治るものであったらしい。
 しかし、手術をすれば少しは早く退院出来るという状況であったのだ。

・・・ただ、いずれにしても。
 祖母は再び歩く事は出来ない状態である事に変わりは無いのだと言う・・・。

 まだ幼い頃に両親が離婚し、前触れも無く「母親」がいなくなった私にとって。
 祖母は「育ての親」にあたる存在であった。

・・・だからこそ。私には祖母の意思が解るのだ。

 祖母は死にゆく時は、病院などでは無く。
 かつて祖父と共に暮らした我が家で死にたいと願っている事を。
 この家に対して並ならぬ執着を持っている事を・・・。


 だが、そのまま放置していても、手術をしても・・・結果は同じなのである。
 この状況で私は結論を出す事が出来なかったのだ。

・・・あえて苦痛を与えてまで早期退院を願うべきなのか。
それとも、時間はかかっても苦痛を与えない方を選ぶべきなのか。

 そして、祖母の大好きな「私の子供達」を連れて病院へ駆けつける事にしたのである。

 『ほんの一瞬でも・・・痴呆から普通に戻るのでは?』

 私は、話にならないと聞かされてはいたのだが、そんな万が一に賭けてみたかった。
 そして、祖母自分が何を望むのかを訊ねてみたかったのだ・・・。

・・・しかし、現実はそれほど甘くは無かった・・・。


『・・・今日はどうしたぁ?お宿(泊まる所)は、どうしたぁ?』

『いや、家の近くだから』

『う〜ん・・・。じゃあ私が今日は家に帰ろぉ。そうしよぉ。』

『いや、無理だってば。足折れてるんだよ?だから入院してるんだよ?』

『そ〜んな、馬鹿な事は無い・・・。・・・うん。今日は私が家に帰ろぉ。そうしよぉ。』

『いや、だから無理だって。ほら起き上がっちゃ駄目だって。足折れてるんだからね?』

『でも折角、子供たちも、喜んでるのに・・・。』

 残念な事に奇跡は起こらず、やはり全く会話は成立しなかった。
・・・ただ、家に帰りたいと言う気持ちだけが・・・ひしひしと伝わって来たのであった。


・・・その夜の事である。・・・私は夢を見たのであった。
 それは、祖母の部屋に彼女が帰って来ている夢であった。

 そして、それはまだ・・・痴呆症になる以前の元気な祖母の姿。
 白髪も、以前の様に奇麗に染めてあり、ニコニコと笑って私と話していたのだ。
 私は折れた足を気遣って、祖母の上半身を支えながら話をしていた・・・。


 私は一度、眠りにつくと、それこそ地震が起きたとしても、
ほとんど起きる事など無いのだが、この時ばかりは何故か目が覚めてしまったのだ。

『これは・・・ひょっとしたら虫の知らせかも・・・』

 一度、起き上がって煙草を飲みながら、そんな事を考えてみたのだが・・・。
もしそうであれば。病院から連絡が来るだろうと思い、再び眠りについたのだった・・・。

 その眠りの中で、私は声だけを聴いていた・・・。

『あんたが優しくて良かったよぉ・・・。
 子供も優しく育って良かったよぉ・・・。・・・・本当に・・・良かったよぉ・・・。』


・・・再び目を覚ましたのは僅か一時間後の事であった。

 しかし、やはりまた。
病院から連絡がある筈だからと再び眠りについた。

 そして、その日も仕事に出かけ、特に連絡も無かったので、
やはり単なる夢だったのだろうと思っていたのだが・・・。

・・・それは帰宅してから聞かされたのであった。

 実は転院する時点では、私の叔母が付き添っていた為に、
叔母の自宅が連絡先になっており、その晩に病院から連絡があったらしいのだが、
どうやら、その電話に気付かずにいたらしいのだ。

 実はその晩に祖母の容態が急変していたのだと言う。
元来、心臓にあったらしい血栓が流れて行き、一時危うい状況に陥っていたと言うのだ・・・。


 そして結局は、心臓の治療と身体の負担という面から、
足の手術自体が不可能であると診断される事となったのであった・・・。

 もちろん、これは私の心境から見た只の夢なのかもしれない。

・・・だが、しかし。
 霊は自分が最も自分らしい頃の姿で現れるとも言われている。

 ひょっとしたら危うい状況に陥った祖母の魂だけが一時的に、
帰る事を強く望んだ、この家に戻ってきたのでは無いだろうか・・・?

 私には、そんな風にも思えてならないのである・・・。