平成18年度上期の御報告

 非常につらい報告をさし上げます。
さて本年2月22日付で私共は国土交通大臣あて「淀川の魚類生態系に関する緊急要請」を 差し出しました。内容は淀川のイタセンパラの絶滅寸前の状況を述べた上で、淀川河川事 務所の対応が遅れて全然役に立たず、しかも私共の楠葉ワンド群造成の提案も無視して今日に至っていること、加えて近時の外来魚異常繁殖のため、今やイタセンパラを始めとす る淀川の在来魚が絶滅の危機に陥っているのに、何等対策を取ろうとしないことを述べ、 さらに附記して私共の手で淀川の外来魚駆除のための釣り大会を企画しているが、河川事 務所側には全然協力意思がないので、何とかならないものかと述べました。
 さて少し古いが平成15年11月28日付朝日新聞朝刊に「琵琶湖淀川流域政府主導で再生」 という記事があって、政府の都市再生本部(本部長:小泉純一郎首相)が琵琶湖や淀川流 域の環境保全を同本部のプロジェクトとして進めることを決めたということが報じられて います。そこで国交大臣あて提出した要請の写しをしばらくしてから都市再生本部長あて 送りました。
 さてこの緊急要請に対する回答は3月16日付で淀川河川事務所長吉田延雄氏より届きま した。その内容は3項目に分かれていて、イクセンパラの保全については、城北ワンドイ タセンパラ協議会の一員としての活動とボタンウキクサの除去に淀川大堰の操作による水 位変動の試行を実施していると書いてあるだけ。さらに怪しからんのは楠葉ワンドの整備 についての項目です。当方の提言に回答しなかったのは提言という内容だったからだそう です。提言には回答しないというしきたりが国交省にあるのでしょうか。第2号ワンド以 降約束を履行していないのは、環境委員会の意見を聞きモニタリング調査を実施していたためだそうです。来年度3号ワンドの設計を行う予定で引き続き4・5号ワンドの整備も考 えているというのですが、そんなのんびりしたことを言っている状況ではないはずです。 3番目の外来魚対策については、意思疎通がうまく計れず誤解を招くような結果になった が、担当の者を行かせ経過、当所の考え方を説明したとのこと。全然やる気がなかったの が、突かれて大慌てにあわてて形を整えただけのことです。以上回答は来ましたが、何と も誠意の感じられない通り一遍のものでした。
 さて前述の淀川における外来魚駆除大会は4月9日(日曜日)に「琵琶湖を戻す会」(代 表:高田昌彦)の主催で淀川下流域城北ワンド群にて行われました。昨年年末に高田が淀 川河川事務所毛馬出張所へ出頭して、外来魚駆除を行いたい旨述べたときは剣もホ口口の応対だったそうですが、その後文章で抗議もしているので、3月9目に淀川河川事務所河川 環境課長が高田に事情を説明するために訪れた際は丁寧な応対を受けたそうです。
 釣り大会の当日は晴天だが強風でした。しかし結果的には大成功で、大阪・千葉・愛知・滋賀・京都・奈良・兵庫・高知から計106名が参加され、餌釣りでもってブルーギルを中心として36.7キロの外来魚を駆除しました。この時期に普通に釣れていたコウライモロコ・タモロコ・シロヒレタビラといった在来魚が全然釣れなかったのはショツクでした。
 この釣り大会は新聞でも報道され、かなりの市民の注目を引きました。淀川の水の中で 何か起こっているかが認識されましたが、では今後どんな対策を取ったら良いかの結論は 得られませんでした。ともあれ問題提起の意味では成功であったと考えてよいでしょう。 なおこの大会では淀川水系外来魚対策基金から主催者である琵琶湖を戻す会へ開催費とし て8万円を支払いました。
 こうして淀川下流部の魚類生態系が正に崩壊に向かっている状況が判明したのですが、 この状況はさらに悪化の方へと加速しました。淀川環境委員会に所属する河合典彦氏が毎 年5月に城北ワンドを中心にイタセンパラ仔稚魚の生息数調査を行っています。この調査 は1999年から行っているのですが、これによってイタセンパラの動静が掴める訳です。一 番多かったのは7839尾(2001年)で増減が激しく去年は506尾でした。ところが今年は 全然見付かっていません。河合氏は必死になって調査を続けましたが無駄でした。全然見 付からないというのは絶滅したということでしょう。「いや、絶滅というのは早トチリであ る。見付からないだけだ。」という言い方をしたがりますが、それは言えないのではないで しょうか。
 結論的に述べると淀川下流部はダム湖の性格に変わっていて、激しい水位の変動によっ て生じていた撹乱が起こらなくなり、二枚貝の生息状況も悪化して、ワンドはイタセンパ ラの生息適地ではなくなったのです。私共は昨年9月中旬「淀川の希少魚に聞する情報交 換会」へ提出した意見書で、対策の重点を上流部に移し、下流部に対しては考察を放棄す る旨を述べました。当時は過激すぎるのではないかという印象だったようですが、間違っていなかったと思います。
 さて今や非常事態となった淀川のイタセンパラ保全のために、至急に対策を立てる必要 があると考えて、私共は5月18目付で淀川河川工事事務所長あて以下の書面を送りました。
 淀川下流部のイタセンパラは、仔稚魚が一尾も確認できない状況から見て、その保全対 策は完全に失敗したこと。直ちに本種の復活作戦に取りかかる必要があること。復活作戦 の中心は流水域に置かれるべきであるとし、そのために二つの提案を提出しました。
A,楠棄ワンド群の増設
 現存する2個に加えて8個のそれぞれ形状と性格の異なったワンド群を本年中に完工す ること。
B.木津川に本種の生息地の新設
 この水域が本種の生息に非常に適している故に、河床低下のためにやりにくい事情はあ るが、何とか知恵を絞って生息地をつくること
 次に淀川の魚類生態系崩壊を招くおそれのある外来魚の異常繁殖を阻止するためには、 電気ショツカー船の導入を検討されたい旨を述べました。
 最後にイタセンパラ保全策、外来魚対策の遅滞と失敗は、いたずらに内部処理のみにこ だわったせいであり、この際有力な外部情報を取り入れるために所長自ら「淀川流域の希 少魚に関する情報交換会」へ出席されるよう提言しました。
 以上の書面に対して6月5目付で次の回答がありました。内容を原文のまま掲載します。

1.イタセンパラの保全策について
 
 イタセンパラの保全については、大阪府水生生物センターと協定を結び、外来生物 の駆除効果や二枚貝を含めた生物調査と希少在来魚の保護・増殖に取り組んでいると ころです。

2.楠葉ワンド群の増設について
 
平成18年2月22日付け大臣宛頂きましたお手紙に対して平成18年3月16日 付けでご返事したとおり、整備を進めていきます。

3.木津川にイダセンパラの生息地の新設について
 
ご意見も踏まえて、どういった対応がよいのか、環境委員会の先生等とご相談して いきます。

4.外来魚駆除について
 
 ご指摘のとおり非常に困難な問題ですが、淀川河川事務所としても、大阪府水生生物センター等と協力して検討をしております。また、環境省近畿地方環境事務所から イタセンパラの保全のための外来生物調査に協力要請があり、今後は大阪府水生生物 センター等と広<連携して取り組んでいきます。

5.淀川流域の希少魚に開する情報交換会について
 
 平成17年8月11日開催された淀川流域の希少魚に開する情報交換会には、淀川 河川事務所の代表として河川環境課長が出席しており、引き続き参加します。

まことに通り一遍、訴えどころのない内容です。
 さて6月29日付で淀川希少種情報交換会より情報が送られてきました。それによると紀 平肇氏より第19回淀川環境委員会の資料提供があって、その中で楠葉ワンド群を7号まで 拡充する計画が示されており、本年中に第3,号ワンドを造成し終わる予定のようです。私共は10号まで拡充するよう提案していましたが、7号まで整備されるのであれば、一応了 承したいと存じます。ただその整備の速度が遅過ぎます。私共の提案を3年も放ったらか しにしていたのですから、思い切り速度を上げて頂きたい。もう一つの私共の提案である木津川の生息地新設については、何の反応もないようです。
 さて7月2日(日曜日)大阪府立水生生物センターで「淀川の魚と自然保護」に関する 講演会があり、淀川の魚にかかり切っているセンターの専門家たちがそれぞれそのうんちくを傾けた報告を行いました。かねて宮下敏夫センター長よりお誘いを受けていたので、木村と高田は喜んで参加しました。当日は淀川環境委員会の委員達をはじめ多くの関係者 が顔を見せました。非常に有意義な集まりでしたが、同時に関係者達のイタセンパラ保全 についての考え方を知る上で大いに参考になりました。
 保全に関しては、現在絶滅状態である淀川下流部の生息地再生に重点を置こうとする考 え方が強く、楠葉ワンド群の整備はやるが、木津川の生息場所の新設は無理という印象です。
 木津川の生息地に関しては私共にも弱味があって、木津川の生息地に係わっている個人 からどうしても現時点の具体的状況を教えて頂けません。ただ彼等の表現から私共は木津川にはイクセンパラの最後の野生個体群が生残していると信じているのです。この野生個体群を守ろうというのが、私共が木津川にこだわり続ける最も強い理由なのです。 ただ木津川河床低下は進行しており、これを止めるには淀川本川の土砂採取を即刻止めさせねばなりません。これが難事でして、かなり性格のきつい業者が係わっているので、役人達は交渉し切れないとのことです。
 どうしたらよいのか。たとえば河床低下のない場所にワンドを掘削するとかの方法はないでしょうか。
 それから下流部の生息地再生ですが、色々な考え方があります。城北ワンドではまだ成 魚は絶滅していないので繁殖する可能性があるとか、湛水域の本流には二枚貝が生息する からイタセンパラは本流に残っている可能性があると言われます。ワンドより本流の方が 可能性は高いでしょう。
 下流域の外来魚駆除事業も水生生物センターの努力で進んでおり、それに伴って下流の環境もよくなると思いますが、私共は淀川大堰の撤去がない限り下流部の本種の再生は無 理と考えています。人工的にいろんな手を加えて不確実な努力を重ねるよりも、思い切っ て流水域である上流にワンドを造ってイタセンパラを再生することに専念すべきでしょう。 ただしそのためには二枚貝の繁殖が必須条件となります。
 上流選択派と下流選択派、あと10年経てばどちらの考え方が正しかったか分かるのです が、もうその頃には木村は生きておりません。
 84才のじいさんの言うことではないのですが、時代が動いているのです。環境社会学者・ 嘉田由紀子滋賀県知事の誕生という従来の常識をくつがえした現実が起こっているのです。 琵琶湖にも大きな変化が生じるでしょう。
 時代錯誤のイタセンパラ保全策、生息適性のすっかり失われた水域で、なおも強引に再 生を行おうとする役人と一部研究者たち、何故に時代の新しい風に従おうとしないのか。 城北ワンドヘの深い愛惜の情において誰にも負けませんが、生息適性が失われている以上 こだわりを持つ気はありません。ともあれ少し呆けたイタセンパラの鬼はあとしばらく はがんぱります。
 さて最後に「淀川水系外来魚対策基金」に触れておきます。私が高田昌彦に預けていた資金一切を基金に集め、また頂いた御芳志も加えて、6月27目現在で6,246,024円あります。僅かな基金ですが、旅立ち間近の老人としては、これで精一杯です。高田が目下一生懸命にこの基金を利用して、外来魚駆除用の電気ショッカー船の手配をしようと努力して おります。この報告は次期に譲ります。
 なお17年上期の報告で予告した「淀川の希少魚イタセンパラーその絶滅と再生」につい ては、大分おくれて現在60%方書きましたが未了です。夏の間に書き上げて本年中にも出 版したいと考えております。(平成18年7月10日)


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