遺言 〜逝ってしまった母〜
これは神野さん(仮名)が体験した哀しくも切ない物語である。
彼女には実の母親以外にも「母」として慕っていた女性がいたのだと言う。
いや、むしろ『その存在』は彼女にとって実の母親以上であったであろうか・・?
その方の名は「京子さん(仮名)」。
京子さんは彼女と血のつながりこそ無いのだが、
彼女の事を実の娘の様に可愛がってくれていたのだという。
・・しかし、京子さんは不治の病とされる病気に侵されてしまい、
回復する事もなく、天へ召されていったのだという。
しかしこの世を去ってしまった京子さんは再び、彼女の前に姿を現した。
神野さんに自らの「遺言」を・・・。
そして、その胸のうちに秘めた切なる願いを届ける為に・・。
京子さんが託した「神野さん」への遺言。
それは・・・。
「私が少女時代を過ごした家を見つけて欲しい」
・・というものであったらしい。
京子さんは戦時中。・・いわゆる「貴族」と呼ばれる家の方で、
生前、彼女は神野さんに当時の事をこう語ってくれていたのだと言う。
「確かにねぇ・・・戦争は過ちだったんだよ・・。
でもね?そんな中だったけど、私は自分の受けた教育や環境にはねぇ。
とっても感謝をしているんだよ?・・私はねぇ。その生まれた家の事をね?
本当に誇りに思っているんだよ・・・。」
京子さんのその口ぶりから、神野さんは次の様に感じていたのだという。
「きっと京子さんは自分の生まれ育った環境に満足していたんでしょうね・・。」・・と。
京子さんは生まれ育った「その家」に・・・今一度。
天へと召されていった筈の・・・その後も。
魂だけの存在となり、肉体を失った。・・・その後も。
「生まれ育った家への想い」が・・忘れられない程に残っていたのであろうか・・?
そして今、神野さんは、京子さんから聞いた話を手掛かりに、
彼女なりの方法で「京子さんの過去」を訪ね歩いているのだという。
彼女は残念な事に、自分の意志で「京子さん」を呼び出す事や、
遭う事などは出来ないらしいのだが・・・。
しかし時折、神野さんは感じるのだという。
京子さんの方から尋ねて来られて。
「波長があった場合」だけ・・。
彼女の存在を感じる事が出来るのだという・・。
そして神野さんは京子さんと約束をしたのです。
必ず「その家」を探し出しますよ・・・と。
それは彼女が愛した「母」への想いからである事は間違いないであろう・・。
最後に彼女はこう付け加えました。
「それが、どんな結果であったとしても・・・。
例え、京子さんの家自体が無くなっていたとしてもね?
私は自分なりの方法で見つけ出しますよ・・・。
だって私は・・過去からのバトンを手渡されたのですから。」