仮面ライダーフリークス&恐怖!夜伽話

       響き渡る嗚咽。


 愛理さん(仮名)の母親は、とある海沿いの介護福祉施設で看護師をしているらしい。

・・・ある日、彼女が仕事を終えて帰宅する途中に、母親から一本の電話が入ったのであった。

 その電話の内容と言えば、今から母親の勤める福祉施設に来て、自分と一緒に書類の作成を、
手伝って欲しいとの事であったのだと言う。

 時刻は午後八時を少し過ぎた頃で、彼女も仕事が終わったばかりなので随分と、
疲れていたのだが、機械音痴な母親が、パソコンで書類の作成作りなどしようものなら・・・。

「いつまで経っても、母は職場から出られないだろう・・・」

 そう思った彼女は、仕方なく母親の勤める福祉施設に足を運んだらしい。

 その後、母親の勤めている福祉施設に到着すると、既に入居者も寝静まっていたらしく、
他には警備の方と、母の他に残業をしている職員数名しかいなかったのだと言う。

 それまでにも幾度か、書類作成の手伝いの為に施設を訪れていた彼女は、出入口で警備の方に軽く挨拶を済ませると、すぐに母親のいる職員室へと向かったのであった。

・・・そして、母親の元に着いた彼女は、書類を作成する為の原稿を受け取った後、
母親に、その他の作業をするように促すと、壁ぎわの机にあるパソコンの前に座り、
一人黙々とキーボードを叩きだしたのであった。

 しかし思う様に作業は進まず、彼女と母親以外は既に業務を終わらせて帰ってしまっており、気付いた頃には、既に時刻は午後十時を過ぎていたのであった・・・。

(明日も仕事があるし、急ごうかなぁ。あまり遅くなると明日が辛いしなぁ・・・)

 早々に切り上げて、帰宅しようと考えた彼女が、作業のペースをあげようとした瞬間・・・。


・・・うっ・・・うううっ・・・ひっ


 彼女の耳は、妙な声を拾ったのであった。

…うっうっ…うううっ

 その男性の嗚咽の様な声は、彼女の座っている机の隣の壁から聴こえてきたのだと言う。

・・・単なる勘違いかもしれない。

 そう思った彼女は、隣の席で日報を書いている母親に訊ねてみたのだと言う。

「職員室の隣って何の部屋?」

 彼女の態度に、何処となく不自然さを感じたのか、彼女の母親は小し首を傾げながら、
次の様に返事をしたらしい。

「・・・何にもないわよ?」

 この後に続く会話の内容を要約すると、どうも男性の嗚咽が聴こえてきたと言う壁側には、
確かに部屋があるらしいのだが、その時点では空き部屋であり、また、鍵が掛かっている為に、誰もいる筈が無いと言う事であったらしい。

 そして、その部屋の鍵を管理しているのは、警備室か受付のみであり、巡回の時間としては、まだ早く、その時間帯に、隣の鍵の掛かった部屋に人がいる可能性は無かったのである。

 そこで彼女は一応、母親にも訊ねてみる事にしたのであった。
 今も尚、壁から聴こえてくる男性の嗚咽が、母親の耳にも届いているのかと言う事を。

「お母さん・・・今、何か聞こえるかな?」

 それに対しての返答は以下の様なものであった。

「愛理の声とパソコンの音が聞こえるね」

・・・どうやら、他には何も聴こえてはいなかったと言う事であったらしい。

 この時点で彼女はようやく、この響き渡る男性の嗚咽が・・・。

「この世のものではないもの」であるとの判断をしたらしく、無駄話のひとつもしないまま、
手早く書類をまとめると、脱兎のごとく、その場を後にしたのだと言う・・・。

 因みに、それに気がついてから帰るまでの実に三十分もの間。
 その男性の嗚咽は止むことなく壁から響き渡っていたとの事であった・・・。

 
 これは余談だが、私は彼女と気が合う事もあり、一緒に行動する機会も少なくは無いのだが、
所謂「この世のものではないもの」に関して言えば、お互いが同じものを見たり、
同じ声を聴いたり、また同じ体験をする事もある反面・・・。

違うものに周波数が合う事もあって、全く異なるものを見聞きする事も少なくは無いのだ。

 また、彼女に関しては「声や音を聴く」と言う能力が非常に特化している様で、
この話を含め、私など足元に及ばないほどに、その潜在能力の高さを感じさせるのだ。


・・・そして、そんな彼女にとっては、今回のお話も「日常のひとつ」にしか過ぎないのである。