自動書記
自動書記と呼ばれる現象がある。
それは霊と呼ばれる様々な存在や、生きている人間の念や残留思念などにより、
霊的な資質を持った方などの手を使っての筆記。もしくはキーボードなどを用い、
本人の意志とは無関係な文字や文章。・・・または、絵などを書かせると言う現象である。
まずは、愛理さん(仮名)から送られた一本の詩から、
そんな自動書記にまつわる今回の話を語らせて頂く事としよう・・・。
この話が始まる前に、心霊実話につながると言う前提ではあったのだが、
まずは、何の説明も無い状態から詩だけが送られて来たのであった。
「何か思った事があったら教えてください」
・・・そんなメッセージを添えて。
それは、おそらくは先入観を持たない状態で、
まずは直感から得られる感想を聴きたかったからであろう。
先入観と言うものは、時に判断を狂わせるものだからである。
そして送られて来たのが次の詩である。
<粉雪>
粉雪が落ちてくる
冷たい冬の終わり
小さな春もその日
静かに終りました
叩かれた頬が少し熱く
涙さえも浮かばない僕
遠ざかる足音
追い掛ける事もしなかった
深夜の地下鉄のホームで
独り 膝抱え
手袋をなくした右手を包み
胸に抱いた
揺れ動く 冷たいその日
僕の中には何もない
「さよなら」さえ言わずに
黙って去った君の頬の涙
「ごめんね」すら言わせずに
走り去った背中 今でも痛い
人工色の街の中を歩く
寂しい夜
自分の靴音さえ耳障りで
立ち止まるよ
星空さえ覆い尽くす
分厚い雲のなか
満月だけがその存在を
必死で示している
見上げた僕の頬に
優しく触れたのは粉雪
二人で乗ってきた電車
帰り道は独りきり
走る音はいつもより単調で
冷たく響く
粉雪は止まずに
いつまでも降り続ける
明日の朝は白い絨毯を
きっと独りで見てる
初めの足跡も
きっと独りでつけるんだろう
まずは思った事を教えて欲しいとの事であったので、私は次の様に告げたのだった。
「これは単なる詩ですから、霊的なものかどうかは、
その他の情報を含めた背景から判断するとして、あくまで詩の印象を簡潔に伝えます。
<叩かれた頬が少し熱く>とありますんで、何か怒らせる様な事があったんでしょうけど、
以後、その状況が明確にされていませんから、あまり伝えたくないのでしょう。
<星空さえ覆い尽くす分厚い雲のなか 満月だけがその存在を必死で示している
粉雪は止まずにいつまでも降り続ける>・・・とありますね。
星空を雲が覆い尽くして、粉雪が降っている状況で・・・月って見えないでしょ?
そこまで頭がまわっていない事から、若い男性・・・十代後半って所でしょうか?
死の印象はあまり受けませんけど?」
私は、その様な内容の返事をしたのであった。
そしてその後、この詩が書かれた状況についての説明がなされたのであった。
「例の詩は、私がまだ高校生で文学部にいた頃、
電車の中でいきなり流れ込んできたものなんですよ。
携帯ってテキスト機能があるでしょ?あれに、もの凄いスピードで打ち込んじゃったんです。
・・・ええ、凄かったですよ。自分でも人間技じゃないって思いましたよ。
何を打ってるのか、自分でも全然解らないままに打ち込んで出来たんですよねぇ。
それで、その後かなりの睡魔に襲われちゃいまして・・・。
何とか気合いで持ち越して、帰宅した途端、そのまま寝ちゃいました」
さて、ここからは私の個人的な見解である。
おそらくは彼女は一時的な同調を起こしていたのでは無いであろうか?
この場合は霊媒的な役割を担い、何らかの想念を受け取ったのでは無いかと思うのだ。
今回、その何らかの念が「詩」と言う形をとっているのは、
おそらく当時の彼女が文芸部に所属し、詩作なども行っていた事から、
それを反映して、詩と言う形で受け取ったのでは無いかと思われるのだ。
それを確かめる為に彼女に、あの状況では月が出ないと言う事を、
私に指摘されるまで気がついていたのかを確かめた所・・・。
案の定、彼女は気がついてはいなかったと苦笑いをしていたのであった。
そしておそらく、その後に襲ってきた睡魔に関しては、
その想念に同調し、ある意味、身体を貸していたが為に消耗してしまい、
憑かれからくる疲れ・・・その消耗した部分の補充を行う為の睡眠だと思われるのだ。
そしてもうひとつの疑問点が彼女の中にあったのだと言う。
それは次の様な事柄であった。
「詩を書かなくなってからは、あんな事は無くなったんですよね。
これって時期的なものだったんですかね・・・?」
正直、この質問に対しては、詩を書かなくなった事と、
関わりがあったのかどうかは正直な所、見解が難しいと私は思ったのだ。
・・・そこで、もうひとつの可能性として、次の様に答えたのである。
「その頃は・・・例えば精神状態が不安定な時期だとか。
心の中に目を向けなきゃならない状況だったのかも知れないと言う意味では、
時期的な事柄はあると思いますけどね・・・?」
実は霊感を持つと言われている方の中で、一時的に霊感が高まる時期が存在する。
精神的に追い詰められている時なども、実はその中のひとつに含まれるのだ。
そして、この頃の彼女についてはどうだったのかと言えば・・・。
・・・拒食症におちいっていた時期であったのだと言う。