引き寄せられる海
今回のお話は、私の友人である仁三郎さん(仮名)の知人である神さん(仮名)が体験したと
言う、不思議なお話である。
それは神さんがまだ大学生の時の事であったと言う。
真夏の海は魅力的で、彼は当時の彼女が止めるのも聴かず、海の中へ飲み込まれる様にと入っ
ていき、かなりの沖合まで、泳いでいったのだと言う…。
疲れた彼は、テトラポッドの上で、少し休憩をしてから、砂浜へと戻ろうと思ったそうです。
そして、いざ帰ろうと海に飛び込んだのですが、彼がいくら泳ごうとしても波が荒いせいか、
一向に前に進む事が出来ず、テトラポッドの位置から全く進む事が出来なかったのだと言う。
元来、泳ぎに自信があった彼にとっては、それが不思議でもあり、また恐ろしくもあったらし
い。
しかし、疲れた身体に鞭を打って、何とか砂浜まで泳ぎつく事が出来たのだと言う…。
彼女は、神さんに「もう休もうよ」と声をかけ、その晩は車の中で一夜をあかしたらしい。
…そして、次の日。
野次馬らしき人々が、何やら海の方に集まっていたのだと言う。
神さんが、何があったのかを訊ねると、何でも一週間ほど前に行方不明になっていた女性の水
死体が見つかったのだと言う事らしかった。
そして、その見つかった場所を訊ねると、何と、彼が泳いでも、泳いでも進まなかった、あの
テトラポッドの所であったと言う…。
泳ぎに自信があった彼が、全く進む事が出来なかったのは、水死体となった彼女の霊が見つけ
てほしいと訴えていたのか…それとも、同じく引きずり込もうとしたのかは定かでは無い。