雪火は壁に背中を預けながら、時計を見た。
まだ、約束の時間の30分前。
相変わらず早く来てしまっていたが、雪火は公開していない。
こうやってただ、允を待っている時間も嫌いでないのだから……。
〜告白・本番〜
パロットタウン入口前
日曜日、朝
ここは、パロットタウンの入り口の前。
ここで允と待ち合わせているのだ。
「う〜ん」
時計を見ると待ち合わせの時間よりかなり前を指している。
30分前にきてしまうのは習性というものだ。
自分の服を見直す。
今日の服も、母親が(勝手に)選んだとっておきの服だ。
見事なくらい決まっている。
雪火の上々の容姿に加え、この正装。
たいていの女の子なら惚れてしまうそうな姿だ。
女の子ならの話だが。
……しかし、雪火のデートの相手。意中の者は女の子ではないのだ。
何度思い直しても仕方ないことである。
長くてきれいな髪、かわいらしい笑顔、長いまつげに大きな目に小さな口。
そこらの女なんて裸足で逃げ出すくらいの美少女だろう。
「……でも、アイツは男なんだよな……」
口に出して確認してみる。
それでも好きになってしまったのだから仕方ないことである。
そして、今日はそいつに告白しようと意気込んできたのだ。
今までいえなかったことだが……
「よし、今日こそ絶対に言うぞ!」
それからしばらく待つと、向こうからぞろぞろと人だかりがやってきた。
そろってこっちに進んで来るのではなく、何かを取り囲みながら進んでくるみたいだ。
その男ばかりの集団は、何かに話しかけているようだ。
「へぇ、君。小学生? てっきり中学生くらいかと思ったよ」
「大人っぽいね」
その中央に顔を向けると、困り果てた少女の姿があった。
ウェーブがかったロングヘアー、大きな瞳。
紛れもなく允の姿だった。
雪火は急いでその場へと向かった。
雪火が近づくと允は顔を上げてこちらに来る。
「あ、セッカーー!」
手を振ってこちらに近づく少女。
それを見て、周りの男達は諦めて散る。
「……相変わらずモテるな、ミツル」
「セッカに言われたくないって。それにオレがモテるのは女装した時だけだし」
「それはともかく、中に入ろうぜ」
パロットタウン。
ここで、雪火は今日、勝負を決めようとしている。
パロットタウン
日曜日、午前
ゲートをくぐると軽やかな音楽と共に、目に映る遊園地。
パロットタウンは、大賑わいだった。
様々な所から聞こえてくる喧騒と、見渡す限りの人。
これは、アトラクション一つ乗るのにも苦労しそうだ。
しかし……。
雪火は、改めて見渡してみた。
(カップルばっかりだな)
小学生くらいで、男の子の手を引っ張って走る女の子。
2人でガイドブックを見ながら、中学生らしいカップル。
腕を組んで歩いている20代の男女。
一応、家族連れや、友達で来たような人たちもいるのだが、カップルの数が圧倒的に多い。
しかし、自分と允も、傍から見れば男と女。
(オレたちも、カップルに見えているのか?)
確かに允は女の子……しかも絶世の美少女にしか見えない。
他の男たちは、允と付き添っている自分を見たら間違いなく羨むだろう。
そう考えるとドキドキしてきた。
しかし、当の允は周りを見渡しながらただ、はしゃいでいた。
遠くに見える絶叫マシーンを見て話す。
「あ、新しいアトラクションだ。あんなの前なかったのに」
くいくいと、激しく雪火の袖を引っ張る。
「おいおい、雪火! あれ見てみろよー。バンジージャンプだって」
(まったく……こいつは、オレの気も知らないで……)
雪火が心の中でため息をついた。
允が歩くたび、ぐいっと引っ張られる。
まだ雪火の服の袖を握ったまま、知らずに走っている。
油断していると転びそうだ。
(でも、これはこれで何か心地いいな)
雪火は甘えられているみたいで少し心地よかった。
パロットタウン、ジェットコースター前
日曜日、午前
允は、ひとつのアトラクションの前で立ち止まった。
ゴオオオオォォォォォォォォッ!!!!
「「「「きゃゃゃゃーーーーーーっっっっ!!!!!」」」」
「「「「わぁぁぁぁーーーーーーっっっっ!!!!!」」」」
ものすごい勢いで滑り落ちる音と共に、嬌声が鳴り響く。
遊園地の定番の一つ、絶叫マシーンのジェットコースターだ。
それを見て、雪火の袖をぐいぐい引っ張りながら允は言う。
「ジェットコースターに乗ろうぜ。ジェットコースター」
「ジェットコースター?」
ジェットコースターに最初に乗るのもある意味定番だろう。
しかし、なぜか戸惑ってしまった。
雪火自身ジェットコースターが、苦手というわけではない。
しかし、何か心に引っかかるものがあるのだ。
それがいったい何なのか……
(う〜〜ん)
腕を組んで考え出した。
それを見て、允はにんまりと笑う。
「あれ〜? もしかして雪火ってば怖いのか〜♪」
「なっ!」
どうやら、悩んでいるのを允に怖がっているととられた様だ。
「ふふふっ、雪火ってば、クールでかっこつけてるくせに、意外とかわいいとこあるんだな〜♪」
「かっ、かわいいって……」
雪火は顔を赤くして、慌ててまくし立てた。
「だっ、だから、べ、別に怖くなんてないって……、ただ、何かが引っかかるだけで……だから、俺が『かわいい』なんてことは……」
ついわけが分からない事まで話してしまう。
怖いといわれたからではなく「かわいい」といわれたことが大きな原因だが…。
「あははは、だったらいいだろ? 一緒にのろーぜ♪」
「う、わかったよ」
並び始めてから十数分。
雪火の中で、並んでいる今も何か心に引っかっていた。
それが何なのかはまだわからないのだが。
(一体、何がひっかかっているんだ? 俺は)
前を見る允が口を開く。
「しかし、長いな。この列」
見る限りでは、前にはまだ列がある。
「ああ、まだあと20分はかかりそうだな」
「この待ち時間が遊園地の最大の欠点だな〜」
允はうんざりした顔で前を向いた。
やがて、時間も過ぎて、列が短くなってくる。
「あ、雪火。あと3分ぐらいで乗れるぞ」
允ははしゃいで雪火に伝える。
雪火は、ふとジェットコースターの方に目を向けた。
ゴオオオオォォォォォォォォッ!!!!
「「「「きゃゃゃゃーーーーーーっっっっ!!!!!」」」」
「「「「わぁぁぁぁーーーーーーっっっっ!!!!!」」」」
遠くからでも聞こえる強烈な叫び声。
そのジェットコースターを見る限り、どうやらかなり激しいコースようだ。
最初は、ものすごい勢いで急降下した後、何度もカーブをしている。
そして、一回転して……
(え!?)
「一回転!」
雪火はそれを見てつい声をあげてしまった。
「どうしたんだ雪火?」
「どうしたっじゃない。允、これは駄目だ!」
「え〜、もうしかし、今更怖気づいたのか〜」
「違う! そうじゃなくて、お前。このジェットコースター。回転するだろ?」
「ああ、それがこのジェットコースターの醍醐味だろ」
「おまっ 一回転しているうちにとれちゃうだろ」
允は未だ何のことかわからず頭に「?」を浮かべている。
そこで雪火は小声で付け足した。
「かつらが……」
「え?」
「だから! かつらが取れちまうだろ! ジェットコースターになんか乗ったら!」
つい大声で言ってしまった。
そういってやっと允も気付いたようで手を打った。
しかし、周りを見るとひそひそと話しているようだ。
(げっ、やば、もしかしてバレたか!)
雪火は冷や汗をかきながら耳を立てた。
「ねぇ、あの子、かつら取れちゃうだって」
「それって、もしかして、あの男の子って若ハゲ?」
「や〜ん、見た感じ凄くかっこいいのに、ショック〜」
「……」
どうやら、かつらをつけていると思われたのは、雪火の方のようだ。
(ばれなくて済んだけど、何かなっとくできねぇ)
パロットタウン
日曜日、午前
「もうっ、雪火って、もっと早くに教えてくれればよかったのに」
「仕方ないだろっ、オレだって乗る寸前で気付いたんだから」
雪火は、つい声を荒げて言う。
「というかお前の方が、そういうことはよく知ってるだろ。かつらつけたままでジェットコースターはやばいって」
「そんな事いっても、オレ、女装して遊園地来るのは初めてだし」
「……そうなのか?」
「そうだって。お前以外の奴の前じゃ、安心して女装なんてできやしないし」
「なっ! それは、ど、どういう……」
……安心して?
頼られてるってことなのか?
雪火の脳内で渦巻いている間にも、允は雪火の袖をつかんで歩き出していた。
…
……
………
「しかし、どのアトラクションも混んでるな」
見渡す限り、ほとんどのアトラクションに行列ができていた。
待ち時間が30分以上なんてのは、ざらにあるし。
とりあえず、空いているアトラクションから乗ろうと2人で先ほど相談したのだが、とても見つかりそうに無かった。
「うわ、あんなに並んでる。来た時はあんな行列になってなかったのに」
「やっぱり、ジェットコースターに待ち時間食っちまったからな」
先ほどのジェットコースターで無駄な時間を使ったのが今更ながら悔やまれる。
長蛇の列を見て、2人してため息をついた。
「もう、セッカが早く気付いてくれればよかったのに」
「って、オレのせいかよ」
くすくす……
その言い争いを聞いてか、周りから笑い声が聞こえる。
傍から見れば、ほほえましいカップルの喧嘩にしか見えないのだろう。
視線が妙に生暖かい。
雪火はその視線を気にして、俯いた。
允は、気にもせず歩いていたが。
「あっ、セッカ、セッカ〜♪」
突然、允が腕を引っ張る。
「あれ、見てみろよ。空いてるみたいだぞ」
允のさした方向に確かに行列は無かった。
しかし、ずいぶん寂れた感じでアトラクションと言うよりは、ただの一軒家だ。
『占いの館』
看板にはそう書かれていた。
「……おいおい、允、こんな所に入るのか?」
「別にいいじゃん。どこも並んでいるんだから、入れる所から入ろうぜ」
「でもなぁ……」
何か、異常なほどの妖しさを感じた。
違うアトラクションには、ぞろぞろと並んでいるのに、なぜここは全く人が入っていないのか?
空いていること自体、危険なにおいがする。
允は全く気に留めていないようだが、雪火は足が進まなかった。
「ほら、セッカ。早く来いよ」
允はいつの間にか、占いの館の前に立っていた。
そして、手招きして呼んでいる。
気乗りしないが行くしかないようだ。
「はぁ……」
雪火はため息一つついて、允の後を追った。
パロットタウン、占いの館
日曜日、午前
占いの館の内部はたいしたことが無かった。
ドアから入るなり、ずっと何も無い薄暗い一本道が続いているだけ。
そして、終着点に占いの機械がぽつんと置いてあるだけだった。
この程度なら、ゲームセンターにでもおいて置けばいいのに。
アトラクションでありながら、あまりにも質素すぎる。
「なんて、しょぼさだ」
雪火は呆れたように独り言をつぶやくが、允は機械をいじっている。
「セッカ〜。これいろんな占いが出来るみたいだぞ。金銭のこととか、将来の事とか」
「そうか」
「だったら、何を占う?」
「別にオレは何でもいいぜ。お前が決めてくれ」
「ん〜だったら……」
允はそれを聞いて、色々と機械のいうとおりにボタンを押していく。
ずいぶん楽しそうにうっている。
雪火は気になって画面を覗き込んだ。
「で、結局、何の占いにしたんだ?」
「うん、金銭占いとどっちにするか悩んだけど、俺とお前の相性占いにした」
「ぶっ」
雪火は噴出した。
つい、あわてて允に突っかかる。
「あ、相性占いって……そ、それって普通は男女でやるものだろっ!」
「別にいいだろ。せっかく2人で入ったんだから、2人で占えるものにした方が得な気がするし」
「一体何が得なんだよ……」
雪火は、少し呆れた。
人の気も知らず、相性占いとは……。
そんなことされると、つい期待してしまう。
「セッカ、セッカ、ほらここにお前の事を入力してくれ」
「う……分かったよ」
雪火は仕方なしに打ち込んだ。
名前、年齢、誕生日、血液型等。
(名前とか、血液型とか、誕生日とかで相性が決まるなんてあてになんねーな)
全て打ち込んだ後で結果が出るのを待つ。
允は、ニコニコと笑いながら結果を待っているようだ。
一方、雪火も文句を言いながらも、気が気でないようだ。
(結果が……悪かったらうらむからな)
ぎろりと、画面を睨みつける。
『ようこそ、占いの館に』
その声と共に、突然、画面が切り替わる。
画面いっぱいに占い師に扮した女性の顔が映った。
どうやら、やっと始まるみたいだ。
『久しぶりのお客さんでうれしいわ。来てくれてありがとう』
「おお〜、雪火しゃべったぞ。これ、よく出来た機械だな」
「そうか? 普通だと思うぞ。決められた映像と音声を流してるだけだろ」
『数日振りに占いが出来るわ。本当に……本当に……来てくれてありがとう』
「……」
「……」
『このアトラクション、全然人気が無くて……、他のアトラクションは、あんなに並んでいるのに……」
今にも泣き出しそうな声で語る占い師。
「雪火、これ、よく出来た機械だな」
「……ああ、そうだな」
なんていうか、愚痴を言うなんてリアルだ。
『それじゃ、え〜とっ、占いが白鳥つぐみちゃんと大嵩雪火くんだったけ……』
「へぇ〜、名前を打ち込んだだけなのに肉声でしゃべってくれるんだ」
允は占いの機械に感心していたが、雪火はその名前に突っ込みを入れる。
「というか、お前、白鳥つぐみって……」
「ああ、こないだ教えただろ。オレの女装する時の名前」
「な、何で、お前は、その名前で入力しているんだよ」
「だって、男女のペアじゃなきゃ相性占いは出来ないみたいだし」
「だ、だからってお前」
「別にいいじゃん。遊びなんだし」
『ふん、ふん、これはこうと……』
映像の中の占い師は、近くの占い道具を色々と使って占っているようだ。
水晶玉、タロットカード、トランプ、振り子、羅針盤、他にも良く分からないものを、無差別に使っていく。
正直、占っているというよりは、オモチャで遊んでいるようにしか見えない。
「おお、ずいぶんとリアルな占い映像だな。何か信憑性ありそうだ」
「……そうか? こんなわけの分からない占いを実際にやられたら、オレだったら逃げ出すぞ」
『え〜い!! とりゃぁ!! ほぉう!!』
占い師は、水晶玉に向かって、気合を込めていた。
無駄に力を込めて。
雪火も允もそれをじっと見守る。
雪火の心情は、呆れと侮蔑でいっぱいだったが。
『出たぁーー!! 占いの結果がぁ!!!』
突然奇声を上げて叫ぶ占い師。
「うわっ! びっくりした」
「怖いな……こいつ」
允と雪火がびびっていた。
『それじゃあ、ズバリ、雪火君、あなたつぐみちゃんのことがすきでしょ』
「な、な、な、いきなり何言ってやがる!!」
いきなりの占い師の断言に、雪火は真っ赤な顔をして食って掛かる。
「あははははははっ」
その結果を聞いて允は笑っていた。
「ってお前も何笑っているんだよ!」
「落ち着けよ、雪火。これはただの占いだって。しかも機械がやっている」
「そ、そうだけど」
そう、そうなのだ。
これはただの占い。
しかし、機械ごときにここまで図星を当てられると、腹が立つ。
『とりあえず、まだ2人は付き合ってないわよね?』
(いやそんな事聞かれても、機械相手に答えられないんですけど)
『まぁ、まだ付き合ってないとして答えてくわよ。間違ってたらごめんなさい』
「何なんだ。このいい加減な占いは?」
曖昧な言い方に雪火はツッコミを入れる。
「でも、占いってそういうものじゃないか?」
「だったら、いきなり断言するなよって感じだぜ」
『恋愛が成就する確立は……う〜ん、色々と難しいわね』
「な、何だって〜!」
「機械相手に叫ぶなよ、セッカ。というより何驚いているんだ?」
「え、いや……オレは別に」
『まず雪火くん。色々、悩んで悶々としているんじゃない?』
「……」
雪火はもう何も言わず、ただ機械を睨みつけた。
允はただくすくす笑っている。
『もしかして、彼女に告白しようと意気込んできたんじゃ』
「んなっ!」
あまりの図星の連続に奇声を上げた。
「?」
驚く雪火を不可解な顔をしてみる允。
『ま、でも、脈が全く無いってわけでもないと思うな〜』
「ホントかよ」
「セッカ。何でさっきから、食いついているんだ?」
「べ、別に何でもねえよ」
『でも、一つ間違えると、ずっと友達のままで終わっちゃうゾ。じゃあ告白がんばってね』
「う〜〜……」
雪火はそれを聞いてうなり続けた。
そんなこんなで『占いの館』のアトラクションは終わった。
パロットタウン、占いの館前
日曜日、午前
ドアから出た時、雪火は一つ理解できた事があった。
(なるほど、客が来ないわけだ)
「しかし、何だったんだ? ここの占い。相性占いにしたはずなのに、全然相性のことが出てこなかったし」
「そういえば、相性のこと何も言われなかったな」
「まぁいいや、結構面白かったし」
「オレはちっとも面白くなかったぞ」
允は、機嫌の悪い雪火を見て笑顔で言う。
「でも、セッカの事ばっかりで、オレの事は全く言われなかったな」
「そうだな。俺のことばっかり言われていた」
「もう、セッカばっかりずるい」
「ずるいってオレだって、あんな事ばっかり言われてうれしくないっての!」
「ふ、ふふふ……」
允は思い出したか、笑い出した。
「そういえば、あの占い機械、セッカがオレの事を好きだっていってたな」
「い、いや、あれは……」
雪火がうろたえて、允に無いか言おうとするが、上手く言葉が出ない。
そうしているうちに允が後を続ける。
「そんな事あるわけ無いのにな〜」
「……え?」
「オレとセッカ、男同士だし」
「……」
「占いの機械ってあてになんねーな」
「……ああ」
「ま、女だって入力したオレもオレだけど……」
笑いながら言う允とよそに、雪火は沈み込んだ。
パロットタウン、バーガーショップ
日曜日、正午
はむはむ……
もぐもぐ……
雪火は、窓際で一人食事を取っていた。
ちなみに今、允はトイレに行っている。
「はぁ、上手くいかねーな」
雪火は窓の外を見ながらつぶやいた。
テラスでアイスクリームを食べさせあっているカップルが見えた。
今の雪火にとってはすごく不快だ。
あの占いの館での出来事……。
あれを思い出して力なく、机の上に突っ伏した。
――それじゃあ、ズバリ、雪火君、あなたつぐみちゃんのことがすきでしょ
占い師に言われた事が思い出された。
そういえば母親にも……
――あんた、あの子のこと好きなんでしょ
公園で一度遊んだ子供からも……
――ねぇ、お兄ちゃんって、あのお姉ちゃんのこと好きなの?
カメラマンのお姉さんからも……
――雪火くんって、つぐみちゃんの事好きなんでしょ
とどめに今日の機械の占い師だ。
オレってそんなに分かりやすいのかよ。
それなのに……。
允には……
――そんな事あるわけ無いのにな〜
――オレとセッカ、男同士だし
傍から見ていたらバレバレらしい自分の態度だが、允は少しも分かっていないようだ。
「はぁ……」
ため息が止まらない。
分かってほしくないけど、分かってほしい……。
わがままだけど、これが微妙な恋心である。
雪火は完全にやる気をなくしてしまった。
もはや、意気消沈しているだけである。
「やっぱり今日はやめようかな?」
雪火がそう独り言をつぶやくと、だれかがそれに返した。
「やめるって? 何を?」
「告白を」
「告白!? じゃあやっぱり、あの子に告白する気だったの!」
「悪いか?」
「うんうん。悪くないよ。っていうか告白すべきよ!」
「だけどなー……って誰だよお前!」
雪火はつい、話し込んでしまっていた相手の方に顔を向ける。
はむはむ……
もぐもぐ……
そこにいたのは、隣のいすに座り、ポテトを食べていた女の子だった。
歳は、雪火より一回りは小さく、小学1,2年生くらい。
髪を赤いリボンで結び、小さなデジカメを首からかけていた。
「な、なんだ……」
もぐもぐ……
はむはむ……
雪火が問いかけても、その女の子はフライドポテト食べているだけ。
ちなみにその子が食べているのは、雪火のポテトだ。
「な、何だよお前。誰だよっ」
「もう、いきなり『お前、誰だ』なんて酷い挨拶ね」
その子は生意気そうにすました顔で答えてくる。
「もう、レディーに対して名前を聞く時は、自分から名乗るものよ」
「な……」
「全く、顔はいいくせに、女の子の扱いが下手なのね」
「な、な……」
雪火は、いきなりの乱入、すました態度、更には生意気な口調にいきなり食われた。
(なんなんだ〜! この子は〜!)
それを言い終わると、また女の子ははむはむとポテトを食べ始めた。
もちろん、雪火の食べ途中のフライドポテトだ。
少女からは、自分から名乗れとは言われたが、とても名乗る気になれなかった。
この子が誰かなんて、特に知りたいわけでもない。
……というか出来ればかかわりたくないような子だった。
「分かった……それやるから、大人しく帰れ」
しかし、その少女は表情を変える様子も無く、雪火を見てにんまりと笑う。
雪火は、背筋にぞわりとするものが走った。
不気味だ……。
この感覚、そうこれは、天敵とあった時の感覚だ。
雪火にとって生涯最大の敵、母親の感じと非常に似ていた。
(やばい! はやく追い返さないと!)
危険を感じて動き出そうとした時、少女の方がさきに口を開いていた。
「ね♪ 告白するとか、やめるとか言っていたのは、あの子に対してでしょ♪」
「あ、あの子って誰だよ……」
この場合、あの子といえば允しかいないのだが、果たしてこの少女にも見られているのだろうか?
とりあえず、雪火はとぼけてみた。
「あの子って言ったら、この子しかいないでしょ」
そういいながら女の子は、持っていたデジカメをいじって、画面を表示した。
「ほら、ずいぶんと可愛いこの子よ」
するとそこには、この店に入る直前の自分と允の姿が表示されていた。
「な……」
撮られていたらしい。
しかも、こんな子供に……。
あわてている雪火を横目に、女の子は得意そうに話す。
「この子に、告白するかどうかで悩んでいたってことね」
「べ、別にそんなんじゃねえよ」
「それじゃ、さっき告白するって言っていたのは誰に対してかしら」
どうやら、さっきの雪火の言葉に対して言っているようだ。
雪火は自分のうかつさを後悔した。
允の前では言い出せない事をこんな子供の前で言ってしまうとは……。
「告白? 何のことだ?」
雪火は、すました顔でとぼける事にした。
「さっき言ってたじゃない?」
「言ってない!」
雪火は、力強く否定した。
なぜかよく分からないが、ここで肯定してしまったら良くない事が起きると予感した。
だから、あえてバレバレでも否定した。
「ふ〜ん、あくまで否定するんだ?」
「……何とでもいえ」
すると、その少女はさらにデジカメをいじりだした。
「知ってる? 最近のデジカメには録音機能もあるのよ」
ポチッ
そのボタンを押すと、カメラから声が流れ出した。
『「やっぱり今日はやめようかな?」「やめるって? 何を?」「告白を」「告白!? じゃあやっぱり、あの子に告白する気だったの!」「悪いか?」』
「うわぁっ!」
その流れ出した音声を押さえ込もうと、飛び込む。
しかし、少女に即座にかわされた。
少女を睨みつける雪火。
そして、得意そうに雪火を見下す少女。
音声はいつの間にかオフになっているようで流れていない。
(まずい……あれを允の前で流されたら……)
もはや完全に雪火の立場は少女の下にあった。
雪火は、遠慮がちに少女に聞いてみた。
「い、一体何が望みなんだよ?」
少女は得意そうに笑顔を浮かべる。
4,5歳は離れている女から、見下されているとは屈辱である。
「そうね……」
少女が何か口を開こうとした瞬間だった。
「おまたせー、セッカ♪」
のんきな顔をして、戻ってきた。
「あれ、セッカ。この子は?」
やはり允は、雪火と対面している女の子に疑問視を投げかけた。
(くっ、こいつの事をどう説明すべきか……)
雪火は目の前の少女の事で頭を悩ませた。
まさか、たった今あったことを全て話すわけにはいくまい。
下手すると、允の前であの録音を流されることだってあるのだ。
どうすべきか悩んでいるところで、少女が動き出した。
突然さっきまでの得意気な表情をかき消して、涙ぐみ始めた。
「う、う、お姉ちゃん……わ、わたし……」
猫なで声で允に擦り寄る少女。
(な、何だ、こいつは……いきなり)
雪火はその様子に呆然とした。
すると、允はその女の子から、色々と聞き出した。
女の子が言うには、家族と一緒に来たらしいがはぐれてしまったらしい。
そして、お腹を空かせてこのバーカーショップに来たらしい。
(でも、十中八九嘘だろうな)
さっきまで女の子と話し合っていた雪火にとっては分かる。
しかし、允は間違いなく信じ込んでいた。
「どうしようか、セッカ。この子、迷子センターまで連れて行く?」
「やだやだ! 迷子センターに行ったら遊べなくなる!」
允の言葉にじだんだ踏んで嫌がる女の子。
雪火も口を出す。
「おいおい。わがまま言うなよ。それじゃどうすればいいんだ?」
「だって、うちの家族、もし迷子になっても迷子センターには行くなって言うんだもん」
「そんなバカな……」
雪火は少女の無理やりな言い訳に呆れたが、允は信じ込んでいるようだ。
「それじゃ、迷子になった時の待ち合わせ場所とかはある? 家族と決めていない?」
「うん。閉館時間になったら入り口のところで会おうって……」
「何だそれ? 何で迷子になった時の待ち合わせ場所に時間指定までついているんだ?」
「セッカてば、そういうことまで口出ししたら駄目だって」
女の子に突っ込みを入れる雪火だが、允にさえぎられる。
どうやら、允は女の子のことを少しも疑わずに信じているようだ。
腕を組んで悩みだした。
「う〜ん。どうしようかな?」
「どうもこうもないだろ……。とにかく、迷子センターまで連れて行けばいいだけだし」
「やだやだやだ〜! 一緒に連れて行って〜」
雪火の言葉に嫌がって、腕を振り回し泣き叫ぶ女の子。
「こら、わがまま言うな」
雪火が、その子を捕まえようとした瞬間、女の子は手を伸ばしてデジカメのスイッチに手をつけた。
そして、不気味な笑顔を浮かべて雪火を見つめた。
その笑顔が物語っていた。
もし、迷子センターに連れて行こうものなら、先ほどの録音を公開すると……。
「し、しかたない。それじゃ、お前も一緒に遊ぶか……」
「え? いいの、お兄ちゃん?」
女の子は白々しくも、笑顔を浮かべる。
その笑顔が酷く悔しい。
その提案で允にも振る。
「いいか? それでミツ……つ、つぐみ」
雪火は、ミツルと言いそうになってしまったが、慌ててつぐみと言い換える。
まさか、少女にしか見えない子を男の名前で呼ぶわけにもいくまい。
「ああ、オレもいいぞ」
(うわっ、ミツルのバカッ)
允からも承諾を得たのはいいが、よりにもよって『オレ』なんて一人称を言ってしまっていた。
雪火は、小声で注意するが、時遅く少女が「?」を浮かべて允を見ていた。
允もしまったという顔を浮かべている。
「オレ?」
女の子は、その一人称に不思議そうな顔をする。
雪火も允もしまったという表情を浮かべる。
「あはは……わたし、自分のことつい『オレ』って言っちゃうんだ……ヘンかな?」
あわてて、弁明する允。
雪火もひたすら焦った。
(まずい)
この子には允が女装していることを絶対知られてはいけないような気がした。
あんな脅しをかけてくる子だ。
これ以上、弱みを見せたらどうなるか知りたくも無い。
女の子が口を開く。
「ヘンじゃないよ。ちょっとカッコいいし」
「そ、そう。ありがとう」
どうやら、すぐに納得してくれたようだった。
これには、助かった。
パロットタウン、バーガーショップ前
日曜日、午後
その後、食事を済ませて、バーガーショップを出た。
「そういえば、お前。名前はなんて言う?」
「ひよこ」
「へぇ、ひよこちゃんって言うんだ」
「オレ…じゃなくてわたしはミツ…つぐみって言って、こいつが雪火って言うから」
允の言葉は、どうにもこうにも危なっかしい。
ひよこに怪しまれてないか、雪火は気が気でない。
「お姉ちゃん、無理して『わたし』なんていわなくていいよ。『オレ』の方がお姉ちゃんには自然な気がするし…」
かく言うひよこは、まるで気にしていない。
どうやら、允は男言葉を使っても大丈夫そうだ。
つぐみと言う名前で呼ぶことは、気にしなければいけないが。
「それから、ひよこ。連れて行ってはやるけど、わがままはあんまり言うなよ」
「うん、分かっているよ。別におにいちゃん達のデートを邪魔したりしないよ」
「もう、デートって…そんなんじゃないって」
デートか。
雪火にとって、何故か遠い響きに感じる。
頭の中では、告白はもはや後回しになっていた。
ただ、ひよこをどうするかだけで、頭がいっぱいだった。
雪火は、ずいぶんと素直になった少女ひよこを見る。
「全く、一体こいつの狙いは何なんだか……」
本当に疑問だ。
あれだけの脅しをかけてきて、一緒に遊ぶというだけでいいのだろうか?
「セッカって、何だかんだ言って優しいんだから」
何も知らない允は、雪火に対して笑顔で賛辞していた。
その笑顔が雪火にとって励ましとなった。
(ああ、癒される……)
それに対して、脅しをかけているひよこは、雪火にだけ見えるようにニヤリと笑った。
勝ち誇った不気味な笑顔。
(女は悪魔だ……)
パロットタウン、メリーゴーランド前
日曜日、午後
「ねぇ、お姉ちゃん。お兄ちゃん」
歩いているとひよこが呼び止める。
「あたしあれに乗りたい」
雪火と允は、ひよこが指差し方を見てみる。
そこにあったアトラクション。
ファンシーな音楽と共にぐるぐると回り続ける、馬やカボチャの馬車。
雪火たちよりも遥かに小さな子供が手を振りながら馬に乗っている。
「メリーゴーランド……?」
「うわっ」
これは、雪火だけでなく、允も苦笑いを浮かべている。
さすがに、対象年齢が自分達より若すぎるアトラクションのようだ。
「ねー。乗ろーよ。乗ろーよ」
「でも、この年の男でこれは少し恥ずかしいからな……」
そうつぶやく雪火に允も便乗する。
「ほ、ほら、雪火もこう言ってることだし、ひよこちゃん」
「えー、でもあたし乗りたいもん」
それでも乗りたいとせがむひよこ。
「乗りたい乗りたい乗りたい〜」
駄々をこねるひよこに允はあきらめたようだ。
「あー、分かった、分かったから」
どうやら雪火の意見は通らなかったようだ。
パロットタウン、メリーゴーランド
日曜日、午後
「あたし、お馬さん。お馬さんに乗りたい」
自分達の番が来て、ひよこは馬を指差す。
「それじゃあ、俺たちは馬車に乗っているから」
允を連れて、その後ろのカボチャの馬車に乗ろうとした瞬間、ひよこから声がかかる。
「え〜……そこに乗ってちゃ、お兄ちゃんたちが見えなくなっちゃうよ」
「おいおい、見えなくても別にいいだろ?」
雪火はそれに小声で付け加える。
「……別に逃げたりしねーよ」
これは本当だ。
ひよこから離れたいのは山々だが、允に説明の仕様が無い行動を取るわけにはいかない。
だが、ひよこはまだ不満そうな顔をしていた。
「むーーーあっ!」
膨れ面をした、次の瞬間には、何かを思いついたように雪火に話しかけた。
「それじゃあ、あたしの隣のお馬さんに乗って♪ それなら2人乗りだから」
ひよこの指差した先は2人乗りのポニーがあった。
メリーゴーランドというだけでも恥ずかしいのに、よりにもよって2人乗りの馬とは……。
「ちょっと待て。流石にそれは……」
雪火が言いよどんだ瞬間にも、ひよこは容赦なく攻撃を仕掛ける。
「え〜ダメなの〜……あたしは、ただお兄ちゃんたちにそばにいて欲しいだけなのに」
涙目にまでなって。
「ひっ……ぐすッ」
その上、目をこすって鼻を鳴らす。
「おいおい……」
雪火は、呆れたように話すが、允は慌ててなだめる。
「ちょ、ちょっと泣かないでって……ちゃんとオレたちも乗ってやるから」
雪火が言う前に允がOKを出してしまった。
「ほら、雪火もいいだろ?」
これでは嫌とはいえない。
もう乗るしかないようだ。
仕方なしに雪火は、馬の前に乗り、その後ろに允の座らせた。
それをみてひよこはにやりと笑った。
(やっぱり嘘泣きかよ)
それを見た所で雪火にはどうにもならなかった。
音楽と共に回るメリーゴーランド。
小学高学年の男で前の馬に乗るの恥ずかしい。
ひよこは、ただ楽しんでいるようだし、允も女装しているためかそれほど恥ずかしがってはいないようだ。
しかし、雪火は、恥ずかしい上に少しこそばゆい。
この2人乗りの馬は、雪火たちより小さい子向けに作られているためか、かなり狭く密着したような形になってしまう。
允は遠慮なく雪火に体をくっつけてくる。
時折、首筋に允の息がかかる。
……嫌ではないのは認めるが、なんだかくすぐったい。
メリーゴーランドの回り終わるまで雪火は何も考えられなかった。
パロットタウン、メリーゴーランド前
日曜日、午後
「どうだった?」
歩いている最中にひよこが雪火だけに聞こえるように耳打ちをする。
「どうって? どうもしねーよ」
雪火もひよこだけに聞こえるように返す。
「どうもしないってせっかくチャンスをあげたのに」
「チャンスって何だよ?」
よく分からない雪火に、ひよこは顔をしかめて言う。
「チャンスはチャンスでしょ? 馬の2人乗りなんて最高に仲良くなる好機じゃない?」
「…メリーガーランドがそんなチャンスになるか」
「まぁ、いいわ……あたしは目的のものが手に入ったし」
そういいながらひよこはデジカメをカチャカチャといじりだした。
「目的のもの?」
雪火は、嫌な予感がしてデジカメを覗き込む。
するとそこには、メリーゴーランドの馬に2人乗りで座っている画像が映っていた。
何とも恥ずかしそうに赤面している自分が情けない。
「お、お前の目的ってこれかよ……」
「他に何かあるの♪」
……また負けた。
アレに乗っただけでも恥ずかしいのに、それを写真に取られていたとなればなおさらだ。
……っていうか一体いつ撮ったんだよ?
うなだれる雪火にひよこは声をかける。
「あたしは、ちゃんとあんたにもおいしい目を見させてあげようとも思ってたんだから」
「メリーゴーランドでどうやっておいしい目を見ろというんだよ」
「色々あるでしょ……首筋にかかる吐息で感じるとか、体を密着させて胸の感触楽しむとか」
見透かされたような意見にどきりとする雪火。
ニヤニヤと悪魔的な笑顔を浮かべるひよこに心底、恐怖を感じた。
密着する体や、首筋にかかる息にドキドキしていたのは事実なのだ。
しかし、負け惜しみの言葉を叫ぶ。
(っていうか允に胸はねーよ!)
心の中でだけ。
パロットタウン
日曜日、午後
このままではいけない。
雪火はそう感じた。
このままじゃ振り回されすぎだ。
「なぁ、次はあれ乗らないか?」
雪火は遠くのアトラクションに指差して言う。
遊園地の定番、観覧車だ。
「おー、そーだなー」
「ちょっちょっと!」
その瞬間、ひよこは雪火の足を強く踏みつけた。
「うぁっ、いてぇっ! な、何だよ」
「ちょっと待ちなさい!」
「どうしたんだ雪火?」
「それが……」
雪火が口を開こうとした瞬間、ひよこが先に割り込む。
「ご、ごめん、お姉ちゃん。あたしトイレに行きたくなったから、お兄ちゃんに連れて行ってもらうね」
そう言い、雪火の手を引いて走り去った。
「へ? でもトイレって……普通、オレが連れて行くんじゃ……?」
疑問を疑問をつぶやく允だった。
ひよこに手を引かれるまま、允から離れたところまで来た。
そこで雪火を睨みつけて話す。
「あんたねー。今観覧車に乗ってどうするつもりなの?」
「どうするって……どういうことだよ」
「あんた、何のために遊園地に来ているの?」
「?」
突然の問い詰めに雪火は疑問視を投げかけるが、ひよこは続ける。
「デートでしょうが!」
「う……でも、それと観覧車が何関係あるんだよ」
「大有りよ! あのねデートってのは、雰囲気が大事なの?」
「雰囲気?」
「観覧車ってのは、夕焼けの中でロマンチックなムードで楽しむもんなの。だからデートで昼間から観覧車なんて邪道なの! 分かった!」
「わ、わかったよ」
雪火は仕方なしにうなずく。
「男の子同士で遊びに来ているわけじゃないんだから、全く……」
ひよこは、ぷんすか怒りながら先に進む。
(……いや……男同士で来ているんだよ)
パロットタウン、バンジージャンプ前
日曜日、午後
允のところまで戻り合流した。
とりあえず允には、観覧車は後回しにすることを告げて、先へと進みだす。
「それじゃあ、次はアレなんてどうかな?」
またもや、アトラクションに指をさすひよこ。
そこには……。
ヒューーーン!!!
ビヨーーーン!!!
人が上空から飛びおちるが、地面すれすれで足首のゴムロープに引き寄せられ上下する。
バンジージャンプのようだ。
その看板を見てみた。
ついにパロットタウンに上陸!
心臓発作必至!
命がけのアトラクション!
君は生きて大地を踏めるか!
「おお、つい乗ってしまいそうな看板だな」
興味津々な允をよそに、雪火は冷め切った返事をする。
「そうか?」
(……っていうか、思いっきりダメだろこの煽り文句)
「ねー、これを3人でやろうよ♪」
「3人で? そんなこと……」
雪火がそう言いかけた時、更に看板に続きが書かれている事に気付く。
こうかかれてあった。
一度に3人まで挑戦可能!
一本のロープに複数の命を預けるスリルを体感せよ!
「3人も一度に1本のロープでできるのか? すげーな雪火」
「しかし……相変わらず、酷い売り文句」
「でも、こんな危ないの。小学生じゃ無理なんじゃないか?」
「大丈夫よ。ほらちゃんとここに書いてある」
年齢制限無し!
身長制限無し!
幼稚園児でもOKです!
「……この遊園地、大丈夫か?」
ひよこがこっそりと耳打ちする。
「いい……これはあんたのためのチャンスでもあるから。一緒にするならどうどうと抱きつけるでしょ♪」
……こいつそんなこと考えていたのか?
……允にどうどうと抱きつける?
…
……
………
一瞬想像しかけて、入りたくなる衝動に駆られたが、すぐに取りやめる。
このアトラクションには入ってはいけないのだ。
「おい、ひよこ。これは駄目だ」
雪火は、ひよこに言う。
「え〜なんで〜」
「どうしてだ〜? 雪火?」
抗議の声は、ひよこだけでなく、允からもあがる。
その姿にため息一つついて言う。
「ミツ……つ、つぐみ、お前、さっきの事忘れてるだろ?」
「さっきのこと?」
「ジェットコースターの事だよ。あれと同じだろ」
「あ!」
允はやっと気づいたようだ。
かつらの問題に。
ジェットコースター同様、こんなアトラクションではかつらなんて一瞬で吹き飛んでしまうだろう。
「やべ。すっかり忘れていたよ」
「? どうしたのおねえちゃん」
「……あのな、ひよこ、これは……」
雪火が、ひよこにどう説明しようか悩んでいた時、允が説明する。
「ご、ごめんなさい。あたし、ジェットコースターとかバンジージャンプとか、お医者さんに止められていて」
これで誤魔化せるかどうか甚だ不明である。
何せこのひよこは、どこまでこちらの事を見透かしているか分からないくらい、怖い女である。
ちらりと、雪火のほうの顔を見て答えるひよこ。
「そうなんだー。おねーちゃん。かわいそー」
(ごまかせたよな……)
ほっと一息ついていると、ひよこが雪火に告げた。
「ま、何を隠しているかはわからないけど、今回は引いてあげる」
やっぱりお見通しか。
相変わらず、怖い女だ。
先行くひよこは小さくつぶやいた。
「ちぇ……せっかくいい写真撮れそうだったのに」
パロットタウン
日曜日、午後
その後、俺たちはひよこに振り回されながらも色々と遊びまわった。
射撃コーナーでは……
バン、バン
銃の音が鳴り響く。
「よし、オレの方が雪火より高い得点出しているぞ」
「高い得点って言っても1点だけだろ。次のオレの番で抜いてやるよ」
そうやって遊んでいる中、允は辺りを見渡して言う。
「あれ? あいつはどこに……」
「あいつって……ひよこならすぐそこに」
ちょっと離れた所で2人と同じように射撃をしていた。
しかし、何か気になる。
雪火は、その気になることを口にした。
「でも、何であいつの周りにあんなに人だかりができているんだ」
「さぁ、何でだろ? 気になるな」
允も気になったようで、射撃は中断してひよこのそばに行くことにした。
そこで見たひよこの得点は……。
「……すごい」
「……すげえよ」
とんでもない高得点が記されていた。
「オレたちの戦いって低レベルだったんだな」
「……相変わらず底知れない奴」
ゴーカートでは……
「えいっ、そりゃ」
ドンッドンッ
「おうりゃ、それっ、それっ」
雪火と允が競い合っていた。
ちなみにこのゴーカートは体当たりすることで、相手のスピードを奪えるというシステムらしい。
雪火の乗るゴーカートにはひよこを乗せている。
「くっ、離されちまったな」
「全くあんたってば、ダメダメね。つぐみは今トップだっていうのに」
横からひよこの駄目出しが入る。
悔しいが今はそれどころじゃない。
はやく、允のところまで追いつかねば。
「セッカ、後ろから車が来ている。2秒後にぶつかるわ」
「え?」
そういわれ慌てて雪火は、ハンドルを切ったが、間に合わなかった。
ドンッ
「うわっ」
ひよこの言うとおり、後ろからの追突。
また、スピードを奪われたようである。
しかし、後ろから来るってどうして分かったんだろうか?
こいつは前に座っていて後ろなんて見えないはずなのに。
ひよこは、業を煮やしたのか雪火に告げる。
「全く……あたしの言うとおりに車を動かしなさい」
「え?」
「つぐみに追いつきたいんでしょ! はやく」
「わ、わかったよ」
雪火は反射的に返事をした。
「まず、3秒後に左にハンドルを切って、後ろから来る車に横からぶつかるわよ」
「こ、こうか?」
「次は、さっきぶつかってきた車にお返し。このままなら7秒もあれば追いつけるわ」
「おう」
「そこは、ハンドルを右に大きく切って、そしたらすぐさま左!」
「わかった」
ひよこのアドバイスは的確だった。
みるみるうちに、トップを独走する允の車まで追いついていた。
併走する允から声がかかる。
「お、さすが、セッカー! アレだけ後ろの方にいたのにもうここまできたのか!」
「悪いな允! お前も抜かせてもらうぜ」
「そう簡単には抜かさせないぜ! いくぞ」
「それじゃまずは……」
ひよこからアドバイスが来る。
雪火は今までどおり、ひよこの言うとおり動かした。
…
……
………
レースも終わり、3人はアトラクションの外へと出ていた。
まだ熱の冷めない允は、楽しそうに話してくる。
「いやー危なかったな。もしかしたら負けかと一瞬思っちまったよ」
「……」
「でも何とかオレの勝ちだな……ふっふっふ」
「くっ……確かにオレの負けだ」
雪火が悔しそうな顔をする中、允は不思議そうな顔で言う。
「そういえばどうして突然壁に向かっていったんだ? ゴール直前で。アレさえなければお前が勝っていたのに」
「……いや、それは、ハンドルを切り間違えちまったんだよ」
「あははは♪ セッカってば肝心な所で抜けているな」
機嫌の良い允を尻目に、雪火は小声でひよこに話す。
「……お前の言うとおりにしたら、最後は僅差で負けたんだが」
すると、ひよこは平然と語る。
「何言ってるのよ。最後に負けてあげるのが男でしょ」
そういってひよこは、満足そうな顔をしていた。
……こいつ俺が負ける事まで計算していたのか?
その後、確かに允は上機嫌だったけど、多分負けても上機嫌だったろうな。
そんなこんなで、ひよこというこぶ付でも結構楽しめた。
パロットタウン、観覧車前
日曜日、夕方
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。あたしそろそろ観覧車に乗りたい」
そういえば、もうそろそろ、夕焼けがかかりそうな時間だ。
先ほどひよこが言ったとおり観覧車に乗ってもいい頃だろう。
「そうだな、そろそろ最後のアトラクションになりそうだな」
「もうそんな時間か?」
「そういえばひよこちゃんって、家族との待ち合わせ時間は大丈夫なの?」
「うん。閉館時間に待ち合わせだもん」
「それじゃ、これが終わったらそこに行こうか」
「うんっ」
そういって、3人は観覧車の列へと並びだす。
時間も遅いため、その列にはそれほど並んでいなかった。
並びながら、ひよこがいつものようにこっそり話す。
「セッカ。覚悟はいいわね」
「覚悟って何だよ」
「覚悟っていえば覚悟よ。分かるでしょう」
「わかんねえよっ」
「ん〜〜。何か言ったかセッカ?」
允から言われて慌てて否定する。
「べ、べつになにもいってねえよ」
「そ、そう何も言っていないよ。お姉ちゃん」
ほぼ一緒に答える。
「ずいぶんと仲がいいんだな2人」
その様子を見て允は微笑んだ。
ほっと胸をなでおろす。
何で自分がこんなにハラハラしなきゃいけないのか?
ひよこを見て思う。
しかし、こいつの猫かぶりっぷりも流石だ。
允がいる時といない時では、180度性格や口調が変わる。
その上、允の前では、俺たちのことを「お兄ちゃん、お姉ちゃん」と呼ぶくせに、俺の前では「セッカ、つぐみ」と呼び捨てだ。
考え方も演技も、年相応の奴だとは思えない。
この図々しさや、計算高さからして、まるでオレの母親が若返ったようだ。
…
……
………
もしかして、こいつ本当にオレの母親じゃないだろうな?
…
……
………
うわっ、いますっげー怖い想像しちまったぞ。
「セッカ? 聞いている?」
「あ、ああ……き、聞いている」
「ま、いいわ。とりあえず告白がんばりなさいよ」
「こ、告白!」
「何驚いてんのよ。そのつもりで来たんでしょう」
「そうだけど……しばらく忘れていた」
「全くしっかりしなさいよ」
「忘れていたのは、お前が原因なんだけどな」
確かにひよこの言うとおり、雪火は告白する予定だった。
この観覧車で決めないと。
「それから、今更だけど言っとくわ。あの録音、最初から流すつもりなんて無かったわ」
「……本当に今更だな」
「あと、迷子ってのも嘘」
「……それもなんとなく分かっていたし」
「怒った?」
「別に……今更怒ってもしょうがないだろ」
雪火は投げやりに付け加えた。
「それに、ちょっとは楽しかったしな」
そういった雪火にひよこはつぶやいた。
「それから、今日はありがとう……セッカ」
「ん? どうしたんだ」
「なんでもない」
時間も来てもう自分達が乗る番だ。
「おっ、来た来た」
「よし、乗るか」
雪火と允は、観覧車に乗り込もうとするが、ふと足が止まる。
先ほどまで近くにいたひよこが少し離れた所にいた。
声をかける雪火。
「おーい。どうしたんだ。もうオレたちの番だぞ」
すると、こう答えるひよこ。
「んー、あたし、やっぱりいいわー」
「え?」
「なんか急に気がのらなくなってきた」
そういって本当につまらなさそうに答える。
「だからお兄ちゃんとお姉ちゃんで乗ってていいよ」
「ほら、時間だよ」
本当にもう時間だ。
観覧車は待っていてくれない。
「がんばってね」
扉が閉まる直前にそう聞こえた。
雪火は心の中でひよこに感謝した。
パロットタウン、観覧車ゴンドラ内
日曜日、夕方
「うーん。あの子、突然どうしたんだろう?」
「さあな。相当気まぐれなんだろ」
允は不思議そうにしていたが、雪火にはそれが分かった。
(あいつ……余計な気を使いやがって)
自分と允を2人きりにしてくれたのだろう。
そう思うと、緊張が高まってきた。
ドキドキ
ドキドキ
……ここで告白すべきだよな。
呼吸を何度も繰り返す。
允は、ただ高いところからみる風景に夢中になっていた。
ひよこの言うとおり夕焼けの中の観覧車はムード満点だった。
そして、夕焼けの日に照らされた女装した允は凄くキレイだった。
なんだか声がかけずらい。
やばい……このままでは、時間が過ぎ去ってしまう。
何か話さないと……話さないと……。
そう思っていても中々口に出せない。
もうすでに頂上まで着いてしまった。
このままじゃまずい。
……また今度にしようか。
そんな弱気な考えすら浮かんでくる。
ガタンッ!
その瞬間大きな音がして観覧車が止まった。
「な、何だ!」
「何か起きた?」
雪火と允は驚いて立ち上がる。
すると、即座に館内放送が流れ出した。
『只今、機械の故障により観覧車が一時停止になりました。お待ちください』
(え?)
允は不安そうにきょろきょろする。
「うわっ! 一時停止だってさ。どうしよ、セッカ」
「落ち着けよ。ミツル。こんなのすぐ動く」
「そうか?」
「ああ……だから、乗る時間がちょっと長くなったと思っておけばいいんだ」
「あ、そっか!」
そういったら、允の移り変わりは早く、すぐさま楽しそうな顔をした。
乗る時間が長くなったのは、雪火にとってチャンスだった。
もう、ここでしかない。
思い切って話を始めた。
まずは、告白する前に聞いておかなければいけないと思っていた事を聞くことにした。
「允……ちょっと聞いていいか?」
「え?」
允は振り向く。
雪火の真面目そうな顔を見て、何かを感じたのか。
はしゃぐのをやめて、正面に向き合った。
「お前さ、俺のこと……」
「?」
「……」
そういって少し口をつむぐ。
「オレと……一緒にいて楽しかったりするか?」
「何だ? 急に?」
允は突然の質問に戸惑っているようだ。
「だってさ、お前と会うまでオレは友達なんて全然いなかったんだ」
「ああ、それは……」
「知ってるだろ。オレはほとんどの男子から嫌われてるってことぐらい」
「い、いや……それは」
「オレは無愛想だし、友達と遊んだ経験もほとんど無い」
「……」
「だから、お前と一緒にいても自分が楽しむ事しか考えてないし……どうやったらお前も楽しんでくれるかなんて分からない」
「……」
「オレはお前といて楽しいけど、お前が楽しんでくれているかは不安なんだ」
「……」
「……」
しばし、短い沈黙。
しかし、すぐにそれは打ち破られる。
「くすくすくす……」
それは允の笑い声だった。
「いや、セッカってば、お前ちょっとヘン」
「ヘン……か……」
「そう、別にそんな事、真面目に考える奴いねーって」
「もうちっと、簡単に考えろよ」
「え?」
「オレは一緒にいて楽しくない奴と一緒にいないって」
「オレだって、お前と同じで、一緒にいてすげー楽しいから」
「そうか? そうなのか……?」
「しかし、お前でもそんな風に悩むんだな。あんなにモテまくっているセッカが」
そういって允は本当に楽しそうに微笑む。
ガタンッ!
観覧車が動き出す。
故障が直ったようだ。
残りの時間、下に降りるまで時間は十分すぎるほどある。
言わなければ、いけないことがまだあるのだ。
「だ、だけどさ……」
息を呑みこみ続ける。
「オレは、お前の一緒にいて楽しいって気持ちとは……ちょっと違ってるかも……しれないんだ」
「え?」
「オレの……俺の気持ちは、楽しいとかそういうもんじゃなくて」
「? どうしたんだセッカ?」
「……お前はもしかしたら気持ち悪がるかもしれないけど」
「……え? 何がだ?」
「オレは、お前が……その」
「セッカ?」
「お疲れ様でした〜!」
いきなり係員がドアを開けた。
「へ?」
「え?」
しばし、硬直する2人。
あまりの違和感。
早すぎる。
さっき頂上から動き出したと思ったばかりなのに。
「ちょ、ちょっと」
「あれ、あれ?」
「すみません……と、とりあえず早く出ていただかないと……」
ふと見るとかなりのスピードでゴンドラは動いている。
このままじゃすぐに上に行ってしまいそうだ。
何故?
そんな事考えるまもなく、急いで外に出た。
外に出てみると明らかに違っているのが分かる。
ものすごいスピードで動いているのだ。
普通の何倍ものスピードで。
「どういうことだ?」
そう雪火がつぶやくと、係員が申し訳なさそうに言う。
「すみません。故障の関係でどういうわけかスピードが速くなってしまったらしく」
(おいおい……いくらなんでもヘンだろ! 止まるならともかく何で早くなるんだよ)
そう叫びたい気持ちをぐっとこらえた。
パロットタウン
日曜日、午前
……結局、言えなかった。
3人でひよこの待ち合わせ場所に向かっていたのだ。
肩を落としたまま、雪火は歩いていた。
絶好のチャンスを失ったのだ。
でも、それと同時にホッとしてもいた。
「その様子じゃ、何もいえなかったようね」
横から静かにひよこが言う。
「……悪かったな」
「ま、仕方ないわよ。あんなことがあっちゃ」
「攻めないのか?」
「攻めないわよ。あたしにも責任あるんだし」
「責任?」
ヘンな単語に雪火は止める。
「何の責任だ?」
「あたしは、あんたのために、ちょっと止めようとしただけなのに」
止めようとした?
何を……?
まさか……?
「ちょっと待て。止めようとしたって……もしかして機械をか」
「まさか、スピードが早くなるとはぬかったわ」
こいつ……。
「お、おまえな〜〜」
息を荒立てて近づく雪火をひよこはなだめすかす。
「ま、まあ、あんただって、ちょっとは安心しているんでしょう」
それはそうだが、結局、こいつに振り回されっぱなしだってのが納得いかない。
雪火は、さっき心の中で、ひよこに感謝した事を取り消した。
パロットタウン、入り口
日曜日、夕方
「ここでいいの? ひよこちゃん」
ゲートのすぐ近くで允が言う。
「うん、ここで待ち合わせ」
ひよこは、答える。
「それから、結局、お前がオレたちを付きまとっていた理由は何なんだ? そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか」
雪火は小声でひよこに聞く。
「ああ、それはね……」
ひよこはデジカメをいじり答えようとする。
「ひよこー!」
「「ん!」」
遠くから聞こえる女性の声に雪火と允は顔を上げた。
どうやら、あの人がひよこの家族みたいだ。
「あれ?」
「あの人どこかで……」
雪火も允もその人に見覚えのあった。
「あっ、こないだ公園であった」
「あん時のカメラマン」
つい数日前、公園で会ったカメラマンの千鳥さんだ。
どういうわけか、あの人がこちら側に来ているのだ。
「やあ、君たち久しぶり」
挨拶をする千鳥さん。
その様子には、ひよこと一緒にいる事に驚いた様子も無い。
「遅いわよ、千鳥姉」
そして、何も無いかのように千鳥に言うひよこ。
こちらも、2人が自分の姉と知り合いである事に驚いた様子もなさそうだ。
「やー、ごめんごめん」
「全くどうせ大した用事もないんだし、ここで待っていればいいのに」
「それから、セッカ君たちもごめんなさい。妹がかなりデートの邪魔しちゃっていたでしょ」
「それじゃ、何でアンタがここにいるのか説明してくれるか?」
「え? え? え?」
割と冷静な雪火と、何が何だかよくつかめていない允。
千鳥は、そんな2人に説明を始めた。
「ここに来る前に、セッカ君の家に行ったのよ」
「オレの家に?」
「そしたら、セッカ君のお母さんが出てきて遊園地にいったって言うのよ。だから、妹を連れて急いで遊園地に来たわけ」
「……何でそうなるんだ?」
「千鳥さんまで遊園地に来る理由が分からないんですけど」
2人の顔は少々呆れ気味。
「いやー。今日は妹をどこかに連れてくって約束していたから。行く途中で寄った家で遊園地に行ったって聞いたら、行くしかないでしょ」
「行くしかないでしょってアンタ……」
「どうしてそんな」
「だって、遊園地で遊ぶベストカップルなんていい写真になると思わない♪」
更に呆れる2人。
気を取り直して質問をする雪火。
「それから、アンタの妹がオレ達のそばに来たのは、一体どんな理由なんだ?」
「セッカ? ひよこちゃんは迷子だって」
允がそんな事を言うと、ひよこが申し訳なさそうに言う。
「ごめん、つぐみお姉ちゃん、アレは嘘」
「えっ、えっ、えっー!」
允は今更一人で驚く。
「遊園地にきたら、とりあえず妹を一人で遊ばせて、私は被写体を探していたのよ」
「おい、アンタはこんな小さな子供に遊園地で一人で遊ばせるのか?」
「うーん、だってセッカ君。この子が保護者必要な風に見える」
……たしかにこいつに保護者なんて要らないだろう。
雪火は納得してしまった。
「そしたら、ひよこから連絡が入ったのよ。『お姉ちゃんの探している人はあたしが見つけた。写真は私が撮るから』って」
「連絡? そんなの一体いつ?」
雪火の質問に横からひよこが答える。
「あたし、携帯持ってるんだよ」
やられた。
写真すらいつの間にか撮っているひよこだ。
携帯で連絡なんて朝飯前だろう。
「そして、私は一旦セッカ君のことをあきらめて、私で他に被写体を探していたわけ」
自分のカメラを抱えながらそう答える。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも油断してくれたおかげで自然な写真が取れたわ」
そういいながら、デジカメをいじって画面を見せるひよこ。
すると、そのデジカメにはメリーゴーランド、射撃、ゴーカート等で遊ぶ2人の姿が映っていた。
なるほど、写真が目当てだったわけか?
やっと、目的が分かってすっきりした雪火。
しかし、允はまだ面食らっているよう。
その允に声をかけるひよこ。
「そのつぐみお姉ちゃん、怒った?」
「はっ、い、いや、びっくりしただけで怒ってはいないよ」
取り直して、にっこり笑う允。
「それに楽しかったし。セッカもそうだよな」
「……ああ、」
その言葉に嘘は無かった。
パロットタウン前
日曜日、夕方
「じゃあねー。セッカくん。つぐみちゃん」
手を振る千鳥さん。
「それじゃ、また会いましょう。
手を振るひよこ。
少なくともこんな形で会いたくは無いが、会いたくないわけでもない。
雪火と允は手を振り返した。
「何だか、凄い姉妹だな……」
「まあな、面白い姉妹である事は認めるけど、迷惑こうむるのはごめんだな」
雪火と允の手元には写真の束。
こないだ公園で取った写真を手渡してくれたのだ。
一枚ずつめくっていく。
ベンチで肩をくむ2人。
膝枕をしてもらう雪火。
ポッキーゲームをする2人。
かなり恥ずかしい写真ばかりだ。
「うわー。オレ、はずかしー」
允は、笑いながら声をあげている。
恥ずかしくなるのと同時に、心地よさも感じた。
ふと、雪火は、話す。
「それから……観覧車での事だけど……」
「ん?」
「ごめんな……変なこと聞いちまって」
「オレと一緒にいて楽しいかって聞いたことか?」
「ああ……」
「別に気にしてないからお前も気にするなよ」
「ああ」
「オレはお前の事、一番大事な親友だと思っているんだから」
母親には何を言われるか分からないけど、でも、今日思いっきり允と遊んでみて、まだこのままでいいような気がした。
そう、まだ時間があるのだ。
告白はできなかったが、すっきりした気持ちだった。
天使のような笑顔の允。
その允の笑顔をまだ楽しんでいたかった。
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