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平成18年下期のご報告
劇的な転換に関する報告をさし上げます。上期の報告で惨憺たる状況を申し述べました。淀川下流部城北ワンド群のイタセンパラは本年一匹の仔稚魚も浮上せず、絶滅状態に陥ったのです。私共は直ちに5月18日付で淀川河川事務所長あて本種保全のための緊急対策を盛り込んだ提案を送付しました。しかし行政側の対応は遅れに遅れました。
その遅れに堪りかねたのか、会員の川那部浩哉琵琶湖博物館館長が8月29日付けで淀川希少種情報交換会(以下「情報交換会」)より関係行政あてを中心に緊急質問状を送りました。その質問状の要旨は、イタセンパラ絶滅の事実を知っていたのか、知っていた場合どのような具体的対策を取ったか。2005年4月に開催された全国みどりの愛護の集いに際して淀川大堰の放流量を減らした問題の処理に関して3問。最後に現時点でイタセンパラが見付からない場合いかなる対策を取るか、取る予定であるか等6項目にわたりました。行政側も回答を回避する訳にいかず、国交省・環境省・文化庁・大阪府水生生物センターがそれぞれに真面目に応答しましたが、役所の回答らしくあまり実のあるものではありませんでした。ただ行政側も淀川のシンボルフィッシュの保護問題を避けて通ることはできないとの覚悟を決めた印象がありました。
ここで興味を引くのは、川那部博士の質問に対する京大教授中坊徹次氏と近大教授細谷和海氏の回答です。いずれも魚類生態の専門家ですが、ほぼ同じ性格の回答を寄せました。即ちイタセンパラは現在の環境において、野生状況では絶滅するおそれが強いから至急に人工飼育に切り替えるべきだと言うことです。
さて行政より情報交換会への回答はおおむね9月中に届いたのですが、その間にあって私共は淀川環境委員会会長村本嘉雄氏あて9月14日付で「淀川魚類生態系に関する照会」を送りました。内容は、木津川でのイタセンパラ生息地復活と淀川下流部ワンド群の再生に関する委員会の見解を正したものです。
この照会状に対する回答は大分遅れて11月13日付で来ることになるのだが、その前に環境委員会内部ではかなり前進的な動きが起こっていたようです。即ち18年9月1日付で淀川水系イタセンパラ研究会会長小川力也名義にて日本魚類学会会長あて「淀川水系におけるイタセンパラの現状と今後の保護施策についての意見書」が送られました。その中の緊急対策(優先順位なし)として、城北ワンド群の環境改善、淀川本流下流部の外来魚の駆除、楠葉地区における新設ワンドの改良と増設、木津川下流部で進行する水位低下の原因解明とその防止、保護下のイタセンパラに対する管理の徹底と密漁対策が挙げられました。この中には私共が提言している木津川、楠葉問題の解決が含まれています。さらに一歩進めて長期的展望に立った対策の必要性にも言及しています。さてこの意見書は結実して18年12月25日付で「淀川水系におけるイタセンパラの保護に係わる緊急要請」として、日本魚類学会会長より国交大臣あて提出されました。
ただこのような動きが内部的処理にこだわったせいかどうかは分からないが、情報交換会へ直ぐに伝わらなかったのは、川那部博士も嘆かれたように残念なことでした。両方の会に所属する会員もいたのだから、伝わっていればこのような前向きの動きがあることが早く認識されて、有効に活用されたでしょう。
さて行政からの報告を叩き台として第2回淀川希少種情報交換会が開かれることになりました。開催日は10月26日午後5時30分から3時間で、開催場所は"ぱるるプラザ京都6F会議室"でした。当日の出席者は次の通り。小川力也・河合典彦・川那部浩哉・紀平肇・木村英造・小林光・志鹿浩幸・高田昌彦・町野陽一・丸山隆・宮本博司・森誠一・吉田延雄(以上13名)。
特に目立ったのは、淀川河川事務所長吉田延雄氏がはじめて出席されたこと。現在国交省を退職して京都でご自身の家業を継がれている前淀川河川事務所長宮本博司氏が出席されたことです。宮本氏には現職時代に私共の要望に対して誠意を以て応接して頂いた記憶があります。
さて会議では淀川河川事務所側の説明によって、非常に深刻な状況は確認されたが、この会の性格は情報交換会であるから、はっきりとした緊急対策らしきものは何も出ませんでした。強いて結論らしきものを出すとすれば、それは宮本前所長の発言に要約されます。「イタセンパラがいなくなったのは、構造的に淀川の姿が改変された結果である。小手先の対策だけではなく、構造的な修復をしなければならない。」
しかし構造的な修復はとても短期間にできるものではないので、取りあえずなるべく短期に可能な再生案を取り上げねばなりません。
それともう一つイタセンパラの専門研究者である小川力也氏より報告されたのだが、彼の最新研究によると、本種は年魚である可能性が高いとのこと。栄養状態がよいと5月に浮上した稚魚は成長して秋に産卵行動を取り、その年に斃死するそうである。産卵行動に参加せずに二年生存することもあるが、一年で終わることが多いということです。年魚である可能性が高いということは、種の保全の上でマイナス要因に働く可能性が高いと考えられます。
ともあれ第2回淀川希少種情報交換会は川那部博士の強い働きかけによって実現したのですが、ここで判明した状況は決して明るいものではありませんでした。ただ環境委員会水域環境部会の担当者が前向きの対策に踏み出そうとしている状況だけはプラス面と捉えるべきでしょう。
さて11月13日付でかねて淀川環境委員会へ出していた照会への回答が届きました。回答者は村本嘉雄会長で、水域環境部会を主催する河合典彦・小川力也氏が副署していました。その内容はまず木津川の生息地に関しては、タマリの保全をイタセンパラ保護上重要な課題と認識しており、タマリの環境保全のために水位低下の原因を早急に精査してその対策を検討する。また新たな生息環境創造の取り組みとして、木津川大橋上流右岸で実施された堤防補強工事に併せて川岸を切り下げて冠水帯を創出した。木津川御幸橋下流の堤防補強工事でも川岸を切り下げ冠水しやすい地形を造成する予定。また上津屋地区では水制工の設置により土砂の堆積による冠水帯の形成・発達を促進し、タマリなどの一時的水域の出現に期待している。以上具体的な対策に取りかかっている状況が説明されました。
次に淀川下流城北ワンド群の再生問題について、何故生息適性を失った水域で人工的手段を用いて復活を計るのかという質問に対して、産卵床となる二枚貝の生息密度は依然高いことを考えると、この水域で以前の好ましい生息環境を取り戻す方が新しい生息環境の創出よりも容易であること。現在のこの水域の生息環境の悪化は河川環境の過度の安定化によってもたらされたものなので、流れや水位変化など水の動きを取り戻すことが不可欠である。そのためにいろんな施策を試みていることを挙げ、ともかく城北ワンド群全域に流れを生じさせるための抜本的対策を考えているとのことでした。
最後に私共の提案している楠葉ワンド群の改変と増設について具体的な対策に触れております。
さて以上の回答をよく勘案してみますと、城北のワンド群以外は私共の提案が全部取り入れられています。また城北に関してもその抜本的対策の実施が熱意を以て語られています。私共は下流部の生息地に関しては生息適性の喪失を指摘しているのであって、これだけの熱意を以てその復活を企図されるのであれば、従来の態度を改めてその進み方を諒承したいと存じます。今最も重要なことは、イタセンパラの再生策を早急に実施実現することです。随分遅れたし手間取ったけれど、それにはこの際目をつぶって、これしか方法はないのですから淀川環境委員会の進み方に同調協力することにしたいと存じます。どうぞ御諒承下さいませ。
さて11月23日に淀川河川事務所の手で城北ワンドの一つで干し上げ調査が行われ、関係者多数が集まりました。この調査で驚いたことは、干し上げたワンドで二枚貝が多数とれたことです。ただ継続生産されてなくて、若貝がとれませんでしたし在来魚も殆ど出ませんでした。ともかくワンド内に浅場を設けて、二枚貝の繁殖を計ることになりました。
この干し上げ調査の帰途長田芳和氏(大阪教育大学教授)と同道して、城北ワンドの再生について熱意のあるお話を伺うことができました。また12月11日には高田同伴の上淀川環境委員会会長村本嘉雄氏を訪ねて懇談。12月23日には河合典彦・小川力也両氏と木村・高田で昼食会を開き、状況の打開について話し合いました。
以上が本年後期に私共が果たしたあまり芳しくない役割です。状況は本当によくありません。何とか打開に向けて働かねばなりません。私共の周辺では批判があって、私共が従来の批判的態度を捨てて、突然ニコニコし出すのは面白くない。もっとシヴィアに対応すべきだという意見もあります。そう言われると困惑するのですが、イタセンパラ再生策は決まったのです。その実現のために努力するが、それがうまく機能しないときは、外部から従来通り叱咤激励する所存です。どうぞ御理解下さいませ。
なお前期報告末尾で申し述べた外来魚対策基金による電機ショッカー船の手配については、行政の側で進めることになったので、高田は一応手を引いております。
さて最後に年内発行予定であった「淀川の希少種イタセンパラ−その絶滅と再生」については、状況の展開が予想外だったのでまだ書き上げておりません。今春に何とか書き上げたいと考えております。(平成19年1月10日)
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