
序章:顔の右側が。
まずは皆様へ、愛理さん(仮名)からの「最初の状況説明」の言葉から。
今回のお話の発端を語って頂く事にしておこう・・・。
「私の職場に、最近とても怪しい雰囲気を持った方がパートとして入ってきたんです。
何が怪しいのかと言えば・・・右半分の顔つきがおかしいんです。
何処と無く、その行動も少し変で、まぁ一目で動物系が憑いてるんだなぁ・・・と」
そう、今回のお話は愛理さんの職場に配属されたという「動物憑き」と憶測される女性。
花輪さん(仮名)という方を中心に始まった【一連の怪奇現象】のお話である。
「しかし・・・職場ですし。その影響を受けて、多少仕事がし辛くなるだろうとは予測しつつも、
【あんた何か憑いてるから近寄らないで】なんて言えませんしね・・・。
まぁ・・・適当に放置して、あんまり親しくならなきゃいいだろうと考えていたんです」
そんな状況の中で、花輪さんが彼女の職場へ配属されてきた・・・その初日の事であった。
・・それは私にとっては【予期せぬ再会】でもあったのだ。
第一章:予期せぬ再会。
・・・あれ?どうしてこの娘がここにいるんだろう?
友人である愛理さんの職場に立寄った際に、真っ先に私の目に飛び込んできた女性。
それは以前、そこに勤めており一度は退職していった筈の花輪さんの姿であった。
視界に映っていながらも、その存在自体を無視していた私は、そこに古くから勤めている、
麻矢さん(仮名)から、不意に声をかけられたのであった。
「・・・ねぇねぇ?ちょっと覚えてる〜?花輪よ〜!?」
確かに覚えているのだが・・正直な所、彼女の仕事の無能ぶりには呆れ帰っていた程であった。
それも手伝ったのであろうか、私は苛立ちを隠す事が出来なかったのだ。
「・・・ああ。覚えてるよ?・・・覚えて貰ってるだけ感謝しなくちゃなぁ?」
麻矢さんは、そんな私の態度に少々驚きを隠せなかった様だ。・・・それも無理は無いだろう。
私は普段は決して、そんな険悪な態度をとる事など無かったのだから。
そして、そんな態度をとる自分自身にも驚いたものだ。
しかし、そんな事があったからと言って、特に波紋も起きはしなかったのだが・・・。
それから時間は流れて、私は帰宅しようとしていた。
そして、一瞬はだけであるが、花輪さんの顔を一瞬だけ覗いたのであった。
その一瞬で気付いた事と言えば・・・。
以前の私では気付く事が出来なかった【彼女の顔つき】であったのだ・・・。
・・・こいつ動物憑きじゃねーか!?・・・これって狐か犬だろうなぁ・・・。
しかも・・・眼が真っ黒か・・・愛理さんはどう感じてるんだろうか?・・・後で訊ねてみよう。
そんな事を考えながら、私は彼女の職場を後にしたのであった・・・。
そして、帰宅した私は早速、彼女に一本のメールを送る事にしたのである。
【何でアイツが戻って来てるんですか?・・・で、アレって動物憑いてないですかね?狐か犬。】
・・・すると間も無く、彼女から返事が届いたのである。
【いや、私にも良く解らないんですけど、とりあえず彼女の右側の顔って・・怖くないですか?】
その時点で私の中で「ある記憶」が、戻ってきたのであった・・・。
第三章:霊視。
私は以前に、今回の花輪さんに似た様な顔つきをした女性の写真を視た事があった。
妻子のある方を好きになったらしいのだが、その【余りに変質的な内容】を聴かされた私は、絶対に止めておく様にと、彼女に忠告をしたのであった。
そして一旦は、その相手の事を諦める決心をしたと語っており、元気な姿を見せようとして、
送られてきた写真だった・・・筈だったのだが・・・。
そこから感じられたものは顔の半分が狐と化し、残る半分は色情系のものが憑いている状態。
そして彼女を付け狙っているかの様に後方に視える、嫉妬深い【古い狐】の姿であった。
・・・しかしながら私はこの時点で彼女に、その事を伝える事を躊躇ってしまったのだ。
諦める決心をしたという彼女の意志を信じており折角の決意を鈍らせる様な事になってはと、
私はこの時点では、そう考えていたのだ。
なればこそ、それをあえて口にする事を避け、彼女には現実的な忠告と励ましの言葉のみに、
留めていたのだが、結果としては・・・それが裏目に出てしまった。
ここから先の話に関しては、今回のお話の本題から外れてしまうので詳しく語らずにおくが、
その相手の男性もまた【狐憑き】であり、その副産物としての霊能力の持ち主であったのだが、
私の忠告にも関らず【自分で確認する為】に行動してしまった彼女は後に、その心に深い傷を
負わされるという結果になり、相手の男性の方の家庭も崩壊する事となってしまった。
また、その際に彼女が男性より指摘された事と言えば・・・。
【彼女にも狐が憑いている】と内容であったらしい。
更にそれより、しばらく経ったある日の事。・・・彼女は子宮に異常を訴え始めたのである。
本来ならば病院へ行くべきなのであろうが、彼女は霊能者に【救い】を求めたのだと言う。
・・・そして、その際の霊視結果と除霊の対象となったもの。
奇しくもそれは、私が以前に指摘した【色情霊の類】であったのだ・・・。
また別件での話も存在するのだが、それについては残念ながら、ここで語ることは出来ない。
何故ならば・・・その内容が余りにも霊的に危険な内容であった為、相談を持ちかけた友人の、
水城(仮名)の下に【尋常ならざる異変】が起こったが為に、この件からは手を引く様にとまで言わしめた程の【恐るべき内容】なのである。
その一件については、数々の霊能者が除霊を試みるも、ことごとく失敗に終わったという、
実に強烈なものであったのだが、その際に送られて来た写真・・・その【恐るべき案件」の女性が
霊能力を発揮し始めた際の顔つきもまた、その様な類のものであったのだ・・・。
その後に彼女は邪悪なるものに憑依されると言う運命を辿り、現在は行方不明になっている。
・・そんな数々の【心霊写真】と呼ばれるものを視て、その背景について聞かされる様な環境で、私はいつしか、その顔つきや眼の色から、ある程度の判別が出来る様になっていたのであった。
第四章:威嚇。
愛理さんが、問題の彼女に対して既に【動物憑き】である事に気付いていた事を知ったのは、
実は・・・かなり後になってからであった。
つまり、この時点では私に他者の見解や先入観が入る余地が無かったと言えるだろう。
私がこの時点で聞かされた内容と言えば次の言葉だけだったのである・・・。
彼女の顔の右半分が怖い・・・と。
そう聞かされた私の中で、ようやく疑問が確信に変わったのである。
そこで感想を求められた私は、立ち去る際に一瞬だけ見る事の出来た花輪さんに関する事柄。
憑いているものに関する見解に加え、私が感じ取った性格面を愛理さんに伝えたのである。
「一瞬しか視られなかったんですが・・・おそらく狐か犬が憑いていると思われます。
どちらかの判別までは、今はまだ解らないんですが、様子を伺っている様な感じがします。
性格的には短気で我儘。強い者には媚を売り、弱い者は叩くタイプでしょう。
プライベートでは付き合わないほうが無難です。彼女の友人も悪い方が多い筈ですし。
あたらず、触らず、舐められず。・・・そんな方向性でいいんじゃないでしょうか?」
愛理さんの感じていた事と、私の感じた事がここで同一の見解を見せていたのである。
そしてまた後に、同じく相手を【舐めてかかっていた】という点でも一致するのだが・・・。
「動物霊は厄介だ」・・・そう聞かされてはいたものの、私自身は正直、性質の悪い動物霊から、あまり実害を受けた事も無く、その対処法に関しても全く考えた事すら無かったのである。
・・・しかし、それから数日後。様子を伺う様にしていた彼女の態度が違う事に気がついた。
何処となく強気な姿勢が感じられるのである。
そして彼女が私の横にて仕事をしている際に、その声が私の耳に届いたのであった。
「・・・グルルルル・・・・」
・・・それは低く、威嚇する様な獣の唸り声であった。
驚いて彼女のいる方向へ目を向けたのだが、彼女は淡々と仕事をしているだけであった。
だが、その声は間違いなく彼女の方向から聴こえてきており、また当然だが「その職場」に、
そんな唸り声を発する動物などは存在せず、外部から聴こえてくる様な場所でも無いのである。
さて、ここからは愛理さんの視点からの花輪さんの動向について語って頂く事にしよう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
花輪さんが私の職場に配属されてきて数日が経ちました。
・・・でも、そんなある日。常連客であり、霊的な感覚に敏感な友人から言われたんです。
「俺、あいつから威嚇されたんだけど。唸り声が聴こえたんだよね・・・。
・・・しかし、唸り声だけじゃ、狐か犬かも解らなかったんだけどなぁ?」
・・・私は、その段階では、彼女から遠巻きに観察されている事は感知していたのです。
また、私の職場に来る他のお客さんの中でも同様の指摘をされていく事もあったのでした。
「あの子って動物霊が憑いてるんじゃない?以前に見た事があるけど、顔つきが同じですよ?」
そして私の耳にも【その声】が届いたのでした。それは吠えて威嚇する・・・犬の鳴き声。
彼女に憑いてるらしい【犬】が、親しいお客さんにまで失礼を働くのであれば・・・。
そう思った私も、そうそう無視ばかりしては、いられなくなったんです。
とりあえず、思い付きで入り口周辺を日本酒を浸した雑巾で奇麗に拭きあげてみました。
それが功を奏したのか、花輪さんの顔つきも幾分か良くなった様子が感じられ【犬の気配】も僅かにしか感じられなくなりました。
この際には、前述した友人やお客さんも【気配が薄くなっている事】に、気がついたらしく、何かしたんじゃないかと訊ねられましたんで、それなりに効果があったのでしょう。
このまま、もってくれるといいけどなぁ・・・。
そんな淡い期待を抱いていたのですが、残念な事に長くは続きませんでした。
三日と持たずに元の状態に戻ってしまったんです・・・。
しかも、既に私に標的に絞った様で、職場に入ると視界は歪み始め、激しい耳鳴りも始まり、常に微熱が続き、息苦しく感じられる状態にまで陥ってしまったのです。
ああ・・・これが空間が歪むって事なんだ・・・。
そんな事を実感しながら、それこそ死ぬんじゃないかと思うほどに辛かったんです。
しかし、幸いにも私以外には、特に被害が無い様子だったので、しばらく我慢しましたが、
二日も経つと流石に我慢も限界に達し、最初に施した日本酒を使っての掃除に加え、ある処置を
試して見る事にしたんです。
それもまた単なる思い付きに過ぎず、「臨兵闘者皆陣列在前」の九字を下駄箱に。
そして五芳星を、入り口の自動ドアに日本酒で書いてみたのでした・・・。
・・・それはもう彼女に憑いているモノに対して罠をはる様な気持ちで。
これも思いつきでしかなかったので、もし効かなかったらその時に考えれば・・・と。
そんな風に思っていたんですが、その処置を終えた直後から妙な胸苦しさを感じ始めました。
やっぱり効かなかったのかな・・・
そんな風に感じたので、以前に指摘された友人に訊ねてみると、次の様に言われたんです。
「まぁ、以前からのものに関しては、あい変らずだけど・・最初の頃の程度には落ち着いてるよ?
・・・でも、君は具合が悪いよね?・・・隠しても解るんだよ?眼の色は変わってるし・・・」
とりあえず他の方には影響が出てない様で、自分だけなら良いかと軽く考えていたんですが、実際の所・・・身体的には、かなり限界をむかえていたんです。
でも、そんな状態を察した友人が、数々の仲間に連絡を取ってくれていたんです。
そんな中に、霊的な感覚に優れた友人の一人である水城さん(仮名)から、緊急にとの事で、ひとつのメッセージが届いたのでした。
『下手なトラップはかけちゃだめ!自分に跳ね返るよ!無視しなさい!』
その瞬間に私の中でこの絶不調に対する答えが出たのです。
それは、もはや確信と言ってもいい程のものでした。
「・・・ああ。自爆してたんだなぁ・・・」
自分で良かれと思って施した処置が、裏目に出てしまっていた様で、【しっぺ返し】として、様々な影響を喰らっていたのでは無いか・・・と。
ともかく、他の方々に【その被害】が及ぶ前に処分しようと思った私は、その翌日。
いつもより早目に職場に向かうことにしたのでした・・・。
第五章:凍りつく恐怖。
いつもより一時間ほど早く職場に足を踏み入れた私は、拭き掃除から始める事にしました。
とりあえず拭きとってしまえば大丈夫だろうと思い、まずは雑巾を片手に、九字を書いた筈の下駄箱に向かったのでした。
それは早朝の事で、誰も出社していない時間帯の事でした・・・。
その九字は下足箱にかけられたカバーの下に書いていたので、まずはそこから・・・と。
しかし、最初の恐怖はそのカバーを退かした瞬間から始まったのでした・・・。
その【目を疑う様な光景】に、私は凍りつく程の恐怖を覚えました。
日本酒で書いた「臨兵闘者皆陣列在前」の文字。
それを書いたのは2日以上前の事。・・・その間カバーの下に埋もれていた筈の文字が・・・。
それは・・・乾いて跡が残ったという様な状況ではありませんでした。
・・・まるで、たった今、書いたかの様に。
濡れたままの状態で、それが一文字も消える事なく、そのままの状態で存在していたのです。
言い様のない恐怖にかられた私は、手にしていた雑巾で、すぐにその文字を拭き消しました。 そして、その身も凍るほどの恐怖心から、更に何度も何度も拭きあげたのでした・・・。
そして何とか落ち着きを取り戻した頃に、今度は五芳星を書いた自動ドアへと向かいました。
流石に自動ドアは既に乾き切っており、何かが書かれていた形跡はありませんでした。
しかし、先程の事もあったので、心配になった私は、一応拭いておこうと思ったのです。
私は今度は布巾を手に取ると、その五芳星を書いた部分を拭いていたのでした。
そして何気なく、その拭いた布巾を裏返し、自動ドアを拭いた面を見たのです。
・・・そして私は、更なる恐怖に襲われる事になったのでした。
何も付着していなかった筈の、その自動ドアを拭いた布巾は何故か・・・。
まるで血の様なもので、真っ赤に染まっていたのです。
勿論、その布巾は事前に何度も手洗いした清潔なものを使用していたので、それが拭く前から付いていたということはまずあり得ません。
とりあえず私は、頭が混乱する中で、その自動ドアを幾度も拭きあげると、他の従業員達が
来る前に、その雑巾と布巾を処分すると平静を装って業務についたのでした・・。
この怪現象は一体、何だったのでしょうか・・・?
因みに、その後は、多少の圧迫感を感じるものの、私にとって最悪な状態の時と比べれば、
幾分か落ち着いてはいるのですが・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
はたして、今回の怪奇現象は一体、何がもたらせたものであったのだろうか・・・?
残念な事に、私にはそれを説明出来る程の経験も能力も無いのだが。
警戒・・。威嚇・・。呪詛返し・・・。そう言った類のものであるのだろうか。
彼女の施した処置は確かに今回は裏目に出てしまっていたのかもしれない。
・・・だが、しかし。
動物憑きと呼ばれる、その女性は依然として【そこに存在】している。
それは時に色情系のものをも取り込み、時に酷く恐ろしい顔を見せながら・・・。
最早、直視する事すら出来無い程に・・・。
そして、元来【この世のものでは無いもの】が頻繁に現れている【その職場】では・・・。
・・・そう、彼女が呼び寄せているかの様に・・・更にその影響力を増して。
まるで【その職場】を被いつくす程の影響だけは今でも感じられているのだが・・・。