橋の上に現れた顔。

私の友人の愛理さん(仮名)から深夜、一本のメールが届いた。
そして、そのメールには、一枚の画像が添付けされていたのであった。
「こんな、夜中にすみません。怖くて寝られなくって・・・。
あの・・・私の左手の袖口の下に、白い顔がある気がするんですが、気のせいでしょうか?」
既に彼女から写真が送られてきた時点で、何か映っているんだろうと思った私は、
本文にろくに目も通さないまま画像を開いたのであった・・・。
そこに映っていたのは、とある場所にある一本の橋の上で、おどけてみせている彼女の姿。
携帯で撮影されていた為に、かなり小さな画像ではあったのだが・・・。
「それ」は一瞬で目に飛び込んで来たのであった。
(あ・・・右手の下に顔が写ってる。・・・女性だねぇ。・・・自縛霊か?・・・悪いよなこれ。
で?何処に映ってたって?・・・左手?写真だと逆なんだけどな?余程、慌ててるんだな)
その写真の左側。・・・彼女の右手側に写っていたもの。
・・・それは、空洞の様にも視える黒い目をした白い顔であったのだ。
それが橋の上に設置された木製のベンチの下に、顔だけが映っていたのである。
怖くて眠れないと言っているのだが・・・確かに映っている事には間違いない。
しばし、本当の事を伝えるかどうか迷った挙句、正直に答える事にしたのである。
「言っても眠れない気がするんですが・・・。残念ながら確かに映ってますね。
ちゃんと身を清めておいて写真自体も処分しましょうか」
すると彼女から、すぐに返事が帰って来たのであった。
「やっぱり、そうですか!いやもうあの橋を渡る直前にですね・・・。
御守りにしているブレスレットが切れたんですよ。
それで先程、姉から写真を見せて貰ったばかりだったんですよね。
清めは充分にしましたし、写真も持っていられないんで既に処分済みです」
・・・彼女も元来、霊的な感覚の持ち主なので、既に処置をしていた様であった。
結局、自分でも解っていたのだが、気のせいだと思いたかったと言う事であったのだろう。
そして後日に逢う約束をしていたので、その際の詳しい話を聴く事が出来たのである。
その問題の写真は、彼女の姉であるハナさん(仮名)が撮影したものであったらしく、
ハナさんが彼女の母親に転送した後、彼女に送られてきたものであったのだと言う。
「いや実は、あの橋は本当は凄く渡りたく無かったんですが・・・姉がどうしてもですね?
その向こうに売っているワッフルが食べたいと・・・。
しかも、そこで写真を撮ろうと言い出しまして、この状況で・・・と思ったんですが、
しかたなく、おどけた様に見せて・・・撮ったんですよね。
こんな事は自分では始めてだったんですけど、その橋を渡る際に、
ブレスレットが手首から、すり抜けたかと思うと地面に着く直前に弾け飛んだんですよ。
姉は、それを拾おうとしたんですが、もう拾わなくていいからと止めましたよ。
何だか、拾っちゃいけない気がしましてね・・・。
そこであの写真じゃないですか。怖くて、誰かに否定して貰えればと思ったんですがね・・・」
・・・結局、残念な事に、否定して貰えなかった彼女は、画像の消去を懇願してまわった挙句、
その恐怖心から、明け方まで眠れなかったらしいのだが。
しかし不思議なもので、彼女と私が一目で気付いた程に、はっきりと映し出された、
「白い顔」の存在を彼女の姉も母親も全く解らずにいたのだと言う。
それこそ、何処に映っているのかすら解らずに色んな角度から携帯をくるくると回して、
見ていたとの事であったのだが結局、それは最後まで解らなかったらしいとの事であった。
・・ちなみに、その写真が撮影された場所は、とりたてて有名な心霊スポットという訳では無く、次の様な、切ない恋物語の伝説が残されている場所である。
・・・それは、明和の初めの頃の事。藩主のお抱えとしておかれたお茶屋で働く湯女(ゆな)は、
叶わない恋に落ち、その胸の内に秘めた想いを恋文にしたため、橋の上から流していたという。
そして、そこに現れる蛍たちは、そんないじらしい湯女の化身だとも言われている・・・。
その問題の写真は本人は元より、全員に削除して貰ったらしく既に存在はしていない。
また、私自身も一時は保存した後にパソコンの電源を切ったのだが・・・。
その直後に自室のドアを叩く音が響き渡り、慌てて再起動させた後に消去したのである。
そこに因果関係があるのかどうかは不明なままではあるのだが・・・。