響き渡る音。
それはきっと、気付かない事もあるのかもしれない。
携帯電話の向こうから、聞こえる筈の無い音・・・。
今回のお話は、そんな聞こえる筈の無い音を聞いてしまったという体験談である。
それは深夜遅くに美鈴さん(仮名)から、私の携帯電話に着信があった事から始まった。
家庭の事情で、とある悩みを抱えていた彼女は、私に相談の電話をかけてきたのであった。
もっとも、その内容にも心霊的な要素が含まれてはいたのだが・・・。
彼女の住んでいる地域は電波状況が悪い為に、彼女が電話をしてくる時には、
いつも近所にあるという「お寺の駐車場」に車を停めて、電話をしてくるのだが、
やはり電波状況は悪く、良く途切れる事も多かったのだ・・・。
そして、その日はいつもにも増して電波状況が悪く、
彼女は場所を変えてかけ直すと言い残し、一旦電話を切ったのであった・・・。
しばらくして場所を移動したという彼女から、再び着信があり私達は会話を再開させたのだ。
・・・それは、既に午前一時半をまわった時の事であった。
彼女との会話の途中の事であった。
激しい音が携帯電話越しに聴こえたかと思った瞬間に電話が突然に途切れてしまったのだ。
『キキキキキキーーーー!・・・・ツー・・・・・』
・・・それは、自動車が急ブレーキをかけた時に起きる激しいスリップ音に他ならなかった。
私は、自動車を移動させると言っていたので、ひょっとしたら、
携帯で話をしながら運転をしており、それが元で事故を起こしたのでは無いかと、
一瞬、不安を覚えたのだが・・・すぐにその不安は消え失せた。
今まで、話をしていた状況から、その可能性は薄かったからであった。
そして、しばらく待ってみると、やはり再び彼女からの着信があったのだ。
私は先程の激しいブレーキ音が何だったのかが気になり、彼女に訊ねてみたのだ。
『ねぇ、今、凄いブレーキ音がしたんだけど、あれって何だったの?』
・・・すると彼女から帰ってきた返事は全く、予想外のものであったのだ。
『・・・え?トラックなら走って行ったけど・・・。
そんな音しなかったよ?・・・そっちには・・・そんな音が聞こえたの?』
私が聞いたのは、車の走り去る音なんかでは決して無かったのである。
凄まじく激しいブレーキ音なのだ。
・・・それも携帯電話越しに聞こえる程の・・・。
それが、その現場にいる彼女に聞こえない筈がないのである。
私は何度も彼女に訊ねなおしたのだが・・・当然、その答えが変わる筈も無かった。
・・・その現場で急ブレーキをかけた車など存在していなかったのだ。
そして、彼女自身は全く聞いていないと言うブレーキ音は、
携帯電話越しに、私の耳にだけ届いていたのである・・・。
急に鳥肌の立つ感覚を覚えた私達は、
既にそれが尋常では無い事に気がつき、すぐに電話を切ることにしたのであった・・・。
そして、後日。
彼女から知らされた事実は実に驚くべきものであったのだ。
・・・実は彼女が車を移動させて、再び電話をかけてきた場所。
そこではかつて、携帯電話をかけながら走っていた車が、
車道に出てきた老婆に気付くのが遅れてしまったが為に轢いてしまったという、
凄惨な死亡事故が起こっていた場所であったのだ・・・。
そして、その証拠として「その場所」には、
以下の様に書かれた大きな看板が立っているのだという。
『走行中の携帯電話。もうしません。』
私の耳に確かに届いた『あのブレーキ音』は一体、何だったのであろうか・・・?