国境を越える子供達
以前、水城さん(仮名)の友人が、フランスへ出張した事があったらしい。
その友人は、渡仏の際にフランソワさん(仮名)と言う方に通訳を頼み、
幾度か仕事でも、そのお世話になっていたのだと言う。
そして歳も近い事から彼女と仲良くなり、
自宅でのお茶にまで招かれる様な親密な仲になっていったのだと言う。
・・・今回のお話は、その席で聴かされたと言うお話。
フランソワさんが数年前に国境の田舎町で体験した不可解なお話である。
フランソワさんには体の弱い息子さんがいたらしく、
その療養を兼ねて「とある田舎町」に家を借りて、しばらく滞在していたのだと言う。
そんな農家しか点在しない様な「小さな町」は交通手段と言えば車しか無く、
何かにつけ用事が出来ると車で移動するしか手段は無かったらしいのだ。
・・・そして、ある雨の日の事であった。
フランソワさんの息子が、後ろから車を追いかけて来る、
小さな子供達がいると後部座席から叫んだのだと言うのだ・・・。
彼女が車を停めると、そこにはまるで、
「着の身着のまま」で逃げて来た様な子供達がいたらしいのだ。
その子供達は何かに脅えている様子で、必至に車に乗せてくれる様に頼んできたらしく、
とりあえず彼女は、車に乗せて持ってきた「お菓子やお茶」をあげて、
その子供達に、警察まで連れてってあげるからと伝えたのだと言う。
・・・すると何故か、更に子供達は震えだし、
裏通りの国境へ通じる道の側で降ろしてくれる様に頼んできたのだと言う。
何処か疑問に感じながらも指定の場所へと車を走らせ、子供達を降ろすと、
その子供達は、手を繋いで国境へと消えていったのだと言う・・・。
彼女は漠然とした疑問から、様々な憶測が脳裏を過ぎったに違いない。
数年前にこの地域では「誘拐未遂事件」が発生しており、
その際には、子供が保護された様な事などもあったらしく、
彼女は今回も「その類い」なのでは無いだろうかとも思ったらしいのだが・・・。
どうも何か釈然としない思いが沸き起こっていたのだった・・・。
そして、彼女の息子さんの一言から彼女は「ある答え」を確信したのだと言う。
先程のあの子供達は既に・・・この世のものでは無い子供達だったのだと言う事を。
「ママン・・・あの子たち、ポーランド語でしゃべっていたよ。おばあちゃんと同じだ」
フランソワさんの母はポーランドからの移民であり、
その母方はユダヤ系の血を引いていたとの事であった。
そして、後になって息子から聴かされた話らしいのだが・・・。
彼女の息子が、脅えている子供達に何処から来たのかと訪ねると、
森の中の「ある方角」を指差したのだと言う・・・。
・・・その森の方角と言えば、かつて戦時中に小さな工場があった場所だったらしいのだ。
その小さな工場には、強制労働の為に連れてこられた人々が働かされていた場所であり、
また同時に、大きな工場や収容所に集められる為の中継地点の様な場所でもあったらしいのだ。
・・・あの子供達はそんな戦争によって起こされた悲劇の犠牲者だったのであろうか・・・?
彼らが消えていったと言う「国境の町」の墓地には、
その時の犠牲者を弔う墓標があるのだという・・・。
そしてまた、フランソワさんの母方の縁戚の中にも数名、
そんな強制労働で亡くなった人がいたのだと言う話であった・・・。