赤い封筒。
普段過ごしている日常の空間の中に突如として現れる【この世のものでは無い訪問者】・・・。
今回のお話は、美穂さん(仮名)が、およそ霊が現れるには不釣合いな程の心地よい小春日和
の日に体験したという、そんな【この世のものでは無い訪問者】のお話である。
その日は、彼女のご主人も休みであり、ご主人は二階にある部屋でテレビゲームをして遊んで
いたのだと言う。
その画面を同じ部屋で、しばらく眺めていた美穂さんは、次第に退屈を感じ始めていた。
・・・そんな中、温かな昼の日差しも手伝ってか、彼女は徐々に睡魔に襲われたのだという。
彼女が横になり、心地よい睡魔にうつらうつらとしていた所、不意に玄関から呼び声が聴こえ
てきたのであった。
「すみませ〜ん・・・」
突然の訪問者の声に、彼女は眠気に襲われながらも返事を返したのであった。
「は〜い」
そう答えて起き上がろうとしたのだが・・・彼女の身体は意志に反して、全く動かない状態に陥
ってしまっていたのであった。・・・金縛りである。
そしてまた、訪問してきている方が玄関にいるにも関らず、ご主人はそれを全く意に介さずにゲームに興じているのであった。
・・・訪問者に気付いていない・・・。
そこで初めて、彼女は【その訪問者】が、この世のものでは無い存在である事に気がついたのだと言う。
・・・しかし、どうやら手遅れであった様だ。
その訪問者は、スリッパを履くと、階段を昇り始めたのである。・・・彼女達のいる二階へと。
ぱた ぱた ぱた ぱた ・・・
・・・徐々に近づいてくる音を彼女の耳はしっかりと捕らえていた。
しかし、身動きの出来ない彼女には、どうする事も出来なかったのである。
・・・そして、ついに訪問者は、彼女達の部屋の前にたどり着いた。
部屋の入り口には暖簾が掛けられていた為に、その上半身こそ見えなかったのだが・・・。
赤い封筒を持った手と下半身だけはハッキリと視えたのだと言う。
彼女は本能的に湧き上がる恐怖を感じていた。
この赤い封筒を、もし受け取ってしまったら。
否が応でも逆らえずに、何処かへ連れて行かれてしまうのでは無いか・・・と。
不味い!このまま部屋に入ってきたら本当に不味い!
彼女は、傍らにいるご主人に救いを求めたのだが、悪夢にでも魘されているとでも勘違いをしている様で、全く意に介さない。
・・・旦那じゃ駄目だ。
そう思い直した彼女は、ご主人の祖母・・・既に故人となっている祖母に対して、救いを求めたのだという。
(・・・婆ちゃん!助けて!)
そう念じた瞬間に、その訪問者はまるで、弾け飛んだ様に姿を消し、彼女の金縛りも解けたの
だと言う。・・・その金縛りが解けた瞬間に彼女は起き上がり、ご主人に確認をしたのであった。
「今!すみませ〜んって誰か来たよね?赤い封筒持って男の人が来たよね?」
そんな風に、訊ねてみたらしいのだが・・・。
ご主人にしてみれば、その存在自体に気がついていなかった位なのだ。
そんなの人は来ていないと言う返事しか返ってくる筈も無かった・・・。
彼女の部屋の入り口には、とある神社から頂いてきたという御鈴が吊るしてあるらしい。
彼女曰く、もう何年前に頂いたのであろう、その御鈴が【訪問者】の入室から護って下さったのだろうかと。今になって思うのだと言う・・・。
・・・しかし、この悪質な訪問者は、未だに何処かを彷徨い続けているのかもしれない。
自分の声を聞く事の出来る者の存在を探しながら・・・。